第5-1話 求めるモノ -On your hands-

・1・


 シャングリラに戻って刹那は、ユウトの魔法についていくつかの検証を行った。それでわかったことは、


・メモリーはユウトとある程度関係を持つ人間からしか生成できず、自分からは作れない。ちなみにメモリーの色は人によって違う。刹那なら白。タカオなら黄色といった感じだ。


・メモリーを籠手のスロットに装填することで魔法が発動できる。発動した魔法は特殊な力を持つ武器として顕現する。同時にユウトの魔力が、その人間の魔力に変質する。


・同じ人間から複数の同一メモリーをストックとして生成できない。使用すれば、再度生成可能。


・複数のメモリーを同時に使うことはできず、一度使うと消滅してしまう。


 以上の四つだ。


 ここで気になるのは、ユウトが複数の魔法を使えるという点だ。


 原則、魔法は一人に一つ。これは魔法が扱う人間の性格や感情、コンプレックスなどの強い思念に大きく左右されるためだそうだ。しかし、ユウトはその原則に当てはまらない。

 他者の魔力を扱う、またはコピーする魔法と一括りにできるのだろうか?

「あぁーーーーー! ダメ、全然わかんない!」

 店を出た刹那は、堂々巡りの考察に頭を抱えながら宿舎へ向かって歩いていた。

「まぁアイツも魔法を使えるようになったし、私もそろそろ次の調査に移らなきゃ」

 遥か昔から、人に仇なす魔を狩ることを生業にしてきた御巫一族。刹那も幼少の頃からその教育を受けて育った。彼女がこの街に来たのは、魔獣の退治だけではない。裂け目ゲートの調査も含まれていた。

 ゲート自体は昔から存在する。いわゆる神隠しなどは、人がゲートに入ってしまったことが原因ではないかと言われている。何十年、何百年に一度、何かの拍子で現れる自然現象。

 だがこの街では違う。


 ここではゲートは開くのだ。


「この街には何かがある」

 明らかに異常。誰かが意図的にゲートを開いているとしか思えなかった。


「っ!?」

 一瞬気配を感じ、刹那は構える。

「……誰?」

 違えようのない感覚だった。背後の柱から人の気配を感じる。意識を張り巡らせ、刹那は臨戦態勢を維持するが、気配は近づくことはなくゆっくりと離れていった。まるで――

「ついて来いってこと?」

 気配を追って辿り着いた場所は、コンテナや機材が大量に積まれた港だった。

 妙だった。人気もなければ明かりも少ない。規則正しく並んだコンテナの間を通り抜けると、広いスペースに出た。眼前に海が広がっていることから、ちょうど刹那は自分が港の端に出たことを理解した。

 後ろのコンテナの影から、気配の正体がゆっくりとようやく姿を現した。

「ユウトを襲った男……じゃないわよね。こんな所に私を呼んで何の用?」


 刹那の目の前にいたのは、黒いジャケットに黒いスカート、綺麗な金髪が印象的な少女だった。


「あなた、誰?」

 刹那は少女――遠見アリサを知らない。だがそんなことはお構いなしにアリサは告げる。

「あなたが彼の側にいると、あの人がまた戦いに巻き込まれる。あなたの存在は非常に不愉快です」

 次の瞬間、アリサの腰にかかっていた拳銃が火を噴いた。三十連ロングマガジンを装填した銃は、絶え間なく銃弾の雨を降らせる。

「ちょっ!?」

 刹那はアリサの不意打ちに対して稲妻の壁を作る。雷撃を操る彼女に金属である銃弾は無意味だ。しかし、銃弾は軌道を変えずに刹那の足を掠った。

(ゴム弾!?)

