第2話 普通だと思ってたのに・・・

「ついでに学校も案内するね」


 そう言った青亜せいあは学校の方に歩き出す。

 そういう訳で、私も他のメンバーに会ってみたかったので男の提案に乗ることにした。


 歩いて門からグラウンドに入る。


 周りを見ると、青亜が言ったようにたしかに沢山のイラストが舞台の書き割りのように並んで重なり合って一つの絵になっている。


 ゲームを横から見るなんて変な感じだ。


 私は青亜の隣を歩いている。

 ふと横を見ると、横にいるからてっきり見えなくなっているのかと思っていたら、青亜はご丁寧に横顔のイラストになって歩いていた。


「あれ?そんなこともできるんだ?」


「そう、これは横顔バージョン、後は背姿のバージョンとかもあるよ」


「ああ、色んなイラストがあるんだね、そういえば実際のゲームもそんな感じだもんね」


 最初は相手が二次元のイラストなのでびっくりしたが喋っているうちに段々慣れてきた。

 何よりこのゲームのイラストは絵師さんがいいのかかなり綺麗で見ていて楽しい。

 私は男っぽいゲームをする事が多いが、漫画や小説は恋愛物も大好きでよく読む。

 だから乙女ゲームのキャラクターである男の姿に嫌悪感は無い、むしろどちらかというと好きな絵柄だ。

 漫画の表紙にあったら中身も見ずに買っていたかもしれない。


 ただ等身大の大きさの上、動いて喋っているところがまだ慣れないけど。


「あ、ほらあれがもう一人の攻略対象者の 伊集院琥珀いじゅういんこはくだよ、おーい 琥珀」


 そう言われた視線の先にいたのは長髪に真っ白な髪の切れ長の鋭い目のクール系のイケメンだった。


 そしてやっぱり二次元のイラストだ。

 別に期待していた訳ではないがこうなると完全にこの世界はペラペラの平べったいイラストしか居ない世界なんだと確定してしまった。


 琥珀は校舎の出入り口あたりで立っていて、青亜に気がついて顔を上げた。


「あれ?なんでこんなところに人間が?」


 琥珀は私を見ると目を丸くして驚いている。


「そうなんだよ、僕もよくわから無いんだけど、門の前らへんにいきなり現れたんだ、それで―――」


 青亜はそう言って今までの経緯を説明する。


「という訳で、この子もなんでここに居るかはわから無いから、埒があかないからみんなの意見も聞いた方がいいかなと思って」


「なるほど、そう言う訳か。初めまして、俺はこのゲームの攻略対象者の一人伊集院琥珀。」


「あ、初めまして私は乾明いぬいあかりです」


 そう言うと琥珀は青亜と同じように目を丸くして「え!アカリって・・・」と驚く。


 ヒロインに付けられてる名前が一緒と言うのはやっぱり驚くようだ。


「そうなんだよ、偶然だとは思うけどやっぱり驚くよな」


 そう言って青亜は頷く。


「・・・ああ、なるほど、そう言う事もあるのか・・・」


 琥珀も難しい顔をして考え込む。


「ふーん、アカリちゃんか・・・」


 琥珀はそう言ってまじまじと私を見る。

 イラストだけどイケメンに凝視されるのはやっぱりなんか恥ずかしい。

 青亜の時はパニックになってたからなんとも思わなかったけど、落ち着いて来ると改めて緊張する。


「あ、あの」


 私がそうモジモジしていると。


「琥珀、明ちゃんが怖がってるよ」


「ああ、ごめん、でも不思議な感じだな、三次元の人間って真近で見たのは初めてだけど平面じゃないと変な感じだ、見てると酔いそうだ」


「よ、酔う?」


 そんなことを言われるとは思わなかった。


「ああ、確かに立体って見慣れてないからかな?酔う感じはわかる」


 そう言って青亜も同調する。


 そんなもんなんだろうか?どちらにしろ私にはよくわからない。

 首を傾げていると、琥珀は本来の目的を思い出したのか。


「ああ、まあいっか、そう言う事なら全員の所を回って、教室で相談しよう」


 それから私達は連れだって学校の中をめぐりながら他のメンバーに会いにいった。


 メンバーはそれぞれバラバラの場所にいるようだ。


