第三話「温泉とじいさんと」
(1)
タケルとユリアとアキは次の町を目指して歩いていた。
そして木陰で一休みしていた時
「あ、そういえばさ、アキ」
「ん? なに?」
「アキのお師匠様ってどんな人?」
「あたいのお師匠様はさ、強くて優しくてちょっとボケたところもあるじいちゃんだったよ」
「へえ。それで、何処で出会ったんだ?」
「もう覚えてねえけどさ、あたいを育ててくれた養親が伝染病で亡くなった時に、お師匠様が引き取ってくれたんだって。そんでさ、実の両親もあたいが生まれた時、その伝染病で亡くなったって聞いた」
「そっか。ごめん」
「いいって。あ、タケルんとこは大丈夫だったのか?」
「俺んとこはその伝染病によく効く薬が山程あったんで、死人は出なかったってさ。それと当時は国中の医者が薬持って世界中を飛び回ったって、父さんから聞いたよ」
「あ、それ聞いた事ある。それで世界中の人が助かったって」
「うん」
「ところでアキが使ってる技は武天流って言ってたけど、もしかしてお師匠様が編み出したの?」
「そうだけど?」
「やっぱりそうか。あのさ、アキのお師匠様ってバンジョウって名前じゃ?」
「え、タケルはお師匠様の事知ってんの?」
「いや、直接会った事はないよ。でも拳帝と呼ばれてるくらいの達人で、俺の国じゃ知らない人はいない伝説の武闘家だよ」
「そうだったんだ。やっぱお師匠様って凄かったんだな・・・・・・それが」
「ああ、無理に言わなくてもいいよ」
「うん、あんがと」
「ウチのことはほったらかしかー! ウチがメインヒロインやぞー!」
ユリアが二人の間に割って入ってきた。
「こいつ次の町で鍋に入れるか」
タケルはユリアを引っ掴んで言った。
「いやーやめてー!」
「あははっ」
こうしてなんやかんやとしながら町に着いた。
「お、ここ賑やかだな」
「あちこちに露店があるな」
「なんかお祭りでもやってるとね?」
三人がそう言ってると
「あはっ、そこのおにいちゃんとおねえちゃん達、これ食べましゅか?」
おさげの可愛らしい小さな女の子が近づいてきて、手に持った篭を見せた。
篭の中にはたくさんのまんじゅうがあった。
「おお、おいしそうだね、いくら?」
「タダでしゅよ、試食品でしゅから」
「へー、じゃあいただきまーす」
タケル達はまんじゅうを食べた。
「お、マジでうめえぞ、もっとないの?」
アキが物欲しそうに言う。
「アキ、少しは遠慮しろ」
「そーやけん」
「あはっ、もっと食べたいならうちのお父ちゃんの店で買ってくださいな」
「ちぇっ、しっかりしてるな~。じゃあお店に連れてってよ」
「は~い」
「おいおい・・・・・・、ま、いいか」
タケル達が女の子に案内されて着いたところは一見すると宿屋だった。
「あれ? まんじゅう屋じゃないの?」
「宿屋もやってるんでしゅよ。おーいお父ちゃーん、お客様やでー」
女の子に呼ばれて奥から出てきたのは
「ハッハッハ、ようやった娘よ。また客を連れてきたんか?」
まるでどこぞのファルコン様のようなスキンヘッドの大きなおっさんだった。
「うお、でけえ!?」
アキはおっさんを見て驚いていた。
「ハッハッハ、お嬢ちゃんもそのうち大きくなるで」
「どうやってもおっちゃん程にはならんだろ。あ、すみませんまんじゅうください」
「あいよ、おおそうやあんたら、今日の宿はもう決めたんか?」
「いや、まだです。てかこの流れだともうここに泊まるしかねーな」
