第一話「すべての始まり」
ここは鬱蒼とした深い森の中。
どこまで行っても出口は見えない。
そんな所を一人歩いていた、黒くてボサッと逆立った髪、やや幼さが残っている顔立ちの、旅装束を身に纏っている少年。
「うーん、どっち行けばいいんだよ? 誰も通らないよなあ、ここって」
少年がその場で考えてこんでいた時
「キャー助けてー!」
何処からともなく悲鳴が聞こえてきた。
「お、誰か助けを求めてる?」
少年は声がした方へと駆けて行った。
するとそこでは、体長40cm程の緑色の毛玉妖怪(?)が狼のような獣モンスターに追いかけられていた。
「なんだ食物連鎖か、ほっとこ」
少年がそう言って振り返ると
「ゴラー! 助けんかーい!」
少年に気づいた毛玉妖怪が涙を流しながら叫んだ。
「おとなしく食われろ、それが自然の摂理だ」
「そげなこと言わんと助けてーなー!」
「うーん。しゃーない、助けてやるか」
少年は毛玉を庇うように、モンスターの前に立った。
「おいモンスターさんよ、こんなもん食うてもたぶん美味くないぞ?」
酷い言い草である。
「うるせー! そうかもとは思ってるが、やっと見つけた久しぶりの獲物なんだ! 邪魔するな!」
獣モンスター腹を押さえ、苛つきながら少年に向かって言う。
「え、この森ってそんなに食べ物ないの?」
少年が尋ねる。
「ああ! 人間たちによる環境破壊のせいで、もうほとんど動物がいないし食べられそうな実もできないんだよ!」
獣モンスターの目には怒りが篭っていた。
「そうか。うん、あんたやっぱり食われろ」
「ぎゃー! そげな殺生なー!」
毛玉が泣き叫ぶ。
「冗談だって。なあモンスターさん、とりあえずこれ食べる?」
少年はそう言って腰袋から何やら取り出した。
「なんだこれ?」
「おにぎりって食べ物でね、俺の国ではよく作られてるんだ。まあひとつどうぞ」
獣モンスターはおそるおそるそれを口にした。
「う、美味い!」
「よかった。さ、たくさんあるからどんどん食べて」
獣モンスターは腹いっぱいおにぎりを食べた後、少年に尋ねた。
「なあ、これどこで手に入るんだ?」
「え? うーん、ここらじゃ見かけないなあ。俺の国に行けばたくさんあるけど、かなり遠いよ?」
それを聞いた獣モンスターはガックリしたようだった。
「ん? どうしたの?」
「いやな、こんな美味いもんがあるなら仲間達にも食わせてやりてえなと思ったんだよ」
「あ、これは稲という穀物で作ってるんだ。種持っているからあげるよ」
少年はそう言って、腰袋から種籾が入った袋を取り出した。
「ありがたいが、それじゃ実がなるまで時間かかるだろ?」
「大丈夫だよ。今回だけすぐできるようにするよ」
「え? そんな事できるのか?」
「うん。それじゃさ、どっかに広い場所ない? 川か池が近くにあればもっといいけど」
「俺達が住んでいる場所の近くに浅い沼があるが」
「それ、ちょうど良さそう」
そうして少年は獣モンスターに案内されて彼らの棲家へ行った。
森に一人は怖いからと毛玉もついてきた。
案内された沼地につくと、少年は種を取り出して蒔いていった。
そして今度は金色の砂を取り出してそれを蒔き、そして何やら呪文を唱えた。
するとあっという間に芽が出て、沼地全体が黄金の稲穂に包まれた。
「ええええ!?」
獣モンスターはそれを見て仰天した。
「さ、驚いてないでこれ皆で収穫して食べようよ」
その後モンスターの仲間達もやって来て、全員で稲を収穫し、それを炊いて食べた。
「これは今回だけだからね。次は自分達で時間かけて育ててね。その方がもっと美味しいはずだから」
少年はモンスター達に言った。
「わかった、ありがとうな。しかし人間にも良い奴はいるのだな」
「この人ウチを見捨てようとしてたけんど」
「これ、鍋に入れてスープにでもする?」
少年は毛玉を掴んで獣モンスターに差し出した。
「ぎゃー! やめて~!」
「じゃあ、そろそろ行くわ」
「本当にありがとう、達者でな」
「うん、また来るね。その時はおにぎり食わせてよ」
そう言って少年は旅立っていった。
しばらく歩いていると、後ろから毛玉が飛んで追いかけてきた。
「ねーねー、ウチも一緒に連れてってーな」
毛玉が自分を指して言う。
「ん? まあいいけどさ、あんた何か特技でもある?」
「一応回復魔法は使えるけん、あと変身呪文も」
「え? そんなもん使えるなら逃げなくてもさ、怖い化け物にでも変身して相手ビビらせればよかったじゃんか」
「変身呪文って詠唱時間長いうえに、じっとしてないと唱えられんのよ」
「あ、そうなの。じゃあ今なんかに変身できる?」
「うん、ちょーっと待って、テクマクマヤコンテクマクマヤコン」
そう呪文を唱えると、毛玉は若く美しい女性に変身した。
「どう、こんなもんでって、なんで泣いてるんやー!?」
少年は滝のように涙を流していた。
「ああごめん。その姿が行方不明の姉さんによく似てたもんだから、つい」
「ありゃそうやったとね。じゃあもしかしてこの姿のモデルになった人、あんたの姉さんかもしれんと」
そう言いながら毛玉はまた自分を指さした。
「え? その人に会った事あるのか?」
「うん、少し前に西の国で怪我してたところを助けてもらったとよ。そんでその時に回復魔法や変身呪文教わったんよ」
「そうなんだ。あの、その人の名前は?」
「この人の名前はシオリっていうんやけど」
「間違いない、姉さんだ。以前西の国にいるって話は聞いていたけど、本当だったんだ」
「でも今あそこ物騒やけん、大丈夫やろか」
「え? 西の国って天国のようなとこって聞いたけど?」
「昔はそうやったらしいけんど、今は魔王が支配しとるんよ。そんで魔王軍と人間達が戦争しててね、一般人は国から逃げ出してってるわ。てかウチも逃げてきたんよ」
「姉さんは?」
「残って逃げられない人を助けるって」
「そうか……よし、俺もう行くけど、あんたはどうする?」
「ウチもやっぱシオリさんが心配やし、一緒に行くとね」
「じゃあ、これからよろしく。そういや名前聞いてなかったな」
「ウチはユリアっていうんよ」
「南斗最後の将に謝れー!」
「なんでやー! ってあんたの名前は?」
「俺? タケルっていうんだよ」
こうしてタケルとユリアは西の国へと旅立っていった。
これがすべての始まりだった。
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