 琥珀の次は鏑木莉黄斗かぶらぎりきとと言う、こちらも攻略対象者。

 彼は職員室にいた。

 そう、彼は教師なのだ。

 髪は黄色くホスト風の風貌でもちろんイケメン。


 ここで攻略対象者たちが色でキャラクター分けされている事に気がついた。

 そういえばタイトルにあなた色とかなんとかってついてたな。


 その次のメンバーは図書館にいた、こちらは年下キャラらしく、おとなしく、少しオドオドしている。

 母性本能をくすぐるタイプだ。

 名前は御影綾緑みかげあやのり髪の色は緑。


 次は生徒会室、ここにいたのは生徒会副会長でありヒロインの恋路を邪魔するライバル役の女の子だ。

 黒髪で大人っぽい美女で少し目付きが鋭く近寄りがたい感じ。名前は国盛羽墨くにもりはすみ


 ちなみに青亜が生徒会長なのだとか。


 最後はヒロインが通う事になる教室だった。

 そこにはヒロインの親友役の女の子の楠木友美くすのきともみと最後の攻略対象者である赤池紅虎あかいけべにとらと言う男がいた。

 女の子は茶色の髪のツインテールで少し背が低くて全体的な雰囲気はふわふわしていてシーズー犬のように可愛らしい。

 男の方は名前でわかるように赤い髪で、いかにもスポーツが好きそうな元気キャラだった。


 さすが乙女ゲームのメンバーだ全員揃うとかなり華やかだ。


 全員イラストだが・・・。


 順番にに挨拶していったがやっぱり人間がここにいるのは珍しいのか驚かれる、そして私の名前を聞いてもう一度、驚かれる。


 まあヒロインに付けられた名前と同じ名前の人間がいきなり現れたら驚くか。


 そんなこんなで全員が教室に集まった。


 各々机や椅子に座り相談が始まる。

 ただ、ここにある椅子や机は絵なので私は座れない。仕方なく壁に寄りかかる。

 二次元の世界って不便だな。


 青亜が中心になってもう一度今までの経緯を詳しく話す。


「うーん本当に不思議ですね、なんでいきなりここに来たんでしょうね、本当に何の心当たりもないのですか?」


 そう聞いてきたのは大人の色気たっぷりの莉黄斗だ。


「いや、事故にあった以外で変な事はなかったよ、いつも通りの朝だったし、変な本を見つけたとか、開けちゃいけない扉を開いたりもしてないですしね」


 事故に会うだけでこんな世界に行ってしまうなんてそれこそ小説の中だけのことだ、滅多にないだろう。



「ゲームの世界でも今までこんな事はなかったですからね、データがなさ過ぎてなんとも言えないですね、そもそも二次元に三次元の人間がいる事自体おかしいんですけどね」


 そう言ったのは年下キャラの綾緑くんだ彼はとても頭が良いという設定もあるらしく、何かに難しい事を書きながら分析している。


 他にも色々話し合ったがなかなか話しは進まない、綾緑くんが言ったように情報が少なすぎるのだ、これ以上、話は進まなそうだ。


「そういえば、明はこんな事になったのに以外に落ち着いてるな、普通は慌てたりパニックになったりしそうなもんなのにな」


 そう言ったのは赤い髪の紅虎だ、こちらはスポーツマンらしくあまり頭が良くない設定なのか、最初から何も考えてないようだった。


「ああ、私、小説とか読むのが好きで特にゲームに似た世界にトリップしたり転生する話が好きでよく読んでたの。だからかな?慣れてるって言ったらおかしいけど、まあそう言う事もあるかなって」


「へー、じゃあ俺たちみたいなのがいる世界の事がいっぱい小説になってるのか?」


「いやいや、流石に三次元だよ。普通の三次元の状態の世界に行くしこんな平べったい事は無いから」


 そう言うと他のメンバーも変な顔をする。


「え?三次元になるのか?ゲームの世界なのに?」


「あ、いやゲームの世界もあるけど大抵は似た世界だから、あくまで似てるってだけで違う世界だったりもするから」


「へー、でも俺らみたいなのが三次元になったらかなりおかしくないか?髪の毛は赤いし、どうやってセットしてるかわからない髪型してるし、名前なんか紅虎だぞ、キラキラネームじゃん、完全にDQNだろ、こんなやつ好きになるか?」


