第7話 規則六条 あの子の裸体

 熱い体を冷やすべく風呂に駆け込む。

 外に建ててある風呂なだけあって割りと広い。

 大人四人は入れる、シャワーとお風呂の内装も露天タイプだ、最初に掃除した時は温泉旅館かと間違ったほどだ。

 脱衣所で汗臭い服をスパっと脱ぎ勢いをつけて扉を開くと引き戸を開ける。

 一週間に一回の掃除で後は何時でも入れるように設備がしっかりしている。


「がらがらがらーっと」


 カゴに着替えを押し込み、汚れた物は洗濯に突っ込む。引き戸を開けるとお風呂場の湯気で前が見えない。


「あちゃー換気しないと、前が見えん。ま、いっか」


 シャワーの場所に立ち勢い良くぬるめの水を出す。

 頭からシャワーをかけて頭も洗うと、薄い壁の向こうから大声が聞こえた。


「シューイチ君~アヤメいなかったからアイス冷凍庫いれといたよー」

「テンも入りたぃ」

「あんなぁ、テンちゃん。アヤメに怒られるで……」

「あ、ありがとう御座いますー。シャワー中ですみませんー」


 アヤメさんが部屋に居なくて言伝までしてくれたマルタとミクの声も小さくなっていく。

 頭からの泡をさっぱりと落とし、自称二枚目の自分の顔をポーズを決めて見る。

 鏡にはマッスルポーズを決めた俺とかアヤメさんの顔が写っている。

 思わず鏡を細い眼にして凝視する。背後をタオルで隠したアヤメさんがゆっくりと脱衣所へ向けて歩いている姿だ、俺の動きが止まる事でアヤメさんの動きも止まる。

 鏡越しにお互いの視線がぶつかった。


「え……っと、こ。こんにちは」


 こんにちは、も何も無いだろが咄嗟に出た言葉である。


 振り向いた、俺の視線の先には雪乃さんのタオル一枚で隠されているがぴっちりとした胸や腰が映されている。しなやかなラインにピチっとくっ付いたハンタオル。その後ろは隠れてなく可愛いお尻が見えていた。

 

 顔が赤から白に変わりはじめて。良く見るとちょっと泣いてる。

 片手を俺に向かって開くと俺の視界が一瞬にして白く染まった。

 雪乃さん短い悲鳴ともに俺の体は頭から足まで雪で埋まったのであった。弁解しとようと口を開くとその口にすら雪が詰まり声が出ない。

 物凄い豪雪で意識が飛ぶ。ああ、俺は此処で死ぬんだ……。最後にアヤメさんの裸体が見れてよかった。

 

「お兄ちゃんー生きてるぅ?」

「生きてるやろうなっ、ならウチの勝ちやビール一本追加やね」

「むぅ、死んでいても良かったです。賭けに負けたです」


 耳元で声が掛かる。何やら猛烈に暑い、太陽が直接肌を焦がしてるような。

 薄っすらと見える視界には火の玉が数十個見える。


「あー此処があの世か。火の玉が見える……」

「現実や、それに火の玉っても狐火や」

「あれ? マルタの声が、現実っても火の玉が、狐火?」


 周りにある火を手で掴んでみると。かなり熱い。


「あっちあちいいいい」

「そりゃそうや。狐火しや」


 上半身を起こし周りを見ると食堂兼リビングだ。マルタとミクが俺の側にいて、その周りには揺ら揺らと動き回る狐火。


「テン疲れたし、賭けに負けるし……」

「すまへんなぁ。あ、シューイチ君この、テンちゃんは齢数百年の妖狐や。危なかったで感謝感激雨霰って所や、風呂場から助け出した時は本当に死んでるかと思ったで。アヤメはパニくるし、シューイチ君は冷たいし。テンちゃんは素早かったけどなぁ」


 褒められて得意げなテンをマジマジとみる。小さな黒髪の女の子が笑っているだけにしか見えないが、マルタのいう事を信じれば数百歳のおばあ……突然狐火が頭に飛んで来て考えを中断させられた。テンに睨まれている。

