第ニ話「二人目の仲間」

(1)


 タケルとユリアはてくてくとのどかな並木道を歩いていた。

 もっともユリアは浮いて飛んでいるのだが。


「ねーねー、タケちゃん」


「なんだそのタケちゃんって」


「タケルやけんタケちゃんでえーやん」


「それだとさ、どこかの強きを助け弱きを憎むヒーローを思い浮かべるわ」


「なんやのそれ?」

「気にするな、それより何だ?」

「うん、ウチお腹すいたんやけんど」

「もうじき町に着くから、それまで我慢しろ」


「えー? 前のおにぎりもーないん?」

「ない」

「えー、じゃあ魔法でまた生やしてーな」

「あれはそうそう使えないんだよ」

「そーなん?」


 そうこう言ってるうちに二人は町に着いた。

 その町はそこそこ大きく人通りも多かった。


「さてと、どっかに食堂でもないかな」

「タケちゃん、あそこにあるけん」

「だからタケちゃんって……もういいやそれで」

 そうして食堂に入ろうとすると

「きゃー!」


 どこからともなく悲鳴が聞こえてきた。


「なんだ? また訳のわからん生物が追いかけてられてるのか?」

「またって何ねー!?」


 声がした方へ行くと今度は普通の人間の女性がゴロツキ達に絡まれていた。

「へっへっへ、ねえちゃんよお、いいから俺達とティーでもドリンクしよーぜー」

「ハァハァ、その後オラとお医者さんごっこして遊ぼうよ」

「やめてください! 離してください!」


「うわー典型的なのーてんクルクルパーどもだな」

「はよ助けてあげんと」

「あれ、話通じそうもないな。しゃーない、ぶっ飛ばすか」

 そう言ってると


「やいやいやいそこの変態! あたいが相手だ!」

 ショートボブの髪型で体型は誰がどう見ても子どもにしか見えん、それくらいいろいろ小さい少女がゴロツキに怒鳴った。


「なんだテメエ、ガキには用はねえから引っ込んでろ!」

「誰がガキだ! あたいはこれでも十六歳だ!」


「ハァハァアニキ、この娘もいいじゃんか」

 ゴツくて変態そうなゴロツキが兄貴分のゴロツキに言った。

「ならおめえが相手してやれ」

「ああ、ささお嬢ちゃんオラと一緒におふ……」

 ドゴオ!

「あ~れ~?」


 何か言い終わる前に変態は少女の一撃を受けて、遠くへ吹っ飛んでった。


「おお、なかなかの腕前」

「すごかー」


「どうだあたいの拳は?」

「テメエ、しかしこれならどうかな?」

 そういうと男は拳銃を取り出して女性を捕らえて銃を頭に突きつけた。

「動くんじゃねえぞ! 動いたらこいつのドタマ撃ちぬくぜ!」


「卑怯だぞ!」


「へっへっへ、そいつは俺にとっては褒め言葉だぜ」


「うわー、拳銃持ってたのかよ、てかとことん典型的だな」

「どうするねタケちゃん!?」

「うんそれじゃあ、ブツブツ……瞬速!」

 タケルは超スピードで動けるようになった。

 そしてあっという間に女性を助け出した。


「な、い、いったい何が起こったんだ!?」

「今だ!」

 少女が大きくジャンプして、男の顔面に飛び膝蹴りを喰らわせた。

「ぎゃあああーー!」

 男も遠くへ吹っ飛んでった。

「さすがにお師匠様がやるみたいに頭は割れねえか」

 それでも充分すごい威力だが。


「あ、ありがとうございました」

 女性はタケルや少女に礼を言った。

「なに、いいってことよ、あ、そこの兄ちゃんありがとな」

「いやいいよ……うっ!」

 タケルは急に倒れた。

「お、おい、どうした?」

「ちょ、タケちゃん、しっかりするとねー!」


「う、うう」


「なあ、もしかしてどこか怪我してたのか?」

 少女が心配そうに尋ねた。


「……腹、減った」


 ズコオッ!


