第109話 分散 04

「一応確認してみたが、署名と本文の筆跡は同じようだ。だから、この手紙自体全て王自身が書いているとみて間違いはないだろう。まあ、署名の方が代筆されていればその限りではないが、署名は普通は王自体が行うだろうさ。いずれにしろ、相手の最高責任者が俺個人に手紙を送ってきた、という事実があるってことだ」


 クロードは軽く述べているが、これはとてつもない事実である。

 ウルジスは大国だ。故に、王直筆の手紙など、重要な同盟国の長くらいしか取り交わしはないだろう。

 当然、『正義の破壊者』はウルジスと同盟など結んでいない。

『正義の破壊者』はウルジスの味方ではない。

 かといって、ルードの敵でもない。

 ジャスティスの敵なのだ。


「因みに、手紙にはこうも書いてある。――『交渉がしたい。だからウルジス国の首都ザハルに出向いてくれないか?』とね」

「罠よ!」


 アレインが机を叩く。叩き壊していない所から遠慮はしたのだろう、と見当違いのことをクロードは思いながらも問いを返す。


「何故そう思うんだ?」

「だってクロードを自分の国の、しかも首都ザハルに呼び寄せるなんて、何か企んでいるに違いないって!」

「確かに、何かは企んでいるだろうな。だけど、命までは取られやしないさ」

「何でそう言い切れるのさ?」


「――当たり前でしょう」


 と。

 そこで今まで口を閉ざしていたカズマが表情を変えずに二本指を立てる。


「二つの理由から。一つはウルジスがクロードを殺すメリットが無い。相手国のルードの戦力を削っているんだから。もう一つ。クロードさん自体に殺される要素が無い。ジャスティスですら殺せないのですから」

「それは……そうだけど……」


 アレインが言葉を詰まらせる。


「で、でも別にクロードが行く必要はないじゃない! 行く意味なんてないんだから!」

「それも違う。クロードさんはウルジスに行かなくちゃいけない」

「だから何でさ!?」


 否定の言葉にアレインが噛みつく。

 だがカズマは意にも介さない様子でクロードに言葉を掛ける。


「クロードさん、お願いがあります」

「ああ。言わなくても分かっている」

「ありがとうございます」


「え? え……? 何なの?」

「……俺も分からないんだが、説明してくれないか?」


 困惑しているアレインの様子を見かねてもあるだろう、流石の説明の無さにライトウも苦言を呈す。

 クロードは「簡単な話だ」と前置いて、


「今から俺達を二つのグループに分ける」

「二つの?」

「一つがガエル国ハーレイ領にヨモツを叩きに向かうグループ、もう一つはウルジス国首都ザハルに向かうグループだ。その人選も決めてある」


 クロードは一つ頷いて続ける。


「ヨモツの方は、ライトウ、アレイン、カズマの三人だ。ミューズは本来ならばカズマの方に付けたいが、俺と一緒にウルジス国の方に来てくれ」


 その言葉でライトウ、アレイン、ミューズの三人は先程のカズマの言葉の意味を理解した。

 カズマはジャスティスをこの中の誰よりも憎んでいる。

 何より、クロードを除いたら『最大戦力』にもなっている。

 故に、彼自身がヨモツと戦闘する方に志願する、ということに対しては必然的ではあったのだ。


「でもあたしはどうしてこっちなんすかね?」

「それはあくまで政治的な話だ」

「政治的ねえ……」


 ミューズは眉間に皺を寄せて数秒間思考する様子を見せたが、「……ま、いいっす」と頭を振る。


「ウルジスの方はあたしとクロードの二人っすか?」

「ああ。他のメンバーは誰もつけない。――ライトウ達の方は大人数でも構わないからな」

「承知した」


 頷くライトウ。

 と、その横で微妙な表情をしているアレインを同時に見遣ったが、クロードは知らないふりをした。どうして彼女がその表情をしているのかも理解していたからだ。


「さて、他に質問があるか?」

「あ、あたしはあるっす」とミューズが手を上げる。「けど、後でいいっすよ」

「ん、そうしてくれると助かる。後でミューズは打ち合わせがあるから残ってくれ」

「了解っす」


 ミューズが引くのを確認し、そしてクロードは周囲を一瞥した後に、


「じゃあ、頼むぞ、ライトウ、アレイン、カズマ。お前達ならばヨモツなんかに負けないはずだ」


 激励の言葉を投げ、そして――



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