相棒
国境の門には梟の軍旗が翻り、兵士たちが塀の中を整然と巡回を行っている。その門の上の詰所に、梟の紋章を肩につけた男がいた。双眼鏡で国境をじっと眺めている。そしてその傍らにはもう一人、椅子にふんぞり返るかのようにして座る、若い男がいた。目元は髪で覆われその表情はうかがえなかったが、こつこつと椅子の縁を叩くところを見るに、相当退屈らしい。
「本当にこんなことをしていていいのか?」
「このアルキーミアいちの天才の、僕が信用できないとでも?」
アルキーミア帝国。大帝アウグストにより建国されてより千余年、錬金術の研究に秀でた学者を数多く集め、魔術と科学の融合を目指し国力を高めてきた国である。研究者は手厚い保護を受け、研究を重ねその研究の結果が軍事に、普段の生活に生かされてきた。
その分征服し魔術根絶を目指すイディアルと敵対し、また貿易上の問題や錬金術に必要な貴重な鉱石を産出する鉱山の領有権などを巡り、隣国エルドラドと冷戦状態にある。しかしもう千年にも及ぼうかという戦争は、アルキーミアの発展には欠かせないものだった。
「信用できるできないの問題じゃない。そもそもお前みたいな研究者がエルドラドとのとはいえ国境に出てくるのが問題だと言っているんだ」
「僕はね、ヨータス。自分の研究の結果には責任を持ちたいんだよ。君にはわからないかもしれないけど」
「つくづく変な奴だな、ハンス」
ヨータスにとって、ハンスは鼻持ちならない天才には思えなかった。それはハンスの信条のせいかもしれない。自分の研究の結果には責任を持ち見届ける、ハンスの妙に誠実なところ。一種の……人を選びすぎる人たらしなのかもしれない。事実それに惹かれて、こうしてハンスと組んでいる。
「ヨータス」
「……なんだ?」
「死者は生き返ると思うかい?」
「馬鹿か。セフィロトの学者バカでもあるまいし」
ヨータスにはハンスの意図がわからなかった。我が意を得たりとばかりにハンスはにんまりと笑う。
「それがね、蘇ったんだってよ?セフィロトとイディアルの戦争のさなかに、死霊術師が現れた、って……セフィロトの学者どもは大騒ぎさ」
「死霊術師だあ?セフィロトでも禁術だろ?」
「でもそれを生で見られるなんて羨ましいなぁ……ヨータスは戦地に行く予定はないのかい?」
「俺に死ねってか」
得物をかつぐヨータスにハンスは苦笑した。それはハンスの開発した武器だった。魔術と科学の融合を目指し、魔素を含む鉱石を刀身に埋め込みそれを剣の柄に取り付けたユニットで制御している。試作段階でそれを扱えたのはヨータスのみという癖の強い武器だが、ある意味でハンスと相性が良かったともいえるかもしれない。
「その武器を担いでいる限りそうそう簡単に死なないよ。なんてったってアルキーミアいちのて」
「もう聞き飽きた」
「最後まで言わせてくれよ……」
ヨータスは肩を落として落胆してみせるハンスの鼻先を指ではじいてやった。睨むハンスを笑顔で躱す。
不穏な空気がないわけではないが、このひとときは二人にとって間違いなく平和だった。
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