「おーきに、よそは繁盛しとるんやけどうちは閑古鳥が鳴いとるさかいな、できる限りサービスするで」
「わーい! お客様ごあんなーい!」
三人はおっさんと女の子に案内されて部屋へと向かった。
部屋に案内されている途中、タケルがおっさんに話しかけた。
「しかしこの町ってすごく賑やかですね」
「そうやな。でも昔は何もない寂れたとこやったんやで」
「え、そうだったんですか?」
「ああ。けどな、何年か前に空から天使が降りてきて急にそこらで穴を掘り始めたかと思うたらな、そこから温泉が湧いたんや。それが評判になってこの町の経済はようなったんや」
「へー、天使が温泉を?」
「おお、見てた奴の話だと、その天使は全身真っ黒で、牙が生えててコウモリみたいな羽と尻尾がある小さい天使やったそうや」
「それ、悪魔じゃないの?」
部屋に着いて
「さ、どうぞ、ほなまんじゅう持ってくるからな」
「はい、あ、さっき温泉って言ってたけど近くにあるんですか?」
「おお。この宿の裏にもあるで、入るか?」
「ええ、じゃあ早速。ユリア、アキ、先に入らせてもらうよ。ゆっくりしててくれ」
「うん」
「ああ、後でな」
タケルは温泉に向かった。
(2)
「ああ、いい湯だな~」
タケルは温泉に浸かっていた。
「は~極楽極楽。結構眺めもいいし、こんな温泉国を出てからひとつもなかったなあ」
結構気に入ったようである。
「は~、姉さんどうしてるだろ、無事だといいけどなあ」
タケルは星空を見ながらそう呟いた。
「さてちょっとのぼせてきたし、上がって涼んでからまた入ろ」
その時後ろに人の気配を感じた。
「ん、誰か来たのか? てかここ他のお客さんいたのか?」
そう思って振り返ると
「よっタケル、背中流そうか?」
そこにはアキがいた。
「ぎゃあああああー!」
「ど、どうしたんだよ!?」
「どうしたもこうしたもあるかー! なんで入ってくるんだーー!」
「別にいいだろ、仲間なんだから」
「いいわけあるかー! てか前隠せー!」
アキはタオルもなんも巻いてません。
すっぽんぽんで仁王立ちです。
「えー? お師匠様とは毎日一緒に風呂に入って背中流しっこしてたぞ?」
「そりゃ子供の頃だろがー!?」
「いや、お師匠様が亡くなるまでだから去年まで」
「この変態ロリコンジジイめーーーー!」
「誰が変態ジジイじゃー!」
「てめえだーーーー! ・・・・・・って、え? あれ?」
タケルは声のした方を見ると
「まったく。せっかくゆっくり浸かっとるんじゃ、静かにしてくれんかのう」
そこには白髪で立派な髭を蓄えている、少し痩せた感じのじいさんが湯に浸かっていた。
「え? じいさんいつの間に?」
「最初からいたぞ。お前さんが入ってきた時からの」
「え、全然気配感じなかった」
「ひょひょひょ・・・・・・しかしそこの嬢ちゃんはこれから成長するじゃろが、今もええのう。それと後ろのねえさんええ体しとるのう」
「ん? 後ろのねえさん?」
よく見ると
「ありゃ、タケちゃんだけじゃなくて知らん人もおったとね」
シオリに変身したユリアがいた。
「てめえええーーーー! その姿ですっぽんぽんになるなーーーーー!! てか触らせろーーーーーー!!!」
こっちも全然隠してない・・・・・・てか毛玉だからそういう感覚がないのか?
あとタケル、それはシスコン通り越してるぞ・・・・・・
「ちょ、やめてー!」
「うるせーーー!」
「ちょ、おい、タケル・・・・・・」
「ひょひょ、・・・・・・ほい」
ボンッ!