 全員ズッコケた。


(2)


 ズルズルガツガツ

 タケルはさっき入ろうとしてた食堂でラーメンを食べていた。

「う~、このラーメンホント美味いよ」

「よかった、どんどん食べてくださいね」

 さっき助けた女性はこの食堂の娘だった。

 お礼という事でごちそうになっていた。


「しかしいきなり倒れたからびっくりしたとね」

「ゴメンゴメン、神力使うと腹減りやすくなるんだよ」

「神力って? 魔法やないの?」

「うん、魔法とはちょっと違うかな」

「ふーん、そうなんや」


「ズルズル……おかわりー」

 当然ゴロツキをぶっ飛ばした少女も一緒だ。

 この少女見かけによらずよく食べる。

 もうすでにメガ盛りラーメン5杯目。


「あんたちっこいのによー食べるやん」

「そりゃー武闘家だもん」


「武闘家は関係ないと思うが」

「そうか? あ、自己紹介してなかったな、あたいはアキってんだ」


「俺はタケル、それでこっちのナマモノはユリア」

「ナマモノってなんやー! このシスコン!」

「おねーさーん、これラーメンのダシにしてー」

 タケルはユリアを掴んで女性に差し出した。

「やめてー!」

「アハハハハ、おもしれーコンビだな」


 食べ終えてから

「ところであんたら旅人だろ? 何で旅してるの? 目的地は?」

 アキが身を乗り出してタケルに尋ねた。

「ああ、西の国へ行く途中なんだ」

「あそこにゃ魔王がいるよな」

「結構有名なんだね、その話」

「知らないやつはいないんじゃないか?」

「いや、俺はつい最近まで知らなかったんだよ。なんせ大和国ってとこから来たんで」

「大和国? もしかして東の方にある島国?」

「知ってるの?」

「ああ、あたいのお師匠様はそこの生まれだって言ってた」

「へー、そうなんだ。アキのお師匠様ともなると相当な武術の使い手だろね」

「ああ、すげー強かったよ。でも……殺されたんだ」

 アキが暗い顔になって俯く。


「あ、ゴメン」

「いいよ、あたいが話し始めたんだし」


「なあ、もしかしてアキは師匠のカタキを探す旅を?」

「そうさ。ヤツは絶対あたいが倒す」


 そうして話していると、入り口のドアが大きな音を立てて開いたかと思ったら

「親分、こいつらです!」

「そうか。おいテメエら! よくもうちのモンをかわいがってくれたな!」

 さっきのゴロツキはまだ生きてたようで、親分と大勢の仲間を連れてきた。


「うわ~とことん典型的すぎ~」

「ちょ、結構数いるとね」

「あー、腹ごなしにゃちょうどいいか」

「そうだね。それじゃあここだと迷惑だから外へ行こう。さ、あんたらも表へ出て」



 そして

「ま、ざっとこんなもんよ」

「やっぱ強いねアキは。しっかし俺も久しぶりに剣使ったな~」


「タケちゃんって剣使えたんやね」

「まあね」

 親分以外のゴロツキどもは見るも無残な姿と化していた。


「さーて、親分さんどうする? あたいの百裂拳でも喰らうか?」


「こ、こうなったら先生、出番ですぜ!」


(3)


「先生! 出番ですぜ!」

 そう呼ばれて現れたのは長髪で顔つきは中性的だが目は鋭い剣士だった。

「さあ、先生! やっちゃってください!」

「断る」

 剣士は無表情のままそう言った。

「はい!?」

「俺は女子供は斬らん」

「いやそりゃないでしょ!? 高い金払ってんだからやってくださいよ!」


「おい、なんだありゃ?」

「さあ?」

「えー男やねー、女子供は斬らへんって」

「てめーは絶対斬られるぞ」

「ウチはこれでも十七歳の乙女やー!」

「謝れー! 永遠の十七歳様に謝れー!」

「おいおい」


 しばらく待っていたが、

 ゴロツキ親分が剣士をタケル達にけしかけようとしてるが、彼は一向に動く気配がなかった。


「あーもう! 来ねえならこっちから行くぞ!」

 いらついたアキが剣士に向かって突撃していった。

「む?」

 剣士は剣を鞘に収めたまま構え、

「うりゃああ!」

「フ……」

 余裕でアキの攻撃をかわした。

「な、このやろー!」

 アキが蹴りやパンチなど連続攻撃を仕掛けるが剣士は最小限の動作で攻撃をかわし続けた。

「てめー避けんじゃねー!」


「かなりの腕のようだが、まだまだだな」

「なんだと?」


「動きに無駄がある。それではそこのゴロツキ程度ならともかく俺は倒せんぞ、はっ!」

「うわあっ!」

 剣士は剣の柄でアキのみぞおちに一撃を喰らわせ、タケル達のところまで突き飛ばした。

「く、くそ、うっ」

 アキは気を失って倒れた。


「わー! アキちゃんしっかりするとねー!」

「ユリア、叫んでないでアキに回復魔法を」

「う、うん」

 ユリアにアキの介抱を頼んだタケルは剣士の前まで行き

「イケメン剣士さんよ、次は俺が相手だ」

 そう言って剣を構えた。

「む? その構えはもしや……いいだろう、相手になろう」

 剣士も剣を抜いて構えた。


(4)


