Epilogue 2

「ユウ、大丈夫?」

「よお、坊主。元気そうじゃないか」

 今日は伊紗那と冬馬がお見舞いに来た。

 包帯グルグル巻きのミイラ状態のどこを見てそんなことが言えるのか疑問だったが、不思議と体の調子はいい。

 この二人にはユウトが車に跳ねられて入院したと伝えられている。どうやら青子先生が裏でいろいろやりくりしてくれたようだ。

(あの人なら本当に犯人まで仕立て上げそうだな……)

 そんな恐ろしい可能性が頭をよぎりながらも、ユウトは二人を迎えた。


 たった二、三日顔を合わせていなかっただけなのに、ひどく懐かしく感じる。


 帰って来たんだな。この場所に。


 そんな思いで胸がいっぱいになった。


「待ってね。持ってきたリンゴ今剥くから。あ、手、使える?」

「伊紗那。そこは黙ってりゃあ、あ~んができるんだぞ?」

「あ……あーんって……私は……そんなこと……」

 伊紗那は顔を赤くして小さくなっていく。

 ん? あれ? でも手元のリンゴが高速で剥かれていっているぞ。


 コンコン。

「……失礼します」

 スライド式のドアが開き、鳶谷御影がユウトの病室に入って来た。

「御影。もう大丈夫なのか?」

「……Yes。私はあなたと違って掠り傷程度ですので」

 御影の頬には小さな絆創膏が張られていた。

「こんにちは。鳶谷さん」

「……どうも」

 そういえば伊紗那と御影。この二人は顔見知りだったな。

 顔見知りといえば。

「そういえば、逆神とも知り合いだったんだな」

 御影は少しだけ嫌そうな顔をして答えた。

「……Yes。彼女とは少し縁がありまして。ちょっと勝負を……」

 嫌そうだが、その表情はどこか笑っているようにも見える。

「勝負?」

「……Yes。引き分けでした」

 ホントのところ、たぶん御影のボロ負けなのだが、そこは彼女のプライドが事実を書き換えてしまった。

「へぇ。どんな勝負だったんだ?」

「……そうですね。いいでしょう。頑張ったユウトさんには教えて差し上げましょう。こんな感じです」

「……ん?」


 その時、時が止まったような気がした。


「……え」

「……わお」


 気付いたら。


「――ん!?」


 御影の顔がアップで見えた。普段隠されている片目が見えるほど間近に。


「ん~~ん!! ンッ!!!!!」


 彼女の唇がユウトの唇を塞いでいる。

 そればかりか首に腕をしっかりと回してホールド。ただ唇を合わせるだけでは終わらない。顔の角度を変えてより奥まで侵入してくる。

 挙句、これでもかと舌まで絡めてくる濃厚っぷりだ。

 眼前には彼女の閉じた瞳。御影の熱い吐息が聞こえる。


 一方的に貪るような獣じみたキス。


 ドキドキが止まらない。


「……ぷはっ」


「大胆だねぇ」

「あわわ……あわわ……」

 冬馬は面白そうに笑い、伊紗那は冬馬の横で顔を真っ赤にしてあたふたしていた。

 ユウトはというと、まるで魂が抜けた様に放心状態だ。まだ何が起きたか頭が追いついていなかった。


 御影はそんな彼らを見ると、フッと笑い、


「……もう一回くらいやっておきましょうか」

 再びユウトの頭をホールドする。


「ダメェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!」


 病院内ではお静かに。


第二章 探シ人は愛を謳う -Deadman's Love Song- 完

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