第6話 規則五条 てんちゃんです
一日の俺の仕事は割りと少ない、掃除と受付ぐらいなもんだ。
俺が高校生って事も配慮してくれてるのだろう。住み込みのバイトだし。
今朝ほど、紹介してもらった山さんから電話で聞いた所、あの三万には万が一の口止め料が入ってたとの事、どうりで美味しい仕事だよ。
「さてと、買い物にいくか」
食材も宅配サービスを利用するので買いに行くこともないのだが、個人で急に食べたい物は流石に買わないといけないらしい。
GパンにTシャツという軽い格好に財布を持つ、序に、暇なのか食堂で酒を飲んでるマルタにも声をかける。
そもそも仕事はないのか、昼間から酒とか自由な生活を満喫している。
自由といえば俺も夏休み中なので人の事は言えないが。
「マルタ~俺プリンとアイス買いに行くけど何か買うものある~?」
「ビール」
「高校生で買える物でお願いします」
「タバコ」
「それも買えないっちゅーねん」
「んじゃ、コンドーム」
「ばっ! あ、あのね」
「冗談や、まぁしかし。近々アヤメと使うだろうし買っといて損はないんじゃないー、ウチはええから、アヤメにも聞いてきなー。二階の部屋にいるはずや」
「ご、ゴムをっ!? 聞けないっ」
「あふぉか。コンビニで買う食べ物の事や……」
平常心を保つ為に深呼吸をして二階に上がり部屋をノックする。
「雪乃さーん。コンビニ行くけど買ってくる物あるー?」
「はーい。今開けます~」
声とともに扉が開く。
「お、涼しい。クーラー?」
部屋からは気持ちい温度が流れてる。もしかしてクーラー付き。
俺の心を覗いたのがすまなそうな顔をする。
「すみません。暑いのは人並みに平気なのですが、やっぱ涼しいほうが元気がでるので」
「ああ、別に謝らなくても大丈夫だって。コンビニ行くけどほしいのある?」
「そうですね。それではバニラアイスをお願いします。100円ぐらいの奴で良いので」
意外と庶民的だ、てっきり300円以上の奴かと思ったのに。
俺の手に200円を渡してくる、不意に手と手が触れる。
冷たい手が気持ちいい。思わず握り締めた。
拒まないアヤメさんと思わず眼があった。
「あ、あの」
「あ。ごめん。それじゃ行って来る」
急いで手を放し階段を駆け下りる、背後から優しい声が聞こえてきた。
「あ、はい。いってらっしゃい」
手と手をって中学生かよ! と自分に突っ込みを入れつつ。外にある剛天号またの名は自転車にまたがる。
人里を少し離れた夜桜荘からコンビニまでは自転車で15分。木々のおかげで木陰になってる道を抜けて日差しが強いアスファルトに出る。
直ぐにバス停とその横には24時間営業中が売りのコンビニエンスストア、まさに都会のオアシスである。
「もっとも、オアシスを堪能するにはお金がいるんだけどねぇ」
誰に言うわけでもなくコンビニに入ると雑誌コーナーに一人、店員はやる気も無いのが奥に引っ込んでいる。
「あっれー近藤?」
その雑誌コーナーの前で声をかけられる。
「久留米!」
俺の学友の一人である。
俺の通う、晴嵐高校ニ年A組部活は新聞部、久留米
さらにだ親父さんは社長業などをしておりボンボン息子、そう思われないためにも努力をしている姿が回りに受けている。
「お前夜逃げしたんじゃないの? 遊びに行ったとき誰も住んでないからさ、夜逃げしたっ皆に伝えといたぜ」
開口一番これである、背景に星が見える。
「伝えといたぜ。キラ じゃねーよ! そして夜逃げもしてねーよ!」
こんな奴にアパートの事を知られたら大変な事になる。女の子と同棲とか万死に値する。
「両親が出張でさ、俺いま住み込みのバイトしてるんだ」
小声で話す。
「タコ部屋か? 生活厳しいなら、なんなら俺の家くるか? 数人なら何とかなるぞ?」
心配してくれてるのか、真面目に聞いてくる、こういう所が人に憎まれない秘訣なんだろう。
「いや、大丈夫食事もついてるし」
「ならいいけどよ。おいアレ可愛い子だな」
道路を挟んで窓の外あるバス停にバスが止まる、此処までは普通なのだが、下りた乗客が可愛かった。
フリルの付いた服を着、日傘から見える髪は綺麗な黒髪。
直ぐに道路を渡ろうとしていたのが直感でわかった。目の端には猛スピードの車が映る。
俺はコンビニから走り出す。
あっけに取られる店員を他所に外に飛び出ると、女の子が確認もせずに道路へと足を踏み出す。
車の急ブレーキ音。走る俺。倒れる女の子。俺と女の子を抱えるマルタ。
「えっ?」
「ったっく、危ないなぁ。シューイチ君、ウチが居なかったら轢かれる所だったで」
苦い顔をした車の運転手は、何も事故がないとわかるとクラクションを盛大に鳴らして走り去る。
「マルちゃんだぁこわかったよぅ」
「何が怖かったよぅだ、きーつけて動けってアレほど」
その頃にはコンビニから久留米も近寄ってきた。
