第31話 堕ちた超越者 -Nephilim-
・1・
「急いで! 戦えない人は地下に避難させて!」
全方位から耳が破裂しそうな爆音が鳴り響く。まるで映画の中の戦場に自分がいるかのような、そんな非現実的な今。昨日まで平和に暮らしていた自分が嘘のようだった。
そしてもう一つ。脳裏に焼き付いて離れない獣の声だ。
「これで全員?」
「うん、戦える人はまだ
空から止めどなく堕ちてくる魔獣。
イースト・フロートの主だった通信設備は瞬く間にその波に飲まれ、都市周りのすべての船も大破。まるで狙ったかのように海上都市は世界から切り離された。
対抗するのは海上都市に住む魔法使いの
もちろん、海上都市の警務部隊も出張ってきてはいるが、魔法を持たない彼らは魔獣に対して有効打があまりに少ない。銃などの通常兵器を装備した生身の隊員では魔獣に傷をつけることはできない。そもそも身体能力に差がありすぎる。アップデートされた虎の子の
しかしでは魔法使いが有利かというと実際そうでもない。「魔法使い」という括りで完全に一つの統率された組織とは言えないからだ。中にはグループ同士の衝突もあった。安全な場所と食料の奪い合いだ。それはどうしても限りがあるものだ。人間である以上これは避けられない。積極的に他のグループを侵略することこそないが、各々ギリギリの戦線を維持していた。
昨日までの平和はいとも簡単に消え去った。
ただ一つ。
善も悪も含め彼らの目的は魔獣の殲滅。これだけは共通の認識だった。
ここに立つ少女たちの仕事はここら一帯の戦えない者をシェルターに避難させること。そしてその入り口を死守することだ。当然二人にはそれができるだけの能力がある。二人はかつてはみだしで生活し、久我山に操られていた双子の少女たちだ。
二人は今回の大騒動以前からあるシャングリラとは別の自警団に所属している。
「シズクお姉ちゃん、そういえば隣の第九区のグループが全滅したって話、聞いた?」
双子の妹・フウカがふと小耳に挟んだことを姉のシズクに尋ねた。
「……うん。私だって実際にこの目で見たわけじゃないけどね。はみだしをまとめていたシャングリラも連絡がつかないみたいだし……。ううぅ……ガイ様。できることなら今すぐあなたの元へ駆けつけていい所を見せたい。そしてあわよくば吊り橋効果的なアレで結婚を前提としたお付き合いを――」
「お姉ちゃん、そういうのは普通男の人が考えるものだと……」
「(ギロッ)」
「はうぅ……」
どうも姉の中ではいかに自分に惚れさせるかで作戦が展開されているらしい。
「……あんただってミズキさんに会いたいくせに」
シズクが拗ねて口調でそう言った。二人はいろいろな経緯があってそれぞれに憧れにも似た感情を抱いている。
「私は……その……だってミズキさん、優しいし……なんかお姉ちゃんみたいだなって……」
「お~い。あんたのホントのお姉ちゃんは目の前にいるぞ~」
そんな風に姉妹で束の間の談笑をしていると、ふとシズクは言った。
「でも気になることもあるのよねぇ」
「気になること?」
「隣から逃げてきたやつらの話が本当なら、魔獣たちの中に人の言葉を話す個体が――」
「ルナ~。次はどこカ?」
「ナナ、あんた見えないの? 下にいるでしょう? 下。ほら人間」
「「ッ!?」」
突如頭上から能天気な声が降ってきた。そして遅れてドサッという鈍い音。
それが人間だとすぐにわかった。
「……なっ」
幸い落ちてきた人はボロボロだが息はある。
問題はいまだ聞こえる上からの声だ。
「……飛んで、る?」
頭上十メートルほどを旋回していたのは褐色肌の可愛い双子少女たちだった。ただ普通と違うのは、その背中にコウモリのような大きな翼を持ち、片腕が異様に大きいところだ。明らかに人間のそれではない。
「ウ~、小生……下を向いて生きたくないユエ? ショー・リュー・ケンなのダ! ん? 美味いノカ?」
「……あんたまた変な言葉覚えてきたわね」
悩みぬいた言葉を捻り出すナナ。
それを見て呆れるルナの背後を、瞬時にシズクが水流で作り上げた剣でが斬りかかった。
上空でシズクの水剣とルナの右腕の魔手が鈍い音を立てて激突する。
「オヨ?」
「あら……いきなりレディに後ろから迫るなんて行儀がなってないわね」
ルナがニヤリと攻撃的な笑みを浮かべる。
(……嘘でしょ。なんて硬さなの!?)
