1-3-9覚醒

 鞠川綾音まりかわあやね三等空尉は、朝から体調が優れなかった。


 頭が重く、身体がダルい。


 最初は風邪かなと思い、薬を飲んだが一向によくなる兆しが無い。それどころか、むしろ悪くなっていく感じである。

 その上それが原因なのか、具合が悪くなっていくにつれ、何か良からぬ胸騒ぎがして、勤務に集中出来ない。


 いけないいけない、自分は航空管制官として、パイロット達の命を預かっている。こんな事ではダメ、ちゃんと集中しなきゃ。


 そう自分を叱咤しても、集中力が持続しない。彼女は先輩の女性士官、舘一真峰たていちまみね二尉に相談した。


「綾ちゃん、頑張り屋さんだから、自覚しないうちに体調崩してるかも知れないわね。とりあえず隊長に報告して、医務室行ってらっしゃい。」

「でも、他の方に迷惑が……」


 煮え切らない鞠川三尉の態度に、舘一二尉が語気を強める。


「ダメよ! 頑張るのも良いけど、出来ない時は出来ないと、はっきり発言するのも任務の一つよ! ミスをしたり、倒れてからじゃ遅いの。我々管制官は、パイロット達の命を預かっているのと同時に、国防の最前線にいる防人さきもりなの、絶対にミスは許されない配置についているのよ、ちゃんと自覚なさい。また遭難者捜索訓練の時みたいなミスをしたいの? それに、あなたの妄想の一尉かれしなら、こんな時何て言う? 」

「医務室に行って来なさい……」

「でしょう! 分かったらとっとと行く。」

「はい、鞠川三尉、医務室に行きます。」


 敬礼した鞠川三尉は、答礼を受けてから回れ右をして、舘一二尉のアドバイスに従って医務室に向かうべく、上司の隊長の許可を取りに向かった。


 舘一二尉は、先進技術検証機ATD-X心神Ⅱ遭難事件以前は、相沢一尉に御執心で、事ある毎にアプローチしていたと聞く。

 実際、あの事件当日から三日間、彼女は事件を自分の管制ミスと決めつけ、涙を流して激しく罵りの言葉を自分にぶつけ続けていた。


 しかし、今ではすっかり相沢一尉の記憶が消え失せ、先進技術検証機事件も遭難者捜索訓練事故と記憶がすり替わっている。そして自分とも打ち解け、良き先輩士官となっいた。

 その事実は鞠川三尉には嬉しくもあるが、とても寂しく感じられていた。


 その後、鞠川三尉は医務室にて医官から、本日の勤務続行は不可能との診断を受け、その旨を上司に報告した後、早退の許可を得て官舎の個室に戻った。

 そして、着替えもそこそこに、ベッドに倒れ込み、気を失うかの如く深い眠りに落ちていった。


 ◆◆◆


 ナイアルラートが不気味な人面鳥を倒したのとほぼ同時に、キョウのアザトースが最後の一機を粉砕した。


 ナイアルラートに駆け寄ったアビィは、可愛らしい笑顔でハイタッチを交わした後、ナイアルラートを抱っこして頬擦りをする。

 キョウ達三人は笑顔でその様子を確認した後、アーミティッジ枢機卿とウォーランに厳しい顔で向き直る。


「さて、落とし前をつけて貰うぜ、さそり道人。」


 手駒の野盗達が全て倒され、恐慌をきたすウォーランとは対照的に、アーミティッジ枢機卿はキョウの言葉に、全く怯む様子は無かった。

 むしろ、開き直りとも思える余裕の態度で言葉を返す。


「落とし前? 何の事だ? それより自分達の心配をしたらどうだ、ネオンナイト。」

「何だと! 」


 キョウは表情を曇らせた。


 アーミティッジ枢機卿は、芝居ががった大袈裟な動作で両手を広げて高く掲げ、天を仰いで言葉を続ける。


「おお、救世の聖女、二人のマリアはお怒りだ! マリア病克服は白騎士教団の悲願、マリアの導く道、それを邪魔する貴様達を許さぬと告げられた。」


 ナイアルラートが異変に気がついた、自分を抱くアビィが急にガタガタ震だした。


「にゃるにゃる! ? 」


 ナイアルラートが覗き込むと、アビィの顔は真っ青になっている。


「にゃるちゃん、にゃるちゃん、くるしい……」


 そう力なく呟くと、アビィはばったり倒れてしまった。

 アビィを救おうと、ナイアルラートは必死に声を張り上げて助けを呼ぶ。


「にゃる、がしゃんな~! にゃる、がしゃんな~! 」


 その声に応えて、ディオの親爺が駆けつける、アンナをはじめとする孤児達も、ディオの親爺の後を追う様に駆けつけ、皆、心配そうにアビィの顔を覗き込む。


「これは酷い熱だ! 」


 アビィの額に手を置いて、ディオの親爺が呻く様に声を絞り出す。

 アンナが冷たく冷やしたタオルをアビィの額に置いて、キョウに教わった治癒魔法を試みる。


 その姿を認めたアーミティッジは、嘲笑いながら罵りの言葉を吐く。


「無駄だ無駄だ、道を阻む貴様達に、二人のマリアは怒りの呪いを下された、治癒魔法なんぞするだけ無駄だ! 」


 アビィの元に、遅れて駆けつけたマグダラがアーミティッジを睨み、叫ぶ。


「馬鹿な事言わないで、マリア達が呪いを下すですって! 」


 ハスタァが悲痛に訴える。


「アーミティッジ枢機卿、もうお止め下さい! 何故我等の帰依するマリアを貶めるのですか! ? 」


 アーミティッジは冷たい目で見下ろすと、その目付きに相応しい冷たい口調でハスタァを突き放す。


「ふん、闇の端女はしために同調する背教者め、白騎士こそ正義、白騎士の言葉こそ真実、そして私こそが白騎士の代弁者、その私がマリアの呪いと言えば、それはマリアの呪いなのだ! ほっほっほっほ……」


