遊戯会場
「気に入らねえんだよっ」
それは子供の駄々にしか見えなかった。
「お前みたいな色無しの幽霊が、主席になれるわけがない!」
イングリットは卒業試験直前の実力テストで、筆記も実技もトップを修めた。
成績順位が貼りだされたエントランスで、イングリットが名前を覚えてすらいない学生──いや彼女は他の学生の名前を覚えたためしがないのだが──が、彼女を指さしながら無様に罵っている。
彼女はそれをただ冷たく見つめているだけだった。
相手をするのも
だが。
「待てよっ」
そいつは追いすがってきた。
「どうせセンコーと寝て高成績にしてもらったんだろうが!」
さすがに失礼がすぎるというものだ。イングリットは立ち止まってそいつを眺めた。
「下品な想像しかできないのね」
冷たく言い放つと、また踵を返して歩き出す。
頭の左側に嫌な風を感じて彼女は少し身体をひねった。
短剣が空を切っていく。
「お前みたいな穢れた野郎はここで始末してやる!」
成績程度で何を殺気立っているのだろう。イングリットはただ呆れた。
騒ぎを聞きつけて学生たちがぞろぞろと集まってくる。
どうせなら教授が聞きつけて止めに入ってほしいものだったが、その様子はない。
「養成所内での私闘は禁じられているわ。あなた、除名されたいの?」
自身の得物を鞘から抜くことなく、そのまま相手に突きつけてイングリットは冷静に言い渡す。
「知った事か!」
──もはや単なる
そいつは短剣二刀流で切りかかってきた。
先ほど一本飛んでいったところをみるに、投げることも考えて複数所持しているのだろう。
ただがむしゃらに斬りつけてくる短剣を、適当に鞘で弾きながら、イングリットはこの面倒をどう切り抜けたものか考えていた。
そうしているうちに相手の短剣の一本をイングリットが弾き飛ばす。
ギャラリーはきれいに避けた。
やはり相手はどこからともなく新しい短剣を手にしていて、二刀流を維持している。
イングリットは深くため息を付いた。面倒くさい。
当て身でもして大人しくなってもらいたいものだが、少しでも手を出したことになって処罰対象になったらたまったものではない。相手が根負けするか短剣を出し尽くすかするまでこの状況を続けるしか無いのだろうか。
そう思っていると、突然横から魔法が飛んでくる。
イングリットは察知して避けたが、着弾した校舎の壁が抉れていることからして、校内での使用を禁じられている類の魔法だろう。
「加勢するぜぇ」
ニヤニヤ笑いながら、ギャラリーの一人だった男が前に出てくる。
面倒くさい……。
イングリットはただ呆れた。だが事態はどんどん悪化していく。
相手に助力する人数がどんどん増えていくのだ。
つくづく自分は疎まれているのだなあと思う。
いくら成績トップでも多勢に無勢だ。
満身創痍とまではいかないが多数の軽傷を負ってさすがにイングリットは逃げに転じた。
養成所を出て、街を出て、あの森へ──。
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