 弾丸が雷の影響を受けないのはそのためだった。殺傷力は低いが、だからと言って当たってもいいものではない。

 刹那はすぐに身を翻し、真横へジャンプする。腕と背中に二、三発当たったが、彼女はなんとかコンテナの陰に隠れることができた。

「いっ……もう、何なのよいきなり!」

 アリサはすぐに煙幕で姿を隠した。どうやらそこらの三流魔法使いではないようだ。

「こっ……の!」

 刹那は再び魔法を発動し、周囲に稲妻を走らせた。ゴム弾は意外だったが、銃弾の軌道を変更できないくらいで無力になる彼女ではない。煙幕で見えないが、敵の位置はある程度把握している。

 煙で隠された場所へ刹那は一発雷撃を飛ばす。しかし、雷撃は煙幕に当たると霧散してしまった。

(電気を通さない!? こっちもか!)

 まるで刹那の煌雷について最初から知っているような、恐ろしいほどの準備の良さだ。

(くっ……煙が)

 煙が刹那の場所まで浸食してくる。ここまでの準備をしているのだ。相手は煙の中で動ける術も持っているに違いない。

(次の行動を間違えたら確実にやられる……)


 刹那は目を閉じた。


 どうせ煙で見えないのだ。視覚は捨てる。

 足音が聞こえた。右、左、後ろか? 音が反響しているせいで特定が難しい。

 風はどうだ? 肌で感じ取れる僅かな振動を刹那は逃さない。

 神経を研ぎ澄ませた。

「そこかッ!」

 背後からの奇襲に対し、刹那は拳で迎え撃つ。

「くっ……」

 だが相手の猛攻はまだ終わらない。刹那の拳を躱し、さらに接近してナイフを突き出す。

「いい加減に……しろ!」

 刹那は雷を拳に纏わせ、大ぶりな一撃を繰り出す。いくら封じられていてもこの距離なら相手に魔法を当てることができる。刹那の手刀がナイフを先端からへし折った。次は少女の後頭部を狙う。

 しかしアリサはそれを紙一重で受け流し、逆に隙をついて刹那の腹部に掌底をくらわした。

 魔力で威力を上乗せした一撃。刹那はコンテナの壁に激しく叩きつけられた。

 魔力を用いた身体強化技術は、心得があれば誰でもできる芸当だ。そのゼロ距離攻撃は刹那に大きなダメージを与えた。

(……っつ。直前で威力は殺したけど……もう一発はまずいかも)

「これ以上、あの人に近づけさせない。ここで……消えて」

 アリサは腰のホルスターに収められた別のハンドガンに手を伸ばす。次で仕留める気のようだ。

「これで……っ!?」

 しかし、そこでアリサの表情が凍り付いた。彼女の動きが急に止まったのだ。

 まるで自分の手が自分のものではなくなってしまったかのように、トリガーにかかった指先が小刻みに震えている。少女は上手く引き金を引けずに、銃を足元に落としてしまった。


「ようやく効いてきたわね」


「……このっ!」

 アリサは刹那を睨む。刹那はあの密着しながらの激しい格闘戦の中で、微量の電撃を少女に与え続けていたのだ。本人が気づかないほどの電撃を。肌と肌が触れてさえいれば、煙を気にせず確実に電気を通せる。そうして蓄積された電撃がアリサの腕を一時的に麻痺させたのだ。

「その手癖の悪さを封じればこっちのものよ。伊弉諾いざなぎ!」


 両手を合わせ、刹那は内に隠し持つとっておきを呼び出す。


 伊弉諾。御巫家が古くから受け継ぐ魔力を喰らう魔道の武具。刹那はそれを扱える唯一の人間なのだ。強すぎる力故、普段は体内に霊子化して封印している。

 合わせた手のひらから現れたのは刀身が真っ黒な刀。しかし先端は半ばから折れてしまっている。

 刹那は魔力を注ぎ込み、折れた刀身部分を雷で形成して補った。

「ハァァァァァ!」

 彼女は腹部の痛みを我慢してアリサに斬りかかる。しかし、そのせいで初動が遅かった。対するアリサは感覚が麻痺した指ではなく、足を使って落とした銃を掬うように蹴り上げたのだ。そうして二人の間に入った拳銃を犠牲に、刹那から強引に距離を取る。