 さっきもこのやり取りしたし。それにしてもDQNなんてどこで覚えてきたんだ。


「そうだよね、髪の色が違うのにまつ毛なんかは黒だったりするからそこらへんは生物の構造的にもおかしいし、髪の色が色々いる設定なら歴史とか文化や風俗も変わるはずだから現実の人間の世界と似るって可能性はかなり低くなるよね」


 そう言ったのは綾緑くんだ頭のいい人間らしく論理的に詰めてくる。

 言ってる事の半分も理解出来ない。


「え?・・・う?うーんと」


「あ、でも私は髪が黒いし大丈夫じゃないかしら?あーでも目とかあり得ないくらい大きいですわよね、顔の輪郭から飛び出てたりする時とかありますし。しゃべり方とか完全にお嬢様しゃべりですもの、こんなの逆に虐められないかしら?」


 そう言ったのはライバル役の羽墨ちゃんだ。

 羽墨ちゃんはライバル役らしく意地悪そうな顔をしているが美人だ。

 しかし確かにひときわ目も大きく顔の三分の一以上を占めている。

 しかもこんなしゃべり方の人はなかなかいないし、虐められるかはわからないが確実に浮きそうだ。


 しかし立て続けて質問されて戸惑う。


「えーと・・・えっと、ま、まあ、そこらへんは、人間に近くなってるってそう言う世界って設定になってて、可能性としては無くはないからって事になってるの。うまい具合に三次元になっててそれが普通なの。それに・・・それに、えーっと、結構最近はリアルなキャラクターのゲームも多いから!それに結局、小説だから!エンターティメントだから!そこらへんの細かい事はいいの!」


 なんとか説明したが、それでもみんな不思議そうな顔をしてる。

 確かに最後の方は無理やり感もあったがそんなにおかしくないと思う。


 しかし、なんか段々私がおかしいんじゃないかと不安になってきた。

 べ、別におかしくないよね?そんなもんだよね?面白かったらいいよね?


 っていうか平べったいお前らに言われたくないけどな!



「それで、ゲームの世界に行って何するんだ?」


 そう言ったのは紅虎べにとらだ目をキラキラさせて興味津々といった感じだ、もう、いいからこの状況の謎を解く事に専念してほしい。


「う?えーっとRPG系のゲームだと、勇者として召喚されたり最近は巻き込まれ系が流行りだね。後はその世界に転生したりして、現代の知識とか特別に貰ったチートな力で色々」