ユリアは元に戻った。
「あ、あれ? 何で元に戻ったと?」
「今のは呪文無効化の秘術。ってじいさん何者だ!?」
「儂か? 儂はジェイガンという旅の魔法使いじゃ、人はJと儂を呼ぶ」
「キ◯グバトラージュニア様に謝れー! てかいいところで戻すなー!」
「Jは冗談じゃ、そんなに怒るでないわ」
「ユリア、もっかい変身しろー!」
「もう魔法力ゼロやけん今日は無理や・・・・・・てかタケちゃんなんか怖か」
「じいさん! 魔法力分け与える魔法使えねーか!?」
「さすがにそれは使えんのう」
「ちくしょー!」
「なんかタケル壊れてないか?」
「ねー、お父ちゃん。あのおにいちゃんどーしたんでしゅか?」
「娘よ、あんな大人になったらアカンで」
「はーい」
騒いでるのを聞いて様子を見に来た宿屋の親子がそう話していた・・・・・・
(3)
次の日、タケル達は町を散歩していた。
「しかし昨日のタケルは壊れまくってたな」
「身の危険を感じたと」
「すまん、二人の裸見ておかしくなってた」
「ひょひょっ、若いのう」
何故かジェイガンじいさんも一緒である。
「てかじいさん、当然のように着いて来るな」
「えーじゃろ別に」
「いーじゃん別に」
「別によかとね」
「・・・・・・もういいや。ところでじいさんは何日もあそこに泊まってんだな」
「おお、あそこは静かじゃしゆっくりできるからのう。それに近所の娘さんも温泉に入りに来るから気配を消してじっく」
「さっさと黄泉比良坂へ行け変態じじい」
「お前さんに言われとうないわシスコン少年」
「・・・・・・そういやじいさんも旅人なんだよな、何か目的あるの?」
「いや、ただあちこちと旅したくなったんじゃよ」
「何で?」
「いやな、これでも昔は城勤めじゃったんじゃ。若い頃は仕事ばっかりでそれなりに評価もしてもらえてたわい」
「へー、凄いじゃんか」
「大したことじゃないがの。そして年月が立ち歳をとって城勤めを引退したんじゃ。その時『はて、儂はこれから何したらいいんじゃ? 考えてみたら儂って仕事以外で何もしとらんかったし、何も見てこなかったわ』と思ったんじゃ」
「そういう人結構いるよな」
「ああ。そしてそういえば昔『いつか時間ができたら旅がしたいなあ』と思ってたのを思い出した。そうじゃ、残り少ない余生でまだ見ぬ世界をできる限り見て回ろう、そう思って旅に出たんじゃ」
「ばってん、じいちゃんご家族は?」
「仕事ばかりの人生だったから嫁も子供もおらんわ。そういう意味でも魔法使いじゃった」
「ゴラじいさん、過去形って事は今は違うのか?」
「ああ、旅に出てからそういう事もした」
「・・・・・・いろいろすげえな」
「そうか? ひょひょひょひょ。でも儂みたいに歳取ってからより、若いうちに何でもやっとく方がええぞ」
「・・・・・・うん、そうだね」
そうして話していると
「きゃあー助けてー!」
「お、若い女の子が助けを呼んでるぞい、早く行かんと」
「何でいつも誰かが助けを? まあいいか、早く行こう」
「おお、助けた後その子と一緒に烏龍茶でもしばこうかの」
「・・・・・・何で烏龍茶?」
(4)
「きゃあ~助けて~、離してくださいです~」
そう言ってるのは栗色の髪の女性だった。
「うるさい、団長にぶつかっておいてただですむと思ってるのか?」
「そんな~そっちからぶつかって来たんじゃないですか~」
「口答えするのか、団長、どうしますか?」
「ふん、まあお前達の好きにしろ」
「はっ! おい、こっちへ来い! たっぷり可愛がってやるぜ」
「なんつー奴らだ、てか誰も止めないのかよ?」
タケルはそう呟いた。
