第四話「無口少女と」

(1)


 タケルとユリアとアキは今日も西の国を目指し道を歩いていた。


「そういえばさ、タケルの姉ちゃんって何で西の国にいるの?」

「そういえばそうとね、誰かに攫われたようには見えんかったと」

 ユリアはシオリの事を思い返した。


「よくわからないんだよ。もしかして何かが見えたのかも」

「何だそれ?」


「姉さんは国一番の巫女姫でさ、うちの国では最高神アマテラス様の神託を受けられる唯一の人なんだ」

「へえー。やっぱすごか人やったとね」

「うん。俺には何も言ってくれなかったけど、何か不吉なものが見えたから西の国へ行ったんだと思う」

「魔王の事か?」

「そうなのかな? 他に何かあるのかも?」



 そう話しているうちに次の町に着いた。


「なんか静かな町だな」

「この町なんか学者っぽい人多いな」

「学問の町なのかもしれんと」

「どうなのかな? あ、すみませーん」

 タケルは通りかかったいかにも教師っぽい男性に声をかけた。

「はい、何でしょう?」


「この町ってどんな町ですか?」

「ここは学問の町ですよ、世界中の書物や学問が揃っています」

「やっぱそうなんですか」

「おや、それを知らないでここに来たんですか?」

「はい」

「いけませんねえ、それは勿体無いですよ。ここではいろんな事が学べますよ。よければ手始めに私のところで勉強していきますか?」

「あたい勉強やだ・・・・・・」

「ウチも・・・・・・」


「まあそう言わないでいこうよ。すみませんお願いします」

「はい、では私についてきてください。あ、自己紹介がまだでした、私はジニュアと言います」

 そうして三人は男性、ジニュアについて行った。


「さあ着きました、ここですよ」

 そう言われて来た場所は少し大きい塾のような場所だった。

「さ、中へどうぞ」

 中へ入るとそこには老若男女関係なく沢山の人がいた。

「へえ、結構いろんな人がいますね」

「ええ、ここは誰でも格安で勉強できるんですよ」

「ようするに一般市民向けって事ですか」

「そうですね、学問もお金がたくさんいりますからね。そこまでできない人の為にここを作ったんです」

「へー、それ凄いですね」

「いえいえ。あ、学問だけでなく魔法や秘術や剣術や武術も教えてますよ」

「すげえー! じゃあそっち受けさせてくれよ!」

「ウチも魔法教わりたいけん」

「ええ、いいですよ」


 3人はそれぞれ別々の講義を受けた。

 ユリアは魔法と秘術を

 アキは武術を

 タケルは学問と剣術を。


 そして夕方

「今日はありがとうございました、いろいろためになりました」

「ウチ、新しく補助魔法も覚えれたけん」

「あたいも新しい技を覚えれた、先生本当にすげえな」

「いえいえ、あなた達が熱心だからなだけですよ。またいつでも来てください」

「はい、それでは・・・・・・あ」

「タケちゃんどしたと?」

「今日の宿取るの忘れてた」

「えー!? 今からじゃもう無理かもしれないぜ!」


「おやおや、じゃあ私の家に泊まりますか?」

「え、いいんですか?」

「いいですよ。ああ、うちにはあなた達より少し下くらいの女の子がいますので、よければ話し相手になってくれませんか?」

「はい。あ、妹さんですか? いや娘さん?」

「いえ違いますよ。私独身ですし」

「おまわりさんこっちでーす」

「住み込みの弟子ですよ。誤解しないでください」


(2)


