ララの宿屋
@Ruizin
第1話ララの宿屋
日の暮れかかった街には冒険者であふれていた。
ぼろぼろの鎧を着て仲間と歩く冒険者。
武器を新調しようとしている冒険者。
戦利品を換金している冒険者。
消耗品を買い込んでいる冒険者。
店の主人と言い争っている冒険者。
酒場で今日の武勇伝を語っている冒険者。
それぞれが、冒険を終えて街に戻ってきてやることは様々だが皆最後にはそこに向かうことになる・・・。
ここにも、その例に漏れずそこに向かおうとしている冒険者たちがいる。
街の中心地から少し離れたところに彼らの目当てがあった。ガタついたドアを開けると少し離れたところにカウンターがありそこのうえに一匹の猫がふてぶてしく寝ており奥には一人の少女が満面の笑みで立っていた。
「冒険ご苦労様でした!宿屋ララへようこそ!!」
そう、彼らが向かうところは宿屋である。
「本日もお疲れ様でした!三名様でよろしいでしょうか?・・・はい、では三名一部屋で一泊なので600Gとなります。」
指定された料金をもらったことを確認すると
「では、お部屋のほうに案内させていただきます。ついてきてください」
そう言うと、少女はカウンターから出て冒険者たちを部屋へ案内し始めた。
「二階のお部屋となります。・・・へ?はい、この宿は私一人でやっていますよ。でも、安心してください宿の隅々まで掃除は行き届いておりますので虫が出るなんてことはなんですから。あっ、こちらの部屋になります。」
少女が部屋の戸開けると部屋の中が見えてきた。三人部屋にしては狭いが少女の言った通り清掃はきちんと行き届いているようで、ベットのシーツは真っ白でしわが一つもない。床や壁の木が腐食して傷んでいるということもないようだ。
少女は誇らしげに胸を張ってる。
「どうですか・・・・え!!えへへへ、そんなに褒められると照れちゃいますよ。」
左手を頭の後ろに手をまわして顔を赤らめて照れているようだ。しばししてから少女がはっとしてコホンと咳払いをした後に
「チェックアウトは明日の10時までとなっています。では、冒険の疲れを癒してください。失礼します。」
深々と礼をして少女は戸を閉めて階段を下っていった。その後も、他の冒険者を案内しに二階にやってきたりなど忙しない足音で少女の多忙さを知れた。
~就寝中~
次の日の朝、眠い目をこすりながら仲間と共に一階の食堂へと向かった。食堂に入ってみると四人用のテーブルが5つありすでに3つほど埋まっていた。空いてるテーブルに腰掛けると、奥から料理を持った少女がやってきて
「おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」
朝早いというのに、とても元気のある明るい声で少女は挨拶してくれた。もちろん、少女の問いには三人とも肯定した。
少女は喜びながら
「よかったです。これで、まったく眠られなかったぞ!とか言われたらどうしようかと思ってました。今日の朝食は、極東のほうの伝統的な朝食料理に挑戦してみました!」
少女が持ってきた料理は、お椀いっぱいの白い穀物と茶色く濁っているスープ、魚の塩焼き、野菜の盛り合わせそして卵が一つのセットとして出てきた。
「えっとですね、こっちの白いのが米というものでパンとかと同じで主食になっていてこっちのスープはみそ汁と言って中にはわかめなどの具材が入っています。・・・卵は何に使うかですか?なんでも極東の朝ごはんには卵が不可欠と聞いたのですが結局何に使うのかわからなかったのですがたぶん滋養強壮の意味合いでそのまま飲めばいいのではないでしょうか?」
初めて見る料理になかなか手を付けられずにいた私たちを見て少女がこれまた胸を張って
「安心してください。味はあちらのテーブルにいた極東出身の人のお墨付きですから!」
少女の手を向けた方向を見ると四人組の冒険者の中にみそ汁をすすりながら得も言えぬ表情をしている俗にいう着物を着ている男がいた。
「あの方に、料理を出したら泣きながら喜んでくれたのですごくうれしかったです」
少女はどうぞと言わんばかりにこちらを見てくる。あまりの屈託のない眼差しに食えぬとは言えず恐る恐る箸と呼ばれるもので米を食べてみる。
我々の食べる表情を見た少女が心配そうに
「どうですか?お口に合いましたか?」ときいてきたが、
それどころじゃない!!!この米・・・うますぎる。モチモチとした独特の触感に穀物とは思えない甘みが食欲をわき立たせるではないか。そのままみそ汁もすすってみる、みそ汁の素となっているみその風味がさらに食欲を引き立ててきた。そのまま、私たちは一切会話をすることなく極東料理を味わった。最後に卵を割って飲み干すことで朝食を終えた。
