magic system
【12】
ぼうっと見蕩れていると後ろからゴホンと咳払いが聞こえ、意識がこちらに戻る。
その咳払いはどうやら魔女のモノだったようだ。
「ずいぶんご執心のようだな、なんだ欲しいのか?」
「いえ、別にそんなことは。それよりも早く本題に入りましょう。時間は有限なんですから」
「おっとそうだな、それじゃ近くの喫茶店にでも入って茶のみがてら話しますかね。爺さんもそれでいいよな?」
「構わん、というか歩きっぱなしというのもなんじゃしの」
満場一致、ということで喫茶店で腰を落ち着けて情報を整理することに、多少名残惜しい気持ちもあるけど自分で急かした手前ここに残るわけにはいかない。
ゆっくりとその場を離れ近くの喫茶店で腰を落ち着ける。
太陽も真上に昇りきるので軽い食事も一緒に取ることにして、注文を済ませ早速本題に入った。
「それで、そろそろ探し人の情報とやらも教えてほしいんですが」
「ふむ、情報か…わかっていることを提示するならこれくらいくらいかな」
彼女は懐からペンとメモ帳を取り出し、さらさらと何かを書き殴っていく。
書き終わった後、それをテーブルの上に見えるように置いた。
内容自体を羅列していくと、
・年齢:性別…10代後半~20代後半:男性
・容姿…不明、整形している可能性あり。
・備考…過去に大きなやけどを負っているため、その痕、若しくは後遺症が残っている可能性大
「…これだけ?」
「ああ、これだけ。笑っちゃうだろ?」
そう言って、コロコロと笑う彼女を尻目に、私は盛大にうなだれることとなった。
これだけでいったいどうやって探せというのだ、たとえ物語に出てくる探偵であろうと不可能に近いんじゃないか?
いや、そもそも…
「これって、最初はどの町に居るのかも分からなかったんですよね、ならどうやってここまで突き止めたんですか?」
そう、ここに着いたときに、彼女は「この町にいたことに気付かなかった」様子でぼやいていたのだ。
つまり、第三者が場所をリークしたということになる。其の第三者というのはおそらく翁の事だろう。
説明を要求するため目力を強くして二人をにらむと、少女がおどけた様子で答えた。
「どうやってって、そこの爺さんが占ってくれたのさ」
「そんな馬鹿な、占いにだってそれなりの情報がいるんです。これだけでは何もわかりませんよ」
「アー、もしかして爺さん、何も教えてないの?」
「教える必要がなかったからの。」
困惑する私を差し置いて、二人で話をして少女はどこか納得のいかない顔をしていた。
それから一度咳払いをして、彼女は話を続ける。
「小屋でちょろっと話しただろ?魔法使いにも向き不向きがあるってな」
「はい、よく覚えてます。」
「それでな、一応私も占いはできるんだが、いかんせん精度が悪い。そも物理的なものが専門な私には、土台無理な話だったわけだ。それで古縁を頼りにそこの翁を尋ねたわけだが-」
「師父はそういった術が得意な方なんですか?」
「得意も何も、わしよりうまいやつはおらんわい。」
「ご冗談を、誰よりも物理的な方法が似合いそうな性格をしているくせに。」
翁の世迷言を軽く一笑に伏す。すると隣で
クックと笑い声を堪え、少女が語りだした。
「爺さんの言っていることは本当だ。こと占いに関しては右に出る者はいないだろうさ。」
「…え゛」
絶句する私に隣で胸を張る翁、そしてそれを見て耐えきれず笑い声を上げる少女。
この卓を他人が見たら、一体何事かと首を傾げるに違いない。
実際周りの何人かは、チラチラと様子を見守っていた。
流石にこれ以上目立つのはどうかと思い、何とか平静を取り戻そうとした。
「笑いすぎじゃないかのう…」
「いやだって、普段どういう風に見られてるかと思うと、なぁ?ククク。」
「そろそろ落ち着いてください。変な目で見られてますから…」
その後、彼女が落ち着くまでの数分を費やしたことは、あえて省略させてもらうことにして…
くたびれた顔で、未だに涙交じりの目をこする少女を見やりながら、翁は口を開いた。
「まぁ、なんじゃ。人は見かけで判断できぬほど複雑なのじゃよ。それに得意な術は人それぞれ違うから十人十色とはよくいったものよ。」
「その言い方だと、物理か霊的かの、更に先にも分類があるわけですか。」
「そうさな、物理的なものだと、薬草や自然の素材を生かす『魔女術』またの名を『精霊魔術』ってのもある」
「いわゆる一般的な魔法使い・魔女のイメージですよね。…というか薬師とかもろにそっち系なんですが…」
今度は私が翁をジト目で見つめる、対して翁は涼しげだ。
「薬売りは趣味と実益を兼ねておるだけで、魔法の関与はないぞい。」
「でしょうね、わざわざ秘奥をばらまく必要性も感じませんし。」
それに、気づかれるかどうかは別として証拠を外部に残すというのはさすがにリスキーすぎる。
「ちなみに私の専門分野は錬金術だな。あとちっとばかし死霊術もかじってる。」
さらっと専門分野をさらけ出す少女、正直に言うと意外だった。彼女が死霊術といった後ろめたい術に興味を持つとは思えないからだ。
「まぁ、後者は機会があったからだな。それと後ろめたいとは何だ後ろめたいとは」
「また自然に心読まれた…なんです?読心術は基本なんですか?」
ついそんなことを口からこぼすと、ある意味予想していた返答が二人の口から出た。
