Epilogue 7

 それはいつでもない記憶。今となってはが知っている一つの過去。

 しかしもう、過去に縛られて後ろを向くのはやめだ。

 大切な思い出はこの胸にしまおう。いつまでも縋ってはだめだから。


 そうして、遠見アリサは前を向いて歩いていく。



***



「ユウトさん! 早くしてください。置いていきますよ?」


 燦燦と輝く太陽が二人を照らし、陽気な春風が頬を撫でた。


「アリサ、そんなに急がなくても」

「早いに越したことはありません。というか、もう16時ですよ? この時期すぐに日が落ちます。このままでは野宿することになってしまいます」


 それはそれで楽しいかもしれないと、アリサは思った。が、ユウトには絶対に言わない。


 体は羽が生えたように軽く、心は希望で満ちている。

 隣にはあの時掴めなかった手があって、その人は自分と同じ歩幅で、同じ方向を向いて歩いてくれる。

 それがとても嬉しい。


 現実は望んだ未来ではなかったけれど、限りなく近い未来。一歩一歩、少しずつ未来を手繰り寄せて、やっとここまで辿り着いた。


「あの街です」

 アリサが指さした方角には沈みかけた太陽と、それを合図に妖しい輝きを灯す摩天楼の光があった。

「対象はニヴルヘイム。伊弉冉と同じ、強い幻覚をみせる力があります。保有者ホルダーはこの街の市長ですね」

「絵にかいたような悪者じゃなきゃいいけど……」

「今回の魔具は伊弉冉の解析に大きく役立つはず……もしもの場合は、手足の一二本は仕方がないです。そう、仕方がないです」

「……まぁ、ほどほどに、な」

 闘志に燃えるアリサの横で、市長の身を案じるユウト。


「行きましょう」

「あぁ!」




 悪夢が覚めて、宗像一心が言ったような残酷な現実がそこには確かに待ち受けていた。

 しかし、アリサもユウトもあの世界で『強さ』を手に入れた。

 嘘偽りない、本当の『強さ』を。

 だから何度だって立ち上がれるし、何度だって絶望を跳ねのけることができる。

 一歩進むごとに、一日ごとに、彼女たちは強くなる。



 信じた未来あすをこの手で掴み取るその日まで、もうこの足は止まらない。



 何たって、最高のハッピーエンドはもう目の前なのだから。



第七章 蒼眼の魔道士 -New World- 堂々完結

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