 タケルと剣士は剣を構え睨み合った。

「俺は剣士オード、お前の名は?」

「俺はタケル」

「そうか、では」

「ん」


 しばらく睨み合いが続き


「ちょ、二人共全然動かんとね」

「互いに隙を伺ってるんだろ」


「あ、気がついたと?」

「ああ。ユリアありがと、回復魔法かけてくれて」

「ウチ、これくらいしかできんと」

「魔法使えないあたいからすれば充分すげえよ・・・・・・ん?」

「どしたと?」

「・・・・・・動く」


 その時風が吹き、睨み合う二人の前に木の葉が飛んできた。すると

「「・・・・・・はっ!」」

 両者共に目にも留まらぬ早さで剣を繰り出し・・・・・・しばらく剣が打ち合う音のみが聞こえるだけだった。


「す、すげえ・・・・・・」

「す、すごか・・・・・・」


 そして

「うりゃあ!」

「むん!」

 二人の剣が重なり鍔迫り合いになった。


「すげえなあんた、こんなに強い相手は久しぶりだ」

「フッ、俺もだ。……その剣捌き、あやつを思い出す」

「あやつって?」

「俺に勝ったら話してやろう・・・・・・はっ!」

 オードはそう言って体をさばいて斬りかかる。

「うおっ!?」

 タケルはそれを剣で受け止め

「はあっ!」

 っと押し返した!

「ぬおっ!?」

 そして

「でりゃあああー」

「はああああー」

 激しい打ち合いとなった。


「すげえ・・・・・・剣術と拳法の違いなんて関係なく二人共あたいとは次元が違う。それに」

「どしたと?」

「なんというか・・・・・・なんか二人共戦いを楽しんでるような?」

「そうなん?」

「ああ、なんかそう見える」


 いけー!

 負けるなー!

 どっちもがんばれー!

 いつの間にか町の人々も戦いを見に来ていて、両方を応援していた。


 そして黒の使者Gのごとくしぶとく復活したゴロツキ達は

「なんつーか、すげえ」

「なんかカッコいいって思ってしまった」

「あいつ拳銃で撃とうかと思ったけど、こんなので邪魔しちゃいかんよな」

「オ、オラあの人達になら掘られてもいい」

「親分、どうしましょって、え?」


「黙って見てろ」

 親分は滝のように涙を流しながら言った。



 やがてどのくらいの時間が流れたか・・・・・・

「はあ、はあ」

「ぜえ、ぜえ・・・・・・」

 二人共体力の限界が近いようだ。


「フフ……久しぶりに楽しめた」

「こっちもね」

「そろそろ終わりとしよう」

「ああ」


 お互い間合いを取り構えをとった。


「・・・・・・フ、いくぞ・・・・・・剣王星光剣!」

 オードは超スピードで突進してきた!

「・・・・・・夢幻流、竜突剣!」

 タケルも突進していった。

 そして両者が激突し、大きな衝撃音が聞こえた。


(5)


 互いの技が激突し・・・・・・両者共に倒れた。


「あ、相打ち?」

「え、え・・・・・・?」

「どっちも動かねえ・・・・・・」

「ちょ、タケちゃん・・・・・・まさか」

「お、おい・・・・・・嘘だろ」

 その時


「う、う~ん」

 タケルは起き上がった。


「タケちゃーん!」

 ユリアが飛び出してタケルに抱きついた。

「うわ何だてめー!? 動けねえ俺を強姦する気か!」

「違うわ~! 心配したんけんこのアホンダラがー!」

 ユリアは泣きながらそう言った。

「ああ、ゴメンゴメン・・・・・・ありがと」

「ほ・・・・・・よかった」

 アキもほっとしてるようだ。


 そして

「先生、しっかりしてくだせえ!」

「誰か回復魔法使えねえのか!?」

「そんなもん使える奴がうちにいるわけねえでしょ!」

「ハアハア、ならオラが人工呼吸d・・・・・・ぐふわ!?」

 ドゴオ!