「「もちろん」」
「ハモらないでください…」
「そんなこと言うが、魔術師・魔法使いの必須スキルだからな、操心系の類は。まぁ、わたしは最近習得したんだが」
やや言いづらそうに少女は頬を掻き、そこに翁が付け足して説明を加える。
「人の機微を察知し、己の胸中を探らせないことで、情報の漏えいを防ぐんじゃよ」
なるほど、確かにそう考えてみれば一理どころか習得しない道理はない。
といっても翁から教えてもらえるかは微妙なので、やはり自力で何とかするしかないか。
「ちなみに魔法や魔術は大きく分けると六つ、…いや七つだったかな?まぁそれくらいに分けられるそうだ」
「どこか曖昧ですね…」
「仕方ないじゃろう?正直自分の得意系統さえ極めれば、あらかたのことは起こせるからの。わざわざ面倒臭いことはしたくないのよ」
何とも怠惰な話である。
すると今度はその話に付け足すかのように魔女が口を開く。
「まぁ、複合式つって他系統の魔術を組み合わせる術式もあるが、かなり複雑でしかも適性の問題もあるからなぁ」
「適正なんてものがあるのですか?」
「そんなに大したものじゃないがな、少なくとも遺伝性は少ないから安心しな。」
それをきいて安堵の息を深くはいた。
もし私に発言しない理由が先天的に魔法に向かない体質だったとしたら、やはり自分に失望してしまっただろう。
「…うん?そうなると翁は占い専門の魔法使いなわけですか。」
ふと思いついた言葉を声に出すと、翁はそっぽを向いてしまう。どうやら自分のことは追及されたくないみたいだ。
しかし、そんな反応をされると今度は逆に気になってくるというのが人の性。体を乗り出し翁に詰め寄る。どんなにせめても陥落しない要塞の様でなかなか口を割らない。
と、そこで少女が口を開く。
「占いは確か付属…だったっけか爺さん?」
「ほう…」
占いはあくまで副次的なものらしい、それだけではまだ大きな手掛かりとは言えないが、ないよりはましだ。
いったいどんな魔法なのだろうか、錬金術師の少女は肝心の内容をど忘れしてしまったため、使い物にならない。
なので翁に問い詰めるしかないのだが…強情な彼のことだ、口を割ることはしないだろう。
ただ、普段は閉じている彼の瞳が「自分で見つけてみろ」と言わんばかりに見開き私を射抜いていた。
【12】
「さて、そんなことより本題に入ろうぜ。」
両手を思いっきり胸の前で叩きつけ、錬金術師の少女は私と翁の注意を引きつけながらそういった。
「まぁ、そうですね。絶対に話さないでしょうし」
「ほ、それでこれからどうするんじゃ?」
私がいったん興味を離したと思うと、翁は心底助かったといった風に一息ついてこれからの指針を彼女に問うた。
すると彼女は人差し指を額に当て、うんうんと唸りだす。
「まさか、何も考えてなかったんですか?」
「まぁまて、爺さんの占いでもこれ以上は無理なんだよな?」
「さすがに情報が不足しておるからな、大体の位置ぐらいしかわからんよ。」
大体の位置がわかるだけでも規格外だろう、とは思うのだがあえて口にはしない。
そしてそれを聞いた彼女はいっそう大きい唸り声を挙げ始めた。
「捜索二日目、実質初日にして座礁に乗り上げる、ですか先行き不安ですね。」
「待て。そんなかわいそうな奴を見る目で見るな。…何だったかな。」
何とか考えをひねり出そうとする少女を冷ややかな目で見つめること数分、事態は第三者の介入によって進むことになる。
「号外―号外だよー!」
そんな大声と共に、何枚ものビラが宙を舞う。
そのうちの一枚を手に取り、覗き込むとそこには。
-『町に忍び寄る殺人鬼の手、夜の戸締りにご用心』-
「これ、昨日の事件について語っているんですよね。この様子だと犯人はまだ見つかってないようですけど。」
先程の魔術講義にすっかり気を引かれて完全に頭から抜け落ちていた。そう、これの詳細を聴こうと昨夜夜に忍んで盗み聞きしたのだけど…途中で寝てしまったんだっけか?
まぁ記憶はおぼろげなのは眠気に勝てなかったからだろうし、こうやって情報も手に入れられたから良しとしよう。それが微々たるものでも。
そこには、これまでに行方不明になり、昨夜から今朝がたにかけてその遺体が発見人々の情報と、事件の背景についての簡易的な考察が述べられていた。
被害者は確認が取れただけで4人そのうちどれもが女性を狙った犯行だという。記事には快楽殺人の線が極めて高いなどと面白おかしく書かれている。
その内容に些か違和感を覚え、その正体を探ろうと紙面をもう一度読み直そうとする、その時だった。
「あー!」
唐突に少女が叫び声をあげる、いきなりのことに思わずびくっと体を震わせた。
「な、なんじゃいきなり。大衆の場で素っ頓狂な声をあげるでない。」
「スマン。じゃなくて!思い出したんだ、此の後何をやろうとしてたのかを。」
「嗚呼それはよかったです、本当にノープランで外に出たのかと戦々恐々してましたから。」
「お前、見た目に寄らず辛辣なのな。まぁいい、ほら行くぞ。」
私の言葉に苦笑いをこぼした後そう言って立ち上がり、食事の清算を始めた。
「いくってどこに?」
そう少女に問いかけると
「警察署だ、人探しにはもってこいだろ?」
と自信満々に答えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます