乙女ゲームの世界にトリップしたけど・・・・なんか思ってたのと違う!
ブッカー
第1話 ファンタジーかSFだと思ってたのに・・・・
人生には色々な分岐点がある。
こうと決めた道に進んでも失敗したり成功したり、そうやって人生は進む。
だけど終わってからあれが分岐点だったのだと気づき、ああすれば良かったこうすれば良かったと後悔する事もある。
私の人生はよくそんな事が起こる。
今もそうだ、昨日ゲームし過ぎなければよかったとか、もっと頑張って勉強しておけばとか、せめてもっと寝ていればこんな事はおきなかったのに。
迫り来るトラックを見つめながら私はそんな事を思っていた。
――――――
「ここはどこ?」
「ここは乙女ゲームの世界だよ!」
目の前にいる人間は快活にそう答えた。
いや、まず目の前にいる人物が人間なのかどうかが怪しかった。
なんせ目の前にいる人物は絵に描いた男なのだから。
「はあ?」
私はポカーンと大口を開けてそう答えた。
―――――
最初から説明しよう。
まず私が目を覚ました時、最初に見たのは絵に描いた様に美しい青空だった、それなのに周りは薄暗い、まずこのちぐはぐな現象に戸惑った。
次いで誰かが私を覗き込んできた。
「大丈夫ですか?」
私は驚いた、目の前に現れそう聞いたのは絵に書いたしかも美しい男だったからだ。
言っておくがこれは誤字ではない、私を覗き込んでいるのはまさに漫画やアニメのイラストで描かれているような絵に描いた男だったのだ。
しかも無駄に美形でキラキラしてる。
「うわ!」
私は上半身を起こしお尻をついたまま後ずさる。
男は心配そうな顔をしてこちらを見ている。
後ずさったことで男の全身を見ることが出来たが、それでも私は自分が見ているものが何なのかよく分からない。
どんなに目を凝らしても最初に見た印象と変わらない。
目の前にいる男はわかりやすく言うと。たまに本屋やゲーム屋などに、宣伝のために漫画やゲームのキャラクターが平べったい等身大パネルに貼り付けられ置かれているスチールの板があるだろう。レジの横や平積みの棚の横に置かれている。
そんな平べったいパネルみたいな絵がこちらを見て立っているのだ。
しかも喋って動いている。
実写にアニメを合成した映画やドラマを知っているだろうか?
側から見ると、まさにそんな感じなのだ。
「えーと、・・・なにがあったんだ?・・・そうだ」
私はそこで思い出した、目を覚ます前トラックに撥ねられた事を、そして今よく分からない場所で目が覚めたことも。
私はそこそこゲームや漫画が好きなオタクだ。
小説も好きでライトノベルもよく読む、特に異世界トリップ物や転生物は好きで読んでいた。
トラックに轢かれていつの間にか違う場所に居るなんてよくあるパターンだ。
だったら私は異世界トリップってやつをしてしまったのだろうか。
そこで私は恐る恐る、目の前の男に「ここはどこ?」と聞いた。すると男はにっこり笑いながら「ここは乙女ゲームの世界だよ!」と言ったのだ。
余計に訳がわからなくなった。
いや勿論、乙女ゲームの世界にトリップする話も読んでいたので検討はつく。
ヒロインやライバル役の人間に転生して、面倒なことは御免とフラグ回避に頑張ったり、バットエンド回避に頑張ったり、でも結局巻き込まれてイケメンにモテモテになり逆ハーになっちゃってどうしよう?みたいな。
しかしそういう時は大抵その世界にいるのは立体的な三次元の人間だ、しかし今、目の前にいるのはどう見ても二次元のイラストなのだ。
乙女ゲームに居そうなイケメンではあるのだか・・・
「・・・・」
他の可能性として考えられるのは目の前にいる男が神様であるという事だ。
ほらよくある、今からゲームによく似た世界にお前を送り込むからと言われ、なんらかの指令を与えられて異世界に行くあのパターンだ。
なるほどそれなら目の前にいる男がよく分からない姿をしているのも納得が行く、神様は大抵は人間の姿をしてるが動物だったりキラキラ光る球体だったり、ただ声がするだけだったり種類は色々だが、なんだか自由で不思議なものだ。
だから私は目の前の男に聞いてみた。
「あなたは誰ですか?」
「僕はこの乙女ゲームの攻略対象者の一人
男はそう言って爽やかに笑いウインクをする、そしてなぜかバックに薔薇のイラストが現れ、更にキラキラしたエフェクトまでかかった。
「・・・・」
どう言う事だ。
どう頑張って考えても、私は乙女ゲーム物の小説で登場人物が自ら「攻略対象だよ」って自己紹介してきたパターンの小説は思い出せない。
しかもなんでバックに薔薇が咲くんだ。
「あの・・・なんで私はここに居るんでしょうか?」