 嘲笑の高笑いをするアーミティッジを、ハスタァは歯軋りして睨みつけた。


 しかし、アーミティッジはハスタァの想いなど歯牙にもかけず、勝ち誇って言葉を続ける。


「その娘を助けたいか、サードマリアを僭称する愚か者よ。」


 マージョリーは奥歯を噛み締め、アーミティッジを睨みつける。


「そうか、助けたいか、そうだろうそうだろう。ならば、その手でネオンナイトを殺すのだ! 」


 その場の一同は、息をのんだ。


「ネオンナイトを殺し、白騎士への忠誠を誓い、きゃつの血でその娘を洗い清めれば、マリアの怒りも解け、助かるやも知れん。ほっほっほっほ……」


 高笑いするアーミティッジの話を、震えながら聞いていたマージョリーに、その場の一同が注目する。


「罠じゃ、マージ、耳を貸してはいかん。」

「マージョリー殿、悔しいが親爺さんの言う通りです、ここは……」


 キョウ殿に任せるべきだ。

 と、続けようとしたハスタァの言葉を遮り、マージョリーが声を絞り出す。


「キョウ……」


 困り果てた表情と、悔しさの滲む苦悩の表情をごちゃ混ぜにし、マージョリーは救いを求めてキョウを見る、そして、苦しむアビィに目を向けた。


「アビィ……」


 マージョリーは目を閉じて俯いた、そして、再び頭を上げてキョウを見つめた。


 マージョリーの目には、先ほどの様にキョウに救いを求める表情は消えていた。


 彼女の頭の中で、ある計算が成り立っていた。


 どちらに転んでも、絶対に損にはならないだろう、彼女なりに考えた計算。


 それは、とても悲しい計算式であった。


「……キョウ、私と戦って。」


 悲壮な想いを込めて、静かにマージョリーが言った。


「馬鹿な、気は確かか? マージ。」

「マージョリー殿! 」

「マージ様、止めて下さい! キョウ様がきっと…………」


 ディオの親爺が、ハスタァが、アリシアが必死にマージョリーを止めるが、彼女の決意は固かった。


「お願い。」


 マージョリーは、覚悟を決めた眼差しをキョウに向けた。

 他の一同も、全てが祈る様な目でキョウを見つめている。


「マスター……」


 マグダラも不安気にキョウを見つめた。


 キョウは全員の目を見回し、最後にマージョリーの目を見て答えた。


「分かった、マージ、受けて立とう。」


 キョウの答えを聞いて、安堵の笑みを浮かべたマージョリーが言った。


「ありがとう、キョウ。」


 しかし、この戦いには反対だったマグダラが、翻意を願う為にキョウの傍らに現れた。


「マスター、私は反対です、アーミティッジの思うつぼです、意味が……」


 有りません。と続けようとしたマグダラの言葉を、キョウが遮る。


「意味なら有るよ。」


 キョウはマグダラに、顎でマージョリーを示す。


「見てごらん、マージは今僕に、助けてくれって泣いているんだ、女の子一人助けられないで、何がネオンナイトだ。」

「マスター……」

「今、この時の為にバルザイのシミターを手に入れたんだ、僕を信じろ、マグダラ。」


 そう言って自分を見つめるキョウの目に、マグダラは見覚えが有った。そう、キョウが初めてアザトースで、ハスタァと戦った時、自責の念に囚われていたマグダラを解放した、あの身も心も包み込む様な優しい目だ。

 この目に見つめられたら、マグダラに嫌も応もない。


 私はこの目を信じて今までマスターを導き、そして従って来たのだ、ならば……


「はい、信じます。ご存分に、マスター。」


 全幅の信頼をキョウに寄せ、マグダラはその場を離れた。


 再び眼前に現れたマグダラに、アリシアが不安気に尋ねる。


「お姉様、キョウ様をお止めするんじゃ……」

「ええ、そのつもりだったけど、止めました。」


 マグダラの答えに驚いて、アリシアは質問を重ねる。


「何故? お姉様もお二人が戦う事に、反対ではなかったのですか!? 」

「ええ、ですがマスターは私に自分を信じろと仰いました。だから私はマスターを、ネオンナイトを信じます。」


 マグダラは迷いなく、凛とした表情で答え、アザトースを頼もしげに見つめた。


 一方そのアザトースのコクピットでは、イブン・ガジ感心した様にも、また冷やかす様にも聞こえる口調でキョウに話しかけていた。


「キョウよ、あの洞窟でも言った事じゃが、お主に望めば本当に、世界すら救って貰えそうじゃな。」

「ああ、救ってやるさ。あの涙を止める為に必要なら、世界だろうと何だろうと救ってやる。」


 キョウは爽やかな笑みをたたえながら、あくまでも自然体のままで宣言した、そして腰に差したバルザイのシミターを鞘から抜くと、コンソール中央の、輝くトラペゾヘドロン製の黒いクリスタルに突き立てた。


 シミターはクリスタルに吸い込まれる様に融合し、一体化する。

 アザトースの右手に、一振りの剣が展開装備された。


 ローズウッドの柄は、アザトースの手のひらにしっかりフィットする様に、スキャロップ加工が施されている。

 黒く輝く鍔、そこから伸びる清らかな純白の刀身には、キョウの想いを具現化した様に一点の曇りも無い。


 一度ひとたび振るえば、成層圏にすら届く音速の一撃で、全ての敵を斬り裂き倒すと謳われた伝説の聖魔剣ストラトキャスター

 現在に至る全ての精霊騎士の剣技を編み出した、孤高の剣聖マエストロにして、初代ネオンナイト、ロニー・ジェイムスの師匠の名を冠した、精霊機甲アザトースの究極の武器、聖魔剣ブラックモアである。


 アザトースとリュミエールは静かに対峙した。


「マージ、これから起こる事を恐れずに、今まで教えた事をよく思い出して対処するんだ、いいね。」

「キョウ、覚悟! 」


 二機の精霊機甲が刃を交えた。


  改めて刃を交わし、マージョリーはキョウの強さを再確認した。


「これがキョウの最終奥義『ブラック仮面舞踏会マスカレード』……、流石、強い……。」


 虚実をおりまぜて、まるで何体にも分身しているかの様なアザトースの機動に、マージョリーは全く対応ができなかった。


 まるで場違いな舞踏会に出席させられ、無様なステップを踏み続ける道化師ピエロの様に、マージョリーは自分の無力さに惨めな想いを噛み締めていた。


 この想いは、キョウが生身でノーデンスのナイトゴーントを叩き伏せた時から燻っていた。

 あのままアーミティッジと野盗達を駆逐出来たならば、この想いは顕在化する事もなく、愛する想い人の頼もしい力として憧憬の対象なり、また、自慢のタネへと昇華しただろう。

 しかし、現実は野盗達を駆逐出来ずに土壇場まで攻め込まれ、その上アビィまでアーミティッジの奸計で苦しんでいる。


 自分はキョウの足手まといでしかなく、子供達にとっても本当は邪魔な存在でしか無いのではないか? そんな想いがマージョリーを支配していた。


 眠りについた鞠川三尉の意識は、そんなマージョリーの心の奥底で目を覚ました。


 目を覚ましたというより、マージョリーの意識とリンクして、それを夢に見ていたという方が正しいのかも知れない。

 いずれにしても鞠川三尉は、マージョリーに対してもどかしい想いを抱き、フラストレーションを溜めていた。


 そう、マージョリーの意識にリンクしている鞠川三尉は、彼女の想いと望みを正確に理解していた。


 マージョリーが、この戦いに臨むにあたり立てた計算式。それは孤児達を愛するキョウに託し、愛しいキョウの刃に討たれて死ぬ事であった。


 そんな事は間違っている、誰もそんな事は望んでいない。

 それは誰も幸せにしない、独りよがりのエゴだ。

 それを彼女に伝える術を持たない鞠川三尉は、身悶える程のフラストレーションを抱え、二人の戦いを見つめていた。


 一方アザトースのキョウも、焦りの表情を浮かべていた。


「まだ気がつかないか!? マージ。」


 思わず口をついて出た愚痴に、イブン・ガジが応じる。


「無理もあるまい、儂がロニーにこれで鍛えられた時には、気がつくまで三昼夜かかったもんじゃ。それよりあのカワイコちゃん、気づかんままでよく対応しておる、底知れん素質じゃな。」