「つっ……」

 少女の後ろは海。もし飛び込んでも雷撃を操る刹那から逃げ切れる訳はない。


「なんで、私を襲うの?」

「……」

「あなた普通じゃないわね?」

 戦い方は火器主体で、魔力は身体強化のみ。ルーンの腕輪こそしているが、ちゃんと機能しているのか怪しいほどにボロボロだ。それにここまで魔法を一度も使わなかった。彼女にとって最大のピンチであるはずの今この瞬間もだ。

 確かにいくら魔法使いといえども人間だ。銃で撃たれれば致命傷になる。

(……でも何? この違和感は)

 と、そう思った直後だった。

 ズッ!! と急に全身に桁違いの重圧を感じた。

(くっ……なにこれ!?)

 隣のビルにとてつもない何かがいる。刹那は瞬時に背後から手裏剣のように高速回転して飛んでくる大剣を刀で受け止めた。

 ガガガガガッ! 重い一撃をなんとかはじき返し海へ落とすと、刹那はすぐに剣が飛んできた方向に伊弉諾で雷の斬撃を飛ばした。

 だが、斬撃は溶接ブレードのように、ビルを綺麗に切り裂く事はなく、何かに衝突し相殺された。

「弾いた!?」

 自慢ではないが、並みの魔法で弾ける技ではない。

 そしてその一瞬の間に、目の前にいた少女も姿を消していた。


・2・


「うっ……く……」

 アリサはすでに港から離れ、誰もいない路地裏の壁に寄りかかっていた。一心不乱に逃げたため、ここがどこなのかさえわからない。

 腕の痺れはもうほとんどとれた。指を二、三度動かしちゃんと動くことを確認する。

(大丈夫。もう撃てる)

「……相変わらず魔法の使い方が上手いですね。厄介です」

 危なかった。でもさっき自分を助けた攻撃は――


『無様な姿』


 どこからか声が聞こえてきた。それが誰なのかアリサはすぐに理解する。

「あなたの差し金ですね? なんであの人が私を……何のつもりですか?」

 アリサの視線の先には、一匹のコウモリが天井にぶら下がっていた。


『あら? 私があなたをに連れて来てあげたのだから、見届けるのは当然でしょう? それに私はあの子に、あなたがここにいると教えただけよ?』


 まるであの時アリサを助けたのは、あの子の意思であって自分の本意ではないと言っているようだ。

「あなたの遊びに付き合う気はありません。見ているだけなら出てこないでください」

 アリサはコウモリから目をそらす。あの赤い瞳を直視すると自分の心を探られているようでどうにも不愉快だった。しかしコウモリは、自らアリサの近くへ移動してきた。

『あらあら。どうして怒るのかしら? 大嫌いな子に助けられたから? それとも大好きな子が――』

「うるさい!!」

 アリサは怒鳴った。自分をこの女に語られていることが、心底不愉快だった。

(あの人の命を奪ったあいつを……私は絶対に許さない)


