行間7-3 -選ばれたBraver-

「「ッ!!」」


 気付いた時には、ユウトたちが消えていた。否、彼らが消えたのではない。タカオとミズキの方が全く違う場所に飛ばされたのだ。


「み、みんなは?」

「今の……」

 タカオはこの現象に覚えがあった。


 パンッ、パンッ、パンッ、パンッ。


 背後から四回、拍手の音が聞こえた。

「やっぱりあんたの仕業だな、社長さんよ」

 タカオは警戒を解かずに、ゆっくりと振り返った。


「いかにも。そしておめでとう、皆城タカオ。


 一心は不敵な笑みで、タカオに賛辞の言葉を送った。

「選ばれた?」

 目の前の男が常人ではないことくらい、タカオにだってわかる。実際、あの時は刹那の加勢がなければ、一心に殺されていたはずだった。


「己を遥かに圧倒する敵を前にしても、臆することのないその勇気。私は君のそういう所を高く評価している」

「そりゃあどうも。けど話がそんだけなら、ミズキまで連れてくる必要はなかったんじゃねぇか?」

 タカオはミズキを庇うように一歩前へ出た。

「フッ、もちろん彼女にも相応の価値がある」

 すると一心の指先が、腰に下げた機械的な鞘、そこに差さっている伊弉冉に向かって伸び始めた。

「野郎ッ!」

 絡繰りは未だにわからないが、伊弉冉とあの機械が起点になっているのは明白だ。


『Zero』


「ぐあッ!!」

 だが間に合わない。また何かが起きた。気付けばタカオは逆さまで宙へと放り投げられ、そのまま自由落下で背中を強く打った。

 その間も、一心はゆっくりとミズキへ近づいていく。

「に、げろ……ッ、ミズキ!」

「ッ!? 体が……」

 まるで金縛りにでもあったように、ミズキの意に反して足は一歩も動かない。

「無意味だ。ここは私の世界。私がルールだ。私を害するあらゆる事象は全て失敗に終わる。そもそもルーンの腕輪を使っている以上、君たちは私の実験材料モルモットなのだよ」

 一心は嘲笑いながら、右手でゆっくりとメスで切るように虚空を裂く。そしてそこから黒い何かを取り出した。

(何だ……あれ……)

 離れていても、肌を焼かんばかりの圧倒的な熱を感じる。一心はその黒い熱全てをミズキに浴びせた。


「うっ……ああああああああああああああああああああああああ!!」


 木霊する少女の絶叫。黒い炎はあっという間にミズキを飲み込み、文字通り炎のようにその精神を焼き切ろうと地獄の苦痛を与える。

 数秒も経たず、ミズキはその場に崩れ落ちて動かなくなった。

「ミズキッ!!」

 タカオが彼女の元に駆け付けた時には、炎はミズキの体内に入り込み、跡形もなく消えていた。幸い、火傷などの外傷はない。息もあった。

「てめぇ、こいつに何しやがった!?」

「心配せずともすぐには死にはしない。それでは彼女の価値が失われてしまう」

 一心はタカオを見下ろして続けた。

「君のような人間を動かすには相応の犠牲が必要だ。彼女を救いたければ、君は私の提案を受け入れるしかない」

 そう言うと、一心は懐から取り出したものをタカオに放った。

「これは……」

 ルーンの腕輪とは真逆の機械的なフォルム。かつてシンジが使っていたネビロスリングだ。そしてもう一つは、赤い装飾の入った


「それは我が社の特注品だ。喜びたまえ。これで君はワーロックと限りなく同等の力を得た」


「……俺に何をさせるつもりだ?」

 タカオはこれ以上ない憎しみに満ちた目で一心を睨んだ。

「いい目だ。それでこそ選んだ価値がある」

 満足そうな顔で彼はタカオに告げる。

 唯一、呪いに蝕まれた少女を助ける術を。



「私が君に求めるものはただ一つ。君には――」

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