 オードは無言で起き上がり変態ゴロツキを殴り飛ばした。


 そしてタケルの方を見てこう言った。

「どうやら俺の負けのようだ」

「いや、両者ノックアウトだし引き分けだろ?」

 タケルがそう言ったがオードは

「お前が先に気がついて起き上がっていた。たからお前の勝ちだ」

「……うん、わかった、俺の勝ち」

「そうだ、それでいい」


 周りから歓声や拍手の音が降り注いだ。


「は? いつの間にこんなにギャラリーが」

「……悪くないものだな、こういうのも」


 そして双方その場で手当てを受けた。

 ちなみにユリアの魔法力はとっくにゼロである。

「あ、そういえば。ねーオードさん」

「なんだ?」

「さっき言ってたあやつって?」

「ああその事か。あやつとは傭兵になってからの俺を初めて負かした男でな、彼はお前と同じ剣法を使っていた」

「俺と同じ?」

「ああ、俺が別の盗賊団に雇われてた時の事、ある村を襲おうとした我々の前にあやつは立ちはだかった、あっという間に盗賊や他の傭兵達は倒された。俺は一番最後に戦ったが全く歯が立たなかった。そして俺は死を覚悟したが」




「な、何故殺さん」

「・・・・・・いずれわかる時が来るだろう」

 そう言って男は去ろうとした。

「待て、お前の名は?」

「・・・・・・ガイ」



「え、ガイってまさか!」

「やはり知っている男か」

「うん、姉さんの婚約者で俺の剣の師匠でもあり、兄さんみたいな人だよ。でも」

「あやつは誰かを探す旅をしているとも言ってたな」

「ずっと以前に姉さんを探しに旅に出たんだけど」

「そうか、あやつは今も旅の空か」

「どこかで姉さんが西の国にいるって聞いてればいいんだけど」


 二人が話していると


「さあ、こいつらを捕まえなさい!」

 この町のいかにも悪代官みたいな太った役人が兵士を引き連れてやって来た。


「なんだ今頃!」

「てめーら今まで何もしてこなかったくせに!」

 町の人達は口々に叫んだ。


「フォフォフォ、まともにやりあったらこっちの被害が大きいですからね、かと言って傭兵雇うのも金がかかりますからね、誰かが弱らせてくれるのを待ってたのですよ」


「うわー最低なやつ」

「ホントーに最低やね」

「引っ込めー!」

「てめーらなんかにゃ用はねえー!」

「出てけー! 税金ドロボー!」

 


「うん、ここにいる全員逮捕しましょう、さあ、かかれ!」

 兵士達が一斉に向かっていく。


「う、今の状態じゃ戦えない……」

「ちょ、どーするとね?」

 その時

「心配するな……おい、町の皆!」

 ゴロツキ親分が叫んだ。


「は、はい!?」


「今まで散々迷惑かけちまったな。だが、もうこれで最後だ」

「え?」


「先生とその坊主達を頼むぜ……野郎ども! 続けー!」

 おおー!


 ゴロツキ達は兵士達に突撃していった。


(6)


 ゴロツキ達は兵士達に突撃していった。

 しかしさっきボコボコにやられた体は完全には回復していない。

 一人また一人と倒れていく。それでもゴロツキ達はタケルやオード達を守ろうと必死に戦った。


「くそ」

「フォフォフォ、おとなしく全員捕まりなさい、そうすれば少しは減刑してあげますよ」

 役人がそう言うと親分は

「ふざけんな! そう言って騙し討ちにでもするつもりだろ!」

「フォフォ、聞きませんか。じゃあこの場で死になさい」


「うぉりゃあああああ!」

「ん、なんですか?」


 ゴロツキの後ろからアキが飛び出してきた。そして瞬く間に兵士達をなぎ倒していった。


「やめな嬢ちゃん! それ以上やったら嬢ちゃんも重罪人だ、それは下衆の俺達だけでいい!」


「うるせー! あんたらだけ戦わせてられっかー! それにあんたらは下衆じゃねー!」

「そうだ! 下衆はあいつらだ!」

「皆やるぞ!」

「おお、あの娘に続けー!」

 町の男達も後に続いた。


 ドカドカッ

 オラオラオラオラ

 ブチューぎゃああああ


 そして兵士達は全員アキや町の男達、ゴロツキ達に倒された。


「へへ、後はあんた一人だな」

「フォフォ・・・・・・私をただの役人だと思ったら大間違いですよ」

「ただの太った役人だろ?」

「これでもですか?」

 なんと役人は口から勢い良く火炎を吐いた!