「まったくだ、でもアビィの事がある、悠長に待ってはいられない。早く気づいてくれよ、マージ。」


 キョウは祈る様な視線で、モニターに映るリュミエールを見つめた。


 しかし、そんな鞠川三尉やキョウの必死の想いに気づく事なく、マージョリーはリュミエールのコクピットで、遺言めいた言葉を口走る。


「みんな、頼りないお姉ちゃんでゴメンね、これからはキョウがあなた達のお父さんだから、ちゃんと言う事を聞いて、良い子にするのよ。」


『何言ってるのよ、馬鹿な事言わないで! 』


 鞠川三尉が、必死にマージョリーの過ちを糺そうと訴えかける。


「キョウ、足手まといな弟子でごめんなさい。アビィを、子供達をお願い。」


『待ちなさい! 貴方は今何を口走っているのか、分かっているの!? 』


 アザトースに抵抗する事を止めたマージョリーは、最期の望みをそっと呟く。


「こんな私が生きてたって、みんなの邪魔になるだけ。キョウ、せめて貴方の手で……」


『どうしてそんな事考えるの!? 馬鹿! 馬鹿! 馬鹿! 』


 鞠川三尉の心の叫びが、遂にマージョリーの心に届いた。


「馬鹿よ! あんたは! 」


 心の中に響き渡った涙の怒号に、マージョリーはハッとして顔を上げた。


「そんな事をして、一体誰が喜ぶの! ? 子供達を見なさい! 」


 自分の心に響く声に従い、マージョリーが子供達を見ると、子供達は皆、声を枯らして自分を応援していた。


「マージお姉ちゃん、頑張れ~! 」

「マージお姉ちゃん、しっかり~! 」

「キョウ兄ちゃんのバカ~! マージお姉ちゃんをいじめるな~! 」


 男の子達は、アザトースに石を投げつけてマージョリーに加勢していた。


「あ……、ああ……」


 マージョリーはその姿を見て、言葉を失った、目には涙が浮かんでいる。


 声は尚も心に響く。


「アビィちゃんを見なさい! あんな小さな子供が苦しみながら今何を祈っているのか、しっかり聞きなさい! 」


 マージョリーがアビィに目を移すと、苦しいはずのアビィが必死に笑顔を浮かべていた。


「わらうかどにはふくきたる、わらうかどにはふくきたる。」


 アビィがキョウと初めて出会った時に教わった、祈りの言葉を口にしている。


「きゅうせいのせいじょ、ふたりのマリアさま、どうかわたしのいのちをマージおねえちゃんにあげてください。そして、マージおねえちゃんとキョウおにいちゃんが、いつまでもいっしょにいられますように、どうかおねがいいたします。」


 アビィの祈りの言葉を耳にしたマージョリーの目から、涙が堰を切って流れ出す。


「どうして……、どうしてこんな弱い私なんか……」


 マージョリーの言葉に、鞠川三尉が答える。


「貴方だからよ、弱い所も何もかも。みんな、貴方の全部が大好きだからよ。」

「私……、だから……? 」

「そう、弱い事は恥じゃないのよ。相沢一尉は、貴方の大好きなキョウは、何て教えてくれたの? 」


 諭す様に質問する鞠川三尉に、マージョリーが嗚咽しながら答える。


「自分の弱さを恥じたり卑屈になったりせず、真正面から受け入れる事、そうすれば自分の中から正しい向上心が生まれる。同時に誰かの幸せを願って精進すれば、無限の強さを得る道が拓ける。」

「なら、今はどうすれば良いの? 」


 鞠川三尉の重ねて問いに、マージョリーは行動で答えた。


「うわぁあああ!! 」


 アザトースの繰り出す、黒い仮面舞踏会をかいくぐり、リュミエールをその懐に飛び込ませる。


 この機動に、キョウとイブン・ガジは思わず「見事! 」と、同時に唸った。


 黒い仮面舞踏会は、あるがままの自分を受け入れ、虚飾の仮面を脱ぎ捨てた時、それでも戦おうという意志を持ち続けた者に撃ち破る事ができる。マージョリーは鞠川三尉の導きで撃ち破る事に成功した。


 マージョリーは胸部装甲とコクピットハッチを開き、アザトースに向かって飛び出した。

 キョウもアザトースの胸部装甲とコクピットハッチを開き、飛び出してマージョリーを抱き止める。


「ごめんなさい、私が馬鹿だった。キョウ、お願い、アビィを、アビィを助けて。」

「よく頑張った、マージ、アビィは任せろ。」

「うん。」


 キョウはマージョリーを腕に抱いたまま、静かに着地すると、両手で彼女の頬を包み顔をあげさせ

 て、目を覗き込んだ。


「? 」


 マージョリーはキョウの行動の訳がわからず、きょとんと目を見開き、その目を見つめ返す。


 キョウは自分の目の奥にいる誰かに、微笑んで優しく語りかけた。


「鞠川三尉、只今の支援誠に見事なり。貴官の献身に全力を以て応えんと誓う、今しばらく安心して待たれよ。」


 マージョリーは確信した、自分の心の中に現れ、叱責を飛ばして導いてくれた女性


 鞠川三尉


 こそが、以前キョウが話していた『好きな人』なんだろう。


 マージョリーは 自分の胸に手を当てて、鞠川三尉に心から礼を言った。


「ありがとう。」


 しかし、その言葉は鞠川三尉には届いていなかった。


「えへへへへ~、一尉に褒められちゃったぁ~。」


 仕方あるまい、先に憧れの相沢一尉に、それもしばらくぶりに直接声をかけられ褒められたのだ。幸せいっぱいの鞠川三尉の心は、ユルユルの笑顔で成層圏に舞い上がり遊んでいた。