 ごほん。マルタのいう事を信じれば齢数百年のお姉さんである。心を読んだのかのように今度はニコニコしているテン。


「あっ!! そうだ、アヤメさんは」

「今にも死にそうな顔をしていたからなぁ。周りに居てもする事が無いさかいに、下のコンビニに暖かい物を買うように頼んだわ」

「へーっくちょん。クシャミが、やばい謝らないと」

「せやでーっても、アヤメも入っているなら声ぐらい直ぐ掛ければいいだろうし。完全な事故やなぁ。シューイチ君も死にそうになっただけの事はあったんじゃないのん?」


 その言葉にちょっと顔がにやけると玄関のほうが騒がしい。バタバタと走る音が聞こえると大声が聞こえる。


「マルタさんっ買ってきましたっ。栄養ドリングに、お弁当に……アイスにポテチに唐辛子っあ……秋一さん。よかった……」


 買い物袋を下に置き、その場に崩れるように座るアヤメさんを見て俺も何故か一安心をした。

 

「あ、アヤメさんご心配かけました。あの大丈夫でした、それとすみません」


 俺は立ち上がり直立不動で御免なさいをする。

 アヤメさんは俺の事を見てくれなく直ぐに横を向き目線を合わせない、その顔は赤く相当怒っているに違いない。

 

「ごめん。アヤメさん。謝って許してくれるとは思ってないけど、謝るしかっ! こっち見てっ」

「あのっそのっお、怒ってませんからっ!」


 怒っていないと言う言葉の最後は言い捨てるように荒く、とても怒り心頭だ。アヤメさんの正面に行き顔を覗き込むと顔を背ける。


「あの、それじゃ何でっ!」


 何で怒っているんですか? と言葉を言うとする、困った俺は後ろを振り向き、マルタとテンに助けを求めると、マルタは白い手ぬぐいをグルングルン手で回してる。テンはアヤメさんが買ってきたお弁当を凄い勢いで食べて居る、その箸には小さなウインナーを挟んでおり小さな口にいれると真っ二つに折る。


「シューイチくん、下や」


 マルタの言葉に俺は自分の姿を確認すると何もつけてない。マッパ、裸、スッポンポン。 オマケに起きた拍子にタオルが取れてブラブラである。

 テンがその口にあるチョリソーという辛いウインナーを食べ終わると俺は悲鳴を上げる。


「なななななんでえええええ」

「そりゃ、あの状況から助け出したらそーなるやん」


 一仕事終えたマルタは既に手にはビールを持っている。


「あの、その。ご、ごめんっ!」


 俺は大慌てで股間を押さえると部屋へと逃げるのでった。

 着替えを終えてコッソリ食堂へ顔を覗かせる、マルタが何かを摘みながらTVを見ている。その膝にはテンが抱っこされていた。

 居ないか。アヤメさんの姿が居ないのを確認して顔を戻す、廊下からゆっくりと階段を登り203号と部屋に書いてあるドアをノックする。


「えっと、雪乃さんすみません」


 ドアの前で謝ると突然ドアが開き顔を強打、思わずその場にしゃがみ込む。


「きゃ、ご、ごめんなさいっ大丈夫ですかっ?」


 謝りに来たのに何故か先に謝れる事になってしまった。


「ばい、あんとか」

「赤くなってるじゃないですか。湿布が部屋にあったはずです、どうぞ」

「お。お邪魔します」

 

 初めて雪乃さんの部屋に通された部屋はこれそこ女性だって言いたくなる甘い良い匂いがした。

 小型のテレビにタンス。小型冷蔵庫などにベッドにテーブルが置いてあった、和風かと思いきや案外洋風なのに驚き見回してしまった。おっと、それ所じゃない。


「アヤメさん改めてすみませんでした。まさか、入ってるとは知らずに!」


 俺は土下座。土下座のオリンピックがあれば銅は取れるんじゃないかってぐらい綺麗な土下座をする。


「あの此方こそ。ごめんなさい」


 おっとりとした声が直ぐ横から聞こえてくる、顔を上げるとアヤメさんも土下座をしていた。


「秋一さんが慌ててお風呂場に入ってくるので、私も声を出せずに。シャワーを使って私に気が付いてなかったのでこっそり出ようと思ったのですが、此方こそ雪など、寒かったでしょ。ごめんなさい」


