行間3-3
初めに一つ、考えるべき命題があった。
『
その力は明らかに他とは異質だった。
魔法は一人に一つ。それはその人間が持つ心の形そのものだからだ。
だがこれは時には弓となり、時には刀となる。扱う魔力によってその形を無限に変える。まるでこの世に同じ人間は一人としていないとでもいうように。
なるほど他人の魔法を模倣する魔法だと考えれば納得できるかもしれない。だが同時にその力はどこまで行っても借り物に過ぎない。そこに「自分」はなく、他者の魔力を纏い、他者であろうとする力。
それが望みなのか?
いや、違う。少年は誰かの真似をして、誰かになりたいわけではない。
少年はただ認めてもらいたいだけだ。
自分を。その存在を。ここにいてもいいのだと。
どこにでもいる村人Aではなく、吉野ユウトという個人として。
そのための免罪符が欲しかった。
だから執拗なまでに他者との繋がりを求めた。
他者の中に自分を見た。繋がりを保つために必死で縋り付いた。他者が求める自分を、その瞳に映る自分こそが本当の自分なのだと理解した。
誰でもいい。自分を必要としてくれるなら。この世界に繋ぎ止めてくれるのなら。
一番怖いのは誰からも求められないことだから。
それはもはや『渇望』と呼ぶに相応しい。
間違いなく存在する少年の一面だ。
そして誰かが望む自分を演じるそんな生き方が、誰もが求める
もし求めてくれるならきっと誰にでも手を差し伸べるし、命を張ることもできる。
誰もが心のどこかで欲する
「助けて」という
その存在がひどく羨ましいと思ったから。
そんな中、祝伊紗那と宗像冬馬。彼らは少年にとって少々異質な存在だった。
彼らは少年に何も求めなかった。
ただいてくれさえすればいいと。そう言った。
だからなのか。逆に、
——二人と一緒にいたいと思った。
ただ純粋に。
それはユウトにとって初めて生まれた欲だった。今までどうしても湧いてこなかった正しい感情だ。
初めて二人が求める自分ではなく、二人の横に立てる自分を求めた。
それはもはや『理想』と呼ぶに相応しい。
この関係を守りたいと。強く願った。だから余計に縋ってしまう。
一緒にいるためには。
笑顔を与えるためには。
もっと。
もっと。
欲が溢れ出す。まるで今までの損失分を補うかのように。
それがどんな
自らの理想の一部に組み込む。育成ゲームのやり込みのように、伸びしろがある限り細部まで敷き詰めていく。
いつかその場所へ至ることを夢見て。
吉野ユウトという人間には二つの心が介在している。
闇のように深い『渇望』と光り輝く『理想』。
その欲望はどちらも同じであり同じではない。
黒と白。
+と-。
男と女。
きっとそんな感じの何かが陰陽のように混ざり合い、奇跡ともいえるようなバランスを経て、理想写しは存在する。
まさに吉野ユウトが吉野ユウトだからこその理想写し。
世界にしがみつき、零れ落ちた理想の受け皿となる力。
理想は常に純粋で、崇高で、捨てられる。世界という器から零れ落ちる。それが実現不可能なものほど。そしてその全ては等しく美しい。
だから自分が受け継ごう。
例えその思いが写し取られた偽物であっても、きっと誰かが報われる。
それが理想写しの起源。
もう一度言おう。理想写しは吉野ユウトが持って初めて理想写しとなる。
ではここで問題。
もしも——
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