 キョウがアビィの元に駆け寄ると、男の子達が罰の悪そうな顔をして俯いていた。

 ディオの親爺が促すと、ラーズが上目遣いでキョウを見上げ、もじもじと謝り出した。


「石を投げてごめんなさい、キョウ兄ちゃん。」


 男の子達は、先ほどマージョリーに加勢して、アザトースに石を投げつけた事を謝っていた。


「何だ、そんな事か。」


 キョウは笑顔で男の子達を見回すと、両腕を広げて全員を抱き締めた。


「みんな、偉かったぞ。それでこそ男の子だ! 」


 キョウに褒められて、男の子達の顔に輝きが戻る。


「キョウ兄ちゃん、アビィを助けてくれよ! 」


 ラーズの言葉に、キョウは頷いて答える。


「ああ、任せろ、必ず助ける。」


 ラーズは目を輝かせてキョウを見上げた。


「本当だね! 絶対だよ! 」

「絶対さ、男の約束だ! 」


 キョウとラーズは互いに、大きな拳と小さな拳を合わせて頷き合った。


「さぁ、危ないからみんな下がって。おやっさん、子供達を頼む。」

「うむ。さぁ、みんな。」


 ディオの親爺が子供達を誘導し、その場を離れた。


 キョウがアーミティッジから庇う様に、アビィを背後に寝かせ、印を組む。


「アビィ、必ず助けるからね。」


 優しくアビィに語りかけ、静かに目を閉じて深呼吸をして精神を統一し、カッと目を見開く。


 キョウの足下に、大きな五芒星の魔方陣が刻まれ、光輝く。


 キョウは厳かに、解呪の修法を開始した。

 アビィに降りかかる呪いを撃ち破る為の祝詞を唱える。


高天原たかあまはらし坐して天と地に御働みはたらきをあらわたまう龍王は

 大宇宙根元の御祖みおや御使みつかいにして一切を産み一切を育て……」


 しかし、キョウの修法を、指をくわえて見ているアーミティッジではなかった。


「小癪なネオンナイトめ、うぬの思い通りにさせるか。」


 杖を高々と掲げ、呪文と共に降り下ろす。


「フングルイ・ムグルウナフ! 」


 禍々しい魔法の矢が、キョウに向かって一直線に放たれる。


 マージョリーを始めとする一同は、キョウならば難なく対処するだろうと見ていたが、その期待は見事に裏切られた。

 何とキョウは為す術無く、アーミティッジの魔法の矢の直撃を受けたのである。


 身体のあちこちから血を吹き出し、よろけながらも歯を食い縛り、足を踏みとどまり耐えるキョウの口からは、血を吐きながらも止まる事無く、祝詞の詠唱が続く。


萬物よろずのものを御支配あらせ給う王神なれば

 一二三四五六七八九十ひふみよいむなやこと

 十種とくさ御寶みたからを己がすがたと変じ給いて

 自在自由に天界地界人界を治め給う

 龍王神なるを尊み敬い……」


 アーミティッジは嗜虐の笑みを浮かべ、舌舐めずりをしながら、呪文を唱えて杖を降り下ろす。


「フングルイ・ムグルウナフ! 」


 またしても魔法の矢はキョウに直撃し、深刻なダメージを与えた。


「ぐはぁっ! 」


 キョウはよろめきながらも、地面に膝をつく事を拒み、体勢を立て直す。目尻から血を流しながらも、キョウは厳しい目でアーミティッジを見据えていた。


 マージョリー達が、その姿を悲鳴をあげながら見つめている。


「キョウ、何をしているの! ? 」

「そうですわ! キョウ様ならそんな矢なんて……」


 彼女達の疑問に、キョウの代わりにイブン・ガジが答えた。


「無理なんじゃよ、カワイコちゃん達、この矢はキョウを狙ってではなく、そのちっこい女の子を狙って撃っているんじゃ。」


 その言葉に、ハスタァは唖然とした。


「という事は、キョウ殿が避けたり弾いたりしたら……」

「うむ、そのちっこい女の子を狙って飛んで行くだけじゃ。」

「何と、汚い! 」


 イブン・ガジの言葉に、ハスタァが歯噛みをした。

 キョウはそんな彼等に、力強く宣言する。


「安心しろ、こんな物屁でもねぇ! 」


 そして血の混じった唾を吐き捨て、アーミティッジに向かって叫ぶ。


「さそり道人! 貴様の様な腐れ外道は、このネオンナイトが救世の聖女、二人のマリアの名の元に冒涜して、闇と混沌の底に沈めてやる! 」


 アーミティッジはキョウをせせら笑う。


「すでに足元が覚束ない貴様に何ができる、たっぷり苦しめて、なぶり殺して差し上げましょう、ほっほっほっほ。」


 相容れぬ二人の視線がぶつかり合い、見えない激しい火花が散った。


 キョウは再び祝詞の詠唱を始める。


「眞の六根むね一筋に御仕え申すことの由を受け引き給いて

 愚かなる心の数々を戒め給いて

 一切衆生の罪穢れの衣を脱ぎさらしめ給いて

 萬物の病災をも立所に祓い清め給い……」


 アーミティッジが杖を振り上げ、邪法の呪文の力を込めて降り下ろす。


「フングルイ・ムグルウナフ! 」


 邪悪な魔法の矢がアビィを狙い、キョウに向かって放たれる。


 それを阻まんと、男が一人走り出した。


「うぉおおおおおおおおっ! 」


 矢がキョウに命中する直前、強力な筋肉に鎧われた巨体が盾となった。


「ぐわぁあああああっ! 」

「ノーデンス! 」


 キョウは魔法の矢の直撃を受け、片膝を地に着いたノーデンスに声をかける。


「大丈夫だ、ネオンナイト。俺に構うな、それよりも解呪を急げ。」


 ノーデンスの無事を確認し、頼もしげに微笑んで詠唱を再開する。


「萬世界も御親のもとに治めしせめ給へと

 祈願奉ることの由をきこしめし

 六根の内に念じ申す大願を成就なさしめ給へと

 恐み恐み白す」


 祝詞の詠唱を終えたキョウは、両手で組んだ印で素早く九字を切る。


「ふん! 」


 キョウが仕上げに気合いを入れると、魔方陣から清らかな光の柱が天を貫く様に立ち上がり、光のシャワーをアビィに注いだ。


「うーん、うーん……」


 しかし、アビィは相変わらず苦しそうに呻き声をあげている。


「ダメか! ? ならば……」

「待て、キョウ。もしかしたら、呪いじゃ無いかもしれんぞ。」


 次の解呪の祝詞を唱えようとしたキョウを、イブン・ガジが止めた。


「呪いじゃ無い? いや、有り得るな。」


 キョウがイブン・ガジの言葉に頷く。


「キョウ、儂を使え! 」


 イブン・ガジの申し出に、キョウは目を丸くして尋ねる。


「儂を使えって……、どういう事だ? 」


 じれったそうに、イブン・ガジはキョウを急かす。


「ええい、何をしとる! 瓶ごと放ればいい! 早くするんじゃ! 」

「分かった。」


 キョウは言われるままに、アビィに向けてイブン・ガジの入った瓶を投げると、空中で瓶の蓋が開き、イブン・ガジの粉が霧の様にアビィの周りを漂った。


「分かったぞ、キョウ! ショゴスじゃ! ショゴスが寄生しちょる! 」


 人工奉仕精霊ショゴス


 新しきものクラスの精霊機甲が開発された時、擬似契約させる低級精霊として同時に開発された精霊である。

 使役されるのを目的に開発された為、妖精体は不定形の アメーバ の様な形で顕現し、目的に応じて様々な形態に擬態する特徴を持つ。


 イブン・ガジはこのショゴスがアビィに寄生している事を突き止め、キョウに報告した。


「ショゴスだって!? 」

「ああ、そうじゃ、これを見ろ。」


 イブン・ガジが言うと、アビィの足首から侵入し、神経を侵しながら脊髄へと向かうショゴスの群体を可視化させる。


 イブン・ガジは不可視の物を見たり、可視化させる事が出来る様だ。


 ショゴスの侵食が進むにつれ、アビィに浮かぶ苦悶の表情が深刻化していく。


「ほっほっほっほ、どうやら気づいた様ですね。さよう、その子にはショゴスを寄生させました、ショゴスはやがて神経から脊髄を通り道に喰らいながら進み、最後には脳へと到達して喰らい尽くすでしょう。」