とりあえず質問をしてみる、どうにも埒があかない。
そうすると青亜は困った顔をして
「ごめん、僕も良く分からないんだ君はいきなり何にも無い所から現れたから・・・」
相手も良く分かって無いのか。
「・・・あのなんであなたは・・・その・・・平べったいというかなんて言うか・・・イラストなんですか?」
そう聞くと。
「それはここがゲームの世界だからだよ、むしろなんで君は三次元の人間なのにここにいるんだい?」
逆に質問されてしまった。
それは私が聞きたい。
「・・・えーっと、すいません私もよく分からなくて・・・事故にあったらしいんですが気がついたらここに居たんです」
「事故?大丈夫?怪我はなさそうだけど。うーん、そうか・・・君も分からないんだ」
青亜は手を顎にやり思案顔になる。
そう言われて気がついた、結構大きなトラックが突っ込んで来て衝突したはずなのに私の体には傷一つ無い。
どういうことなんだろう?でもトリップ物だと怪我なんか負ってないのがデフォだよね?しかしこの場合も当てはまるんだろうか?
「あの・・・ゲームの世界って具体的にどういう事なんですか?よく分からないんですけど」
「ああ、えーっとなんて説明したらいいのかな、ここは『
「・・・えーっと」
お、○トメ○ト?□?☆?工場、微妙にリアルだな。
いきなり色々な情報が入ってきて戸惑う。
なんとか整理する。
・・・分かった、まず前提条件から違ったんだ。
私はてっきり今流行りの、ゲームに似た世界にトリップしたんだと思っていた、しかも、転生物とごっちゃになってた。
でも、よく考えたら青亜は最初からゲームの世界と言っていたじゃないか。
いや勿論ゲームの世界にトリップする話があるのも知ってる、乙女ゲームに限らず、よくある設定だ強制的にゲームに参加させられ、攻略やクリアしないとこの世界からは出られないぞってやつ。
しかしそういう場合でも大体世界は立体的で中の人物も三次元で、主人公はかなりすんなりその世界に溶け込んでいる。
そして世界を救ったりハーレム作ったりするんじゃないのか。
「普通、ゲームの世界に入ったらそこは三次元になってるものじゃないの?」
そう言うと青亜せいあは眉を寄せて困惑顔になる。
しかもご丁寧に頭の上にはてなマークが浮かんでいる。
「えー?そういう物?でも二次元のイラストが三次元の人間になったらかなり変じゃない?僕とかもそうだけど、顎とか人間にはあり得ないくらい尖ってるし鼻も鋭角だったりするじゃんそれに目も顔の3分の一くらいの大きさがあるよ、よしんば三次元の人間に近くなったとしても、そこがゲームの世界って分かるかな?」
青亜はいかにもよくある乙女ゲームのジャケットに書かれていそうな、爽やかで優しそうな美形のイケメンだ。
だけどそう言われてよく見ると、髪は青いし、目も青く大きくて、まつ毛なのか眉毛なのか分からない線が沢山あって、目の中にはキラキラした星が描かれている、そして、鼻はあるのかな無いのか分からない線だけだし鼻の穴なんてほとんど無いのだ。
たしかに実際に三次元で再現は難しそうだ。
しかし、二次元のイラストに結構リアルなことを言われてかなり微妙な気持ちになる。
だけどゲームの世界にトリップする話が好きな者としてはちゃんとフォローしておかなければ。
「い、いやそれは・・・ほら名前とか設定が同じだから分かるとかあるじゃん風景も似てるとか」
青亜は考え、首をかしげながら言った。
「ああ、そういう事もあるのかな?でも髪型とか結構変なのもあるよ、どうやってセットしてるのか分からないのとかあるし、そもそも僕も髪青いしそうなると遺伝子がどうなってるのか、とか物理法則がどうとか問題にならない?」
「いやいや、今この現象もかなり問題だから、突っ込みどころ満載だから」
しかも乙女ゲームの世界と言われて一瞬もしかしてイケメンと逆ハーできるかも?と思ってしまった自分が恥ずかしい。
「なんで次元が違うんだよ・・・」
私はがっくりと膝をつき両手を地面に付いて落ち込む。
「うーん、まあ、たしかに君がなんでここにいるのかは僕もよく分からないな、こんな事初めてだし」
「っていうかなんで自分がゲームの登場人物って分かるの?普通はそんな事気づかず過ごしてるものじゃないの?」
「えー?でもディ○ニ○の『ト○・ス○ーリー』とか『くるみ割り人形』とかはみんな知ってるじゃん」
「い、いやあれはオモチャじゃん」
「ん?でも僕らも大きな括りではオモチャだよ、ちなみにこのゲームは全年齢対象ゲームだから。それによく言うじゃん大人のオモチャって」
「いやいや、それは違う意味になっちゃうからやめなさい」
イラストとはいえ爽やかなイケメンが大人のオモチャとか!
