第129話 交渉 08
同盟。
ウルジス王は確かにそう告げた。
その言葉に驚いている大臣達はいないことからも、ウルジス国の上層部では既に決定していた方針であることが分かるだろう。
それ程までに『正義の破壊者』は存在感のある組織となっていた。
ルード国のジャスティスを破壊する為の組織。
ルード国の敵。
最大の敵。
その点を置いては『正義の破壊者』はウルジス国と同じである。
争う必要はない。
敵の敵は味方――という図式は通常は当て嵌まらないことも多々あるが、今回の場合は当て嵌まるしかない。
何故ならば『正義の破壊者』がウルジス国に敵対する理由がないからである。当然、ウルジス国側も同義である。現在の『正義の破壊者』に対して敵対する意味など何もない。
故に導き出された結論が、同盟だ。
「――我々は長年、ルード国と敵対してきました。領土、既得権益、資源……様々なモノ、要因で争いを続けてきました。戦闘行為も両手の指では数えきれないほど行ってきました」
ウルジス王は語る。
「しかし近年は二足歩行型ロボット『ジャスティス』の出現により、戦闘バランスは大いにルード国に傾き、我々は敗走の一手しかありませんでした。誰にも倒せない、ルード国だけが所持している兵器の圧倒的な武力には我々は勿論、他のどの国も対抗できませんでした。このままでは世界が蹂躙されるのを、ただ指を咥えて見ているしかありませんでした」
ですが、と語気を強める。
「そこに一筋の光――貴方達『正義の破壊者』が現れたのです! 今まで無敵を誇っていたジャスティスを破壊せしめる存在が出てきたのです! 貴方達は我々の希望であり、一方的なルード国の支配から逃れられる唯一の存在なのです!」
大袈裟に言う。
芝居ががっているとも思われているだろう。
だが、これはウルジス王の作戦だ。
相手の情に訴えかける。
淡々と喋られるよりも相手に気持ちが伝えられる。
加えて相手を持ち上げる。
貶したり、システム的に話されたりするよりも、受け取る相手の心証は良いモノだろう。
みっともないと思われてもいい。
白々しいと罵られてもいい。
ウルジス王はそれ程までに彼らと繋がりを持つことを望んだ。
彼らと手を結ぶことは、この国の将来を左右することでもある、と考えていた。
少し息を整えるように間を置いた後、ウルジス王は明確に告げる。
「だからこそ私達は貴方達と同盟を結びたいと考えました。いえ――同盟という名で貴方達の威光を借りるのではなく、全力で支援させていただきたいと考えております」
支援、という言葉をウルジス王は用いた。
その点が下方修正した箇所である。
当初は同等として進めて後ほど譲歩していく方向で進めようとした。
だが相手の提案を待たずに先に告げた方がいいと判断して修正した。
「具体的には四点を考えています」
親指を折り畳んで提示する。
「一点目は貴方達への金銭的支援です。貴方達の活動に対し、ウルジス国が全面的に支援いたします。詳細については後ほど詰めさせていただきますが、基本的には活動の支障が無いような額の支援についてはお約束いたします」
つまりは半端な額ではないということ。
ただ具体的な要素を口にしていないので、そこは話術巧者ではあるが。
「二点目は情報の提供です。各地に潜入させています我々の工作員からのジャスティス関連の情報について積極的にお伝えします。その効果のほどは既に実証済みだと思われますが」
ウルジス王はにっこりと笑う。
彼が言っている実証とは、手紙に添えていたヨモツ・サラヒカの居場所の件である。彼らがヨモツ・サラヒカの居場所を探しているという噂話からではあったが、それを元に工作員に情報の優先度を上げて手間暇を掛けてようやく手に入れた情報なのだが、そのことは伏せて「この程度であれば容易に手に入れられる」と思ってくれれば御の字である。
「次に三点目ですが、当然と言えば当然のことですが、我々は貴方がたに対して敵対行動を取らないことを誓います。故に我が領土内において宿泊施設や食事の提供を致します。一番目は金銭的な支援でこちらは実務的な支援と考えていただければと思います。ただ『正義の破壊者』の方であるという証明書などを発行していただければと思います。偽物が便乗する可能性があるので」
これはある意味賭けだった。
いわばこれは「誰が『正義の破壊者』に所属しているか明確にしろ」と言っているに同義なのだ。確かに誰が所属しているのかを把握しておきたいとは思っているが、そこを全面的に押し出すつもりはない。つもりはないが、そうなってくれればラッキーくらいには要望している。
そのことを察せられる前に話を進める。
「最後に四点目ですが、これは貴方がた『正義の破壊者』がジャスティスを破壊し尽くした後のルード領であった国について、経済支援をを行うということです。これは一概に『我々の領土にする』ということではありません」
その言葉に周囲の大臣達がどよめく。
この点については下方修正の域を超えて、大臣達にすら語っていない部分であるからだろう。
「具体的には、『正義の破壊者』経由で我々が表舞台に出ない形での支援を行っても構わないということです」
更に大臣達のどよめきが大きくなる。恐らくここまで語っても良いのか、ということを言いたくて仕方ないのだろう。
だが、もうここまで言えば相手も分かるだろう。
ウルジス王の真の目的は二つだ。
一つは、ウルジス国として、ルード国の領土から解放された国を領土とすること。
もう一つは、ジャスティスを破壊している『正義の破壊者』の敵とならないこと。
本当は取り込みたいのが本音なのだが、そこまでは流石に無理だろう。敵対しないでおくというのが現状のウルジス国の軍事力や経済力、および世界に対しての影響力を鑑みても妥当な所だ。これも正直下方修正したといえばした点だ。
そして何故、ここまで分かりやすく相手に伝えたかということについては、二つの考えがある。
一つは、クロードが政治に疎いと感じたため、変な裏を勘繰られない為に敢えて分かりやすくしたという理由。
もう一つは――ただの勘だ。
彼に対して、隠し事は無駄な気がしたのだ。
だからこそ開示した。
「以上が我々ウルジス国が『正義の破壊者』と同盟を結んだ際にそちらに提供しようとしている支援になります」
ここまで一気に話した。
あとは彼の答え聞く番だ。
「さてクロード殿」
ウルジス王は改めて顔を上げ、彼に向かって問いを投げる。
「――いかがですかな?」
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