第3話 青木の捜索
「拓海、青木を探し出したりしないわよね?もしも青木からスマホを取り返したら、私は殺されるために過去に戻らなくちゃいけないんだもの。拓海はそんなことしないわよね?」
「…。」
「拓海、拓海なんとか言って!黙ってないで答えて!」
「…。」
ずっと考えこんで黙っている拓海に焦れて、マリーちゃんは拓海を揺さぶった。
「マリーちゃん、どうすればいいか考えてるんだ。少し静かにしてて。」
いつも気の強いマリーちゃんは、泣き出しそうな顔になった。
「酷い!考えることなんて何もないじゃない!青木を探さなきゃいいだけ、そうしたら皆幸せに暮らせるの!」
「儂とお濃もまりぃちゃんと気持ちは同じじゃ。だがのう儂らのせいで大勢の人が不幸になったのも事実なのだ。もう目は反らせぬ。だから拓海を責めてはならぬ。」
「嫌ぁぁ、嫌よおぉ。」
とうとうマリーちゃんは泣き崩れてしまい、お屋形様とお濃さんがマリーちゃんを連れて帰った。
「少しは落ち着いたか?」
「ええ、ホットチョコレートって魔法みたいね。ノブ(信長)さんありがとう。」
「まりぃちゃんはチョコレートが好きじゃからのう。落ち着いたなら良かった。」
「それにね、私いいことを思いついたのよ。」
「ほう、なんじゃ?」
「私たちで拓海と新太より先に青木を見つけて、始末してしまえばいいのよ。ふふふっ」
「これこれ、またその様な危いことを申すでない。ここは儂らが産まれた時代とは違うのだぞ。また拓海と新太に迷惑がかかるではないか。」
「そうですよまりぃちゃん。青木を殺しても解決にはなりませぬ。青木の持ち去ったすまほが問題なのですから。」
「儂に策がある。お濃とまりぃちゃんは安心するが良い。」
「殿、如何なさるのです?」
「青木を逃すのじゃ。」
「わかりませぬ、何故逃すのです。それに青木を探す手がかりもありませぬ。」
「青木の手がかりは拓海と新太が知っておる。儂は二人の用心棒として同行し、隙をついて逃せば良いのじゃ。二度と儂らの前に姿をみせぬよう言い含めての。青木もすまほを手放したくはなかろう。きっと言うことを聞くはずじゃ。青木がすまほを持って逃げていれば儂らは安泰じゃ。」
「すご〜い!頭いい!」
「殿は後世に名を残す武将にごさいますよ。流石は殿にごさいます。」
「すごいわ、すごいわノブさん。お菓子作りが上手なだけじゃないのね。」
「殿は武将にごさいますよ。人を策に嵌めるのは得意にごさいますよね。」
「其方らおだてるでない。はっはは。」
三人がとんでもない悪巧みを話しているとも知らず、俺と拓海は青木の唯一の手がかりである赤玉食堂を交代で見張り捕まえようと話していた。
「あいつ見るからに食べ物に執着がありそうだもんな。絶対に赤玉食堂のてんこ盛り天津飯とラーメン食いに現れるよ。」
「俺は学校があるから殆ど新太任せになるけど大丈夫か?」
「大丈夫だって!」
「問題はあの三人なんだよな。大変なことしでかさなきゃいいんだけど…。」
「俺たちから離れて生きていけないのは分かってるから逃亡はしないだろ?お金も預かってるんだし。長期戦になったらまた考えよう。」
「おまえ本当は青木が見つからなきゃいいと思ってるだろ?」
「それは何度も話し合ったろ。そりゃあお屋形様たちを帰すのは嫌だよ。でも仕方ないじゃないか…。」
「じゃあ早速明日から始めよう。」
「新太、ちと邪魔するぞ。」
またインターホンを無視して入ってきた。
「一人ですか?お濃さんとマリーちゃんは?」
「あの二人がおっては話が進まぬからな。まりぃちゃんも少し落ち着いたが、お濃に面倒見させておる。で、話はまとまったのか?」
「はい。一応青木を探し出すことにしました。青木もこのままにして置けませんしね。」
「そうか、じゃがあの者は卑怯者ゆえ二人にまたもしもの事があってはのう…。儂が用心棒として同行してはどうじゃ。それが良かろう!よし早速探しに参るとするか!」
青木が見つかって困るのはお屋形様なのに、この積極的さ…胡散臭さがプンプンする。
「何企んでるんですか?」
「拓海は疑ぐり深いのう。青木のせいで人が信じられなくなったのではないか?
あの巨漢が抵抗したら其方ら二人で押さえられるのか?ならば良いが。」
確かにお屋形様の言う通りなんだが…。
「分かりました。じゃあ抵抗したら捕まえるだけにして下さいよ。他の手出しはしないこと!話は僕たちに任せること!お願いしますよ!」
「儂にはたいむ…なんとかの話はよう分からぬから案ずるな。さあ善は急げ何処から参る?腕がなるのう!儂らを侮った天誅を下してやろうぞ!ワッハッハハ」
「無駄に暴力振るわないこと‼︎」
「あいわかった、すまぬ、すまぬ。はっははは」
まさかこんな窮地の時でも戦国の血が騒ぐとは…。織田信長…、意外に俺と同じレベル?