 ジニュアの家に泊めてもらうことになった3人。

「ここですよ」

 ジニュアの家は普通の家だった。

「すみません、お世話になります」

「いえいえ、遠慮しないでゆっくりしてください」


 ガチャ

「ただいま帰りましたよー」

 すると奥の方から水色のショートボブでメガネをかけた女の子が歩いてきた。

「……おかえりなさい、あ」


「ああ、この方達は今日うちに泊まってもらいますのでよろしく」


「あ、俺はタケルといいます」

「ウチはユリアやけん」

「あたいはアキってんだ、あんたの名前は?」

「……ユカ」

 ユカはか細い声で答えた。


「ユカ、皆さんを部屋に案内してあげてください」

「……先生は?」

「晩御飯作りますよ、今日は腕によりをかけますからね」


「ねえ、ユカはここに住んでるんだよね」

 タケルが尋ねたがユカは無言だった。

「あの、あまり聞かない方がいいかな?」

 ユカは無言で首を縦に振った。

「なら深くは聞かないよ」

「……うん」


「……ここ」

 案内された部屋にはベッドが4つあった。

「……皆ここで。わたしもここ」

「俺、どっか他の部屋にしてもらおう、なんなら物置でも」

 タケルはそう言って部屋から出ていこうとした。

「……ん? 一緒でも別に構わない」

「俺が構うわ! 女の子の部屋で寝れるか! てか身の危険感じろ!」

「……ロリコン?」

「違うわー! 俺は」

「タケ(ル)(ちゃん)はシスコン(だ)(やけん)」

 アキとユリアがタケルを指さしながら口を揃えて言った。

「てめえらーーーーーー!」

「……クス」

 ユカはほんの少し笑みを浮かべた。


「おやおや騒がしいですねえ。でも彼らならもしかすると、あの子も……」


 その日はジニュアが作った晩御飯を食べて風呂に入った。

 アキは懲りずにタケルと一緒に入ろうとして怒られた。

 なんとかタケルは他の部屋にしてもらい、ぐっすりと寝ることができた。




 次の日の朝

「おはようございます。昨日はよく寝れましたか?」


「ええ、おかげ様で」


「それはよかったです、あ、朝ご飯できてますからどうぞ」

「ありがとうございます、ん?」

「どうかしましたか?」

「いえ、先生が家事全部やってるんですか?」

「そうですよ、好きなんですよこういうの」

「いや、ユカって住み込みのお弟子さんがいるんだから、彼女にも」

「ああ、あの子は料理はできますが他は得意じゃないんですよ。それに」

「それに?」

「あの子は一応住み込みの弟子としていますが、実は」

「うん、どこかのカー◯ルサンダース様みたいに二十年位泥の中へ」

「だから違うって」


(3)


「これから言う事はおそらく信じられないと思いますが事実です、そこをご理解ください」

「はい」

「あの子は実は、この世界の人間ではないのです」

「え?」

「あの子は別次元の世界のある国の姫だったんです」


「……いや、嘘を言ってるわけではないのはわかりますけど」


「すぐには信じられないですよね」

「すみません、あ、別世界ってのは存在すると思いますが……続きを」

「はい。私は以前その世界の大魔導師に召喚されたんです。そしてその方にそこを支配していた魔王を倒して欲しいと頼まれました。その後その世界で出会った仲間達と共に長い旅の末に魔王を倒したんです」

「どこの異世界転移物語の勇者ですか先生は」

「まあ、それは置いといて。魔王軍が攻めてきた際にユカの国の王、ユカの父親は抵抗らしい抵抗もせず降伏したのです。国民いえ世界中の人々を守るために、無駄に命を失わせないようにと」

「でも周りはそうは受けとりませんよね」

「そうですね。魔王が倒れた後も裏切り者だとかいろいろ言われ、他国からも爪弾きにされ、最後に王家は命懸けで守ったはずの国民によるクーデターで滅びました。私の仲間の一人がその国の王宮戦士で、彼はなんとかユカだけを逃せたのです」

 タケルは黙って話を聞いていた。


「そして私を召喚した大魔導師の元までたどり着いた彼はユカと一緒にこの世界に飛ばしてもらいました。ですが彼は逃避行の際に受けた傷が元で、私に事情を話した後……」

「皆亡くなって相当傷ついたでしょうね、ユカ」

「ええ、最初は何も喋ってくれませんでした。今は少しマシになりましたが、まだ……ですがあなた達にならなんとなくですがあの子も、と思ったんです。現にいつもよりは喋ってますし」

