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「真日」
聞き慣れた声が真日を呼んだ。くるりと振り向く。スカートがふわり、と広がった。
確認するまでもなく、そこに立っていたのは幼馴染の汐だった。青空色の癖っ毛の髪、黄金の麦畑色の瞳、春を待つ木の幹の色をしたローブ。彼が若衆の儀を迎えてから幾度となく見た装いだ。
「汐、どうかした ?」
弾んだ声で尋ねると、彼はこくりと頷いた。
「これ、あー、
なにやら誤魔化しながらに真日に渡されたのは朝焼け色の宝石が埋め込まれたチョーカーだった。
「ばかね、汐」
嘘をつくならもっとまともな嘘をつきなさいと言いながら真日はそれを受け取った。
「私の伯父が、姪の誕生日を覚えているとでも思って ?あの、薬草とアナタにしか興味のない変人が」
呆れながら、ありがたく受け取っておくけど、とチョーカーを身につけた。
「ねえ汐。アナタが選んだのでしょう ?」
ひどい癖っ毛の彼の髪を撫で付ける。照れなくてもいいのに、と苦笑しながら真日は愛おしげに汐を見つめた。
「なんでばれるんだ……どうしてこう、真日は鋭いかな。
うん、誕生日おめでとう、真日」
ありがとう、この言葉は声になっただろうか。真日はどうしようもなく汐を愛していて、きっと汐も真日を愛していると知っていた。けれど、この二人の両想いが叶うことはない。
花月三日。麻緋真日の十六の誕生日。今日は、真日の納入の日であった。
日輪奇譚 梅原珠乃 @R_pearl
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