「旅の方、あれは我が国の精鋭魔法兵団なんです。最近あんな感じで・・・・・・逆らおうもんなら皆」
近くの露店の主が小声で答えた。
「ひどかね、城に訴えたらば?」
「訴えたんですがどこかで握り潰されてるのか、何もしてくれません」
「どうするタケル? ぶっ飛ばすか?」
「そうしてもいいけど、後で町の人に報復されるのはなあ」
「ひょひょ、ここは儂に任せてもらえんか?」
「え、じいさん大丈夫か?」
「心配するな、死人は出さんよ、たぶん」
「じゃなくてじいさんが・・・・・・いや、わかった。でも無理しないで」
「まあ、本当にやばくなったら逃げるわい、じゃあちょっと行ってくる」
そう言うとジェイガンは魔法兵団の近くまで歩いて行った。
「タケル、じいちゃん一人で大丈夫かな?」
アキが心配そうに言うと
「気づいてないか? あのじいさん相当な手練れだよ」
「そうなのか?」
「ただのおじいちゃんにしか見えんと」
「まあ、少し見てよう」
「あーもしもし」
ジェイガンは近くにいた兵士に話しかけた。
「あ? なんだじいさん?」
「ちょっとそのお嬢さん貸してくれんかのう、そしてお嬢さんとデートさせてくれんかのう」
「何言ってんだこのじいさん? いいからあっちへ行け」
「老い先短い年寄りに少しの楽しみをくれたっていいじゃろ」
「しつこいようなら年寄りでも容赦せんぞ」
「ほう、どう容赦せんと?」
「これでもくらえ!」
兵士の一人がジェイガンに向けて爆発魔法を放った。
だが
「ん? 今何かしたんかの?」
ジェイガンは何事も無かったかのように立っていた。
「・・・・・・え? 全く効いてない?」
「ひょひょ、そんなんじゃハエも殺せんぞい」
「このジジイ・・・・・・これならどうだ! 火炎魔法!」
兵士の手から炎が放たれた。だが
「ひょひょ、強風魔法」
ジェイガンの掌から風が勢いよく吹き出した。
うわああああー!?
ジェイガンの魔法で炎は消え、ついでに兵士も何人か吹き飛ばされていった。
「まあ、死んどりゃせんだろたぶん」
「き、貴様・・・・・・皆、一斉にかか」
「させるわけなかろ。ほれ、催眠呪文」
ZZZZZZ・・・・・・
兵士達は全員眠り込んでしまった。
ついでに女性も。
「ひょひょ、触り放題じゃのう・・・・・・と後にするか、転移魔法」
ジェイガンが転移魔法を唱えると、女性はタケル達のところに転移した。
「お、大丈夫のようだ」
タケルは女性が寝ているだけなのを確認した。
「おーい、頼んだぞーい」
「ああー、わかったー」
「ん。さてと」
(5)
「ほう、さすがじゃの。儂の呪文が効かんとは」
そこには団長がただ一人立っていた。
「ふん、その程度の呪文など効くか」
「そうじゃろのう。あんたはかなりの魔力がある。儂もこれだけの魔力を持ってるもんは初めて見たわい」
「わかるのか、そうだ。史上最年少で魔法兵団長になった天才のこの俺に敵う奴などこの国に、いや、この世界にいない」
「・・・・・・惜しいのう」
「ん、何がだ?」
「あんたはたしかに天才で魔法以外でも他の者より能力が高いんじゃろ。だからおそらく誰も面と向かってあんたを叱る事とかができんかったんじゃろな。そのせいで驕り高ぶリ過ぎて心が腐ってしもうとる」
「なんだと? 貴様、俺を愚弄するのか」
「さてと、哀れな若者にちょっくら灸を据えてやろうかの」
「これでもくらえ!」
団長は電撃魔法を放ったが
「ほい、呪文反射」
ジェイガンの前に光の壁があらわれた。
「ぎゃあああああー!?」
団長は跳ね返された魔法をもろに食らった。
「ひょひょ、自分の魔法をくらった気分はどうじゃ?」