「いたいけな幼女に何と言う恐ろしい事を! 先ほどの卑劣な魔法攻撃と言い、あなたには白騎士教団の枢機卿としての誇りは無いのですか! アーミティッジ枢機卿! 」


 ハスタァの怒りの抗議を鼻で笑いながら、アーミティッジは恐ろしい持論を展開する。


「これも全てマリア病克服の為、その高貴な行いを理解出来ぬとは何と愚かな。ショゴスが神経、脊髄、脳を喰らい尽くした後、それらに擬態すれば、それまでの記憶を引き継いで、更に本来の寿命を越えて生きる事は私のタクヒで証明済み。後はそれが人間で可能かどうか証明するだけ。栄えある証明の献体に選ばれた事を、感謝されこそすれ、恨まれるとは筋が違うと言う物です。」


 そう言って、侮蔑のため息をついた。


「そんなの、克服だなんて言えないわ! 」


 マージョリーが敢然と反論する。


「そんなのはただ肉が生きてるだけ、殺された上に偽物の心を持たされた肉人形になるなんて、まっぴら御免よ! 」

「うぬらの意思などハナから論外よ、何しろショゴスは奉仕精霊。この実験が成功すれば、うぬらの肉は従順なダッチワイフとなる。たっぷり教団の役に立ってもらうぞ、ほっほっほっほ。」