「おい。大丈夫かっ」
「まぁ、なんとか」
長身の金髪女性と長い黒髪の女の子。それと俺を見て反応に困る久留米。
「えーっと? こいつの学友の久留米と言います」
「ほーほうほうほう。ウチはマルタや、この車に惹かれそうな女はテンちゃん」
「テン馬鹿じゃないもん、賭けてもいいもん」
口を尖らせて怒る女の子。
「マルタ、あのさ。小さい子に怒っても……」
「こいつ、ウチより年上やで」
小さい声で久留米に聞こえないように言うマルタ、すぐにテンを見るとムっとしている。
「マジで?」
「テンそんなに老けてないもんっ」
「何がもんっやねんなぁ、小さい姿はこんなんさかいが数百年の化狐や、所で何でここにおんねん」
「テンも夜桜荘にはいるんだもんっ」
ヒソヒソ話をしていた俺達を何かと思い肘を突っつき状況を説明しろよ。と久留米が突っ込む。
「えーっと、簡単に言うと俺が住み込みで働いている所に住んでる人達と入居予定の人?」
「テンの命の恩人ですぅ。お兄ちゃん、お礼ですぅー」
俺の手に大量に渡される銀色の球、何処からどう見てもパチンコ玉である。
「マルちゃんにも、お礼ですぅ、やー何で逃げるんですかぁ」
「あんな、そういうのは持ち出し禁止やで」
「むぅ、それじゃこの馬券です」
横にいる久留米が物知り顔をする。
「楽しそうだな……近藤、後は任せろ。学友には説明しとく」
「まて!」
俺の手が空をつかむ。ものすごい勢いで自転車に跨ると視界から消える。
俺の新学期が終わった、きっと凄い噂なんだろう。
後でメールで弁解しておこう。
「さて。シューイチ君かえるで~君のアイスもこうたる。そもそもビールの追加を買いに来たのになんでテンちゃんに会うねんなん」
「あ……ありがとうございます」
コンビニに戻ると美女二人が入店した為がレジについてる。
色々カゴにいれた商品をまとめて払う所を見ると、さすが大人である。
マルタより年上と言われたテンはカゴに大量のタバスコを入れてマルタに戻されていた。
コンビニを出ると太陽は激しく輝いてる。
「あつい……」
「せやなー」
「とけますぅ」
その割りには涼しい顔をしてる。
「よし、シューイチ君アパートまで競争や」
「競争ってこっち、自転車ですよ」
「ウチをなんの化身かおぼえてないやろか?」
「あ、なるほど」
狼の化身だったはず、犬と同じでかけっこが好きなんだろう。
行き成り頭を叩かれる。
「今、犬コロっておもったやろ……」
「滅相も御座いません」
あれ? って事はテンって子も?
横を見ると日傘を差したまま子供っぽい顔をしている。
「ハンデつけちゃーる。こっちきーさい」
「はーぃ」
マルタの背中にテンがしがみ付く。
「そや。ウチに勝ったらこれあげるわ」
「賭けですぅ」
小さな箱を見せる男性用避妊具、通称コンドーム。
「それって……いや。いらないですし」
どうせならほしいってのが本心であるが、女性からその手の物を貰うとか、なんといバツゲーム
「ふむ。ウチが勝ったら、シューイチ君が読んでた熱心に欲しがってたと説明してアヤメにあげるわ」
「ちょ!」
もっとダメだ。
「いくでーよーい。ドン」
物凄い速さで見えなくなる。
「あ、まずい」
急いでペダルを漕ぐ。この暑さの中俺は何をやってるんだ。
テンを背負っているマルタの背中が見えてくる。
「ぜえ、ぜぇ……追いついた」
「お兄ちゃんはやーい」
マルタの横に並ぶも俺とはちがって涼しい顔をしている。
森林の道に入った。俺の後ろにマルタがいる。
このペースならあと3分ほどでアパートに着くはずだ。
勝てる! 抜きにくいように道の真ん中を立って漕ぐ。30キロはでてるんじゃないだろうか。
「若いってええやねー。それじゃオネーサンもちょっとだけ本気になろっか」
その言葉が後ろから聞こえたとおもったら、俺の頭上を何かか飛び越えた。
俺の斜め前にジャンプしてきたマルタはそのままアパートまで一気に走りぬけてった。
俺はへろへろになりながらアパートの前に着く。
今買ってきたはずのビールを既に飲んでるマルタが出迎えてくれる。
「ぜぇぜぇ。改めて、力の差を知りました」
うな垂れる。
「残念賞なのですぅ」
俺の手にタバスコをくれる。
「飲むのですぅ」
「飲まないっ」
「ウチの運動に付き合ってくれたお礼や。あの箱な部屋にいれといたで。アヤメには内緒にしちゃる。それにしてもや、シューイチ君汗すっごいなー」
俺の体をみてくる。
「ぜ……全力だしましたから」
「そっかそっかアヤメに頼まれたアイスはウチから渡しておくから、シャワーでもあびておいて」
「そうします」
マルタ達が二階に上がるのを見送り、俺は部屋に戻る。
褒美でもらった物を隠して、着替えを取って風呂にいくのであった。
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