想いと願い
何度目の訪問になるのか。
ドーラとパナの家からは、いつも薬草を蒸す煙が立ち昇っていた。
それが、消えている。
日が落ちすっかり暗くなった外に、二人はいた。
ドーラは手提げ式ランプを持ち、パナは切り株に座り苛々と貧乏揺すりをしていた。
シーパルの姿を認め、立ち上がる。
「遅い!」
「す……すみません……」
息を切らしながら、シーパルは謝罪した。
二時間は遅刻してしまった。
「待っていて……くれたのですね。ありがとう……ございます」
呼吸を整えながら言うと、パナは舌打ちした。
「……ドーラが、必ず来るって言ったからだ」
「先に待とうと言い出したのは、パナだったがな」
ドーラは、穏やかな顔をしていた。
「べつに、俺たちの出発が二時間遅れても、用意された食事が冷めるだけですむ問題だ」
「あーもうっ! 時間を無駄にしたのはたしかなんだ」
パナは、坊主頭を乱暴に掻いた。
「話してやるよ。あたしが知ってる、あんたが知りたいことを」
「はい」
「半年以上前だったけど、あたしたちに会いにきた人がいる。多分、ヨゥロ族を壊滅させたのは、あの人だ」
パナの言葉に、シーパルは引き込まれるのを感じていた。
「あの人、とは……?」
「それが、よく覚えていない。名乗られたはずだけど、名前は忘れた。顔も、思い出せない。話した内容も、ほとんど。不思議なことだけどね」
随分とあやふやである。
ドーラを見ると、彼も首を振った。
(……魔法で、記憶を消した?)
理論的には、可能だった。
実践するには、かなりの準備と技量が必要となるだろうが。
「あの人は、あたしがヨゥロ族にどんなことをされてきたのか、聞きたがった。だから、思い出せるだけ全部、話してやったのさ。あたしが、ヨゥロ族にどう扱われてきたか」
「そうですか……」
「あのことを話すと、たいていの奴が同情するような顔をする。今のあんたみたいにね」
パナは、ヨゥロ族から虐待を受けていた。
ヨゥロ族であるシーパルには、同情する資格すらない。
こうして姿を見せるだけで、パナには苦痛だろう。
「でもあの人は、あたしの話を聞いている間、薄ら笑いを浮かべていた」
「……薄ら笑い?」
「なんでか、腹は立たなかったね。で、言ってきたんだ。ヨゥロ族を追放され、外見が違うから、この村にも居づらいんじゃないか? 居場所がないなら、自分がいる組織に来るといいって」
「……その組織は、『コミュニティ』という名ではありませんでしたか?」
「ああ。たしか、そんなんだったね。あたしは、まあ、申し出は断ったさ。居場所は、できてたからね」
隣に立つドーラの腹を叩く。
「村の人たちも、受け入れてくれた。そりゃさ、この顔の傷のせいで、子供からお化けだって言われたりすることもあるけどさ」
パナが、自嘲ぎみに笑う。
「そんな……」
「でもさ、たいていすぐに親がきて、叱り付けて、何度も謝るんだ。……なんだかんだ言って、いい村だよ、ここは」
パナの心を癒しているのは、ドーラであり、ヤンリの村人たちなのだろう。
それを、ヨゥロ族のシーパルは恥ずかしく思った。
「ああ、話が逸れたね。あの人だけど、去り際に言ったんだ。君たちが嫌うヨゥロ族を、滅ぼしてあげるって」
「……」
「なんとなく、あたしは確信したね。ヨゥロ族は、ほんとに滅びる。ヨゥロ族の誰も、勝てやしないってね。理由はないんだけどさ」
「……このことを、パウロには?」