「え、そうなんですか? ならもっと彼女と話してもいいですか?」

「ええ、お願いします」


「お、タケルと先生おはよう。何の話してるんだよ?」

「タケちゃん、まさか先生と逢引? BL?」

「先生、このナマモノスープのダシにしてください」

 タケルはユリアを引っ掴んでジニュアに差し出した。

「うーん、なかなかいいダシ取れそうですね」

「やめてーー!」

「……クス」

(おや、笑ってるところなんて他人にあまり見せなかったのに……やっぱり彼らなら)


 その時、外に何か大きなものが落ちたような音がして地面が揺れた。


「な、何が起こったと?」


「……なんだこの禍々しい気は?」

「タケルも感じた? これ物凄くヤバイ気じゃ?」


「……怖い」

「とにかく俺が様子を見てくる、皆ここで待ってて」

「待ちなさい、私も行きます」


 タケルとジニュアが外へ出ると


「フォォォォォォ、ユカはどこだ」

 全身真っ黒で全裸の魔物がいた。


「うん、変態ロリコン野郎は夢幻流究極奥義でチリひとつ残さず消滅させよう」

「誰が変態だ。我は」

「魔王ガルヴァス!?」

 ジニュアはその魔物を見てそう叫んだ。

「貴様は勇者ジニュア……今度こそ貴様を、そしてユカを」


「ユカをどうする気だ? そもそもどうやって蘇った? どうやってこの世界に来た?」

 タケルが尋ねると


「我とて魔王と呼ばれしもの。次元を超える術くらい会得してるわ」

「で、ユカをどうする気だ?」


「食うに決まってる」

「やっぱロリコンじゃねーか、夢幻流究極奥義」

「最後まで聞け。ユカは……シルフィード王国の血筋は破邪の力を宿すものが多い、ユカはその中でも桁違いの力を持っているのだ」

「で?」

「ユカを食らえばそれらの攻撃に耐えられる力を手に入れられる……」


「何? では何故以前そうしなかった? いや知らなかったのか?」


「知っていた。だが……」


 国王が降伏して来た時に有無を言わさずユカを食っておけば、勇者共に負けずに済んだであろう。


 だが王は戦う事をせず、自分の命と引き換えに全国民の命乞いをしてきた。

 初めは首を刎ねて晒してやろうと思ったが……。


 我の前に現れた彼のその振る舞いは堂々としており、媚びるでもなく、ただ願いを話していた。

 

 ……我は思った。

 彼は、彼こそが王なのだと。

 彼を見ていると、自分は本当に王と名乗っていいのだろうか……。

 

 これ程他人を敬った事は、一度もなかった。

 そう気づいたとき、我は彼に敗れたと思った。


 だから我は要求をいや、世界中全ての非戦闘員には手出ししないと約束した。


「陛下が魔王と直接対峙し、助命嘆願したと聞いていたが……そこまでは」

 ジニュアが驚きの表情を浮かべていた。

「ああ。そのような者との約束は違えられんと思った。……我は甘かった」


 ジニュアはガルヴァスがこのような心を持った者だとは知らなかった。

 

「で、あんたどうやって蘇ったんだよ?」

「知らぬ。我は確かに滅んだはずだが、気づいたら蘇っていた」

「誰かがあんたを蘇らせたんじゃないか?」

「さあな。だが蘇ったら以前よりも強くなっていた。今度こそ負けはせん、勇者ジニュアとユカの命を貰い受ける」

 そう言ってガルヴァスは身構えた。

「タケルくん、あなた達はユカを連れて逃げてください!」

「そうはいきませんよ、先生をほっといて逃げる気などありません」

「そうだぜ、あたいの新必殺技見せてやるよ」

「回復魔法も補助魔法も必要とね」

「……わたしも逃げない」

 いつの間にか皆外に出ていた。

「ユカ・・・・・・皆さん」


「さてと、フルパワーで戦いますか」


(4)


