第8話 昔出会ったあの○○○(2)

 気がつくと、わたしは少し寒くて薄暗くて、しんとしたところにいた。


 ひんやりとした場所に寝ていたわたしは、自分のおかれている状況がまったくわからなくて、目をしばたいた。

 けれど、何度瞬きしても、周りの風景は変わらない。


「こんなことくらいで気を失うなんて、面倒くさい奴だ」


 突然、頭もとから声が聞こえて、わたしは跳ね起きた。


「だっ、誰っ!?」


 そこに居たのは、知らない大人の男の人だった。


 膝を立てて地面(?)に座っているけれど、背がすごく高いことがわかった。きりりとした怖そうな眉に、白い肌。髪は漆黒。

 薄暗いその場所にあって、淡い紫色の瞳だけが、いやに鮮やに見える。


 その男の人は、にやりと笑い、無言で肩をすくめてみせた。

 知らない大人の人とふたりきり。

 その事実は、わたしを不安にさせた。


 心細くなり、誰かに助けを求めたほうがいいと思い至ったところで、ついさっきまで男の子と一緒に遊んでいたこと、その子と一緒に池に落ちてしまったことを思い出す。


「おじさん、男の子を見なかった? さっきまで、わたしと一緒にいたの。おじさんが、わたしを助けてくれたの? 男の子も無事?」


 わたしの問いに、男の人が目を吊り上げた。

 ひっ、とわたしは思わず息を呑んだ。


「おじさんだぁ?」


 空気が震えるような低い声が、静かなその場所に反響する。

 それまでにわたしが聞いたことのない、恐ろしい声だった。


 逃げなきゃ!


 咄嗟にこの場を離れなければならないという判断くらいはできた。

 それなのに、身体が動かない。


「お仕置きが必要だな」


 恐怖に身を堅くするわたしの前で、男の人が突然、ぐわっと口を開いた。

 鋭い牙がぎらりと光るその口は、わたしの頭くらい容易く丸かじりできてしまうほど大きく裂けていた。


「ぃやぁぁぁぁ」


 あまりの恐ろしさに、わたしは再び意識を手放した。

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