星下沈黙

 フィレンはしばらく、ただ星空を眺めていた。

 これは、聞いていい話なのだろうか。

 足を踏み入れてもいい領域なのだろうか。

 イングリットは迷う。

 だってお互いよく知りもしない、ただ偶然今ここで一緒に居るだけなのだ。

「連れの薄紫級ヒーラーを、ここで……死なせた」

 迷っているうちに、フィレンの方が口を開いた。

 イングリットは目を丸くする。

 薄紫級、それは冒険者の第二位ランク。

「あの人は訳の分からない呪いをかけられていたんだ」

 ただ淡々とフィレンは続けた。

「その莫大な魔力を、魔王に捧げる装置になるように」

 視線は星空に向けたまま。他人ごとのように淡々と彼は話す。

「あの人は、呪いが成就する前に、俺に精霊の加護を預けて、カラの装置になった」

 それがこの木だ、と彼は木肌に手をおいて言った。

「俺は……守れなかったんだ」

 彼は再びそう口にした。

 イングリットは、ただ黙って俯いた。

 かけられる言葉なんて、なにも持っていなかった。

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