第3話 うちの家にいる○○○(1)

「それは……そうだけど……」


 後ずさろうとして、ベランダに置いてあったプランターに足がひっかかり、しりもちをつく。


 そんなわたしを見て、翔汰がにやりと口の端を上げた。

 まだまだあどけない子どもらしい顔には似合わないその表情に、不安が湧き上がる。


 翔汰がただの子どもじゃないっていうことは充分に知ってるけれど、ついついいつもの気安さとその可愛らしい外見に気を許してしまう。


 そして、こうしてふとした瞬間に見せる表情に、肝を冷やされるのだ。

 翔汰にはなにもできない。神社の池の底からのびる、あの鎖につながれている限り。

 それはわかっているけれど――。


「なんだよ、今更。なんにもできない、子どものおれが怖いわけ?」


 じゃらりと鎖を鳴らし、翔汰がぬっとその顔をわたしに寄せる。

 漆黒の前髪の先が、わたしの額に触れる。

 普段は人間の瞳を真似ているのに、今、翔汰の瞳はアメジスト色に変化し、その瞳孔は縦に細長い。


「そっ、そんなわけ――」 


 強がりが口をついて出るけれど、すぐそこにある翔汰の瞳に気圧されて、途中で途切れてしまう。


 部屋に戻らないと。


 そう思うのに、翔汰の瞳から目が逸らせない。


 ――その時だった。


「悪霊退散っ!!」


 バタンッ! と大きな音がして、わたしの部屋のドアが勢いよく開かれた。

 驚いてそちらを見やると、3枚のお札を手にした大学生が仁王立ちしている。


「お兄ちゃんっ!?」

「えいやっ!!」


 お兄ちゃんが、手に持ったお札をこちらへ向かって投げつけた。 

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