悲嘆にくれる
イディアル王国、首都。大通りでは国葬が、しめやかにに執り行われていた。参列する者達は皆黒の服に白いリボンをつけ、項垂れる。大通りを通る棺の中に遺体はない。今回の国葬は、此度のセフィロトとの戦争で死した者達すべてを弔うためのものだったが、どこか国民たちには納得できない感情があった。なにせ遺体がないのだから。本当に死んだのかすら、彼らの家族に確認するすべはない。
「母上。父上は本当に亡くなられたのでしょうか」
「……そうよ。あなたの父ルーカスは、戦場で亡くなったの。亡くなったはずなの」
葬列から少し離れたところでそんな言葉を口にする母と息子。まぎれもない、ルーカスの妻子だった。憔悴しきった母親をさりげなく支える息子。静かに嗚咽を漏らす母親をじっと見つめている。
「父上の御遺体は、どうして帰ってこないのでしょう」
「愛しいサム……持ち帰ることができないほど損傷が激しかったと言っていたけれど、きっと嘘だわ。……ひとつの遺体も持ち帰らないなんて、おかしいわ」
軍部はまだ国民に死霊術師に遺体を奪われたことを内密にしていた。それ以上の混乱に陥るであろうというウィルヘルムの判断は、国民に王家と軍部への不信感をもたらしている。ルーカスの息子、サムは少し考え、母を優しくなだめた。
「何か事情があり、国民に伝えるには衝撃が強すぎるのかもしれません。いずれ、真実がわかるはずです」
「ああサム、それでもあなたは王国軍に行くと言うの……?」
「はい。亡き父上も、きっとそれを望んでおられます」
サムはこの国葬の二週間後に、王国軍士官となることが既に決まっていた。ルーカスの息子ということもあり、サムは国の未来を嘱望されている。ゆくゆくは、偉大な父のように親衛隊となり、この国を守りたい。昔からのサムの夢だったが、母親はそれを素直に喜ぶことができない。自分の息子がもしかしたら、遺体すら戻ってこない戦地に行くかもしれないことを母親が許容できうるはずがない。
「ああサム、お願いだから、あなたの父のように、私を置いていかないで頂戴」
「大丈夫です母上。私は偉大な父、ルーカス・スミスの息子ですから」
妬ましく思うことも、疎ましく思うこともなく、サムは純粋に、父親を尊敬していた。それはサムにそれだけの能力があったからかもしれない。士官学校を首席で卒業し、サムは父親と同等かそれ以上という評価を勝ち取っていた。
「ですから、なにがあっても母上より先に死ぬこともありません。そして、母上を何があっても守り抜きます」
「ああ、サム。可愛い息子。私とルーカスの……」
いずれ待ち受けるであろう過酷な運命など知らず、この時親子は今訪れている父親の死という悲しみに暮れていた。
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