第80話 相生 -Idea Truth-
・1・
「やった……やったぞ!! ハハハ……ハハハハハハハハハハッ!!」
一心は勝利の美酒に酔いながら、高笑いする。
「……ユ、ウ……ト」
かろうじて意識を保っていた刹那は、ユウトの名を呟く。
彼女だけではない。アリサも、飛角も。
「もう、絶対……勝手に死ぬことは許しません……」
「お前がいないと、死活問題になるし」
まだ諦めてはいない。
「ふん、まだ生きていたか」
一心は伊弉冉を制御するための鞘を起動させる。
『Utopia ...... Open』
闇の霊装を纏った彼はトリガーを引き、鞘から刀を抜いた。
「橘くんには悪いが、ここで全員始末するとしよう」
「く……ッ!」
一心が最も危険視しているのは、伊弉諾の使い手である御巫刹那だ。彼女だけは伊弉冉の影響を受けない。
「人の上に立つ者として最も必要とされるスキルは、チャンスを確実に掴み取ることだ」
弱って動けない彼女たちを、今なら簡単に排除できる。このチャンスを逃す手はない。
「今がその時……永遠に続く夢の中へ、消えるがいい」
一心が伊弉冉を振り上げたその時――
二つの閃光が彼に迫った。
「ッッッ!!」
煌く流星の如きそれらはさらに数を増し、流れるように途切れることなく一心を追いかける。
「何だ! 何が起こっている!?」
「あれって……」
一つは刹那から生まれた白銀の刀。
一つはアリサから生まれた黒の大弓。
一つは飛角から生まれた大槌。
一つは――
一つは――
一つは――
一つは――
一秒ごとに増え続けるそれらの武具は、とある少年を中心に複雑な軌跡を描いていた。
「ユウト!!」
自分を呼ぶ声にユウトは一瞬、優しい笑みを見せる。そしてすぐに一心と向かい合った。
「貴様……彼をどこへやった?」
怒りに震える声で、一心はユウトを睨みつけた。
もう一人のユウトはもういない。貫かれた心臓も綺麗に元に戻っていた。
彼が最後に託した希望は今、この手の中にある。
「まぁいい……元々素性のわからぬ
唸り声をあげ、一心の腕が空を切り裂く。すると世界そのものが振動し、浮遊していた無数の武器たちが見えない力に吹き飛ばされ、地面に突き刺さった。
だがユウトは動じない。数多の武器が集うその中心で、彼は静かに言葉を発した。
「これ以上、お前の思い通りにはさせない。人の
ユウトは希望のメモリーを籠手に装填した。
『Unlimited ――』
「それがどうした!!」
『Zero』
世界が凍り付いた。
あらゆる可能性は今、宗像一心に掌握された。全ての決定権は彼にある。
「無駄だ……」
吉野ユウトの全てを否定する。奇跡など、ない。
「君の可能性はすでに潰え――」
だが――
しかし――
『――Idea Evolution!!!!』
加速する理想の輝きは、もはや誰にも止められない。
次の瞬間、冷たく凍り付いた世界が音を立てて崩壊した。
「何ッ!!!!」
衝撃の中心には一人の
紅のオルフェウスローブを蒼銀に染め上げ、白く透き通った髪は輝きを得た。
同時に、漆黒の理想の籠手はまるで浄化されるように白銀へと昇華する。
魔力に満ち溢れたその双眸は――
蒼い炎を宿していた。
「蒼い……目」
アリサの全身は震えた。
あまりに美しいその瞳に、思わず言葉を漏らしてしまうほどに。
「何だ、その瞳は……私は知らないぞ! ……あってはならない。それは存在してはならない力だ!!」
力が、際限なしに溢れてくる。
しかもこれ以上ないほど自然な形で。
(もう、負けないッ!!)
「さぁ、勝負だ! 宗像一心!!」
蒼眼の
・2・
ユウトが軽く地面を蹴ると、その姿は虚空へ消えた。
「!!」
認識できない速度で一気に距離を詰めた彼は、籠手による渾身の拳を放つ。
『Zero』
だが一心は認識できないとわかった途端に、躊躇なく魔法を発動していた。
再び世界の可能性が彼の操る糸に絡まる。
「いくら進化しようが、伊弉冉の前では無――ッ!!!!!」
一心の言葉が途切れる。ユウトの拳が彼の顎をこれ以上ないほど的確に捉えたのだ。
魔法など使っていない。正真正銘ただのパンチ。それでも、
絶対に届くはずのなかったユウトの拳が、届いた。
「……何ぃ!?」
彼はひどく衝撃を受けていた。無理もない。一心にしてみれば、万に一つ、いや億が一つにも、絶対にありえない事象が今自分に起きたのだから。
「何故だ!! 何故彼の可能性を否定できない!? この世界で、私に敵うものなど……ッ!? まさか……」
「そうさ。これは俺だけの力じゃない!」
眷属である刹那を通して、ユウトは伊弉諾の力を纏っている。そして今の彼には、それを完全に使いこなすだけの力があるのだから。
ユウトはさらに拳による連撃を繰り出した。
もはや少年の可能性を否定することはできない。小細工なしの力と力の交錯。一心は腕を固めて防御に徹するしかなかった。しかし、
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
『Infinity』
突然、伊弉冉の刀身が虹色の極光を放った。以前、一度だけユウトはあれを見たことがある。
「君の可能性を否定できないのであれば、私の可能性を操作するまでだ。私こそが、絶対だあああああああああああああ!!」
Zeroとは真逆の――世界が彼の行為を肯定し、全てを成功に収束させる力。宗像一心が行使しているそれは、紛うことなき神の力だ。
破裂しそうなほど膨れ上がった光は、一直線に天を貫く。そのエネルギーは一度でも地面に直撃すれば、少なくともこの海上都市の半分を焦土に変えてしまうだろう。
「我が最強の一太刀に消えるがいい! 吉野ユウト!!」
一心は光の柱と化し、圧倒的質量を得た妖刃をユウトに向かって振り下ろそうとした。
しかし、
バギッ!! バギギギギッ!!
「な……ッ!!」
大量のガラスが一度に押しつぶされるような、ある種の痛快な音が鳴り響いた。
彼が振り下ろす直前、ユウトがその光刃を鷲掴みにしたのだ。
「はあッ!!」
そしてそれを思いっきり、根元から砕いた。
わずかに傾いた光柱は形を保てなくなり、雨のように光が降り注ぐ。
「バカな! 世界そのものの力だぞ!」
その時、ピキッと妖刀から異様な音が鳴った。
「!!」
この世ならざる妖しさを魅せる刀身に、一筋の線が入っている。
「伊弉冉が……」
遠くでユウトの戦いを見つめることしかできない少女たちは、息を呑む。
あまりに美しすぎるその刀にとって、それは全てを台無しにしてしまうほどにひどく不釣り合いな、致命的な傷だ。
「こんな……ことが……ッ!!」
「これで終わりだ」
「ぬう……ッ!!」
ここまで、まだユウトは一度も魔法を使っていない。
ここからが、本当の魔法。進化した
白銀の籠手が光を帯び始める。
その光は全てのメモリーの力を結集させ、噛み砕き、一つに混ぜ合わせ、そして自分のものとして生まれ変わった姿だ。
今やバラバラだった理想は真に一つとなり、一切の縫い目なく、いかにも自然で美しい輝きを放っている。
「
自然と紡いだその名こそ、ユウトが辿り着いた『答え』だった。
『Longinus』
集った光はユウトの腕の動きを追うように軌跡を描き、その在り様を確定していく。
「……槍、だと」
灼熱の蒼き焔を宿した螺旋の神槍。
その熱は宗像一心が緻密に作り上げてきた世界の秩序を、一瞬で燃やし尽くしてしまうほどだ。
『Longinus ......... Ultimate Break!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
傲慢なる神を失墜させる反逆の一撃が今、解き放たれる。
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