「えー、でもR18指定のギャルゲー物なんかそんなことに使ってたりするじゃん」
「だから!やめなさいって」
しかし確かにそう言われると納得できなくはない、大人のオモチャは置いとくとして、私はてっきりファンタジーやSFの小説を前提して考えてた、なるほど童話の方ね。
・・・いやいや!ジャンルの問題でも無いだろう!これで納得していいのか?
まあゲームに似た世界があるならオモチャが動く世界があってもおかしくは無いか。
しかしそうなるとこれが異世界トリップかどうかも怪しくなってきた、いやでも違う世界に入ってしまったんだから合ってるのか?
ライトノベルやネット小説を沢山読んでたから、そういう物だと思ってたけど、そういう前提自体を疑った方がいいのかな。
そもそも私は乙女ゲームをした事が無い、ゲームはするがどちらかと言うとRPGとか剣と魔法の世界で戦う系のゲームが多いからだ。
どうせトリップするならそんなゲームがよかったな。
それにさっき聞いたこのゲームの名前には聞き覚えが無い事も問題だ。
このゲームが私がいた世界で実際にあったゲームなのかそうじゃ無いのかもわからない。
まあ、あったとしても、なんでここに居るのかは分からないし、もしかしたら全然違う世界のゲームの中なのかもしれない。
・・・混乱してきた。
膝をついたまま頭をかかえる。
それでも目の前の男が平べったい二次元なのは変わらない。
青亜はますます心配そうな顔をして「大丈夫?」と聞いてくる。
まあ、救いなのは相手は私に害を与える気は無さそうなことだな。
とりあえず落ち着こう。
「ふー・・・、うん、大丈夫です。とりあえず色々確認していきたんですけど」
「うんそうだね、僕も分からない事だらけだし」
青亜は乙女ゲームの攻略対象らしい優しい笑顔でそう答えた、しかもまた薔薇の花がバックで咲いてキラキラしてる。
・・・漫画みたいだ、文字通りの意味で。
「・・・えーっとまず、ここは乙女ゲームの世界なんですよね」
私はそう言いながら初めて周りを見渡す。
「うん、見ての通り、このゲームは学園物のなんだ、だから学校とそれから攻略のための時にデートなんかで行く町のお店とか数件があるだけだよ」
確かに私が居る所から見えるのは、大きくて立派な絵に描かれた学校とその前にこれまた立派な門。その柱にはタイトルにもなっている学園の名前が付いている。
しかしそれ以外は霧に包まれたように何も見えない。
空を見上げるると綺麗な青空が広がっている。しかしよく見るとやっぱり絵でできている。
最初に見た時、絵に描いたように美しいと思ったが、本当に絵だったのだ。
それは綺麗だよな。
「学校は絵だよね、中には入れるの?」
「勿論入れるよ、この世界は沢山のイラストが重なりあって出来てるから。門もあの木もよく見たら一つ一つの独立した絵だよ」
「はー、なるほど、ん?じゃあ横から見たらどうなるの?」
私はそう言いながら青亜せいあの横に回り込む。
「見てみる?」
「消えた!」
そうなのだ、途中まで平べったいパネルを回り込んだように見えていたのに、ちょうど真横になると忽然とと消えてしまった。
「まだ居るよ」
そう言って青亜はペラペラと手を振って現れる、なんだか妖怪いったん木綿のようだ。
「わあ!え?え?なんで?」
あわあわしながらそう言うと
「ほら僕ら二次元だから厚みは無いんだよ、だから真横になると見えなくなるの」
「・・・なるほど・・・?」
よくわから無いがそう言われるとそうなのかもしれない、なんか詳しい人から見たら色々突っ込まれそうだが、どちらにしろ私は元々あんまり頭が良くない、青亜が言ったことが正しいかどうかの知識も無い。
「えーっと、あなた以外の人は居るの?居るとしたら何人くらい?」
とりあえず分からない事は棚上げして他の事を聞く。
「えっーとね、とりあえず攻略対象者は僕を含めて5人、それからライバル役の女の子と情報や好感度を教えてくれる親友役の娘がいるよ、全部で7人だね」
「え?それだけ?クラスメイトは?学校なんだからもっと人は居ないの?」
思った以上に少ない人数に驚く。
「他の生徒は特にキャラクターとか作られて無いからね、その他の人々みたいな感じのイラストはあるけど僕たちみたいに喋ったりしないよ」
「ま、まあ作る立場から考えたらそこまでいちいち作らないか」
なんかシビアだな、異世界トリップってもっと夢があると思ってたのに。ここではモブが傍観者になって楽しむことも出来ないみたいだ。
「そうなんだよね、よっぽど拘ってるとかじゃないとね。まあ勿論ゲームによってそこらへんは違うと思うけど。このゲームは色々なスチルとセリフと選択肢によってストーリーが進むタイプのゲームだからこんなもんじゃないかな」
「ああ、なるほどね」
私は乙女ゲームこそやった事が無いがスチルとかイラストでストーリーが進むゲームはやった事がある、薬草とか集めたり魔物を狩りに行ったり、アトリエ的なところで薬を作ったり、だからなんとなく言っている事は分かった。
「まあ、技術が進めばもっと立体的でリアルなキャラクターが作られるかも知れないし、その時はゲームの世界に行っても馴染めるかも」
確かに今ではかなり立体的に見えるキャラクターも居るし技術が上がればそのうちVRMMOなんかのゲームも実現化するかもしれないのだ。
しかしそれを待たずに私はトリップしてしまったのだから今更だ。
「うーんでも二次元なのは変わり無いんだから・・・やっぱりそんなに変わらないのかな・・・いやでもこんな違和感バリバリにはならないのか・・・どうなんだろう?」
私が無い頭を絞ってうんうん唸っていると今度は青亜が質問をしてきた。
「そういえば君の名前まだ聞いてなかったね。なんて名前?」
そう言われて初めてまだ自己紹介を、してない事に気が付いた。
「あ!そういえば、えーっと私は
「え!」
青亜は私の名前を聞いて驚いた顔をした。
「え?え?なにか知ってるの?」
「あ、いや」
青亜はそう言って考え込む。
なんなんだろう?私はこんなゲーム知らないし、ここに来たのも初めての筈だ。
しかし青亜が思った以上の反応をしたので気になる。
「ちょっ、なにその思わせぶりな感じ気になるよ」
そう言うと青亜せいあは少し困ったような顔をして
「あ、いやごめん、実はここのゲームのヒロインはデフォルトの名前があるんだけど、任意で好きな名前を付ける事も出来るんだ。それで、ここのゲーム主はヒロインの名前にいつもアカリって名前を付けるんだ」
「へ?」
えーっと・・・また色々な情報が入ってきて混乱する。
「って言うかゲーム主ってなに?」
「ああ、ほらこの世界はゲームなんだから当然プレイする人間が外にいるんだ。僕たちはその人間をゲーム主って呼んでる」
・・・そうか考えたら当然だ、ゲームはプレイするためにあるんだから当然プレイヤーはいるのか。
青亜は空を見上げ言った。
「ほら青空なのに全体的に薄暗いだろ、こうなってる時はゲームが起動してないんだよ、プレイが始まると明るくなる」
なるほど目が覚めた時、青空なのに薄暗くて違和感があったのはそう言う訳だったのか。
「えーと、じゃあ、そのゲーム主はヒロインに私と同じ名前を付けてるってこと?ゲーム主も同じ名前なのかな?」
そう聞くと青亜は顎に手をやり難しい顔をして悩む
「・・・うーん、僕もよく分からないんだ、偶然だとは思うけど」
青亜はそう言ったがそんなことあるのだろうか、そもそも私がこんなところにいる事自体が稀なのに。何か繋がりがありそうだが情報が少なすぎて推測もできない。
ゲーム主ってどんな人間なんだろう?乙女ゲームをやってるくらいだから私と同じオタクなんだろうか、当然女だろうけど、歳は幾つくらいなんだろ?おばさんだったらどうしよう、いい年した女が乙女ゲームとかちょっと怖いな。
どちらにしろ私は乙女ゲームはやったことが無い。話しは合わなさそうだ。
私が空を見上げなが考えていたら、いきなり青亜が明るい声を上げ言った。
「そうだ!他のメンバーも紹介するよ、僕たち二人じゃ考えても分からないことばっかりだし、みんなで考えれば何か思い付くかも」
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