「うふふ。おそまつさまでした。」
少女はそう言ってどんどん空になった器を片付けていった。
朝食の余韻を残しつつ私たちは自室にて冒険の準備に取り掛かった。昨晩話し合った通りの場所へと行く予定だ。早々に準備を終えたので先にロビーで待っていると少女がカウンターのそばで猫と一緒にくつろいでいた。
「あっ、これから出発ですか?今日はどちらに行かれるのですか?」
私は手短に行く場所を伝えた。
「あのあたりまで行かれるのですか・・・。えっ!いえ、あのその何か気になることがあるわけではないですけど、あの辺りは最近モンスターの質が上がったとか聞いたので心配になっちゃいまして・・・」
少女は不安そうにこちらを見てくる。自分たちなら大丈夫だから心配しないでと言うと
「う~~んでも・・・あっ、そうだ少し待っててください!」
そういって少女は奥へと駆け込んでいき何やら小包を持ってきた。
「はい、これをどうぞ。中身は朝食でお出しした米を使ったおにぎりという料理になっています。」
その小包を受け取った私が不思議そうな顔をしていると
「え~とですねこの小包は私のおばあちゃんのくれた大切なものなのですが、冒険者さんが無事に冒険を終えられたらこの包みを私に返しに来てくれませんか?一方的なお願いなのはわかっていますけど、どうかお願いします。」
深々と頭を下げる少女に私はわかったよと答えた。
少女は顔を上げると同時ににっこりと笑ってうれしそうに
「本当ですか!じゃあ約束ですよ!!!」と言った。
しばらくすると仲間も準備を終えて降りてきたので私たちは冒険へと出ることにした。
戸を開けると少女が大きな声で
「気を付けてきてくださいね。冒険者様たちの武運を願っております。」
私たちはその声に対して腕を上げることで返事をした。
・・・大事な約束ができちまったなと呟く私を不思議そうに見る仲間を横目に私は今日も冒険に出かける。
~ララの日記~
今日は、いつもより冒険者さんが多く来て大変だったけど何とか乗り切ることができた。←やったね!
朝食には極東料理に挑戦してみて、味は大丈夫かなってドキドキしたけど極東出身の人からも大絶賛を受けたのでとってもうれしかった!
もっと、多くの人を喜ばせられるようにたくさん料理の練習をしよう!←ファイト~!だよ私
それと、泊まってくれた冒険者さんの中に危険なところに行く人がいたから無事に戻ってきてほしくておばあちゃんの風呂敷を預けちゃった。でも、返しに来てくれるって言ってたから大丈夫だよね。
早く帰ってきてくれないかな~~。
~第二級指定危険区域~
頭が痛い。吐き気がする。体のあちこちが悲鳴を上げている。
くそっ。なんてこったここが昨日のうちに危険区域になっちまってるなんて。
ちくしょう!ちくしょう!もうあいつらもやられちまったかな。途中で散り散りになっちまったけどさっきまで聞こえていた戦闘の音が全く聞こえなくなりやがった。
バックパックも無くしちまったから逃走の手段もねぇや・・・。ここまでかぁ・・・。
ん?なんだこれ・・・あぁそっか約束してたもんな、あの嬢ちゃんと。嬢ちゃんの作った料理うまかったなぁ。もう一回食いたくなってきたぜ。この包みも返さないといけねぇな・・・。
約束は守らねぇとだめだよな、待ってろよ嬢ちゃん今からこれ返しに行ってやるから。少しばかし待っててくれや・・・。
次の日に危険区域に派遣された討伐隊によって大規模なモンスターの討伐が行われた。その日のうちの夕方に被害の報告がされた。これは報告書類の一部抜粋である。
[報告]
~危険指定区域に指定されてからあのエリアを訪れたグループは三人組の冒険者グループ一つのみ。三名全員の死亡を確認した。尚、装備などは親族などに引き渡したが一つだけおかしなことがあった。三人とも所持していた記録のないものが発見された。三名の発見当時装備品などはほとんどが傷ついていたがそれだけは傷がない状態で発見された。自分の身よりも守る価値があったのかどうかは定かではないがこれを所持していた冒険者は発見当時それを守るようにして見つかったという。~
ララの宿屋 @Ruizin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ララの宿屋の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます