第26話 煌めく雷光 -Beyond-
・1・
「いいだろう」
伊弉諾は御巫刹那の手を取った。
すると白装束の少年の体が眩い光へと変化する。
雷が走り、それが徐々に元の折れた刀の形状に収束した。
『まだまだひよっこだが、付き合ってやる』
「はいはい、一言多いのよアンタは」
『ふん。ならあれを倒して証明してみせろ』
刹那は刀を一振りして自身の雷を馴染ませる。そして折れた刀身を補う雷刀を形成した。
「……?」
そこで刹那は違和感を覚える。まるで——
「刹那」
ユウトが背後から声をかけた。
刹那はユウトを一瞥する。
ボロボロだ。いつもそうだ。
それは自分の不甲斐なさが招いた結果。大仰と言うかもしれないが、御巫刹那という人間には本来それができるだけの力がある。
だから今度は失敗しない。
「大丈夫よ。ここは私に任せて。……ユウトはちゃんと私を見てて」
これは刹那にとって雪辱戦だ。
それにもう一つ、この戦いには大きな意味合いがある。
刹那はユウトに守られるだけの存在になる気などさらさらない。
むしろその逆。
いつだって一歩先を歩む、キラキラと輝く憧れでいたいのだ。
だから見せつける。御巫刹那という存在を。そのすべてをこの戦いで。
ユウトにはそれを一番近いところで見ていてもらいたい。
「……」
ユウトは刹那の背中を見つめていた。
正直な所、ここに来てユウトはかなり消耗していた。膝が疲労で変な笑いをしている。立つのも一苦労だ。使えるメモリーももうない。
いや、正確には一つだけある。
ユウトはポケットの中にある銀色のルーンの腕輪を取り出した。
ユウトの持つ黄金の腕輪ではなく、魔法使いであれば誰もが持つ銀色の腕輪。
この腕輪は仮面の魔法使いが置いていったものだ。
あの時、仮面の魔法使いは最後ユウトの問いに何も答えることなく静かに姿を消してしまった。そして元いた場所にはこの腕輪が落ちていた。
それが誰の物なのかはすぐにわかった。
唐突に現れた転校生。分界を一緒に旅した仲間だ。彼女はあの日を境に突然姿を消した。その本当の理由は誰も知らない。
触れた瞬間、彼女のイメージが頭に流れ込んできた。それがユウトが所有者を特定できた理由だ。一瞬、仮面の魔法使いが彼女に何かしたのかと考えたが、そんな誰かを恨むような思念は全くなかった。むしろそこには幸福の感情しかない。だからその考えはすぐに捨てた。
これは彼女が最後に残した
(……もしもの時はこれを使えっていうのか?)
この腕輪には夜泉の魔力の残滓がまだ残っている。一度だけなら理想写しの力でメモリーを作り出せるだろう。
仮面の魔法使いはユウトのためにこの腕輪を置いていったのだろうか?
だがユウトは夜泉の腕輪をポケットにしまった。
そしてこう言った。
「わかった。ちゃんと見てる。だから絶対に勝てよ?」
「当然!」
まったくお前の方が頑固じゃないか、とユウトは心の中で呟く。
「ふん。ようやく話は終わったようだな」
ロウガは二本の刀を構える。もうその瞳には刹那しか映っていない。
「ええ。待たせたわね。ここからは私の独壇場よ!」
獣の表情が愉悦に満ちた。
「いい、いいぞ! 凄まじい闘気を感じる。見違えるほどだ! 俺をここに呼び出した花嫁の声をずっと追っていたが、もうそんなものはどうでもいい! 昂ぶるぞ! 俺の本能が叫んでいる! お前を全身全霊で食い殺したいと!!」
全身の筋肉が一段階さらに膨張する。
「娘、名を聞こうか?」
「御巫、刹那よ」
「よかろう御巫刹那! そのオーラ。その美しさ。この俺が手ずから屠るに相応しい!」
「行くわよ!」
二つの影が高速で交わった。
・2・
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
タカオの悲鳴にも怒号にも聞こえる叫びが木霊した。
襲ってくるシンジの千の木竜を右手を盾の形状に変化させて防ごうとする。がしかし、その圧倒的な質量の暴力に右腕から嫌な音がひっきりなしに聞こえて来る。
「がああああああああああ!!」
喉が潰れそうなほどの叫び。だがそうしていないと痛みでどうにかなってしまいそうだった。
ついには木竜の群れに耐えきれずタカオの体がトラックに弾かれたように宙を舞う。
「ハハハ、頑張った頑張った」
タカオが地に落ちる前にシンジはトドメを刺すつもりだった。
(絞め殺し、殴打……それとも串刺しにしようかな?)
頭の中には空中で身動きの取れない相手をどうやって料理するか、それだけだった。
「やっぱり串刺しかな。君のその硬い盾に穴を開けてみたい」
シンジは鎧の中で舌舐めずりをした。
「これで——ッ!?」
急にシンジが横のジャンプした。
ちょうどシンジの頭があったところを通過して、弾丸のようなものが地面を抉っていた。
(……対戦術武装用特殊弾装)
もちろんそんなものではネビロスリングが呼び出した降霊武装は貫けないが、生身に衝撃としてダメージを与えることはできる。しかも狙撃者は正確にシンジの頭部を狙ってきた。完全に意識を奪う算段だったのだろう。
シンジは無言で周囲を見回す。狙撃の角度と方向からポイントを割り出しを試みた。
(あのビルか?)
左手をシュッと降ると、次の瞬間そのビルが地面から生えた無数の巨大な樹木の槍で串刺しにされた。ゴゴゴという音とともにビルはあっという間に崩壊してしまった。
それを見て満足そうな笑みを浮かべるシンジ。
「君の仲間かい? 今のはなかなかいい手だ。まぁもう死んじゃってるだろうけど」
「うちは健全な慈善団体だぞ? 銃を使う不届き者なんていません。つーかこの街じゃ買えねぇだろ」
「あー、そうだったね」
タカオはボロボロの体をなんとか立て直す。
(今のは、アリサちゃんか? 無事なのか?)
シンジは軽々とやってみせたが、ビルを倒壊させるほどの一撃だ。そんなことができる人間をタカオは刹那くらいしか知らない。しかもこの距離からとなるとその彼女でも難しいはずだ。
安否の確認ができない以上、信じることしかできなかった。
(あいつにあっちに追い討ちをかけに行かれるとマズい。何とかここで足止めしないと……)
タカオは再び両腕を変化させて走る。
無尽蔵に生えてくる植物の魔法。その突破口は全然見当たらない。
だけど、タカオにはここで逃げるという選択肢はない。
後ろにはリクやアヤノ、それにミズキがいる。その後ろにはユウトたちだって。遠く離れた前方にはおそらくアリサも。
(攻略法は戦いながら考えるしかねぇか……あわよくば顔面にキツい一撃を入れて一発KOだ!)
息をつく間もなく、第二ラウンドが幕を開けた。
・3・
「……うっ、ガハッ……がっ……!」
遠見アリサは崩れた瓦礫の中でうずくまっていた。全身を激しくうちつけズキズキと痛みが襲い、燃えるような熱を帯びている。それでもあれだけの崩壊の中、五体満足で入られたのは奇跡だ。
どうやら倒壊したビルの中にできた僅かな空間に入り込んだようだ。
「……私、生きてる? うッ!!」
だがアリサは急に吐血した。その原因はすぐにわかった。
彼女の腹部に細い鉄骨が深々と突き刺さっていたのだ。
「あ、あああ……」
一瞬、パニックに陥りそうになったが、彼女の精神はなんとかそこで踏みとどまる。
アリサは徐々に力を失っていく指先を強引にポケットの中に突っ込んで漁る。そうして取り出したのは赤い宝石のような石。
今まで何度もアリサが使っていた魔法石だ。
この石には使用者に一時的に莫大な魔力を付与する力がある。しかし——
(……最後の、一個)
死んだら元も子もない。アリサは唇を噛み締めて魔法石を使った。
石の発光が弱まっていくごとに腹部に開いた穴が癒えていく。そして一分もしないうちにアリサの体は傷跡すら残らず完全に再生した。
「ふぅ……とりあえずこれで」
傷は治ったが服は血だらけだ。しかし体の痛みはもうない。治癒に使った魔法石の魔力もまだ僅かだが余っている。
まだ戦える。
「もう一度……あいつだけは、私が——」
「やめておきなさい」
「ッ!?」
アリサは反射的に銃を構えた。
その先にはいつものコウモリ……ではなく、血のように真っ赤な着物を着崩して着ている小柄な少女。
不思議と幼さよりも妖艶さを感じる美貌。
その少女は積み重なった鉄骨の上に優雅に座っていた。
その声は今までことあるごとに使い魔のコウモリ越しに接触してきた声だ。
声の主の顔は忘れもしない。当然、名前も。
「……カーミラ・エアリード」
アリサは目の前にいる吸血鬼の名前を口にした。
「あら? その名で呼ばれるのは久しいわ。私の名前、確か一度しか名乗ってなかったはずだけど……フフ、覚えていてくれたのね。いい子ね」
カーミラは黒い長髪をゆっくりとかきあげて、うっすらとした笑みをアリサに向けた。
背筋に冷たい感触をアリサは覚えた。見た目はただの小さな少女なのに、さっきから本能が危険信号を鳴らし続けている。
「……何の用ですか?」
「ん? さっき言った通りよ? わざわざ死にに行くような愚行をやめなさいと言ったの。理解できなかったのかしら?」
カーミラは真っ白な素足をアリサに向けて伸ばす。まるで「あなたに言ってるのよ」とでも言いたいようだ。
「……あいつは、みんなの仇なんです! だから絶対に——」
「なら、そのみんなの仇さんに殺されて自分もお仲間のところに行くのがあなたの望みということでいいのね?」
「……くっ!」
アリサは何も言えなかった。自分はまだここで死ぬわけにはいかない。
「あなたらしくもない。あれだけ魔法使い相手にはドン引きするほど入念に準備をしていたあなたがこうも感情的になるなんて。一目見ればあの子を包んでいる鎧が普通ではないことくらいわかるでしょう? フフ」
「何がおかしいんですか?」
アリサは再び銃を構えた。こんなもので彼女が殺せるわけでもない。ただ強がっているだけだ。
この世界では銃だけが彼女を強者たらしめているからだ。
「ごめんなさい。でも初めに言ったでしょう? あなたにはあなたのやるべきことがあるはず。ここで死んでもらっては私も困るのよ」
カーミラはまるで聞き分けのきかない子供をあやすようにそう答えた。
「これも前に言ったことだけど、私はこの物語を鑑賞するお客でしかないの。ただどうにも結末が気に食わない。そんなつまらないものを延々と観せられるお客の気持ち、あなたにわかるかしら? だから私はあなたという
そう。その通りだ。そこに反論の余地は一切ない。
「あなたもそれを了承した上で、今この場に存在しているはずよ? あなたはあなたのやりたいことができる。私はあなたの行動で変化した結末が観れる。そうよね?」
「……はい」
それを聞いてカーミラは嬉しそうに「いい子ね」と言って頷く。
「私と契約を交わした時点でもうあなたは私のもの。この世界で唯一私が干渉できる可愛い可愛い私のお人形さん。ご主人様の言うことには素直に従うものよ? そうすればもっと可愛いわ」
「誰があなたなんかに!!」
叫んだはずみにアリサは引き金を引いてしまった。
バンッ!!
重い音が鳴り響く。だが放たれた銃弾はカーミラの眉間を穿つことはなく、目の前でピタリと静止した。
カーミラは静止した銃弾にゆっくりとその小さな指を這わせる。
「いけない子。ご主人様に噛み付くなんて。もう一度お仕置きが必要かしら?」
「……ッ!!」
アリサはカーミラの瞳に吸い込まれそうな感覚に襲われた。
(体が、動かない……)
縛られているわけではない。ただ体がアリサの命令を無視している。制御権を奪われた、そんな感覚。
しかし急に鳴り響いたサイレンの音が彼女の意識を強引に覚醒させた。
「……サイレン。そっか、ここが崩れたから」
早くここを離れなければならない。アリサはそう判断した。
「無粋ね。まぁいいわ。あなたはしばらく大人しくしていなさい」
声は背後から聞こえた。
「ちょっと……ッ!?」
急に空間を裂いて背後から現れたカーミラがアリサに抱きついた。
そしてアリサのシミ一つない綺麗な首筋に吸血鬼の牙を突き立てる。
「あっ……ぐっ……はぁっ!」
痛みは一瞬で、あとは全身を駆け巡る快感だけがアリサを支配した。
「あ……あ……」
思考が溶ける。
徐々に全身から力が抜け、自分では立っていられなくなる。ついには唯一の武器である拳銃さえもその手から零れ落としてしまった。
(まだ……私は……)
何もない虚空に何かを見たのか、それに手を伸ばすアリサ。
そこで完全にアリサの意識は断絶した。
「まだチャンスはあるわ。今は少しおやすみなさい」
カーミラは眠っているアリサの髪を優しく撫でる。我が子のように。
そのまま完全に力の抜けきったアリサの体を空間の裂け目に引きずりこんだ。
そしてその場には誰もいなくなった。
・4・
剣戟の鳴り響く音。
この場を支配するのは二人の剣士。そして両者が響かせる剣の舞踏。
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ガルルルルルルッ!!」
この数分の間に何百何千と打ち合っても、ロウガの刃は刃こぼれの一つさえできない。
(ダメか……せめてどっちか一本だけでもと思ったけど)
「甘いぞ御巫刹那ァ! 我が刃は自身の牙を鍛えたもの。破壊など不可能!!」
ロウガは右の刀をフルスイングして斬撃を飛ばす。それはもはやただの剣圧ではなく、指向性を持った嵐だ。
『来るぞ。逃げるなよ? 破ってみせろ』
「言われなくてもそのつもりよ!」
刹那も負けないくらい巨大な雷の斬撃を飛ばして迎え撃つ。今出せるありったけの魔力で伊弉諾の雷を使役した。
二つの斬撃はぶつかり、相殺した。
光が弾ける。同階の壁がすべて切断された。
「はぁ……やった」
『どうした? まだ二割にも達してないぞ?』
「……鬼か!?」
だがまだこれで終わりというわけではない。刹那はロウガの攻撃を一度防いだに過ぎないのだから。
それに伊弉諾の力も全然引き出せていない。
刹那は自分の持つ刀が今まで使っていたものとはまるで別物のように感じていた。
今まで自分が定めた容量一杯を使っていたのとは訳が違う。魔力を込めれば込めるほど力を開放する。
それは望めばいくらでも力を引き出せるということだが、同時に危険も付いてくる。
リミッターの基準が刹那ではなく伊弉諾に変わっているのだ。
無闇に使うと自分が喰われてしまう。
まるで落とし穴が隠れている道を全力疾走しているような感じだ。
『次が来るぞ!』
「わかってる!」
刹那は激突で霧散した周囲の雷を操作し、ロウガの背後から浴びせた。伊弉諾の雷の中に自分の雷を混ぜ込んでいたのだ。
「ハハハハハハ! いいぞ悪くない。だがそんな小細工きかんな!」
ロウガには刹那の雷がまるで効いていなかった。
「何なのよあいつ!? あの体毛が電気を弾いてるっていうの?」
伊弉諾の雷撃は弾ききれずにロウガの腕を消し炭にしたが、刹那の威力ではどうやらそうはいかないらしい。
「こうなったら雷神昇華で——」
『やめておけ。あんなもの、お前の体力を削るだけだ』
パワーとスピードでは圧倒的にこちらが不利。
その差を埋めるための雷神昇華でも、よくて五分五分。最悪一歩足りない。いたずらに消耗するだけだと伊弉諾は言っているのだ。
必要なのは勝つ方法。実力では確実に刹那が負けている。
ロウガは一度左手に持つ刀を地面に刺した。そしてすぐに抜いた。
「……?」
その行動に刹那は一瞬、妙な違和感を覚えた。
(何、今の……)
ロウガ自身、特に気にした様子はない。
(意味のない行動……この状況で?)
刹那はロウガの左腕に注目する。
「……義手」
今まで当然のように戦っていたが、ロウガは伊弉諾の雷撃で左腕を失っている。あの腕は後から付け足されたものだ。あまりに以前と変わらない動作だったから気にもしていなかった。よほど精巧に作られたものなのだろう。
だがよく見ると、さっきユウトの白刀が義手にダメージを与えたのに加え、ここまでの打ち合いで相当ガタがきはじめているようだ。レスポンスが悪くなっている。
今の所作はそのせいだろう。
なら——
「試す価値はあるかも……」
そこに活路があるかもしれない。
『策は決まったのか?』
「ええ。あんたにも手伝ってもらうわよ?」
『面白い』
伊弉諾は刹那の声に応えた。
「雷神昇華!」
雷光が刹那を包む。神経に余計な負荷をかけないように細心の注意を払いつつ偽の命令を作り上げ、脳のリミッターを一部解除する。
この状態は長くは持たない。正真正銘最後の一点突破だ。
地を蹴った。
刹那はロウガの視界右側を稲妻の如く駆ける。
「あぁ?」
今までとは違うパターン。それに増した速度。
それを意識したロウガは当然、反応する。
(来た!)
刹那はそこで靴底が擦り切れるほど思いっきりブレーキをかけた。
「ッ!?」
本来こういった自ら勢いを殺すような行為は自殺行為だが、刹那は気づいている。
ロウガの二つの刃。左側がやや遅れていることに。
「はあっ!」
刹那はもう片方の手に雷光の剣を作り出し、右の刀を力に頼らず綺麗に受け流す。幼い頃から積み重ねてきた修行の為せる達人の技だ。
そしてさらにありったけの魔力を注ぎ込み、極大の光を放つ伊弉諾を左の刀に思いっきりぶつけた。
「なっ!? グルル!」
ロウガの
だがそこで終わらない。
「ぶっ壊す!!」
ロウガの義手から刀が弾き飛ばされた。さらに折れた刃が宙を舞う。
刹那はロウガの刀をぶった切った。
これは武器破壊のテクニックでもなんでもない。ただただ単純な力技。
「何ッ!?」
同時にチャンスは訪れる。左側がガラ空きになった瞬間だ。
刹那はこの絶好のチャンスを見逃さない。
体を回転させ伊弉諾で義手の付け根から切断し、流れるような所作で雷刀を切断面に深々と突き刺した。
「グァァァァァァァァ!!」
ここに来て初めてロウガは苦痛に満ちた叫びをあげる。その表情には今まで見て取れた余裕がない。
刹那は柔らかい肉に刃を突き立てる確かな手応えを感じた。
外からダメでも中からなら――
「これで」
刹那の雷は十分に通用する。
「燃え尽きなさい!!」
魔獣の内側を破壊の光が駆け回った。
・5・
「はぁ……はぁ……」
周囲には肉が焼け焦げたような異臭が漂っている。
「やった……のか……?」
「ぐっ……!」
刹那はその場で膝をついた。ユウトはすぐに刹那に向かって走り出した。そのままバランスを崩して倒れそうになった刹那をユウトは抱きとめる。
「ど、んなもんよ……」
刹那は真っ黒に焦げ、動かなくなったロウガを見てそう言った。
「あぁ、かっこよかったぞ?」
「かっこ……ッ!? まぁ、いっか……」
何か納得がいかなかったが、今はそんなこと気にする余裕もない。
「が……ッ」
「「ッ!?」」
突然聞こえたその音に二人は同時に動いた。
「……嘘、でしょ」
内側まですべての肉体を燃やし尽くしたはずだ。なのにロウガはまだ生きている。
「……ククク」
魔獣の体が小刻みに震えていた。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……ッゲホ! ゲッホ!!」
突然笑い出した。だが肺をやられているのかすぐにロウガは咳込む。
『しぶとい奴だのぅ……』
伊弉諾はもはや呆れていた。
刹那は再び伊弉諾を構える。
「……まだやる気?」
言ってはみるものの、刹那はもう限界だ。
「……もちろんだ、グッ……どちらかが死ぬまで終わりはない!」
ユウトは反射的に刹那の前に出る。
(刹那はもう限界だ……ここは俺が――)
その時、骨の髄まで響く咆哮がすべてを震わせた。
「ぐっ……!?」
「な、に……?」
ただの雄たけびなのに、ユウトと刹那はその場で立っていられなくなった。
先ほどまで好戦的な笑みを浮かべていたロウガも表情を一変させ、矛を収める。
「……この気配は」
ロウガはすでに回復した足で床を蹴り、天井を突き破った。どうやら外に出ていったようだ。
「……何が起こってるの?」
外に何かがいる。とても不吉な何かが。
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