行間3-2
多臓器不全。
それは生命維持に必要な複数の臓器が連鎖的に機能障害に陥る病だ。
名前は聞いたことはある。でも自分には関係のない、遠い話だと思っていた。
私は十七歳の誕生日を迎える少し前に倒れた。
それは生まれつきそうなる運命だったのか、それとも何か未知の病で後天的に発症したのかはわからない。私の場合、呼吸器以外のほぼ全てが徐々に弱ってきていた。
いろんな機器を繋がれた体はさながら拘束具のようで、指一本動かすことができない。食事はおろか、眠ることでさえ目的に合わせた専用の機器を取り付けなければ次の日にはあの世行きだ。私はそうして生かされてきた。
毎日医者は私の体を見て、病状の進行具合に暗い顔をする。私は唯一動かせる目でその顔を拝む。
(あぁ……そろそろ死ぬかな……)
毎日そんなことばかり考えていた。
現代医学では最も大きな課題の一つではあるものの、まったく治らないわけではない。だが私の場合、入れ替えるべき
心臓一つでさえこの世にはドナーを待っている患者がたくさんいる。
当然私が優先されるはずはないし、合理的に考えれば、私より他の患者に回した方が助かる確率は段違いに上だ。
そもそも呼吸器以外の全ての臓器を、しかも自分に相性がいい物を揃えるなんてどだい無理な話だったのだ。
「残念だが、余命三日だ」
医者からそう宣告されても、特に悲しみはなかった。
(十七年も生きたから、まぁ、もういいかな……)
友達もたくさんできた。
喧嘩もたくさんした。
何かに必死で打ち込みもした。
恋もした。
もう、十分じゃないか。
私は私の命を諦めた。
そんな時、誰が持ってきたのか知らないが、替えの臓器を全て提供してくれる人が現れたという話を聞いた。
その全てが私の体に合うことが確認されると、私の目の奥で熱いものが生まれた。
だけどその医者の顔には影がさす。そしてこう言われた。
「これは普通の臓器ではない。助かる保証もない。例え助かったとしても今後の研究のために君は一生元の生活には戻れない。それでもいいかい?」
(そんなことどうでもいい!!)
私の瞳にはギラギラとした光があった。
ひとたび希望が眼前に現れると、私の死に対する決意は積み木のように簡単に崩れ去った。
もしもう一度、美味しい食事にありつけるなら。
もしもう一度、自由気ままに昼寝ができるなら。
もしもう一度、外の世界を歩けるのなら。
他の些末なことは、どうだっていいじゃないか。
私はなかなか出ない声を懸命に振り絞って答えた。
「……いい。それで、助かる……なら……何でもす、る。何で、も捧げる――私は」
私は、生きたかった。
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