『……まぁいいわ。魔法石のストックは十分かしら? あなたのその飾り物の腕輪では、魔力を使うにも限度があるでしょう?』

「……」

 魔法石は特別な魔力が封じ込まれた石だ。使うとその場限りの魔力を使用者に与えることができる。

 アリサのルーンの腕輪はに来てからというもの、その機能を停止している。魔法はおろか、魔力すら生み出すことはできない。つまりは普通の人間なのだ。

 そのためアリサは道具を使わなければならない。だか彼女が挑む相手は、銃や爆弾だけで何とかできる相手ではないのは明白。どうしても石に頼らざるおえないのだ。

 彼女は手のひらにある残り少ない赤い石を見る。残りはあと三つ。これは最後の手段だ。魔力さえ使えれば、魔法を発動できずとも戦いようはある。

『あなたが望むなら、また作ってあげてもよくてよ?』

 悪魔の囁きだ。石を得るには相応の対価が必要なのだ。

「……いらない」

 それはそう易々と出せる物ではない。

『そう。ならがんばって目的を果たすことね。応援しているわ』

 コウモリの言葉を聞くこともなく、アリサはゆっくりと路地の暗闇へと消えていく。


『足掻きなさい。せめてあなたのその抵抗が、まだ見ぬ未来の形を私に見せるまで』


 コウモリは闇の中でその小さな背中を見送りながら、小さく呟いた。


・3・


 事態はいきなり急転した。それは一本の電話から始まった。


『幼女が消えた』

「……は?」

『……今一瞬自虐とか思ったろ?』

「いやいや、そんなことよりどういうことですか?」


 青子の言う幼女とはレヴィルのことだ。ハサミを持った大男が学園に侵入してきて以降、目を覚まさない彼女を青子は預かってくれていた。

『すまない。ちょっと酒を買いに部屋を空けた間にどこかへ行ったようだ』

「探しに行きます」

『あ、おい……』

(あんな状態だったんだ。まだ遠くには行ってないはずだ)

 ユウトはまずシャングリラに向かった。少女一人を探すのに、当てもなく単独で探すのは難しい。ここは数に頼るべきだ。

 事情を話し、タカオは二つ返事で引き受けると、すぐにシャングリラのメンバーに連絡を取り始める。

「俺たちは顔がわからねぇ。特徴でも何でもいい、端末に送ってくれ。それっぽいやつを探す。ミズキとユウトは店にいろ。前にここの住所を教えたんだろ? 入れ違いってこともありうるからな。顔見知りのユウトはここにいた方がいい」

 そう言うとタカオはすぐさま店を飛び出した。その無茶苦茶な行動力もだが、一番凄いのはみんなが自然とその無茶について行ってしまう所だ。



「悪いな。付き合わせて」

「いいよ。話は聞いてたから。それに、タカオなら絶対に引き受けるってわかってたし」

 そう言うミズキは少しだけ嬉しそうに見えた。今彼女は普段着ているウェイター姿ではなく、私服だ。髪は結ばず、紺の肩だしセーターを着ている。

 なんというか、こうしてみると普段より身近に感じる。客と店員から、客と客になった感じだ。

「なぁ」

「ん?」

 ユウトは何となく、思ったことがポロッと口から出た。



「前から思ってたんだけど、ミズキってタカオのことが好きなのか?」



「……」

 無言だったミズキの頬が徐々に赤く染まる。

(……しまったッ!)

 無神経に踏み入ってしまった。

「……待ってるだけじゃつまんないでしょ? コーヒーでいい?」

 黙って頷くしかないユウトにミズキはコーヒーを渡した。

「私の魔法は知ってるでしょ?」

「あぁ。確か、相違知覚アナザー・センスだろ?」

 ミズキは頷くと、重々しい表情で言った。


「……気持ち悪いと思わない? やろうと思えば人の心だって読めるんだよ?」


 以前、ミズキの魔法がすごく便利で羨ましいとガイに話をしたことがある。そのときガイはこんなことを言った。


『あまりミズキの魔法のことを喋るのは止めたほうがいい……特に、あいつの前では。自分の魔法を極端に嫌っているところがあるから。ああやって楽しそうに振舞っているが、あいつも辛い過去を経験してきたんだ』


 その時はよく意味がわからなかったが、今のミズキを見て、ガイが言った意味が少しわかったような気がする。

 つまりはそれが彼女がここにいる理由なのだろう。


「私は初めて魔法が使えるようになったとき、本当に嬉しかった。何の取り柄もなかった私に、唯一誇れるものができた気がしたから。実際、あんたもその口でしょ?」

 その通りだ。腕輪を手に入れて魔法という存在を知ったとき、何かが変わるんじゃないかと思った。大切な友達の横に立ち、胸を張れる力を自分は得たと。この腕輪はユウトに可能性を与えてくれた。

「でも私は勘違いしてたんだ」

「勘違い?」

 ミズキは自作のコーヒーを啜る。その手が、指がほんの少し震えているのにユウトは気付いた。

「昔、心を読んだの。ずっと一緒だった友達に好きな人ができてね。最初は助言のつもりだったんだ。相手の男の心を読んで、気があるのかどうかを彼女に教えた。結果二人は結ばれたわけだけど、それから段々その子は私から離れていった」