「ああ。またしばらくして、今度はパウロが来たね。その時に話したよ、全部。……殺されたんだってね?」
「はい……」
シーパルの従兄弟であるパウロは、ヨゥロ族を襲撃した犯人が『コミュニティ』にいると知り、組織に潜入して、たがソフィアという女に殺害された。
「パウロが言ったことだけど」
「なんでしょう?」
「ヨゥロ族の力の真髄は、時間と空間、封印と解放にある。必ずしも、魔力を要するわけではない。追放は間違っている。そんな感じだったかな? 意味はさっぱりだけど」
「……時間と空間……封印と解放……?」
なんだろう。
なにかが引っ掛かる。
少なくとも、パウロが意味のない戯れ事を言い残すとは思えない。
「まあ、あたしが知ってるのはこんなもんさ。わざわざ聞きにくるだけの価値があるのかどうか……」
「僕にはありましたよ」
「そうかい。んじゃ、おまけだ。あの人のこと、ちゃんと覚えていない。だけど、正体はさ……」
「はい。なんとなくですが、見当はついています」
パナの虐待された話を聞き、薄ら笑いを浮かべた。
それは、仲間を見つけたからではないのか。
だから、パナは腹が立たなかった。
パナに居場所を提供しようとする者。
そして、ヨゥロ族に強い恨みを持ち、滅ぼしたいと願う者。
「あの人はきっと、あたしと同じ。ヨゥロ族を追放された者だ」
◇◆◇◆◇◆◇◆
デリフィスはどこにいるのか。
名前を呼びながら、暗くなった集落の中を歩き回ってみるが、見つからない。
また行方不明者が出たのかと、通りすがりの住民が心配顔をするが、ティアは適当に笑ってごまかした。
(……シーナのこと、捜しているなら)
山並みを眺める。
延々と続く森林。
どこかにデリフィスがいるとして、どうやって見つけろと。
『……デリ……フィス、は……』
「ひっ!?」
いきなり耳元で声がして、ティアは身をすくませた。
「……エス?」
『……そう……だ。……デリフィスは……そこから……西の……森……の中にいる……』
エスの声。
だが、途切れ途切れで、おまけに砂嵐のような雑音が混ざり、非常に聞き取りにくい。
『……そのまま……呼び掛けながら……捜し……たま……え。彼から、反応が……ある……』
(……それはわかったけど。なにか、ありました?)
心の中で尋ねる。
ルーアが言うには、それでエスには伝わるらしい。
『……非常……まずいこと……った。……事態は……最悪……』
ぶつんと、太い縄を引きちぎるような音がした。
それきり、エスの声が聞こえなくなる。
「!? ねえ、どうしたの!?」
耳元に手をやり、問い掛ける。
近くにいた住民が、じろじろと不審そうに眺めているのを感じて、ティアは今度は口を押さえた。
(なんなのよ……? 不安を煽るような真似、しないでよね……)
エスに、なにがあったのか。
いや、あの男なら、きっと大丈夫。
訳のわからない能力を、いくつも持っているではないか。
不安を紛らわすため、自分に言い聞かせる。
エスの心配をするよりも、デリフィスを捜すことを優先するべきだろう。
もう何日も過ごした集落だ。
方角くらいわかる。
エスの指示通り、西の森に入っていった。
「……怖っ」
太陽が沈むと、森の中は真っ暗闇に近い。
足下の木の根すらよく見えない状態だった。
明かりの一つくらいは、準備するべきか。
(……こんなとこでなにやってんのよ、あの男は!)