「許さない! 」


 下卑た笑いを浮かべるアーミティッジを、唇を噛みしめマージョリーが睨みつけた。


「狂信者め。」


 全ての不快感をこの一言に込め、キョウは不毛な平行線の続く議論に終止符を打ち、苦しむアビィの傍らに座り込み、その額に右手を優しく添えた。

 そして左手で印を組み、アビィに取り憑いた邪を祓うための祝詞の詠唱を開始する。


「高天原に神留座す 神魯伎神魯美の詔以て

 皇御祖神伊邪那岐大神」


 キョウの新たな祝詞の詠唱を、侮蔑の眼差しで見下ろしたアーミティッジは、杖に魔力を込めて振り上げた。


「どんなに足掻いても無駄だと言うのに、愚かなりネオンナイト。フングルイ・ムグルウナフ! 」


 邪悪な魔法の矢を放つ。


「させるか! アーミティッジ! 」


 キョウとアビィを守る為、ハスタァが我が身を盾として矢を受けた。


「背教者め」

「背教者は貴様だ! アーミティッジ! 我等が帰依する二人のマリアは、この様な所業を許さない! 」


 忌々しそうに愚痴るアーミティッジに、血だらけになりながらも、ハスタァは凛とした誇りを胸に決別の反論を叩きつけた。


 キョウは、この場の全ての者の期待に応えるべく、全魔力を込めて祝詞の詠唱を続ける。


「筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に

 御禊祓へ給ひし時に生座る祓戸の大神達」


 キョウの右手から、眩しい光と共に破邪の波動がアビィの中に送り込まれる。

 アビィの口から、波動に耐えられなくなったショゴスが吐き出され始めた。


 その間も絶え間なく続くアーミティッジの魔法攻撃を、ハスタァとノーデンスが満身創痍になりながら、その身を盾として受け止め続ける。

 崩れ落ちそうになる二人を、アンナとアリシアが治癒魔法で支える


「ノーデンスさん、しっかり! 」

「ハスタァ僧正、頑張って! 」


 二人の声援と治癒魔法を受け、ハスタァとノーデンスは気力を充実させた。


 キョウの祝詞も佳境に入る。


「アビゲイル・マテウス・ラスティーニに取り憑きし、諸々の禍事罪穢れを拂ひ賜へ清め賜へと申す事の由を、天津神国津神、八百萬の神達共に聞食せと恐み恐み申す」


 咳き込みながら、アビィがショゴスを吐き出した。


「やったぞ、キョウ! ショゴスを全部追い出したぞ! 」


 イブン・ガジが狂喜してキョウに報告する。


 その報告を受けたキョウは、両手で印を組み直して九字を切る


「禁! 」


 キョウが力強く唱えると、吐き出されたショゴスが全て爆砕して燃え尽きた。


 皆の顔に安堵の表情が浮かんだ、子供達の歓声があがる。同時に安心して気の抜けたハスタァとノーデンスが、がっくりと膝を着き、肩を組んで笑い合う。


 この光景を蒼白な表情で、目尻を痙攣させながらアーミティッジは見つめていた。


「おのれぇ~! おのれ! おのれ! おのれ! ネオンナイト! 」


 歯噛みして悔しがるアーミティッジは、自身の崇高な実験を粉砕した張本人、憎きネオンナイトを物凄い形相で睨みつける。


「許さん、許さんぞ! ネオンナイト! 」


 アーミティッジが、怒りと憎しみを魔力に込めて呪文を唱え始めた。

 それを察知したキョウも、迎え撃つ呪文の詠唱を開始する。


「フングルイ・フングルイ・フングルイ・ムグルウナフ! 」

「北方重金属を司る金剛石の王よ、吾に利有らば急急と律令の如く盟約を果たせ! 」

「死ねぇい! ネオンナイト! 」

獣破魑じゅうはちきゅうとせよ! 」


 やや早く詠唱を終えたアーミティッジが、杖を降り下ろし、巨大な魔法の矢をキョウめがけて放つ。

 少し遅れてキョウが詠唱を終えると、矢を遮る様に、中空に巨大な呪符が描かれた。

 呪符は魔法の矢を押し戻し、アーミティッジに向かい飛んで行く。そして呪符はアーミティッジを押し包み、背後の岩に押し付ける。


「おのれぇ~! ネオンナイトォ~! 」


 アーミティッジは断末魔の声をあげ、顔の皮を残して押し潰された。


  誰もが安堵して笑い合いキョウに走り寄り、残るウォーランに厳しい目を向けた。


 しかしマージョリーの悲鳴にも似た言葉が、一同の安堵感をかき消した。


「アビィ、ねぇアビィ、起きて、アビィ! キョウ、アビィが、アビィが起きないの! アビィ、目を覚まして! 」


 なんとか目を覚まさせようと、必死にアビィの身体を揺さぶりながら、マージョリーは涙を浮かべてキョウに哀願の目を向ける。


「何だって! 」


 キョウがアビィの傍らに駆け寄り、片膝をついて覗き込む。

 他の者達もその周りを取り囲み、心配そうにアビィを見つめた。


「イカンな、このお嬢ちゃん、生命(いのち)を放棄しちょる。」


 瓶に戻りながら、イブン・ガジが残念そうに言う。

 その言葉を聞いたマージョリーは、必死にアビィに呼び掛ける。


「アビィ! アビィ! お願い、目を開けて! 帰って来て! 」

「ねぇキョウ兄ちゃん、アビィは死んじゃうの? 」


 ラーズがキョウの腕を掴み、今にも泣きそうな瞳に、悔しさをにじませて聞いた。


「いいや、絶対に死なない、死なせない! 」


 キョウはラーズの頭を撫でながら答えると、安らかに眠るアビィの額に自分の額を合わせて呪文を唱えた。


「ルルイエの館にて眠れるアビィ、夢見るままに待ちいたり。」


 呪文を唱え終えると、キョウの意識はアビィの心の中に降り立った。


 アビィの心の中の風景は、小さな子供が楽しい、美しいと思う事を、一生懸命に画用紙いっぱいにクレヨンで書いた、まるで絵本か紙芝居の中の様な感じがする世界だった。


 たくさんの花が描かれ、花には黄金のミツバチ達が楽しそうに蜜を吸い。

 養蜂箱の中には、女王蜂と幼虫達が笑顔でミツバチ達の帰りを待っている。

 妖精達が遊ぶ林の木には、数種類の高級果実が鈴なりに実り、木の下では子供達が嬉しそうに果実を食べている。


 この風景は、きっと孤児院を描いているんだな。


 微笑ましく思いながら、キョウがアビィの心の奥に歩を進めた。

 あの浮いてるのはマグダラだな、帳簿をつけているのはアリシアか。ふふふっ、巧く特徴を捉えているな。

 大きな孤児院の前に、優しい笑顔が印象的な男女が立っている、男女は二人で赤ちゃんを抱いていた。

 どうやらこの男女は僕とマージョリーの様だ、では抱かれている赤ちゃんは誰だ?


 キョウが苦笑いしながら赤ちゃんの顔を見た、二人に抱かれて幸せ一杯の寝顔にキョウは見覚えがあった、そう、シュブ=ニグラス亭で三人川の字になって寝た時のアビィの寝顔である。


 今までの絵の中に、アビィらしき子供の姿は無かった、という事は、やはりアビィは今の命を何かの為に放棄して、僕とマージの子供として生まれ変わる事を望んでいる。


 まずい、急がなければ。


 キョウは、クレヨン書きの孤児院の扉を開ける。

 中は真っ暗な空間だった、注意深く進んで行くと、愚図って駄々をこねるアビィの声が聞こえてきた。キョウは声のする方へと駆け出した。


 しばらく走って行くと、金色に輝く『何か』が沢山詰まった大きなバスケットを両手で抱え、マージョリーと瓜二つの二人の女性に一生懸命押し付けるアビィがいた。


「これ、あげるの、マージおねえちゃんにあげるの。」

 二人の女性は優しい笑顔でアビィを説得している。

「それは出来ないのよ。」

「良い子だから聞き分けて、ね。」


 アビィはそれでも食い下がる。


「やー、マージおねえちゃんにあげる! 」

「どうしたんだい、アビィ? 」


 キョウが優しく声をかけると、アビィはびっくりした表情で振り返った。キョウはアビィの許に歩み寄り、しゃがんで頭を撫でる。


 アビィは目に涙を浮かべてキョウに訴えた。


「マージおねえちゃん、しにたくないってないてたの、もっといきたいってないてたの、だからアビィのいのちをあげるの! 」


 キョウの頭の中にアビィの記憶が流れ込む、それはキョウとの一騎討ちに敗れた夜、新たな価値観に気づいてもっと生きたいと願い、慟哭するマージョリーの姿だった。


 バスケットに詰まっている物は、アビィの残りの命だった。


「優しいな、アビィは。」


 キョウはアビィを抱き締めて、頭を撫でながら話を続ける。


「でもね、アビィ、それはズルい事なんだよ。」

「ずるいこと? 」


 不思議そうに聞き返すアビィを、キョウは優しく諭す。


「どんな事があっても、自分の命は途中で投げ出してはダメなんだよ。」


 キョウは印を組んで、アビィを取り囲み涙する皆の姿をアビィに見せた。


 アビィは泣いているマージョリーの姿を見て涙を浮かべる。


「だめ、マージおねえちゃん、なかないで。」

「もし、アビィがこのまま帰らなかったら、みんなずっと泣いて暮らす事になるんだよ。」


 アビィは力一杯首を左右に振った。


「もし、マージお姉ちゃんの寿命が伸びても、アビィがいなくちゃ、伸びた分だけ泣いて暮らす事になるんだよ、それでもいい? 」

「だめ、ぜったいだめ! 」


 涙を浮かべて否定するアビィに、キョウは優しく微笑み手を差し出した。


「なら一緒に帰ろう。なに、マージお姉ちゃんの寿命なら大丈夫、これからお兄ちゃんは、マージお姉ちゃんと一緒に、女の子達の寿命を取り返す為に戦いに行くんだ。アビィが待っててくれたら、きっと勝って帰って来るよ。」