シズクの魔法は水流操作。範囲はそう広くないが、水全般を操ることのできる単純にして強力な魔法だ。手に持つ水剣は高水圧を剣の形に留めた水圧カッター。並の魔獣なら輪切りにできる。この高さまで飛んできたのも足元で爆発的な水圧の威力を利用してのものだ。
「あんたたちが噂の喋る魔獣?」
「いかニモ!」
「ちょっと、勝手に私たちを珍獣扱いしないでくれる?」
ルナは巨腕を大きく振り払いシズクを突き放す。そして空中で逃げ場のない彼女に向って右腕から巨大な火炎弾を何発か撃ち出す。
しかし火炎弾は少女の手前で何かに衝突して爆発した。
「あ?」
自身の攻撃の不発に首を傾げるルナ。しかしすぐにその正体に気付いた。
「……チッ、あいつか」
フウカの能力だ。風を操る彼女が圧縮した空気を壁として使ったのだ。
「ごめんフウカ、助かった」
「もーお姉ちゃん突っ走りすぎ!」
しかし安心できなかった。
(嘘ッ……)
フウカは姉の姿を見る。彼女の服は所々焦げて黒くなっていた。自分は完全に包むように空気の壁を展開したのにだ。
(私じゃあれを完全には防ぎきれない……)
あんなもの何発も撃たれたら炎は防げても余波が自分たちの体力を確実に奪っていく。魔力で凝縮された炎は風を吹かせた程度では揺れることさえない。
(下手したら次は完全に壊されるかも……)
「へぇ……あんたたち双子なのね。面白いじゃない。私たちとあなたたち。どっちが――」
「ルナばっかりだとつまらないゾォ? ホイッとナ」
「えっ!? ちょっ! ナナ!?」
痺れを切らしたナナは同じく左腕の魔手からバチバチと轟く雷球を天に撃ち出した。
「ッ!!!!」
文字通り全身が痺れるような感触がした。鳥肌が立つ。シズクは考えるよりも先に足元で水圧を利用して、瞬時にフウカの隣に跳躍した。そして叫ぶ。
「何かやばいのが来るわ!! 上にありったけ壁を張るわよ!! 早く!!」
直後、周囲を
・2・
「……お前が」
ルーンの腕輪の製作者。
思わず足が一歩前に出る。知りたいという欲求。それとも知らなければならないという使命感か。
しかしそれを制止する者がいた。
仮面の魔法使いだ。ユウトの前に立ち、その腕で彼の行く手を阻む。
「……お前と話すことなど何もない。死にたくなければ失せろ」
仮面の奥から冷徹な声が放たれる。
「おぉ怖い怖い」
夜白は両手を挙げてお手上げのポーズを取る。
「でもそっちの彼はそのつもりみたいだよ?」
「……ッ」
仮面の魔法使いの腕がゆっくりとユウトによって下げられた。
「……何の真似だ?」
小声で仮面の魔法使いはユウトに問う。
「悪いけど、こいつが腕輪を作ったっていうのなら、俺はこいつに聞かなきゃならないことがある」
ユウトは仮面の魔法使いと向かい合った。顔は見えないが、まっすぐ相手を見据える。引く気はないという意思は嫌でも理解できる。
「……」
「ありがとうな」
その無言を了承と取り、ユウトは礼を述べた。そして改めて夜白に向き直る。
「聞かせてくれ」
「僕に答えられることであれば」
ルーンの腕輪は確かに持ち主に望むものを与えた。実際ユウトは力を欲した。誰かを守れるだけの力を。これが自分だと胸を張れるものが欲しかったから。
しかし腕輪がそれ以上の悲しみを生んだのもまた事実だ。
腕輪の暴走によって生まれたレヴィルの兄。
ある日から忽然と姿を消した逆神夜泉という少女。
飛角はルーンの腕輪の力なしでは生きられない体になった。それが人体実験である以上、間違いなくエクスピアが関わっているはずだ。
それでもユウトが直面してきたのはほんの一部に過ぎない。
そして何より一番の問題は。
人の魔獣化だ。
神座奏音という少女の変わり果てた姿が頭を離れない。あの状況では原因まではわからないが、もしそれが腕輪と関係しているのなら。
例えば魔法を使いすぎ。あるいは腕輪が壊れたから……とか。
それらが人間が魔獣に化けるトリガーだとしたら……。
理由はどうあれ、だとしたら今まで自分たちが倒してきた魔獣は……。
「……どうしてあんたたちは俺たちに腕輪を配ったんだ? いや、それよりもどうして人間が魔獣になる? 神座奏音のあの姿は何だ! 答えろ!」
だからユウトは聞かずにはいられなかった。今の状況は自分が望んだものではない。こんなの誰も求めてなんかいやしない。
だからその答え方次第では――
「……まずいくつか誤解があるようだからそれを正しておこう」
「誤解?」
夜白は人差し指を上に向けて順を追って話し始めた。
「まず一つ。確かに僕たちはあらゆる
「……ブルーメ?」
「君たちが魔獣と呼んでいる化け物さ。ともかく適合数値の高い魔法使いはそう簡単に手に入るものではないからね。僕たちは人海戦術に頼るしかなかった。まぁ……中にはたちの悪いブローカーもいたみたいだけど、それは僕たちの管轄外だ」
夜白のもう片方の白い人差し指がさらにもう一本立つ。
「二つ目。君の考えてる通り腕輪には副作用がある。神座奏音の魔獣化はその影響だ。そもそもルーンリングの役割は魔力増強装置だ。腕輪の機能で体内の魔力量は飛躍的に上昇する。それを制御する腕輪が破壊されれば当然、今まで限界以上に体内で貯蓄していた魔力が制御不能でボンッと暴れまわる。あれはその結果というわけさ」
「……ふざけるな」
夜白はあくまで淡々に、しかしどこか楽しそうに話す。ユウトは夜白を睨む。そんな危険なものを目の前の科学者は平気でバラまいたというのか。
「安心していい。僕はそれを防ぐためにちゃんと
夜白は胸元まであげた両人差し指でバツを作ってみせる。
「でも彼女の場合は自業自得さ。神座くんたちは勝手に僕の腕輪のリミッターを外してしまったんだから。心当たりはあるだろう?」
夜白の言葉にユウトは押し黙る。赤い腕輪、タラニスリングは神座たちが改造したと言っていた。おそらくそのことだろう。
「……」
「天才ゆえの悲劇だね」
夜白はうんざりした顔でそう答えた。
「そして最後。君が持っているその黄金の腕輪。たぶん気付いていると思うけどそれはオリジナルだ。それは君に送ったものではない。元々ここで管理していたものだ。けど少し前に運搬中に盗まれてしまってね。ちょうど君がお友達と一緒にアクアパークを訪れた日さ」
「これが……」
ルーンの腕輪のオリジナル。
ユウトは自分のルーンの腕輪に目をやる。思えばこの腕輪と出会ったときの記憶は曖昧だ。目が覚めた時にはすでにそこにあり、すべてが終わっていた。だが冷静に考えてみれば、おそらくあの時最初にこの腕輪を持っていたのはアリサだ。
つまりあの日、オリジナルの腕輪を盗んだのもアリサということになる。
「まぁでもそんなことは些細な問題だよ。むしろ僕は君と件の盗人くんには感謝しているんだ。だってその腕輪を起動できる人間をようやく見つけることができたんだからね」
夜白は両手でユウトの手を掴み、笑顔をこちらに向ける。
「ふむ。誤解を解いたところで少し僕とデートでもしようか?」
「……」
ユウトは夜白の考えが読めず、警戒の色を露にする。だが夜白はそれを別の意味でとったようだ。
「君……何か勘違いしているだろう? こう見えても僕、女なんだけど」
「……えっ!?」
思いもよらないカミングアウトにユウトは思わず声を出した。確かに中性的な顔立ちだし、言われてみればそう見えなくもないが、話し方や振る舞いで完全に男だと思っていた。
「ハハ、何だったら触ってみるかい? あまり豊かな方ではないけどね」
夜白はそう言って自身の胸元を寄せて上げる動作をしながら申し訳なさそうに苦笑する。そしてその後、仮面の魔法使いにも声をかける。
「君も来るといい。僕は君にも興味があるんだ。正体不明の魔法使いくん」
夜白はその仮面の奥まで見通していそうな目で仮面の魔法使いを一瞥する。
そうして二人は白髪の女科学者の後に付いていく。
部屋の中心部。モーメントのそのさらに下へと。
真実を知るために。
・3・
「君の持つそのオリジナルは適合者が今までいなかったんだよ。だから僕はそれを解析して、劣化コピーを制作したんだ。誰でも扱えるようにね」
夜白は長い螺旋階段を下りながら腕輪の話を始めた。
「ルーンっていうのは北欧神話に伝わる魔力を持った文字のことだ。その形一つ一つに
要はプログラミングと同じ要領だ。すでに出来上がった完璧なコード。しかしその暴れ馬を誰一人使いこなすことができない。そこでそのインターフェイスをより大衆向けに一般化する作業。それが夜白の言う簡略化だ。
彼女は簡単気に言うが、ゼロからの未知の言語の解析などそもそも簡単なはずがない。それも本物のルーン文字。ネットで調べた程度の知識では絶対に理解不可能な代物だ。おそらくそれ以外にも様々な調整がなされているのだろう。だからこそきっと彼女にしかこんなことはできない。
「けどそれでもオリジナルの半分以下の力しかない上に、副作用もある失敗作ときたもんだ。まったくお恥ずかしい話だけどね」
夜白は頭に手を当ててそう言った。
「ところでユウトくん。君は魔法をどう思う?」
「え……」
唐突に質問が飛んできた。
「いや失礼、質問が悪かったかな。そうだな……魔法とは何だと思う?」
すぐには言葉が出なかった。今まで当たり前のように使ってきたが、よくよく考えると漫画や小説などに出てくる不思議な力。そんなイメージしか抱いたことはなかった。
それ以前に自分の魔法は他の魔法とは少し勝手が違うと以前刹那にも言われた。だから魔法とは何だと聞かれてもわからないのだ。
夜白もユウトの表情でそれを察したようだ。
「ふむ。どこから説明したものか……。狂犬病を知っているかい? 日本では確認されていないが、今もなお世界中で多くの死者を出しているウィルス。感染者は水を怖がり、外部からの刺激に異常に過敏になる。神経系がウィルスで変異しているんだよ」
例えばインドなどに渡航の際、狂犬病のワクチンを接種することを推奨されている。現地ではウィルスを持った野犬がそこかしこにいるからだ。
「……魔力はウィルスだって言いたいのか?」
「察しがいいね。僕はそう考えている。あくまで仮説だけどね。原因も手順も無視して、結果だけを生み出すなんらかの力。そんなものいくら僕でも論理的に説明できないよ」
階段もようやく終わり、夜白は正面の認証ドアを開けて二人を中へ促す。そこにはたくさんのルーンの腕輪が保管されていた。ざっと見ても軽く千はあるだろう。
夜白はそのうちの一つに手を伸ばす。ケースの中は真空状態だったのか、開けた途端にプシュッという小気味良い音がした。
「この世界で生きるものは何であれ、ごくわずかだが魔力と呼ばれる不思議な力を持っている。これはその本来生物が持っている微少な魔力を培養するためのものだ。そして増幅された魔力は狂犬病と同じように生物の神経にある変化をもたらす。それが『自身の
魔法は人が持つ心のありようによってその性質も大きく変わってくる。似ている魔法を持つ者はいても、まったく同じ魔法を持つ者は今まで確認されていない。ユウトの理想写しを除いては。
夜白によると、一番反映されやすいのはコンプレックスやトラウマなどの負の感情だという。それらは他のどの感情よりも強い力を持っているらしい。
「だけどまぁウィルスだからね。体にもたらす変化は薬にも毒にもなる。人によっては特異な症状がでてしまう。魔獣化はその最たるものだ」
夜白は流れるような口調でそう言った。
「君もレヴィル・メイブリクの別人格のことは知ってるだろう? あれも彼女が無意識に願った一つのイレギュラーさ」
「どうしてあんたがレヴィルのことを?」
「ワイズマンズ・レポート」
「ッ!?」
その単語はユウトがレヴィルを救い出すときに、アーロンから聞いた言葉だ。そして神座凌駕たち『アウスヴェーラ』が海上都市の汚点として消し去ろうとした人体実験の名である。
「だって僕はその被験者第一号であり、二番目以降の計画立案者だからね」
それを聞いた途端、考えるよりもまず先にユウトは夜白の胸倉を掴んで思いっきり壁に押し付けていた。
「ハハ……いきなりどうしたんだい?」
それでも夜白は相変わらず感情の読めない笑みを浮かべる。
「お前のせいで……あいつらはッ!」
言葉に出すと怒りで指に更なる力が入る。今まで遭遇した多くの事件ではいつも
「あいつらがどんだけ悲しい思いをしたかわかってるのか!!」
少なくとも普通の幸せを今まで味わえてこなかったはずだ。だからユウトは彼女たちを強く助けたいと思った。
「わからないなぁ。どうして君がそこまで怒るんだい? 被験者の多くはそれを望んで実験に参加したはずだ。君にだってわかるはずだ。あの実験なくして今の彼女たちはありえない。そうだろう?」
「くっ……」
確かに。
それも正しい。
家族のわからないレヴィルは形は歪んでいても初めて家族というものを感じることができた。
ロシャードは実験がなければ今だって物言わぬ機械のままだったはずだ。
飛角にいたっては何か重い病気を治すためだと聞いたことがある。
他の被験者を知らないが、皆何かを得ているのは確かだった。それも心の底から欲しかったものを。
「……」
ユウトはゆっくりと夜白から手を放した。
「でも……どうしてあんたはそこまでして、ルーンの腕輪を?」
ユウトには理解できなかった。そもそも魔法という「個の強い力」は現代において争いの種にしかならない。今は魔獣という明確な敵がいるからこそ、魔法は重宝されているだけだ。
「来るべき審判の日に備えて……かな」
夜白はそう答えた。
「……審判の、日?」
「君も見たんだろう? あの知性を持つ化け物どもを」
化け物。その言葉でユウトの頭にガイの姿が浮かんだ。あの優しかった青年があんな凶悪な姿に……。今でも信じられない。しかし同時にあの姿は魔獣化した奏音とはまた違う感じもしていた。
「彼らはおそらくこことは別の世界で魔獣化し、それでもなお知性を無くさなかった者たちだ。人の身から堕ちた超越者……『ネフィリム』、とでも呼べばいいのかな?」
魔力という力の前で、魔法使いが正しい進化の形だとするならば、ネフィリムはその逆。負の超越者だ。
「別の世界?」
「君も知ってるはずだ」
ここではない別の世界。一つだけ思い当たるものがある。
「……
「その通り!」
夜白が胸元で手を叩いた。
「でも君たちが見た世界はほんの一部でしかない。見たまえ」
夜白は端末取り出し、イメージを立体的に投影させた。
「現在こちらで確認できた分界は四つ。たぶん他にもたくさんあるんだろうね」
映像には、
黒い太陽と真っ白な砂漠で埋め尽くされた世界。
赤黒いマグマと大岩が支配する世界。
何か中世の王宮のような廃墟の見える世界。
ボロボロに風化した機械仕掛けの巨人が中心に座す世界。
「どれも今まで見たことのない文明があったみたいだ。僕たち科学者からしたらオーバーテクノロジーの宝庫だね。あ、ちなみにこっちが君たちの訪れた世界だよ」
夜白は真っ白な砂漠の世界を指さす。
「この世界だけは僕たちの住む世界と非常によく似た文明を有していた。文字も建物も電子機器の構造さえもまったく同じだ」
ユウトは他の分界も見比べていく。どの世界も共通して、文明の足跡はあっても命の気配がない。
ふと、アリサの言葉が浮かんできた。
『終わった世界の成れの果て』
彼女はそんなことを言っていなかったか?
終わった? でも何で?
「たぶん滅ぼされたんだろうね。彼らに。何故という疑問は残るけど、それができるだけの力はあってもおかしくない」
「……つまり、お前たちは奴らに対抗するために腕輪の開発をしていたといいたいのか?」
ここでようやく背後で壁を背にしていた仮面の魔法使いが重たい口を開いた。
「ま、冬馬はそのつもりだね」
「……冬馬が」
「莫大な魔力の塊であるネフィリムはそこに存在するだけで周囲の魔力濃度が激増する。現に今この街の魔力濃度は通常時の百倍。これは常時魔法を発動している状態に近い。腕輪を装着している僕たちには魔力に耐性があるから無害だけど、常人なら今はまだ体調不良程度で済んでも、このまま続けば大変なことになるね」
ネフィリムが歩いた後には魔獣しか残らない。
夜白の言葉はそういう意味だろう。
「……」
ユウトは拳をギュッと強く握った。
(……やっぱりこんな所でじっとしてなんていられない)
ここまで話して、夜白は改めてユウトに問う。
「さて、ここからが僕からの提案なんだけど……どうだろう? 君たち、僕に協力してはくれないだろうか?」
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