 何をおっしゃるウサギさん。

 俺はは顔を上げて雪乃さんに迫る。


「それでも確認しなかった俺が悪いので、本当にごめんなさい」

「此方こそすみません」


 お互いに謝り変な空気になる。堂々巡りでお互いに引きそうにない。

 俺は知っている、親父と母親が約束を勘違いした後にお互いに謝り倒して引かない時に最終的には余計に喧嘩した事を。


「よ、よし。そうなら俺もさっぱりと忘れますっ! だからアヤメさんも忘れましょうっ!」

 突然の大声にビクッっとなるアヤメさんであるが、『


「そうですね。ありがとうございます」


 と笑みを浮かべる。


「そういえば、雪乃さんはどうしてあの時間の風呂に? 何時も夜なのに。いや、変な事聞いてごめん」


 風呂の決められた時間は特に無いのだが、話題ついてに聞いてみる。


「あのですね実は故郷から手紙が来てまして」

「うん」


 相槌を入れる。やはり雪女だから寒い所、北海道などが実家なのだろうか?


「困った事が出来てしまい。お風呂に入りながら考えて居た所でしたの」

「困った事ってどんな?俺に協力できる?」


 俺の申し出に顔をマジマジとみてきた、そして赤い顔をしている。


「ん? 俺変な事いった??」

「いえ。そうじゃないんですけど」

 

 何時にもまして歯切れが悪い。


「来週、故郷からお父様が来るんです」

「へぇ……あ、もしかして俺がここに住んでいたら不味いって事?」

「いえ! 全然それは大丈夫なんですか」

「んじゃ、何が困ったの?」

「あの……言いにくいんですが、父が私の将来の伴侶探しに来るらしく」

「はんりょ? グループのリーダーみたいな?」

「シューイチ君それ班長」

「テン知ってる! 宇宙船の偉い人」

「それ艦長や」


 突然天井から子芝居な漫才が声が聞こえて俺も雪乃さんも同時に上を向く。


「マルタさんにテンさん!」

「あかん、つい口に出してしまった」


 天井の一部が横に動くとマルタとテンの顔が出てきた。


「いつから其処に居たんです! 盗み聞きとか、それにテンさんも。本来年長であるテンさんが一番しっかりしないと行けないんですっ!」

「アヤメちゃんが怒るぅ」

「まぁまぁ。そんな怒らんでもええんやん。よいしょっと……」

「何処からですかっ!」


 アヤメさんが怒って説教をすると。大人二人が小さくなっている。もっともテンに至っては見た目は本当に小さいんだけど。

 どうやら、天井裏に忍び込んで聞いていたらしく、明日にでも塞いでくださいっ! とアヤメさんから仕事を請けた。


「あれやろ? あのアヤメの父親。用は建前で持ってくる見合い写真やろ?」

「ええ。そ、そうなのです」

「いっ。見合い、この歳で!?」


 俺はその言葉に驚く、見合いってのは行き遅れた。もとい出会いが少なかった女性や男性が行なう物であってアヤメさんは全然その年齢に達しているように見えない。

 

「いやな、シューイチ君。実はこの妖怪荘もとい。夜桜荘にも色んな~~事が隠されてあってな、アヤメの場合は伴侶。旦那。恋人作りの意味合いも、かねてるんや。ウチら妖怪や妖怪の血を受けづくのは中々大変でなぁ相手を探すのも一苦労や」

「マルちゃん、それで婚期逃したもんねぇ」


 テンの言葉にマルタがその頭を軽く叩く。


「あんたもやろが」

「テンはまだ小さいもん~」

「んで。話戻すで、アヤメの父親はアヤメに自由に恋愛して欲しくて強引にこのアパートの話を進めたんやけど、やっぱ圧力はあって写真でも持ってくるんやろうな。ああ、アヤメに恋人でも居れば問題ないんやけどなぁ」


 横にいる雪乃さんを見ると暗い顔をしている。


「そうなんです。手紙には恋人候補が居なければ一度故郷に帰ってみたらどうかと」

「アヤメが帰るならウチもココには住めへんな。そーなるとシューイチ君もプーやな」


 テンが俺の事を指差している。


「あ、なるほどや、問題は簡単に解決やで。アヤメの父ちゃんが来る間シューイチ君がアヤメの恋人になればいい」

「え!」

「は?」

 

 驚いたアヤメさんと俺でマルタ、テン組を見詰めた。

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