 別次元の魔王ガルヴァスと対峙するタケル達

「さてと、フルパワーで戦いますか・・・・・・とその前に、魔王さんよ」

「なんだ?」

「頼むからパンツくらい履いてくれ、見るに耐えん」

「我は戦闘時はこの方が力を出しやすいのだ」

「いいからさっさと服を着ろ! 女の子の前だぞ!」

「そのような事我には関係ない」

「あのなー! ・・・・・・あれ?」


「へー、お師匠さまのよりでけえや」

「ありゃ、タケちゃん負けてるとね」

「……お父様や先生のより」

 女子達はソレをガン見していた。


「てめえら全員少しは恥じらえー! てかなんか聞き捨てならない台詞があったぞーーーー!?」


「あの、ガルヴァス、話が進まないので魔法か何かで股間見えないようにしてくれませんか? あなたならできるでしょ?」

「ふむ、まあいいだろう。どうやら貴様には勝ってるようだな」

「……さすがにそれには敵いません」

「はっ!」

 ガルヴァスは魔法で股間が見えないようにした。

「最初からそうしてくれ、。まあ、では改めて」

 タケル達はガルヴァスと対峙した。


「いくぞ、煉獄火炎」

 ガルヴァスは巨大な黒い炎を放った。

「ウチにまかせるとね、耐熱防護じゅもーん!」

 ユリアが新しく覚えた耐熱防護呪文を唱えると、タケル達の周りに光の霧が現れた!

「すげえ、全然熱くないや!」

「おじいちゃんから貰った杖のおかげで威力も倍増やけん」


「……毛玉凄い、可愛い、もふもふしたい」

「今はそんな場合ではありませんよ、ユカ」



「ぐぬ、ならこれはどうだ?」

 ガルヴァスは手のひらに暗黒闘気を集中させて放った。

「次はあたいの番だな、・・・・・・はあぁ」

 アキも手に闘気を集中させて

「新必殺技、真空斬魔拳!!」

 手刀を斜め上段斬りのように振りかざした。


「ぐおおおお!」

 アキの放った手刀が暗黒闘気を切り裂き、その衝撃波がガルヴァスの体をも切り裂いた!

「へへ、先生に教えてもらった技早速使ったぜ」

「私が何年もかかって会得した技を昨日のたった数時間で。本当に凄いですね。さすがあの方の」


「ぐ・・・・・・はあっ!」

 ガルヴァスは暗黒闘気で剣を作り出し

「くらえええ!」

「はあっ!」

 タケルは自分の剣でガルヴァスの剣を受けた。

「ぐ・・・・・・ぬぬ」

「はっ!」

 タケルがガルヴァスの剣を受け流す。

 そして

「夢幻流、竜尾剣!!」

 タケルは受け流した体を回転させてガルヴァスの体を下から斬り上げた。

「ぐおおおおおおおー!」


「凄いですね。私の出る幕ありませんよ」

「……格好いい」



「ば、馬鹿な? 我は以前よりも強くなっているはずだぞ?」

 タケルの一撃で瀕死の重傷を負ったガルヴァスは息も絶え絶えでそう言った。

「なら俺達の方がもっと強いって事さ」

「ぐ……」


「どうする? 降参して元の世界へ帰っておとなしくしてる?」

「……降参するくらいなら死を選ぶ」


「ダメだよー、まだ死んじゃー」


「誰だ!?」

 声のした方を見ると

「せっかく蘇らせたんだからもっと頑張ってよー」

 そこにいたのは変態女子がたぶん狂喜乱舞しそうな十二、三歳位の美少年だった。


(5)


「キャハハハ、魔王なんだからさ~もうちょっと頑張ってよ~」

 そこにいたのは十二、三歳くらいの少年だった。


「なんだお前は?」

 タケルはそう言いながら身構えた。

「キャハハハ、なんでもいいじゃん」


「もしや我を蘇らせたのは貴様か?」

 ガルヴァスが少年に聞いた。

「そうだよ」

「・・・・・・何が目的だ」

「べっつにー。まあ好きにやってよ、もっとパワーあげるからさ~、キャハハハ」

 少年は笑いながら手にしていた杖を振ると、そこから黒い稲妻を放った。


 すると

「ぐおおおおおおお!」

「魔王のお約束、第二段階への変身~。キャハハハハ、じゃあね~」

 そう言って少年は消えた。


 そして大きな地響きが起こった。

「な、なんだ?」

 なんとガルヴァスの傷が全快してさらに


「き、巨大化していってる?」

 ガルヴァスは元の何倍もの大きさになった!


