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童話 ワールドクリエイター
著者 不明
上も下もない真っ白な世界に、アルは目を閉じてうずくまっていました。
目を開けると何もない世界が怖くなるからです。
アルはずっと目を閉じまま想像しました。
「僕がここにいる証明を……」
頭の中で足元に茶色を敷き詰めて、下を作りました。それを地面と名付け、アルは体を起こして地面に立ちあがりました。
視線の先に一本の線を引き、地面を境に手を振り回して青色を塗りたくりました。
「空……」
アルに初めて上と下ができました。何も無かった世界が一変し、アルは興奮して振り返りました。
「後ろ!」
もう一度振り返り、
「前!」
ぐるりとその場で一周し、どこまでも続く茶色と青の世界を見渡しました。
体が熱くなり、居ても立っても居られない。
アルは空に白い塊を浮かべました。
色々な形をした白い塊はくっついたり離れたり、無くなったと思えばまたできたりと、アルの知らないところで変化が起きました。
「雲!」
白だけではなく、灰色の雲からは粒が地面へ降りしきり、今度は地面がぐしょぐしょと形を変えました。
大きな地面がくっついたり離れたり。隙間には青色を敷き詰めて。
「大陸!」
大陸には緑の柱が空へと伸び、こんもりと茂り始めます。
アルの世界は色で埋め尽くされました。
「よ~し」
手を振り回し、雲に似ているもやっとした原型を作ってみます。
型を撫でては少しずつ
口の中に尖った牙を描き、アルは自ら「あぁぁ!」と声を出しました。
するとアルが作った固体は「ゔぁぁぁ!」とけたたましい雄叫びをあげたのです。
胸のあたりがドキドキしました。
「ドラゴン!」
アルは地面を蹴ってピョンピョンと跳ねました。
何も無かった世界は何でもできる世界。
もっと大きなドラゴンを作り、翼を生やしてみたりしました。
「思い描いたことが形になる!」
もう怖くありませんでした。
アルはずっと閉じていた目を開けて、辺りを見回しました。
きっと自分の世界は色で満ちている。そう確信しました。
しかし、
「え……」
目を開けたそこには、前と同じく上も下もない真っ白な世界が広がっていました。
*
気がつくと日が傾き、空が赤く染まっている。
読書に耽っていた俺とユイナは、一緒に並んで集落まで歩いた。荒野から東へ半刻ほど歩くと、地の民が暮らす集落がある。
「ユイナはこの前の討伐で怪我しなかったのか?」
「うん、どこも引っ掻かれなかったし噛みつかれなかったから大丈夫」
簡単に言ってのけるが無傷がどれだけすごいことか。死人だって出る戦いだ。
しかし毎月のこと。同族の死を悼んでる暇などない。ある種の日常として受け入れなければならない。
傾く夕日が俺らを照らし、徐々に影法師が長くなっていく。
「じゃあ私はもう行くね」
「おう、またな」
集落が見えると、ユイナは里の中央部に位置する巨大樹の方へ駆け出した。交易以外の私用で他種族と接するのはあまり好まれない。
風の民と言っても羽が生えているわけではない。ぱっと見では分かりづらいが、風の民は薄青色の瞳が特徴的。面と向かうと種族の区別ができる。
特にユイナは物心がつく前から飛空能力を持ち、エボルトでも有名な存在だった。しかし気の使える性格の良さから他種族の集落に入ってもあまり疎まれることもない。
今も飛んだ方が早いのに、わざわざ走って地の民の集落を跨ぐ。しっかりと規律を重んじることで気を許してもらえているのだ。
俺は見えなくなるまでユイナを見送ってから、地の民の集落へ砂利混じりの土道を歩き出した。
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