「「「「「ええ!」」」」」「「きゃー!!」」


 説明の途中でいきなり全員が驚き叫び後ずさる。


「え?え?な、なに?どうしたの?」


 みんな真っ青な顔をして漫画みたいに顔に縦線が入っている。

 あ、イラストだからか。


「チ、チートってあ、明ちゃんも持ってたりするの?」


 そう言ったのは親友役の友美ともみちゃんだ、今度はトイプードルの子犬のようにプルプル震えている。


「え?チート?い、いや無いよ?どうして?」


「だ、だってチートなんて世界崩壊の始まりだよ、ゲームバランスがおかしくなるのに」


 そう言われて気が付いた、チートって規格外の力みたいな意味で使ってたけど、本来はゲーム用語で不正にデータを書き換えてレベルやアイテムを入手する事を言うんだった。

 確かにプレイヤーとしては夢の力だけどゲーム側からしたらとんでも無い力だ。


「あ、そうか、だ、大丈夫だよ私はそんな力ないよ」


「本当?チートじゃない?」


「う、うん大丈夫、大丈夫」


 気付かないうちに持ってるって可能性もあるけど、多分無いだろう。

 そう言うとみんな一様にホッとした顔をする。


「そうなんですのね、良かったわ」


 そう言った羽墨ちゃんはそれでもまだ少し顔が青い。


「それにしても、大変だな他のゲームの世界は、そんなチートな力を持ってるんなら、世界がめちゃくちにならないか?」


「あー、ま、まあ、めちゃくちゃになる事もあるけど主人公は大抵はいい人達ばっかりだから世界を救ってハッピーエンドだよ」


 違う事もあるけどそんな事言うと余計に怖がりそうた。


「本当?でも怖いよ?チート」


 友美ともみちゃんはまだ少しプルプル震えている。

 そんなに怖いのか。


「ご、ごめんね大丈夫だよ、私はそんな力持ってないから」


 実はここが異世界だと思ったとき、異世界チート物とかだったらいいのにって思ってちょと期待したのだ、しかし未だに怖がっている友美ちゃんを見ているとなんか罪悪感が湧いてくる。


 本当にここは異世界なんだな、普通が通じない。


 とりあえず、今度から言葉には気を付けないと。


「そう言えば乙女ゲームだとどうなるの?」


「乙女ゲーム?うーん最近の小説は転生する話しが多いね、乗り移ったりもあるけど。ヒロインに転生して前世の記憶が蘇ってここがゲームに似た世界だって気付いて、でもゲームと現実は違うからって攻略対象者には関わらないように恋愛フラグ回避したり、羽墨ちゃんや友美ちゃんみたいに親友やライバル役に転生することもあってそうすると不幸な結末を回避しようと頑張ったりする話になったり」


「まあ!私の役の方が主役になるの?なんだかややこしいですわね。しかも乙女ゲームなのに恋愛を回避するの?なんだか悲しいわ」


「え?そ、そう?」


「そうですわよ、ゲームはやっぱり遊ばれて成立するものですもの」


「あ、え?あ、遊ばれてって・・そ、そうかなるほど」


「そうだよねー、いっぱい遊ばれたいよね」


 そう言いながら友美ともみちゃんも目をキラキラさせながら同意する。


「そうよね、出来れば色んな人に沢山遊ばれたいわ」


 羽墨ちゃんも目をうっとりさせながらそう言う。


「・・・」


 意味が違うと分かってはいるが可愛い女の子が遊ばれたいとか目をキラキラさせながら言うと変な誤解を生みそうだ。


「あ、ま、まあなんやかんやありつつも大抵は恋愛に発展するし、逆ハーにもなったりするから乙女ゲームの趣旨には反しないよ、それに、あくまで似た世界だからどっちにしろ問題はないはずだよ」


 そう言うとみんなホッとした顔をする。


「そうなんだ!良かった」


「やっぱり何もないのは寂しいもんね」


 ゲ、ゲームって・・・そんなもんなのね。


 そういえば私も最初は夢中になって遊んだけど飽きて放置してあるゲームも結構ある、もしかして寂しがってたりするんだろうか?


 そう思って次いで家の事を思い出した。


 ・・・そういえば家族はどうしてるだろう?

 あっちの世界で私がどうなってるかわからないがトラックと事故ったんだから無事ってことは無いだろう、最悪死んでる。さすがに母親は悲しむだろうな。


 少し暗い気持ちになっていると、それが伝わったのか、青亜が心配そうに聞いてきた。


「どうしたんだ?大丈夫?」


「あ、ごめん大丈夫だよ、ちょっと家の事思い出しただけ」


 そう言うと青亜も暗い顔をして、「あ、ごめん、そうだった明ちゃんはあっちの世界でどうなったかわからないんだもんねごめんね」と謝る、他のメンバーもそれを聞いて気まずい雰囲気になる。


「あ、だ、大丈夫だよ、親の事は確かに気になるけど、正直あんまり友達も多くなかったし学校もつまんなかったから別に戻れなくても後悔とかないから」


 私は努めて明るく言う。


 そうなのだ正直、現実世界にはそんなに未練は無い、楽しい事はそんなに無なかったし、むしろ嫌な事ばっかりだった、だからこそ異世界トリップしても慌てず落ち着いていられたのだ。


 そう言ったがみんなやっぱり心配そうな顔だ。


「でも・・・」


「あ、そ、そうだ!みんなは普段何してるの?」


 私は無理矢理話題を変える。気まずいのは苦手だ。


「うーんゲーム主がゲームしてたら忙しいけど、それ以外はたまにこんな風に話したりするけど大抵は持ち場で待ってるね」


「へーずっとゲームが始まるのを待ってるの?」


「そう、どっちにしろやる事は無いからね、僕たちは何か食べたり寝たりもしないし」


「え?そうなの?」

「そうだよ?ゲームの途中でそんなことになったら大変だからね」


 そ、そう言う問題でも無い気がするが、ゲームなんだからそういうものか。


 それにしても、だとしたら私はどうなるのかな?食べ物が無いのは辛いな。

 今の所お腹も減って無いし、眠くも無い、どちらにしろどうにも出来なさそうだが。



「じゃあ待ってる間は寂しいね」

「うーんちょっとね」


 青亜はそう言って少し寂しそうに笑う。


「まあ、でも封も開けずに積みあがってるゲームよりはマシだよね、たまにそんな話聞くけど、本当怖い話だよね」


 そう言って友美ともみちゃんはまたプルプル震える。


「その点うちのゲーム主は定期的に遊んでくれるしいいゲーム主だね」


 そう言ったのは紅虎だ。にこにこしながらなんとなく自慢気だ。


「へーそうなんだ、ゲーム主ってどんな人なの?」

「んん?・・・そ、そうだな、べ、別に普通じゃないか?」


 なぜか少し吃る。


「う、うん普通だよ、あ、そうだハッピーエンドが大好きみたいでどのルートに行っても絶対ハッピーエンドで終わらせるんだよ、だからきっと優しい人なんだと思うよ」


 そう言ったの青亜だ、青亜も心なしか少し自慢気だ、どうもゲームにとってプレイヤーっていうのは特別な存在みたいだな。



「へーそうなんだ、やっぱりみんなはハッピーエンドの方がいいの?」

「別にそんな事はないよ、遊んでくれるならなんでも。こだわりがある人は全部のシーンが見たいからってわざとバットエンドに行く事もあるんだって、凄いね」


 や、やっぱりイラストとはいえ美形が遊んでくれればなんでもいいとか、違和感が凄いな。


「そうだ!せっかくだからみんなで遊ぼうぜ!明がヒロインをやればいいよ」


「は、はあ?」


「あ、それいいね!楽しそう!そうだ!せっかくだから逆ハーにしようよ、このゲームは逆ハーないけどごっこだったら問題ないよ」


「ちょっ、ちょっと」


 私は慌てる、何を言いだすかと思えば。


「紅虎、友美あんまり無理言うなよ、明あかりちゃん困ってるよ、それになんでここにいるのか考えるんだろ」


 青亜はそう言って止めてくれる、しかしそれでも友美ちゃんは食い下がる。


「えー?でも、こんな機会早々無いよ?遊ばれたいよー」


 そう言って友美ともみちゃんは寂しそうな顔をする、だから遊ばれたいはやめなさい。


「い、いや別に遊ぶのはいいけど、私がヒロインとか無理だよ、あ!そうだなんなら羽墨ちゃんがすればいいよ美人だし似合いそう、最近は悪役転生が流行って」


 ガタン!

「きゃー羽墨ちゃん!」


 話してる途中でいきなり羽墨はすみちゃんが真っ青な顔をして倒れ込んだ。


 慌てて友美ちゃんが駆け寄る。


「え?え?どうしたの?」


 周りを見るとみんなの空気が凍りついている。


「明、酷いよ、いくらなんでもそれはないよ」


 何故か紅虎は厳しい顔をして責める。

 他のメンバーもなんだか渋い顔をしてこちらを見ている。


「え?な、なに?また私なんかした?」


「ちょっ、みんな落ち着いて、明は知らないんだよきっと」


 青亜はそう言って庇う。


「な、なに?」


「ごめんね、びっくりしたよね、実は、僕たちはそれぞれ攻略対象者とか悪役としてキャラクターを作られた存在だからそれ以外のキャラクターになれって言われるのは存在価値が根底から崩されるんだ。下手するとアイディンティティの崩壊につながる、僕たちキャラクターにとっては他の役をやれっていうのは存在を否定されたのと同じなんだよ」


