己の力
己も生き残った地獄のような荒野に、ヴィクターは再び降り立っていた。また亡者が増えたから見に行ってくれ、まるでどこかに使いにやるかのようにファントムに気軽に頼まれたのだ。
前にもまして空気が淀んでいるような気がするのは気のせいだろうか。鴉が木々からこちらを睨んでいる。ヴィクターは、なぜだか気分が高揚するのを感じた。亡者の視線が一気に此方を向く。だがそれには殺意というより畏怖というか、兵士が上官を見るときのそれというかそんなものが含まれている気がする。
ヴィクターは亡者たちが整然と並ぶさまを頭に思い浮かべる。すると亡者たちが動き、その思い浮かべた通りの動きをして見せる。その範囲は、あまり遠いものではなかったが。ヴィクターは目を瞑る。身に滾る戦意を溜めこむ。その刹那。
「うおおおおお!!!」
かっと目を見開き吼えて見せた。その声は亡者たちにも伝わったのか、赤いオーラのようなものが亡者たちから見て取れた。そして亡者は猛然と他の者達に襲い掛かっていく。生存競争を生き抜く強力な力を得た、そんなふうに見える。
「それが君の力だよ、ヴィクター」
「……マスター?」
いつの間に背後にいたのだろう。ヴィクターが振り返ると、いつもと変わらぬファントムがにこりと笑って立っていた。その艶やかな笑みにこの間の夜を思い出しヴィクターは赤面する。
「どうしたんだい、ヴィクター」
「な、なんでもない。……それよりマスター、力って」
慌ててあからさまに話題を逸らすヴィクターにファントムは苦笑した。昔のルーカスのような実直さというよりも、馬鹿正直すぎて嘘がつけないというか。ヴィクターのそんなところをファントムは好ましく思っている。
「君には亡者を率いる力がある。そして亡者たちを戦いに駆り立てる力。鼓舞の力と言っていいね」
「鼓舞……」
「不思議かい?君が俺のアンデッドになる時に、得た力だ」
ヴィクターはまじまじと己の手を見る。自分の身体にそんな力があるなんて、という気持ちとこの力で何ができるだろうという疑問と。そんなヴィクターの様子をファントムはうっすらと笑みを浮かべながら見つめている。
「君はきっと、俺以上に亡者を率いるに相応しい。そういうことだ」
「亡者を、率いる……」
ファントムのその言葉から連想される、己が司令官として亡者を率い戦う姿。それにひどく既視感を感じ、しっくりと来るような気がしてならない。もしかしたら、己は昔そう言う立場にいたのかもしれない。ヴィクターはそんなことを考える。
「これからも期待しているよ、ヴィクター。帰ろうか」
そのことを聞こうと開きかけた唇はファントムの言葉にさえぎられる。結局宙ぶらりんな言葉はしばらくして、ヴィクター自身が忘れてしまうのだった。
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