「くそ、おのれ、これなら跳ね返せまい、極寒吹雪魔法!」
「ほう、ならば・・・・・・熱線魔法」
ジェイガンの魔法は吹雪を蒸発させて団長に当たった。
「ぎょええええ!」
「熱いか? なら冷やしてやろう、豪雨魔法」
「うわああああ!」
「す、すげえぜじいちゃん。あの団長かなりの使い手のはずだろ?」
「じいさんの方がもっと強い・・・・・・俺も一対一じゃ勝てないな」
「ねえタケちゃん、あの兵士達縛っといたほうがよかと?」
ユリアが指さした先では兵士達がまだ寝ていた。
「それで縛って鞭打って蝋でもたらすのか」
「そうそう、女王様とお呼び、って違うわーーー!」
「おお、ノリ突っ込み。・・・・・・まあ、そう簡単には目が覚めねえだろけど念の為にふん縛っとくか」
「ぜえ、ぜえ・・・・・・」
「どうじゃ? 少しは思い知ったかの?」
「ぐそう、こんな事、こんな事あるわけがない、俺が・・・・・・俺が」
「ふむ、まだあかんか・・・・・・じゃあ」
「はあっ!」
ジェイガンが言い終える前に団長は飛び上がって間合いを取った。
「こうなったら・・・・・・はああ」
そして全魔法力を両手に集中させ、自分の目の前に五芒星を描いた。
「あ、あれはまさか大魔法、極大五芒星呪文……やばい! あんなのぶっ放されたら町が!」
タケルは魔法を阻止しようと身構えたが、既に団長の呪文の詠唱が終わっていた。
「くそ、間に合わない!」
「消し飛べええええーーーー!」
ポス
「・・・・・・え?」
だが団長が放った魔法は小さい玉のようなものですぐ消えた。
「な、何故だ?」
「ひょひょ、さっきから儂が魔法力を吸い取ってたのに気づかんかったか?」
「な、なんだと?」
「・・・・・・この阿呆が! 民を守るべき魔法兵団長が民を困らせてどうするんじゃ!」
ジェイガンは杖で団長の頭を勢い良く叩いた。
「グッ」
「町を潰そうとしてどうするんじゃ!」
ポカッ!
また叩いた。
「こ、こんなはずは」
「まだわからんか!」
「く・・・・・・コノヤロー!」
団長はジェイガンに殴りかかったがあっさりかわされ、そして腕と胸ぐらを掴まれて背負投げで投げ飛ばされた。
「うお!? 柔術も使えんのかよじいさん!?」
「う・・・・・・あ」
「思い知ったか」
「う、う・・・・・・」
団長は涙を流していた。
その時
「もうその辺にしてくれんか、ジェイガン」
(6)
そう言ったのはいかにもどこぞの偉いさんっぽいじいさんだった。
「おお、テムジンじゃないか、久しいのう」
「ああ、お前が国を出て以来だから、十年ぶりだな」
「そうじゃったかの」
どうやら二人は旧知の仲らしい。
「国に帰って来てたのなら顔くらい見せに来い」
「嫌じゃ、じじいより若い女の子に顔見せた方がええわい」
「・・・・・・お前変わったな」
「そうじゃの。ところでなぜ止める? こやつとどういう関係じゃ?」
そう団長を指さして言った。
「それは儂の孫だ」
「おお、そうじゃったのか。・・・・・・たしかお前の息子さん夫婦は」
「二人共あの伝染病で亡くなった」
「ああ、そうじゃったの」
「それ故にたった一人の孫であるバロンがかわゆうてならんかった、幼いころから優秀で自慢の孫だった、だから」
「あまり叱りもせんかったんじゃな」
「ああ・・・・・・全ては儂のせいだ」
「大馬鹿もんが。おそらく町の人の訴えもお前が握りつぶしてたんじゃろ、宰相のお前ならそんな事容易いわな」
テムジンは黙って俯いていた。
「ちょっと待て、宰相って相当お偉いさんじゃねーか!?」
タケルは叫んだ。
「ああ、そうじゃよ。王国家臣団のトップじゃ」
「で、そんな人と普通に話してるじいさんは何者だ?」