「うわああああ!」

 アキや周りに居た男達は火炎攻撃を受けた。


「な、あいつ魔物か!? 口から火を吹くって!?」

「たぶんあいつは火の精霊と相性がいいんだろう、だからああいうことができる」

「おい精霊。相手を選べよ」

「精霊に人間の善悪など関係ない」

「そうなの? くそ、体が動けば」

「俺も普段ならあんな奴瞬殺できるが・・・・・・くっ」


「うう・・・・・・」

 アキは直撃は免れたもののダメージは軽くない。

「フォフォフォ、皆焼き殺してあげますよ」

「させるか、うっ・・・・・・くそ」

 アキは思うように体が動かせないでいた。

「こんな時お師匠様なら・・・・・・そうだ!」


 アキはその場で構えをとった。

(お師匠様、あたいに力を)


「おや、何をする気かな、まあいい、燃えてしまいなさい」

 役人が再び火炎を吐くとアキはその炎に包まれた。


「ぎゃあー!? アキちゃーん!」

 ユリアは目を覆った。


「フォフォフォ、骨も残らず焼け、な!?」

 アキは燃えていなかった。

 それどころかアキの体は光で覆われていた。


「え、あれはまさか!」

「もしかして、伝説の聖闘気!?」

 タケルとオードが叫んだ。


「すぅー、はぁー」

 アキは呼吸を整えながら気を集中していた。

「ぐぬ・・・・・・これならどうだ! 喰らいなさい! 極大煉獄火炎!」

 役人は黒い炎を勢い良く吐き出した。


「・・・・・・はああああ!」

 アキの右腕に闘気が集まり

「武天流、猛虎烈光波!」

 正拳突きの要領で拳を繰り出すと、そこから虎の形をした闘気弾が放たれた。


「うぎゃあああああああ!?」

 闘気弾は煉獄火炎を突き破って役人に直撃し


「そ、そんなバカな」

 役人は倒れた。


「今までできなかったのに、へへ、やったぜ!」

 アキはガッツポーズで喜んでいた。


「よっしゃああああ!」

「すげえぜ嬢ちゃん!」

「きれい・・・・・・何か光ってて女神様みたい」

「オ、オラあのお嬢様に踏んでもらいた・・・・・・ぐふう!」

「てめえはいいかげんにしろ!」

「すげえよ、アキ」

「・・・・・・まだまだと言ったが訂正せねばな」

「アキちゃーん、無事でよかったとね~(泣)」

 皆アキの元に駆け寄った。

 タケルとオードは町の人に担がれて。



 それからこの地方の領主がやって来て役人達を捕らえていった。

 役人やその仲間には脱税の疑いがあったが、今まで証拠がなく捕まえれないで悔しい思いをしてたところ、何故か空から役人の裏帳簿が降ってきた。

「これで奴らを捕えられる!」

 と領主が叫んだらどこからか

「また失敗だー、びえーん!」

 と泣き声が聞こえたが、誰も居なかったので空耳だろうと思った。


 そして

「領主様、俺達もさんざん町の人に迷惑をかけました、どうかお裁きを」

 ゴロツキ親分がそう言うと

、私は忙しいのだ。つまらん冗談は言わんでくれ」

 領主が親分をそう呼んだ。

「え?」

「町の衆、彼はこの町の自警団団長で相違ないな?」

 領主が町の人々に尋ねると


「はい、そうです」

「ええ」

 皆口々に肯定した。


「え、えと?」

 それを聞いた親分が戸惑っていると


「詳細は先程聞いた。君達はこれからこの町を守ってくれ。罰が欲しいと言うならそれが罰だ」

 領主は小声で親分にそう言った。


「はい、わかりました・・・・・・うう」

 親分いや、団長は涙を流した。



「さてと、そろそろ行くね」

 何日かして回復したタケルはそう言った。

「タケルさん、皆さん。本当にありがとうございました」

 団長はタケル達に礼を言った。

「え? 俺達別に何もしてないけど」

「いや、貴方達が来なかったら俺達はずっと暗い道を歩いてた……何回礼を言っても足りねえ」

「ん、そう、じゃあ今度来た時には何か美味いもの食わせて」

「はい、お待ちしてます。あ、それと先生から『またどこかで会おう』と言伝を」

「顔くらい見せて行ってよ、オードさん」


 そして

「それじゃあまたね、ユリア、行こう」

「ちょっと待てよ」

 アキが二人を呼び止めた。

「ん、どしたの?」

「あたいも連れてってくれよ」

「え?」

「お師匠様のカタキも探さなきゃだけどさ、その、なんというかあんたらと一緒に旅したくなったんだよ。なあいいだろ?」

 アキはちょっと恥ずかしそうにそう言った。

「いいよ、一緒に行こう」

「ありがと。じゃあこれからよろしく!」

「ああ」

 タケルとアキは握手した。 

「わーい、アキちゃんも一緒ねー」

 

 こうして三人は町の人達に見送られて旅立って行った。

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