「どうして?」

「気持ち悪いんだって。心が見透かされているみたいで。案外私が考えてた『親友』ってのは脆いものだったよ。さらに悪いことに、その噂が周囲に広まり始めたときには、学校は私にとってほんとに地獄だった。みんなが私をまるで人間じゃないような目で見てくるんだ。私を庇ってくれる奴もいたけど、そういう奴の心の底も他の奴とまるで同じだった。自分が目立ちたいだけ。自分という人間の価値を私を使って上げようとする連中。弱った心に付け込んで私を抱こうとした奴もいた。そんな黒い感情だけが私の中にどんどん入ってきた。……正直、死にたくなったよ」

 まるで魔女狩りだ。周りと違うってだけでそれを異端とし理不尽に貶める。ミズキは魔法を得たがために、それ以外の全て失ってしまったのだ。


「魔法を得たところで、人の本質は変わらない。私は結局最初の私と同じで弱くて……逃げた」

 魔法を得たから何かを得たり失ったりしたんじゃない。私が私だからこうなった。私という人間性がこの不幸を呼び寄せた、とミズキは言う。


「でもタカオはそんな私を受け入れてくれた。他のみんなも。勿論、心は読まないって約束させられたけど。お前だけ読めるのは不公平だとかなんとか言ってたっけ。ふふ、でも約束一つで普通信じる? いつどこで読まれたかなんてわかりっこないのに」

 バカだよね、と呟くミズキは笑顔だった。

「でも、あいつはほんとに信じてくれた。上っ面の言葉じゃない。あいつの隠そうともしない心が私に入ってきたとき、私は救われたんだ。この出会いを魔法のおかげにするのはちょっと悔しいでしょ?」

 もし信じ合える仲間を得たことが魔法のおかげなら、本当に自分には何もないことが証明されてしまう。

 ミズキはテーブルに突っ伏して言った。顔を見られたくないのだろう。

「ここは本当に居心地がいい。頑張って魔法が制御できるようになってからは無駄に声が聞こえることも無くなったしね。だから今の私があるのは全部あいつのおかげなんだよ」

 ミズキはコーヒーを一度啜り、店内の空気を吸う。木製の壁からは温かみを感じ、手に持つコップからは鼻孔を擽るいい匂いがした。当たり前かもしれないが、それは彼女が探し求めてきた確かな『安心』だ。


「魔法はただの道具だよ。自分の力じゃない。結局、運でも努力でも、自分で手に入れたものだけが本当に大切にできるものなんだよ。私にとってはそれが今のシャングリラみんななんだ」


 ミズキは席を立ち、ユウトの方を向いてそう言った。子供に言い聞かせるように。

「……自分で、手に入れたもの」

 ミズキはずっと耐えてきたのだ。耐えて耐えて耐えて。いつか自分が安らげる場所を探し求めた。そしてタカオ達に出会った。そこに魔法は関係ない。

 ユウトにもそう思える人がいる。大切にしたいから、力を求めるのだ。

「……今の俺には大切にしたくても何もできない。だからこの道は間違っているとは思わない」

「そう」

 そう。間違いなわけはない。間違っていてはいけない。

 その表情は決意に満ちているようでいて、どこか自分の中に生まれたブレに怯えていたようにも見えた。

「まぁどっちが正しいかなんて結果でしかわからないし。ただ私の正解はこれだった。ユウトにもきっとわかる日が来るよ」

 ミズキは残ったコーヒーを飲みほした。カンッとテーブルに置かれたカップが小気味良い音を鳴らす。

「まぁそれはさておいて……」

「?」

 ミズキはキィッとユウトを睨み付ける。頬が赤い。ただならぬオーラを感じる。

「……今の話、タカオに喋ったら殺すから」

「え?」

「い・い・わ・ね?」

 ニッコリと笑うミズキ。

「……はい」


 その時だった。ユウトとミズキの携帯が同時に鳴ったのは。

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