「うん、かえる。」


 アビィはキョウの差し出した手を握った。


 二人の女性は、アビィの説得に成功した事に安堵の表情を浮かべてキョウに話しかける。


「初めまして、異世界より参られたネオンナイト。私はマリア・フォン・マシンナリーと申します。」

「私はマリア・ド・メイジスと申します、貴方には辛い戦いを押しつけてしまい、大変申し訳なく思います。」

「ですが、伏してお願いします。マグダラを、マージョリーをどうか頼みます。」

「どうかこの世界の娘達を救って下さい。」


 二人のマリアの願いを聞いて、キョウは明るく答える。


「ああ、任せろ! 」


 二人のマリアは、その言葉を聞いてハッとして顔を上げた、そして自分達にコルナを送って微笑むキョウの姿に涙した。


 その言葉、その姿はかつてのネオンナイト、ロニー・ジェィムスそのものだった。


 二人のマリアも、マグダラと同じ想いを抱いた。


「この人ならば、きっと大丈夫」


 その想いを胸に、二人はキョウを見送った。


 アビィとキョウが目を覚ますと、皆、歓喜の声をあげる。

 子供達がキョウに抱きつき、マージョリーがアビィを抱き締める。


「キョウ殿。」

「ネオンナイト。」


 子供達にもみくちゃにされながら立ち上がったキョウと、ハスタァとノーデンスが交互に拳を合わせる。


「あ~ん、キョウ様、最高ですわ! 」

「お疲れ様でした、流石マスターです。」


 アリシアがキョウの首に抱きつき、マグダラが労いの言葉をかける。


「キョウ……。」


 感謝の涙を浮かべながら、マージョリーがキョウの前に進み出た。


「ありがとう。」


 万感の想いを込めて、マージョリーはキョウの胸に飛び込んだ。


 その光景を、邪悪な目で見つめる者がいた。

 キョウの魔法攻撃に押し潰され、岩にへばりついたアーミティッジの顔の皮である。


「甘い、甘いぞ、ネオンナイト。勝ったと思って気を抜いた今こそ、うぬらを倒す好機よ。」


 そうほくそ笑んだアーミティッジの顔の皮は、逆転の呪文を唱えた。


「インナーツインズよ、今こそ顕現して我が怨みを晴らせ! フングルイ・フタグーン! 」


 呪文を唱え終わると、アーミティッジの顔の皮が弾け飛び、別の顔が現れた。


「ウーザ、イェーイ。」


 岩にへばりついたアーミティッジの血糊の中から、銀の甲冑の男が歩み出た。


 異変に気がついたディオの親爺が、銀の甲冑の男を指差した。


「どうやら、まだ終わっておらん様だ。」


 銀の甲冑の男が、高笑いをして一同を睥睨へいげいする。


「我が名はウィルバー・ウェイトリー。アーミティッジの内なる双子にして、貴様らを打ち倒す者だ。」


 不遜な態度で名乗りを上げた男に、マージョリーは見覚えがあった。


「あいつは! 」


 あの顔は忘れもしない、かつて娘狩りに遭った時、ウォーランの隠れ家で、非情にも自分を殺せと命じた騎士だ。


 マージョリーの復讐心に火がついた。


 そんなマージョリーなどお構い無しに、ウィルバーは言葉を続ける。


「満身創痍の機械魔導師が二人に、魔力を消耗したネオンナイト。後は小娘と老いぼれとガキ共、アーミティッジは良い仕事をしてくれました、後はこの私が我が精霊機甲ラーン=テゴスを以て、捻り潰して差し上げよう。」


 そう言ったウィルバーの背後に、精霊機甲ラーン=テゴスが顕現した。


「ふん。」


 ラーン=テゴスを一瞥し、アザトースに乗り込もうとするキョウを、マージョリーが呼び止める。


「待って、キョウ。あいつは私が倒す。」

「マージ? 」

「私はどうしてもあいつを倒さなきゃいけないの、倒す理由が有るの! 」


 マージョリーの決意の目に、キョウは微笑んで答える。


「分かった、任せる。行ってこい、マージ! 」


 マージョリーの顔が、パッと輝く。リュミエールに乗り込みながら、キョウに礼を言った。


「ありがとう、恩に着るわ、キョウ。」


 リュミエールとラーン=テゴスが対峙する、リュミエールの武装はダゴンとヤマンソ、ラーン=テゴスの武装は両腕の鋏と、先端が鋏になっている四本の触手である。


「小娘とは歯応えの無い、ラーン=テゴスの鋏の錆にしてやろう。」


 六つの鋏の波状攻撃が始まった、両腕の鋏が、伸縮自在の四本の触手の鋏が、幻惑しながらリュミエールに襲いかかる。


「ウザ・イェイ、ウザ・イェイ、無抵抗でも容赦はせんぞ! 」


 マージョリーは、ウィルバーの言葉通りに、無抵抗でラーン=テゴスの攻撃を受けていた。


「ウザ・イェイ、ウザ・イェイ、その二本の剣は飾りか? それともこのラーン=テゴスの鋏の舞いには手も足も出ないか? 」


 マージョリーは抵抗する素振りも見せない、アリシアやハスタァ、ディオの親爺やノーデンスは気が気ではない、子供達も悲鳴をあげながら心配そうに見つめていた。


「この痛みは、バカだった私自身への罰。」


 マージョリーは鋏による攻撃を受ける度に、自分に言い聞かせる。


「この痛みは、使命から逃げていた私自身への罰。」


 マージョリーの中に、今現在マリア病で死せる娘達の、そして遺される者の想いが流れ込む。

 愛する者を遺して逝く悔しさが、心残りが。

 成す術なく送らねばならない怒りが、無力感が。

 この世界を覆う虚しさが、どうしようもない悲しさが

 。

 天地が日に日に言祝ぎを失い、精霊達が涙に暮れ、世界が活力を喪って行くのを。

 自分は娘狩りを経験し、マリア病のもたらす真の悲しみを知っていた、本当は気がついていた、でも知らないふりをしていた。

 力が有るのに、立ち向かおうとしなかった。

 この痛みは、そんな情けない、意気地無しだった自分自身への罰。


「ウザ・イェイ、ウザ・イェイ、そらそらそらそら、ウザ・イェイ、ウザ・イェイ、どうした、どうした! 」


 ラーン=テゴスの波状攻撃に、リュミエールは傷だらけとなり、弾き飛ばされて地面に叩きつけられた。


 皆が心配する中、キョウとマグダラはマージョリーの勝利を確信していた。


「そろそろかな、マグダラ。」

「はい、そろそろですわ、マスター。」


 皆が見守る中、マージョリーはリュミエールを立ち上がらせた。


「ウザ・イェイ、ウザ・イェイ、そろそろとどめを刺してやる! ウ~ザ、イェ~イ! 」


 一層激しさを増す六つの鋏の波状攻撃を、マージョリーはキョウ直伝の、後の先を取る蜃気楼の様に揺らめく機動でリュミエールを操り、かわしていく。


「何! ? 」


 有り得ない機動に、ウィルバーは度肝を抜かれた。


「私は、私は、戦う! 」


 マージョリーの目が、泣き腫らした様に真っ赤に輝く。

 それはこの世界の悲しみを背負い、戦うと誓った者が、マリア病で死せる娘達、遺される者達、天地と精霊達に成り代わり、血の涙を流し尽くした目の輝きだった。


 今、サードマリアが覚醒した。


 マージョリーの覚醒と共に、真っ赤な光の柱がリュミエールを中心に天地を貫く。


 リュミエールが優美な女性的なフォルムに変形して行く。それに伴い武装も紅蓮剣ヤマンソが火神剣クトゥグアに、聖水剣ハイドラが水神剣クタァトに進化した。

 一同は驚愕と畏敬の眼差しで、その変化を見守った、ただ一人、このからくりを知る者を除いては。


「やったわね、マージ! これぞリュミエールの真の姿! 愛が産み出し、愛が守り、希望の光を育て、愛を造り出す精霊機甲! その名はクティーラ四号機『ラヴクラフト』よ! 二人のマリアとこの私が丹精込めて組み上げた最後の、そして最高の機体よ! さぁ、マージ! 見事使いこなして見せなさい! 」