「グオオオ……力ガ溢レ出デクル」


「おい! いらんお約束すなー!」

「ちょ、どうするよ?」

 アキがタケルに尋ねる。

「戦うしかないだろ。魔王からは逃げられないってお約束もあるし」

「ウチが……えーい、催眠呪文ー!」

 しかし効かなかった。


「げ、結構パワーアップしてるユリアの呪文が効かない?」


「はあああ、猛虎烈光波!」

 アキが気孔弾を放つが


「フン!」

 ガルヴァスはそれを難なく弾き飛ばした。


「なに!? ならこれはどうだ! はあっ!」

 アキが高く飛び上がりガルヴァスに蹴りを放つが、当たる寸前で足を掴まれた。

「ソリャッ!」

「うわああああ!」

 アキはそのまま投げ飛ばされ、家の壁に激突した。


「ユリア、アキに回復魔法を!」

「うん、アキちゃーん! 今、行くけんねーっ!」


「くそ、いらん事しやがってあのチビ」

「タケルくん、私が隙を作りますからあなたが必殺技で奴を」

 ジニュアがタケルを見て言った。


「先生、大丈夫ですか?」

「私はこれでも勇者ですよ」

「はい、そうでしたね」


「では、はああ……聖電撃呪文!」

 空から大きな音を立てて稲妻が落ち、ガルヴァスに直撃した。


「グオオオ!?」

 ガルヴァスの動きが止まった。

「今です!」

「くらえ! 夢幻流、龍翔剣!」

 タケルは抜刀術の要領で剣を抜きガルヴァスに斬りかかった。


 だがガルヴァスの体を斬る事はできなかった。

「な?」

「グオオオ・・・・・・クラエ、ハアッ!」

 ガルヴァスは全身から高熱波を出した。


「うわああああ!」

 タケル達は大ダメージを受けた。




「ぐ、皆大丈夫か?」

「生きとるけど・・・・・・体がいうこときかんけん回復魔法できんと」

「はあはあ・・・・・・うう」


「ユカ、大丈夫ですか?」

「・・・・・・先生が庇ってくれたから」


「グオオオ・・・・・・キサマラマトメテクッテヤル」

「ぐ・・・・・・させるか」

 その時

「・・・・・・皆さん、ユカを頼みます」

「先生?」

 ジニュアはガルヴァスに向かって走りだした。

「ナンダ? ン、マ、マサカ・・・・・・?」

「でやああああ!」

 ガシッ!

 ジニュアはガルヴァスにしがみついて呪文を唱えた!

「クニカラクチシチスイノチミラカチモイミニニミラカニテラトナカイスナノラカラモラチスナ・・・・・・」


「あ、あれはまさか自己犠牲自爆呪文・・・・・・先生! やめてください!」

「ちょ、先生」

「あ・・・・・・そげな」


「え……いや、やめ、やめてーーーーー!」

 ユカが叫んだ時


「な、なんだこの光は?」

 彼女の体が光輝き出した!


「あの子どうやら覚醒したようだね~。さ~て、おもしろくなりそうだね」


(6)


「やめてーーーーー!」

 ユカがそう叫ぶと突然彼女の体が光り輝き出した!


「な・・・・・・なんだこの光は? これが破邪の力?」

 タケル達は驚きの表情でユカを見ている。


「へえー、どうやら覚醒したようだね~」

 少年は宙に浮かびながら眺めていた。


 そして

「・・・・・・ユカ」

 ジニュアは詠唱するのも忘れてユカを見ていた。


「……もう誰も、失いたくない」

 ユカは杖を天に向けてかざし


「破邪聖光」

 杖の先が眩く輝き、その光が辺りを照らした。


「グ、グオオオーーーー!」

 なんとガルヴァスの体から黒い気が抜け元の大きさに戻っていく。

 そして

「え、体の傷が?」

 タケル達の傷が回復した。


「ぐ、ユカの力がこれほどとは。もし食っていたとしても制御できなかった」

 ガルヴァスはそう言って倒れた。


 ジニュアは皆の元に戻ってきた。

「ユカ、皆さん、すみません」

「・・・・・・よかった」

 そう言うとユカはその場に倒れた。

「おい、ユカ!」

「ユカちゃーん!」

「ユカ! しっかりしろ!」

 タケルはユカを抱き起こした。

「・・・・・・大丈夫、ちょっと疲れただけ」

「よかった・・・・・・先生」

「はい」

「次やったら本気で怒りますよ」

「・・・・・・すみません」


「さあ、とどめを刺せ」

 倒れたままのガルヴァスが言った。

「うーん、先生どうします?」

「そうですね・・・・・・」


「……魔王さん、ひとついい?」

 ユカがガルヴァスに話しかけた。

「なんだ?」

「……お父様を尊敬できると言ってたこと、本当?」


「ああ本当だ。先程も言ったが降伏して来た時の王は見苦しい所はなく、毅然とした態度だった。つまらん意地も何もなく、ただ国民の命を自分の命と引き換えにと。真に尊敬できる王だったぞ。お前の父親はな」


「……変かもしれないけど、ありがとう」

 ユカの目は潤んでいた。


「礼などいらん。さて、誰もとどめをささんなら自分で」

 ガルヴァスは起き上がって手刀を胸に当てたが


「待たんかこら」

 タケルがガルヴァスを止めた。


「なんだ、お前がとどめを刺してくれるのか?」

「違うわ、あんた結構いいやつじゃんか。そんなの殺せるか」


「甘い事を言うな。我はいつまた貴様等を襲うやもしれんぞ」


「ならまた戦うまでだよ。でも今度は憎みあう敵でなく、尊敬し合える好敵手として、ね」

 するとガルヴァスはその手を降ろし


「……ふん、どうやら完全に我の負けのようだ」

 項垂れてそう言った。


「ガルヴァス、あなた」


「よい弟子を持ったな、勇者ジニュア」


「ええ、私ができなかった事をしてくれました」




「へー、こんな展開もあるんだ~結構面白かったよ、聞こえてないだろうけど、またね~」

 少年はそう呟いて何処かへ消えた。




「で、ガルヴァスさん、あんたこれからどうするの?」

 タケルはガルヴァスに聞いた。

「我は世界を見て回ろうと思う、貴様等が生まれ育ったこの世界を」

「それはいいけどさ」

「心配するな。無闇に人に危害を加えたりはせん」

「そう。なら安心だ」

「ではまた会おう」

 そう言ってガルヴァスはどこかへ飛んでいった。



 それからしばらくの間タケル達は町に逗留し更にいろいろとジニュアから学んだ。

 もう全員完全にジニュアの弟子である。


 そして

「もう私が教えることはないようですね」

「ウチ、秘術も覚えれたし魔法力もごっつあがったと」

「あたいは技だけじゃなくさ、無駄のない動きとか」

「先生、本当にありがとうございます」

「そろそろ旅立つのですね。ところでひとつお願いがあるのですが」

「はい、もうなんとなくわかってますけど」

「なら話が早いですね、ユカ」

「・・・・・・はい」


「彼女も一緒に連れて行ってあげてください、ユカ、いいですね?」

「・・・・・・はい、皆と一緒に行きたいです」

「皆さん、ユカをよろしくお願いします。」

「よろしく、ユカ」

「ユカちゃんよろしくねー」

「ユカ。よろしくな~」

「・・・・・・よろしく」


 こうして4人はジニュアに見送られ旅立って行った。


「あの子達はきっともっと大きくなるでしょうね・・・・・・」



第四話 終

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