鼻持ちならぬ研究者

 ファントムが実験施設とは名ばかりの、コナーにあてがった廃屋の中はたくさんの物であふれかえっていた。武器のパーツや魔素鉱石、よく分からない鉄くずや食べ終わった食器の山。オリビアが食器が減ったと嘆いていたのはこのせいだったか、とファントムは苦笑する。亡者の怯えた声も聞こえてきて、コナーは一体何をしているのかと奥の扉を開く。

 そこには、手足を拘束され真っ青な顔でぶるぶる震える亡者になにか手術のようなことを施すコナーの姿があった。集中しているようでファントムもさすがに声をかけるのは躊躇われる。ちょうど最後の工程が終わったのかコナーはふうと息を吐いて亡者の拘束を解いた。逃げるように走っていく亡者の胸には、魔素鉱石が何かのパーツとともに埋め込まれていた。呆れたように逃げる亡者を見送るコナーは漸くファントムに気付く。


「マスター、何の御用ですカ?」

「いや、特に。どうだい、研究は」

「この力、最高ですネ、魔素鉱石不足で悩むなンてこと一切ないンです」


 けらけらと笑って見せるコナーはクルミほどの大きさの魔素鉱石を握ると髪に隠れたその眼を発光させる。すると魔素鉱石は手からあふれんばかりの大きさにみるみる膨れていく。いや、増えていると言ったほうが正しいのだろうか。コナーの手には手形が付いた歪な形の鉱石があった。


「君に与えた増殖の力、うまく使いこなせているようで何よりだ」

「研究し放題ですネ。逃げちゃいましたけど、さっきの奴は氷の魔術を操れるようニしましたヨ?」


 魔術を使える者が増えるのは、戦術を組み立てるうえでもいろいろ応用が効いてなかなかに悪くない。ファントムは満足げに笑った。その笑みを称賛と受け取り照れたように笑うコナーは年相応の青年に見えた。まあ、アンデッドに歳も何もあったものではないのだが。


「食器はちゃんとキッチンに持っていくように。オリビアが食器が減ったと嘆いていたよ」

「あっ……」

「ついでにオリビアに食事の感想を言ってあげれば、少しは手伝いの時間が短くなると思うよ」

「は、はい、マスター」


 冗談めかしてファントムは注意する。少し前にヴィクターが同じことをやって屋敷の掃除を手伝わされていたのを見ていた。今回の研究成果の褒美でもある。これでファントムが満足いくものがなかったら何も言わずに戻ってオリビアに食器のありかを教えるつもりだった。やはりあの場でありあわせの物だけで魔砲を作ってしまうだけのことはある。きっともっと面白いものもコナーは見せてくれるに違いない。


「コナー、今度は別の物もみたいな」

「もちろん、期待しててくださいネ?」


 この自信家っぷりがまた、コナーというアンデッドなのだろう。

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