視界の先に、光が点る。
それほど遠くはない。
炎のようだ。
多分、焚き火かなにか。
暗いのにも眼が慣れてきた。
呼び掛けろとエスは言ったが、それはせずに揺れる炎に近付いていく。
デリフィスがいた。
焚き火の前で剣を抜き、こちらに背中を向けて座っていた。
長大な剣に、自分の姿を映しているようにも見える。
「どうした、ティア?」
振り向きもせずに、聞いてくる。
デリフィスくらいになると、足音や息遣いだけで人の区別がつくのかもしれない。
「どうした、じゃないわよ。なにしてんのよ、こんなとこで?」
「べつに……独りで考えたいことがあっただけだ」
「考え事? なに?」
「……わざわざ言うほどのことでもない」
「じゃあ、隠すほどのことでもないんじゃない?」
「……」
デリフィスは、無言になって立ち上がり、剣を収めた。
「……シーパルといい、どうしてこう、みんな隠し事ばっかするかな」
「……しばらく前に、エスと話した」
「エスと?」
珍しい組み合わせだった。
二人で話している姿が想像できない。
「知識のある人間とは、難儀なものだ。余計なことばかり考える」
「エスといえばさ……」
話の腰を折ることになるが、どうしても言いたいことがあった。
「ついさっき、声だけ聞こえてたんだけど、それがいきなり途絶えたのよね。最悪な事態がなんとか言って。……これって、もしかして、エスがピンチだったりするのかな?」
「……エスが?」
デリフィスは、鼻で嗤った。
「斬られても平気な男に、どんな危機がある?」
「……だよねえ」
「そんなことよりも、なにか俺に用があるんじゃないか?」
「あっ! そう! そうよ!」
大切なことを思い出し、ティアは手を合わせた。
「あたしたち、襲撃を受けたのよ!」
「襲撃?」
「狙いは、リィルみたい。デリフィスも、戻って。シーパルもいなくなったし」
「わかった。細かいことは、戻りながら聞こう」
頷くと、デリフィスはおこしたばかりの焚き火を踏み消した。
明るさに眼が慣れてしまっていたので、真っ暗闇な穴蔵に放り込まれたようになにも見えなくなる。
夜目でも利くのか、デリフィスが歩き出す音がした。
「ちょっ……!」
ほとんど勘で、その背中を掴む。
「置いてくなぁ!」
情けない声が出てしまう。
デリフィスが振り返る気配がした。
いかにも迷惑そうに、彼は溜息をついた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
魔法の明かりで足下を照らし、ルーアは集落を巡回した。
襲撃を受けてから、すでに四、五時間は経過しているはずだ。
集落は闇に包まれ、いつ次の襲撃があってもおかしくない。
意識を張り巡らしていても、色々なことが頭に浮かんだ。
シーパルは、目的を果たせたのか。
ティアは、ちゃんとデリフィスを連れて帰れたのか。
リィルを、守りきれるのか。
(……ん?)
ふと、視界の隅にある人影に気付き、ルーアは足を止めた。
ほっそりとした女のシルエットに、心臓が跳ね上がるのを感じる。
明かりを先行させて、ルーアは女の元へと向かった。
「やあ」
「……なにが、『やあ』だ」
気楽に手を上げたその姿に、ルーアは呻いた。
シーナである。
一瞬、幻影の魔法ではないかと疑ったが、そういう類いのものではない。
間違いなく、シーナ本人。
「あまり大きな声、出さないでね。みんなに気付かれるから」
「気付かれてなにが悪い? ここは、あんたの集落だ」
色々と感情を押さえ、ルーアは言った。
「戻るぞ、リィルのとこに」
「……ごめん。それ、無理」
「なにが無理だってんだ!?」
ルーアは、一歩踏み出した。
シーナの事情など、知ったことではない。
手が届く所にいるのだ。
意地でも連れ戻す。
「……ちゃんと考えてくれた?」
シーナからの質問。
まるで、ルーアの動きを制するような。
「……なにをだ?」
「リィルを、ルーア君たちの旅に連れていって、て話」
「そりゃ無理だって言ったろーが」
「じゃあ、別のお願い。あたしが、なにをやってるか、知ってるよね? ……お願い。あたしを、殺して」
シーナの瞳が、魔法の明かりに照らされ、揺れる。
「……いい加減にしろ。まじでキレんぞ。どうせ、リィルを殺すとか脅されて、言うこと聞いてるんだろ」
「うん。正解。あたしのせいでリィルが危険な目に……。あたしはね、もう死にたいのよ」
「だからなっ……!」
「じゃあ、リィルをどこか遠くに連れてって。あいつらの手の届かない所に。そしたら、あたしは自分で……」
「だから! いい加減にしろ!」
それ以上言わすわけにはいかなかった。
シーナへと詰め寄る。
やっとわかった。
なんでいつも、リィルはシーナの側に居たがったのか、やっとわかった。
「あんたの想いはわかった! 願いはわかった! そんなもんな、全部却下だ! いいか? リィルは、絶対に守ってやる。ズィニアもゴーンも、俺たちが倒す。そんで、あんたを助け出す」
根拠はないが、ルーアは言い切った。
根拠など、必要ない。
「あんたの能力も、なんとかしてやる。こっちには、ユファレートって魔法オタクがいるんだ。あいつが無理だとしても、ユファレートの爺さんは、世界最高の魔法使いドラウ・パーター。俺の師匠は、世界の英雄様ストラーム・レイルだ。必ず、力を押さえる方法を見つけてくれる」
「ルーア君……」
シーナが、胸板に掌で触れてくる。
笑顔を見せた。
壊れそうな、笑顔。
「……うん。さすが、リィルが惚れた男だ。危うく、お姉ちゃんも惚れちゃいそうだよ。もうね、その言葉だけで充分。胸一杯でお腹一杯だよ」
「……!」
それに気付いて、ルーアは息を呑んだ。
触れられているシーナの右腕。
指先から肘まで、赤黒くなっている。
火傷というよりは、肌が崩れているようだった。
「……力がね、どんどん大きくなっているの。あたしには、リィルみたいな完全な抵抗はないって。だから、押さえが効かなくなってきてるの。もう、あまり時間ないみたい」
シーナが、手を離した。
「こういう力ってね、操るには意志の強さがものを言うんだって。眼の前で、リィルに剣を突き付ければ、もっと上手く制御できるんじゃないかって、ズィニアが。そんな理由で……」
「……ふざけやがって……!」
「お願い。あたしを、殺して。これ以上、村の人たちを傷つけたくないの」
遠くから、名前を呼ばれた。
ユファレートの声。
家から、それほど離れている場所ではない。
窓から見えていたのだろう。
テラントが先頭。
ユファレートが、リィルの手を引いて続いている。
さらに別の方向からも、人影が二つ向かってきていた。
ティアとデリフィスのように見える。
「……シーナぁ……時間切れだよ……」
「!」
(この声……!)
シーナの姿が消える。
「……て言うかさぁ……ちゃんと伝えるつもり……なかったでしょ……?」
左手の方に、ゴーンがいた。
側に転移させられたシーナは俯いていた。
「……おい……」
眼の端が吊り上がるのを、ルーアは感じていた。
シーナの姿が、再度消える。
視界の外に転移されたようだ。
強制転移ではない。
「……シーナを……返せよ」
テラントが、そしてユファレートとリィルが到着する。
ゴーンが、笑みを作った。
「……返せってのは……どうだろう。……君、も……魔法使うならさ……わかるでしょ……?」
強制転移ではなかった。
シーナは自分の意思で、転移されることを受け入れた。
「シーナは、さ……君たちなんか、じゃ……俺たちに勝てない。……そう、思ってるんだよ……」
「御託はいい! 返しやがれぇっ!」
激昂と共に吐き出した光線が、空気を灼いてゴーンへと突き進む。
だが、残像を貫いただけだった。
「……短気なぁ……奴……」
背後に転移した、ゴーンの姿。
その前に、兵士が四人転移させられる。
体中に、火傷のような跡がある兵士。
「ルーア……あの人たちってさ……」
ユファレートが聞いてきた。
「もう、助からないんだよね……?」
「……ああ」
「……わかった」
ユファレートは、杖を握り締めた。
テラントが、魔法道具から光を伸ばす。
「剣じゃ、さすがに追い切らん。ゴーンは任せる」
言いながらも、一人を斬る。
ユファレートが放った光球も、兵士を弾き飛ばした。
ルーアは、最初から兵士を相手にするつもりはなかった。
「ル・ク・ウィスプ!」
威力はいつもの半分以下。
狙いも雑。
とにかく発動速度重視の無数の光の弾丸を、ゴーンに放つ。
だがそれも、あっさりと転移で回避された。
「野郎っ……!」
デリフィスとティアも到着した。
デリフィスが、早速一人斬り倒す。
ティアが、ユファレートを狙った鎌を小剣で弾き返した。
そしてテラントが、体勢を崩した兵士に止めを刺す。
これで、あとはゴーンのみ。
「ティア!」
リィルをティアに預けて、ユファレートは杖を振り上げた。
「ル・ク・ウィスプ!」
先程のルーアと同様に、発動速度重視で魔法をゴーンに放つ。
「無駄だよ……」
やはり、転移して逃げるゴーン。
「ル・ク・ウィスプ!」
転移先を読み、ルーアは掌を向けた。
それも、避けられる。
だが、この調子でいい。
瞬間移動は術者に掛かる負担が大きい。
いつまでも使い続けられるわけがなく、ユファレートと二人掛かりならば、いずれ命中する。
一撃で決まらなくてもいい。
かすり傷でも与えれば、それだけでも魔法の精度は下がる。
リィルの周囲は、ティアとテラントとデリフィスが固めている。
そして。
「ル・ク・ウィスプ!」
途中で、数えるのはやめた。
おそらく、七回目か八回目。
ルーアが放った光の弾丸が、虚しく宙を焦がす。
ゴーンは、瞬間移動で回避していた。
(……冗談じゃねえぞ……!)
内心で、ルーアは叫び声を上げていた。
ユファレートと協力しても、捉えることができない。
(ンな馬鹿なっ……!)
ユファレートの追撃がない。
すぐ背後、ルーアとユファレートの間にゴーンは転移していた。
「このっ……!」
振り向きざま、剣を抜く。
それも、残像を斬り裂くのみ。
「……惜しい……ねぇ……」
転移先。
ゴーンは余裕の表情で笑っている。
「……君たち程度じゃさあぁ……一生、当てられないよー……」
ユファレートが、杖を構える。
それに、ゴーンは掌を向けた。
「……だからさ……無駄……だって……。伝言くらいさぁ……言わせてよ……」
「……伝言?」
聞き返しながら、ルーアは魔力を引き出していた。
速度で捉えられないならば、範囲で攻める。
全方位に全力で、ゴーンの転移先まで灼き尽くしてやる。
「……今度はさぁ……ジュノの集落……シーナに、襲わせるから。……来るよねえ? ……百パーセント罠だとわかっていても……来るよねえ? シーナ、助けたいよねえ……? ……でもさあ……助けても……無駄じゃない?」
「……あん?」
「……だってさあ……彼女……もう何人殺したと思ってんのさ……。……助けられたとしても……救われないよ……」
「黙れっ!」
「ラウラ・バリア!」
ルーアの意図を察したユファレートが、自身とティアたちを包むように、白いオーロラのような魔法防御膜を発生させる。
「……ちょっとだけ……本気なる……」
ゴーンが囁いた。
瞬間移動を発動させるが、もう遅い。
ルーアは腕を振り上げた。
だが、魔法を発動させるまでの一瞬の間に、魔力の波動が次々と肌に伝わってきた。
「……嘘……だろ……?」
ルーアは、呆然と呻いた。
ゴーンの居場所は、魔力の波動を読めばわかる。
魔法が届かない遥か彼方に、あの『悪魔憑き』は移動していた。
夜では、肉眼で確認できないほどの距離。
ほんの一瞬の間に、実に五回、瞬間移動を発動させていた。
「そんな……」
ユファレートも、力無く呟く。
形としては、撃退した。
だが、ゴーンが見せた圧倒的なまでの撤退。
助けたとしても、救われない。
ゴーンの言葉が、耳に残っている。
それに、ルーアは唇を噛み締めた。
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