「儂は」
「我が国の元魔法兵団長で名誉元帥ジェイガン・ギエンだろ」
「先に言うでないわ」
それを聞いた町の人が一斉に声を上げた。
ある者はあの方がとか、そういえば見た事あったとか。
「あ、貴方が? あのたった一人で蛮族の大軍を倒したとか、火竜を指先ひとつでダウンさせたとか、よくスターロードの盾にされてたとかいうジェイガン様?」
バロンは驚きながら言った。
「何か違うのも混じっとるが・・・・・・そんな事もしたのう」
「じいさんってここじゃ伝説の人なのか」
「すげえ人なんだなじいちゃん」
「ウチ、ファンクラブがあったら入るとね」
「正直誇張と思ってたが、事実だったのか」
「まあそんな事はどうでもいいわい。ところでどうじゃ、もうわかったか」
「はい……今回の事で上には上がいる事を思い知らされました。そして自分がいかに愚かだったという事を」
「ならこれからどうする?」
「今まで迷惑かけた皆に謝ります。そして精神を鍛え直します」
「そう、それと祖父さんを大切にな」
「はい、・・・・・・お祖父様、今まですみませんでした」
「いや、儂も悪かったんじゃ、許してくれ・・・・・・」
バロンとテムジンは泣きながら抱き合った。
「さてと、儂はまた旅に出ようかの、とその前に・・・・・・覚醒呪文」
ジェイガンは覚醒呪文でさっきの女性を起こした。
「う、う~~ん、は?」
「起きたかねお嬢さん、ささ、儂と烏龍茶でも飲みに行ってハレハレユカイでも踊ろうかの」
「ゴラー! せっかくカッコ良く決めてんだから最後までそれで行けやーーー!」
タケルは怒りながら叫んだ。
「ええじゃろが別に、堅苦しさばっかりでは人生しんどいぞい」
「あの~」
「うん、なんじゃお嬢さん」
「私夫も子供もいるんです。だからご一緒にお茶は無理です~」
ガーン
「うう、それじゃしかたないのう。略奪愛など極大消滅呪文で消してしまいたいくらい好かんし」
「でも助けていただきありがとうございました、それでは」
そう言って女性は去っていった。
「まあ、じいちゃん・・・・・・そんな事もあるさ」
「なんならウチとお茶飲む?」
アキとユリアがジェイガンを慰めてた。
「おお、優しいのう・・・・・・よし、いずれ二人共食うとしょう」
「させるかーーー! てか毛玉妖怪でもいいのかーーー!?」
そして
「さてと、そろそろ行くか」
「そうだな」
「そうやね」
「そうじゃのう」
「コラじいさん、当然のように話に入ってくるな」
「ええじゃろが別に。それにお前さんらと一緒に行くわけじゃないわい」
「そうなの? 何かこの流れだとじいさんも仲間になるんじゃないかと」
「何じゃ、儂に仲間になって欲しかったのか? さては惚れたか? でも儂は衆道趣味はないぞい」
「ぶっ飛ばすぞ」
「冗談じゃ。あ、そうじゃ、これをやろう」
そう言ってジェイガンは袋から小さい杖を取り出した。
「何だこれ?」
「魔法の威力を増幅させる事ができる杖じゃ」
「え、いいのそんなの貰っても」
「ええとも、毛玉の嬢ちゃんが使えば少ない魔法力でもだいぶ回復できるじゃろから旅の助けになるじゃろ」
「ありがと、じいさん」
「それじゃあの、またどこかで会おうぞ」
「うん、またね」
こうしてタケル達はジェイガンと別れ旅立っていった。
「ひょひょ。そう遠くないうちにまた会いそうな気がするの。その時は仲間に入れてもらおうかの・・・・・・それとあの毛玉嬢ちゃんは・・・・・・そうじゃったのか」
第三話 終
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