集う同胞

 アルキーミアの中でも最高機密になる、特殊兵士部隊。隊員はハンスの実験で魔術の素養がなくても魔素鉱石と錬金術によって魔術を扱えるようになった者たちばかりだった。まだ開発段階で、ハンス以外の誰もこの技術を習得できていない。そのため、ハンスの実験を公にしないための部隊だといってもいい。


「驚きました、ハンスの実験は本当にすごいものだったんですね」

「やはりあいつは天才だったんだと、あいつが死んでから実感するよ。ハンス以外のどの技術者も、まだハンスの開発した技術の根源にたどり着けていないんだ」


 ジルヴェスターとともに、ヨータスは部隊員に挨拶してまわっていた。廊下を歩きながらぽつぽつと話をする。ジルヴェスターが感情を露にするところを、ヨータスは未だに一度も見ていない。どんなに侮られた言葉を向けられても、だ。


「ジルヴェスター殿は感情を露にしない人なんですね」

「いや……」


 ジルヴェスターは困ったように言いよどんだ。どうもなにか事情があるらしいというのが安易に想像できて、ヨータスも困惑する。どうも悪いことを聞いてしまったようだ。


「俺は穏やかにあらねばならないんだ」

「……すみません、なんだか変な事を聞いてしまって」


 気にしていない、とでもいうように首を振るジルヴェスターに救われた心地だ。ヨータスは黙ってジルヴェスターのあとについていく。ここだ、と言われ到着したのは武器庫、だろうか。


「ハンスの開発した君の持っている火炎剣のような、魔術の素養のないものでも使える武器だ。ほとんどは使い手になる者がいなくて、ここで眠っているが」

「……ということは、他にも使い手はいるんですか?」

「ああ。一人だけ扱えた奴がいる。今から会いに行くのがそいつのところだ。特殊兵士部隊はこれで全員だな」

「……たった十人なんですか」


 ジルヴェスターは黙ってうなずく。たった十人、しかし貴重な十人だ。ハンスの技術を研究するには特殊兵士部隊から人を借りなければ不可能だ。埋め込まれたユニットを解析しなければ、ハンスの研究には近づけない。武器も同じだ。ハンスの研究を普及させるには、この特殊兵士部隊がなければはじまらない。守るための編成だと、ジルヴェスターは口にした。


「最近、エルドラドがハンスの研究を知り嗅ぎまわっているらしい」

「俺があそこで剣を使ったから、ですよね……」

「あれはああしなければエルドラドにやられっぱなしだっただろう。それに、ハンスもその威力を目の前で確かめたかったようだ」


 ヨータスが火炎剣の威力をそこでみせつけたからこそ、ハンスの研究内容がエルドラドにばれて今こそこそと調査されているが、確かにジルヴェスターの言うとおり、火炎剣の威力があったからこそあそこでエルドラドは退いたのだろう。


「こっちだ、この時間ならここで訓練をしているはずだ」


 ジルヴェスターが扉をあけるのを、ヨータスは黙って見つめていた。

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