しゅーかつぶ とは カチカチっ
確かに、この距離での会話は色々と不便だよな。
どうすれば良いかなんて、改めて問い直す必要がないくらいに明らかだけど……うぐぅ、こんなんだって結構頑張ってるんだ。
「無理をする必要はないぞ、明智君。君がこれ以上ない程に譲歩してくれているのは、君の様子から察しているつもりだ」
努力が認められるというのは、幾つになっても嬉しいものだ。うぬん。
「ごめん、秋穂さん。面倒だろうけど、この距離で説明をお頼み申しても宜しいか」
言葉遣いが可笑しいのはご愛嬌。
「宜しいよ」
秋穂さんの笑顔が眩しい。後光が射しているようだった。
「まず当部の活動理念だが……一言にすると、消滅の瞬間に己の人生を振り返り『良い人生だった』と言えるように、部員一丸となって協力しあって人生を結実させることにある」
人生を結実させる、その具体的な想像が俺には浮かばない。
「明智くん。消える為に生まれたのではないなら、その対極にあるものはなんだと思う?」
昨日秋穂さんは、消失<ロスト>が無くたって人はいずれ寿命で土に還ると言っていた。消失=死という扱いなら。
「生か?」
「その通りだよ、明智くん。消える為に消えるのではない。生きる為に生まれたんだ」
それって、なにが違うんだ。と、一瞬だけ思ったけど、その二つは似ているようで全く違うなと思い直す。
消失<死>と諦観が蔓延し、当たり前のように受け入れられているこの世界で『生きる』という活動をする。
それは、まさしく、生きていると言えるのではないか。
「やりたいことがあれば私が協力するし、特に思い浮かばなければ相談に乗ろう。そうして、お互いの人生を彩に溢れたものにしていきたいと思っている。以上だ」
「結構大ざっぱなんだな」
「部活の説明なんてそんなものだよ、明智くん。野球部に所属する際に、野球の基本的なルールから説明するところなんてないだろう?」
必要に応じてする所もあるだろうけど、細かいルール以外はそんなものか。
改めて考えてみよう。寿命だとか病気だとかで急死するよりも、正確に終わりが認識しやすい点だけは消失の方が勝っている。
消失を期限として、人生を終結させるって考え方は、少なくとも諦め続けるよりは前向きだ。
果たして、それが誰にでも出来る物なのかはさておき。
「質問」
「私に答えられる事ならば、何でも答えよう」
ほう。何でも、と言ったな。不敵に口角を上げる俺。
秋穂さんはさぞ不気味に感じただろうが、だが、侮るなよ。俺を。
そこら辺の思春期男児だったらここで、いかがわしい質問を選択するのだろうが、俺は違う。
「秋穂さん以外の部員は?」
真面目だった。さっさと切り上げたいのです。
「……推理をしようか、明智くん」
「秋穂さんが教えてくれれば済む話なんだけど」
長引かせないで欲しい、とは言わない。
「簡単な推理だよ、明智くん」
「あ、はいはい」
「なんだその気乗りしない返事は……まぁ、いい。今日は部の活動日だったわけだが、違和感を感じなかっただろうか」
「もうオチ読めたんで、続けなくていいっす」
要するに、他に部員が居ないんだよな。じゃあ、今後しばらくの間はこの第二種人類と二人きりで放課後を過ごすことになるわけだ。
「…………」
そそそそそそそそそそそーてーの範囲内! 他に誰かが居て、それが第二種人類だったりしたら、俺は脱兎と化すけどな。
「概ね予想通りだろうから、反論できないが……一応、部員は居るには居るぞ」
「俺だ、とか言うんだろ」
「いや? 幽霊部員だ。ルネッサンス美登里という一年生で、その記憶が私にあるという事は、まだ消えてはいない筈」
ここで気になる問題が出てきました~。
「せ…つ…は」
「む?」
「性別は、どっちだと聞いている」
名前のあれこれについてはこの際、脇に置いておく。
「ルネッサンス美登里は女性だ」
「この話は無かったことにしましょう」
「君の思うところは解るが、幽霊部員だと言っただろう。君が彼女と鉢合わせする可能性は殆どないと思ってくれて良い」
「ほんと? 俺が東○に受かる確率とどっちが高い?」
「同じくらいだ」
だったら、我慢しよう。俺もそろそろ一々混乱することに疲れてきた。
「次の質問です」
「どうぞ」
「参考までに聞きたいんだけど、秋穂さんは何がしたくて、この部に居るんだ?」
「ああ、それはな――」
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