明日から青木の捜索を始めるつもりが、お屋形様の勢いに乗せられて赤玉食堂にやってきた。
青木一押しのメニュー天津飯のラーメンセットを普通サイズで注文し店内に目を光らせた。
青木の言った通り天津飯のラーメンセットは旨くて、青木は必ずこの店に姿を現わすんじゃないかと期待出来るが、それがいつなのかが問題だ。
家の近くだと言っていたから、辺りを彷徨いてるかもしれない。それかこの店以外にも行きつけの店があるとか、外で見張る方が青木を見つける確立は上がるだろか?
店を出るとき店の人に青木のことを聞いてみよう。
青木は何としても俺が見つけてやる。
「いてっ、いきなり何するんですか?」
お屋形様が俺の足を蹴り、後ろを見ろと合図する。
あっさり見つかった。
ハフッハフッ、ガツガツ、ズッズズーーッ、ハフッ
後ろからスゲー勢いで食べる人の気配に気づいて振り向くと、青木がてんこ盛り天津飯のラーメンセットを一心不乱に食べていた。
なんて意地汚い奴なんだ。
しかもこいつスマホを使って食いに来たのか?こんなくだらない事に使ってんじゃねーぞ!
拓海に怪我まで負わせて奪ったスマホが、こんな使い方をされていると思うと無性に腹が立つ。
俺は席を立つと青木の座っているテーブルの向かいに座った。
青木は相席されても気にもとめず、相変わらず汚い音を立て目の前の食べ物をバクついている。
「青木さん、青木さん。」
バァン‼︎
何度呼びかけても気づかないので、テーブルを思いっきり叩いた。
顔をあげた青木は、口のまわりをスープや食べ物の粕でギトギトとさせて、キョトンとする。
まるで野生の動物だな。
慌ててスマホを取り出し逃げようとする青木を、いつの間にか青木の隣に座ったお屋形様が制止した。
「探しましたよ、青木さん。あんた本当にここのてんこ盛り天津飯とラーメン好きなんだな。」
「てんこ盛りじゃなく大盛りです。」
「んなことどっちでもええわっ!」
「すみません。スマホならお返しします。だから許して下さい。」
「まあ話を聞けよ。」
「はい。」
「あんたがそのスマホで何をしてるかは疑問だが…。理由なんてもうどうでもいい。
今から言うことをよく聞け。」
「はい。」
「俺と拓海はあんたを探している。そのスマホを取り返し、あんたに報いを受けてもらう為だ。俺たちの側には必ずこの人がいる。」
俺はお屋形様を目で示した。
青木は以前捕まった時の事を思い出したようで、ぶるっと震えた。
「だがあんたは運がいい。俺に見つけて貰えたんだからな。
そのスマホを持って二度と俺たちの前に姿を現わすな。そうすれば報復はしないと約束してやる。」
「新太、何を言うておる?こやつを捕まえに来たのではないのか?すまほを取り返すのではないのか?」
「いいんです。二人ともこの事は他言無用。あんたは今この時から先の時間の日本に現れてはいけない。どこでも好きな所に行け。そして二度と俺たちに見つからないようにするんだ。
俺たちもあんたと今日会って話した事は忘れる。わかったな!」
「いっ、いいんですか?」
「今そう言っただろ!」
「ならば、良い所を教えてやろう…。そこへ行けば、皆其方にひれ伏し其方は丁重に扱われ贅沢に好きに暮らしていけよう。」
「わかりました。ありがとうございます。ご恩は一生忘れません。」
「わかったらさっさと行け!」
「はい!」
青木はスマホを取り出すと、画面を見つめパッと消えた。
「新太、本当にこれで良かったのか?」
「これでいいんです。もう全部忘れましょう。」
「そうじゃのう。これであの者も少しは世の中の役に立つであろう。」
青木を逃し一週間が過ぎたが、俺たちはまだ青木探しをしている。というより俺とお屋形様は探す振りを続けている。
青木を逃した事を拓海と両親に知られてはならない。
お濃さんとマリーちゃんにも秘密にしている。マリーちゃんがうっかり口を滑らす心配があるからだ。
『敵を欺くには味方から』お屋形様はそう言った。
しかし毎日嘘をついて出歩くのも後ろめたくなってきた。リストラになった事を家族に言えずにいるサラリーマンの心境だ。
そうか!目的もなく何をするでもない。ただ赤玉食堂で時間を潰しているだけだからいけないんだ。
「お屋形様、いつまでもこんな生活退屈しませんか?青木を探す振りして、毎日ここに来て馬鹿馬鹿しくなりませんか?」
「ここの食事にも飽きてはきたが、他の者への手前仕方なかろう。」
「何かしたい事とかないですか?習い事とかスポーツとか。」
「すぽおつ…とはなんじゃ?」
「運動…、体を動かして鍛えたり楽しむことですかね。」
「おおっ!それならば家で剣術の鍛錬はしておるぞ。新太其方もやってみぃ。儂が鍛えてやろう。」
「いえ、結構です。でも道場とか広い場所で誰かとやってみたいと思いません?」
「なに?道場破りか⁈ならば儂にまかせよ。腕がなるのう!」
「違いますっ‼︎稽古するだけです。」
ったく!なんで物騒な方へ思考がいくんだよ!
「そこへ行けば儂より強い者、せめて互角の腕の者がおるのか?」
「もういいです。他の事にしましょう。駅前のカルチャーセンターにでも行ってみましょう。」
いろいろ習い事を調べた結果、お屋形様の希望で料理教室とトレーニングジムに通うことにした。
お屋形様は料理の腕をあげて、お濃さんに食べさせてあげたいらしい。
本当に愛妻家だな。
俺はまだ結婚なんて考えられないけど、いつか結婚したらお屋形様の様に家族に手料理を食べさせてやりたいと思った。
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