第116話 来訪 04
「いや、気にするな。とりあえずそこに座れ」
「失礼する」
ライトウを椅子に座らせた所で、クロードは肘を付きながら訊ねる。
「それより何だ? お前も相談事か?」
「も? 他に誰か来たのか?」
「さっきカズマが来た。次のガエル領での戦闘についての相談にな」
「そうか。それは内容が被ってしまったな」
「まあ、真の意味で被ることは無いぞ。お前とカズマでは戦闘手段が違うからな」
ライトウはジャスティスを用いず、刀を片手に身体一つでジャスティスを倒していく、異色の存在だ。ライトウの身体能力もそうだが、その刀も刃こぼれ一つしていないのだ。ジャスティスは決して脆くないのだが、ライトウの刀はいとも簡単に真っ二つにする。彼の技術があるのかもしれないが、刀も業物であるのは間違いない。
今も肌身離さずに持ってきているその刀に対し、クロードは問いを投げる。
「そういえばその刀ってどこから入手したんだ?」
「実は記憶にないんだ。これは昔、施設にいた頃に誰かから貰ったと思うのだが……」
「貰った?」
「そこの所の記憶が曖昧なんだ。誰から貰ったのか、どういう経緯でもらったのか……そして今覚えば、どうして俺がこれを所持続けていても問題なかったのか――この刀に関しての全ての記憶が霞掛かったようになるんだ」
「かなり幼い時の記憶か?」
「十歳かそこらだと思う。そこも曖昧なんだよ。貰った相手も俺と同じような子供だった気がするんだぞ」
有り得ると思うか? とライトウは肩を竦める。
クロードは頷きを返す。
「確かに当てにならない記憶のように思えるな。だが、どうやってそこまでの業物が未だにその輝きを放っているのは、偏にライトウの手入れと技術などの努力の賜物だと思うぞ。――と、どうした、ライトウ? ぼーっとしているが」
「……いや、予想外の言葉が返ってきてびっくりしているんだ」
棒立ちのライトウは目を丸くする。
「まさか褒められるとは思っていなかったから。どうした、クロード?」
「心配される程か……そんなに褒めていなかったか?」
「というより面と向かって、俺とお前がプライベートな話をしたことはなかったからな。そういう機会もなかった、という方が正しいと思う」
「仕事の話しかしたことがなかったからな。まあでも、生身一つでジャスティスを打ち倒せているあたりとんでもないと思っているぞ。今までどんな兵器でもジャスティスを倒せなかったっていうのに」
今思えば、かなり不思議な話だ。
クロードがジャスティスを破壊するようになった後とはいえ、今までウルジス国や他の国もジャスティスを倒そうと躍起になっていたはずだ。それでも破壊されたことが無かったのでクロードが話題になったのだが、今ではライトウが刀で、そして敵から奪ったジャスティスでカズマが、それぞれジャスティスを倒しうる存在となっている。
後者は、クロードが倒したことにより倒されて命を落とすことを恐れた兵士が機体を投げ出したことにより奪取出来た、ということで説明は付くが、ライトウの場合は説明つかない。
優れた刀。
優れた使い手。
両者が揃っていなければいけない。
この少年が今まで表舞台に出てこなかったことが本当に不思議だ。
「それこそ、君に言われたくはないな」
ライトウが苦笑する。その姿は普通の少年に見える。
筋肉が過剰についている訳ではないにも関わらず、ジャスティスと切り結ぶ、人間離れの動きをする。
(……しかしそう考えると、みんなおかしいな)
ライトウ以外の三人。
アレインは、刀などの攻撃手段を保持していないがために撃破までは出来ていないが、ジャスティスを翻弄する素早い動きを行っている。にも関わらず細い。あの女性らしい足のどこにそんなパワーがあるのだろうか。
ミューズは情報系に長けている。その諜報能力、情報攪乱の類は群を抜いている。到底年下に見えない。どこでそんなものを学んだのだろうか。
カズマは、今はジャスティスを用いた対ジャスティスのエースではあるが、鍛えられていた軍のジャスティスを容易に撃破していたあのジャスティス捌きは普遍とはいえない。またジャスティスに扱う前は、増え続ける『正義の破壊者』の人員についての管理を滞りなく行っており、人の上に立つ才能もあったといえる。
加えて忘れてはいけないもう一人。
コズエ。
カズマの妹。
テレパシー能力の持ち主。
もっとも、この能力はどこで入手したかは幼すぎて知らない、と彼女は言っていたが。
しかし、これだけの逸材が揃って『正義の破壊者』の元にいる、という状況は些か不自然ではないかと不審に思う。
まるで、こういう能力を持つように仕組まれていたかのように――
「なあライトウ。施設って、能力者の研究とかしていたのか?」
クロードは思いついた仮説を直接ライトウにぶつける。
だが、帰ってきた答えは
「いや、普通の孤児の為の施設――孤児院だったぞ」
否定の言葉だった。
「何てことはない普通の集まりだ。何かの研究、実験被験体とか、そういう特殊な施設ではなかったぞ。多分、そういうことを想像した質問だと思われるが」
「その通りなんだがな。ということは全員が特殊技能があったわけではない、ということか?」
「そういうことだ。ここまで特出した技能があったのは、俺も含めて五人だけだった」
「……五人だけ?」
「あのヨモツによる施設襲撃から生き残った五人がそのままそうだ。皮肉にもな」
(……どういうことだ?)
クロードは思考する。
技能を持った人間が、そのまま生き残っている。
まるで、技能を持った人間だけが見逃されたかのように――
「……なあライトウ、教えてほしいことがある」
「何だ? 俺に答えられることであれば何でも答えるぞ……って、俺が君に相談しに来たのにいつの間にか逆になっているな」
「悪い。後でそれも訊く。だが、話の流れでまずはこっちを聞かせてほしい」
「了解した」
首を縦に振るライトウに対し、クロードは次の質問を投げる。
「ヨモツが施設を襲撃した日のこと、詳しく教えてもらえないか?」
ライトウの肩が少し跳ね上がる。
やはり彼にとっても、まだ払拭できない思い出なのだろう。
酷だろうが、どうしてもクロードは知りたかった。
――彼らをどう扱うか決めるために。
「……何が聞きたいんだ?」
絞り出したようなライトウの、質問に質問を返す言葉に、クロードは顎に手を当て回答をする。
「具体的には、施設を襲撃された理由、五人がどうやって逃げ出したのか――この二点に関わる所だ」
「……前者は分からん。後者も、どこまで言えば判らない」
だが、とライトウは一つ頷く。
「語ろう。あの時のことを」
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