 そ、そう言うもんなのか?しかしそうだとしたらとんでもない事を言ってしまった。


「うう・・・わ、私、今まで悪役として精一杯頑張ってきつもりだったけど・・・どうしよう・・・私」


 倒れ込んだ羽墨ちゃんはそう言いながらハラハラ涙をこぼす。


 バックにはどよんとしたナワアミのイラストが現れて悲壮感が強調される。


「羽墨ちゃん!しっかり大丈夫だよ羽墨ちゃんは立派な悪役だよ」


 なんだかよくわからないが、とんでもない事になっていまった、私は慌てて。


「ご、ごめん、嘘だよヒロインしろなんてもう言わないよ」


「で、でもさっき似合いそうって・・・」


「い、いやそれはあれだよ美人さんだから、そ、それに最初に見た瞬間羽墨ちゃんはきっと悪役なんだろうなって分かったよ、凄く意地悪そうだし、なんか企んでそうだし、それからえーっとえーっと怒鳴られたら私なんか泣いちゃいそうって思ったくらい怖かったし」


 そういうと羽墨ちゃんは顔を上げる。


「ほ、本当?意地悪そう?」


 少し明るい顔になった。


「う、うん我儘そうだし、性格とかも悪そうだし悪役としては完璧だよ、世界一の悪役と言っても過言では無いよ!」


 そう言うと明らかに羽墨ちゃんの顔が明るくなる、バックの絵もキラキラした点描になる。


「そ、そんな世界一なんて言いすぎだよ・・でもありがと」


 そう言って羽墨ちゃんは照れてモジモジしだした。

 なんとか納得してもらえたみたいだ、しかしこんなので良かったんだろうかほとんど悪口だったような気がするけど。


「良かったね羽墨ちゃん」


 そう言ったのは友美ちゃんだ。本当にこれでいいらしい・・・。


 他のみんなもホッとした表情。


 ・・・ゲームの世界って難しい、なんか思ってたのと違うし、・・・疲れた。


「良かったな。じゃあやっぱりヒロインは明で決定だな、さっき友美ともみが言ったみたいに逆ハーにしようぜ、面白そうだよな」


 さっきまで怒っていたのに紅虎はもう嬉しそうに宣言する。


 き、切り替えが速すぎる!


「へ?え?あれ?」


「そうだな、それはやったこと無いし楽しそうだな」


「わーいそうと決まれば、私張り切ってアドバイスするよ!でもそうなるとタイムスケジュールも組み直した方がいいかも!きゃー楽しくなってきた!」


 青亜もなんだか乗り気だし友美ともみちゃんは完全にテンションMAXだ、他のメンバーもなんだかウキウキした雰囲気になってる。


 さっき私も遊ぶのはいいって言ってしまった手前、今更やらないも言えない。

 だけど他の人にヒロインをして貰うわけにもいかない。


 って言うか逆ハーとかマジでやめて欲しい。

 本とか読んでちょっと羨ましいとか思ったことあるけど実際にするのはちょっと恥ずかしい。

 しかもごっこって!

 あれは気付かないうちに思われててどうしよう?!みたいに慌てるのが様式美なのであってお膳立てされても何にも嬉しくない!


 しかもイラスト相手にゲームとは言え恋愛って、側から見たらただの危ない人だよ!


 しかしなんだかもう遊ぶことは決定してしまった雰囲気だ。


 だけどさっきの寂しそうな顔を見てしまったから嫌だとも言えない。なんとか辞めさせらせないものか説得する。


「い、いやでもこのゲームにはそんなルート無いんでしょ?いいのさっき存在価値とか言ってたけど」


「大丈夫だよ、僕たち攻略対象者はヒロインと恋するのが役目だしそれが出来れば他はそんなに問題ないよ」


「そ、それでいいの?で、でも私ストーリーとか知らなし何すればいいか分からないよ」


「大丈夫だよ、そこらへんは指示するし選択肢も教えるよ」


「え?そ、それはもはやゲームじゃないんじゃ」


「大丈夫、大丈夫、そうと決まれば早速オープニングからだな!」


「え?え?」


 話がどんどん進んで行く。


「よし明スタートは校門からだ!行くぞ」


 ちょ、ちょと待てー!!

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