 そのただ一人、マグダラが大見得を切る。


「ラヴ……クラフト……、行ける! 私に力を貸して、ラヴクラフト! 」


 突然の出来事に、一瞬呆けたマージョリーだったが、すぐに我に返ってラヴクラフトを翻す。


「そんな物はこけおどしだ! 今一度、ラーン=テゴスの鋏の舞いを受けてみよ! ウ~ザ、イェ~イ! 」


 二機の精霊機甲が交錯する、しかし、最早勝負の行方は明らかだった。

 ラーン=テゴスの激しい波状攻撃を、マージョリーのラヴクラフトは易々とかわしていく。


「ば……馬鹿な! ? 鋏の舞いがこうも簡単に……、ウザ・イェイ、もっと早く! ウザ・イェイ、動くのだ! ラーン=テゴス! 」


 半狂乱となってラーン=テゴスを操り、鋏を振り回すウィルバーは、虚実を織りまぜて何体にも分身している様に見えるラヴクラフトに、まるで場違いな舞踏会に出席させられ、無様なステップを踏み続ける道化師(ピエロ)の様な醜態をさらし、に翻弄されていた。


「あの動きは……『黒い仮面舞踏会』! ? 聖魔剣ブラックモア無しで再現するとは……、あのカワイコちゃん、末恐ろしい才能の持ち主じゃのう。」

「だろう、マージは本当に最高の弟子だ。」


 マージョリーの才能に、最早驚くのを通り越して呆れた声を発するイブン・ガジに、キョウが誇らしげに答える。


「まだまだこれからだ、マージはもっと凄い事をやって見せるぞ。」


 キョウが言い終わらないうちに、マージョリーはクトゥグアにプラズマの刃、クタァトに絶対零度の刃を展開して、ラーン=テゴスの触手を切り落とした。


「反対属性の極大魔法の同時展開じゃと、黒い仮面舞踏会を繰り出しながらやってのけるとは……。儂、自信喪いそうじゃ……」


 もしイブン・ガジが肉体を保持していたら、口をあんぐりと開け、目が点になっていただろう。


 しかし、対峙しているウィルバーにとっては、それどころでは無い、小娘と侮ったツケをその身で払う彼は、名状し難いマージョリーの力の解放に、恐怖以上の感情を抱いていた。


「ウザ・イェイ、ウザ・イェイ。何なのだ、この娘は……、鋼鉄アイアン精霊騎士マンと呼ばれたアイオミ卿を倒したこの私を圧倒するとは! ? 」

「私はマージョリー・リュミエール・アイオミ! トニー・リュミエール・アイオミの娘よ! 」


 マージョリーの言葉に、ウィルバーは八年前の、ウォーランの隠れ家での出来事を思い出す。


「あの時の小娘か、ウ~ザ・イェ~イ! 復讐心が力の源か! ? 」

「いいえ、違うわ……」


 マージョリーはラヴクラフトを操り、火神剣クトゥグアと、水神剣クタァトを組み合わせる、二本の剣は融合し、氷焔剣アムーフ=ザーに進化する。


「ついさっき迄は、確かに復讐心だったけど、今は違う。」


 マージョリーはアムーフ=ザーに、プラズマと絶対零度が融合してモザイクの様に織り成す刃を展開し、ラーン=テゴスに悠然と近づいて行く。


「ならば、ウザ・イェイ、何がウザ・イェイ……」

「ただ許せないだけよ。」


 マージョリーがそう言った瞬間、ラヴクラフトは動作も見せずにラーン=テゴスの四肢と触手を切り飛ばす。

 地面に転がるラーン=テゴスに刃を向け、マージョリーは宣言する。


「私は許さない、マリア病の原因となるものを。私は許さない、マリア病がもたらす全ての悲しみを。私は戦う! マリア病からこの世界を解放する! サードマリアとしてではなく、一人の娘、マージョリー・リュミエール・アイオミとして! 」


 ラヴクラフトがアムーフ=ザーを一閃させる、しかし、一瞬早くラーン=テゴスがその刃をかわした。


「ウ~ザ・イェ~イ、ここは分が悪い、転進させて貰う! ウ~ザ・イェ~イ! 」


 ウィルバーは全魔力を逃げの一手に集中し、ラーン=テゴスを飛翔させ、急速に遠ざかって行った。

 悔しそうに見送るマージョリーに、マグダラが大声で指示を出す。


「何やってるのよ! マージ! あんなのさっくり落としちゃいなさい! 」

「でも、あんなに離れちゃ……」


 マグダラはマージョリーの反論を許さない。


「超長距離魔導槍砲が有るでしょう、余裕で叩き落とせるわ! 」


 マージョリーはマグダラの言葉に若干引いた、なぜなら……


「あれ、私、使った事無いのよ、せめて一回練習してからじゃないと……」


 しかし、マグダラは耳を貸さない。


「今が良い練習の時よ! つべこべ言わずに展開しなさい。」

「もう、どうなったって知らないわよ! 」


 マージョリーは自棄になって超長距離魔導槍砲を展開した、リュミエールがラヴクラフトに変形した事に伴い、超長距離魔導槍砲も蕃神からクトゥルフに進化していた。ラヴクラフトが、遠ざかるラーン=テゴスに向けて、クトゥルフを構える。


「全くもう、勝手なんだから。」


 ぶつくさ文句を言いながら、マージョリーが照準を合わせようとした時、背後からラヴクラフトを支える物が有った。


 マージョリーが驚いて振り返ると、そこにはキョウのアザトースの姿が有った。


「マージ、魔力制御と威力相殺は僕がやる、周りへの影響は心配するな。」

「絶対零度とプラズマと超高重力のバランス調整は私に任せて。マージ、あなたは最大魔力であいつを叩き落とす事に集中して。」


 前に向き直ると、マグダラが砲口の上に立ち、こちらを振り返り微笑んでいる。


 周りを見ると、ディオの親爺、アリシア、ハスタァ、ノーデンス、そして大好きな子供達がコルナを送り、自分を応援している。


 もう一度前を見ると、マグダラが高々とコルナを掲げている。振り返ると、キョウが最高のコルナを送っていた。


 私は一人じゃない! 導いてくれる人、応援してくれる人、供に戦ってくれる人がいる、だから……

 マージョリーは最高の笑顔で、皆にコルナを返した。


 そして一度深呼吸をして集中する 、三叉の槍の穂先に、それぞれ赤いプラズマの輝き、青白い絶対零度の輝き、黄色い大地の輝きが眩く光る。三つの輝きは、やがて一つに集束して爆縮を始める。

 マージョリーは、強大過ぎる魔力が集束し、暴れる操縦桿を必死に押さえつけて機体を安定させる。そしてラーン=テゴスをターゲットスコープの中心に捕捉した。


 マージョリーとキョウ、そしてマグダラの心が一つになる。


「今だ、マージ! 」

「今よ、マージ! 」

「いっけぇええええええええ! 」


 マージョリーがトリガーを絞った。


「ウザ・イェイ、ここまで逃げればもう追い付けまい。」


 充分に距離を稼いだと判断したウィルバーは、やっとの思いで一息ついた。

 しかし用心深いウィルバーは、スロットルをベタ踏みにしたまま、最大速度を維持してラーン=テゴスを飛翔させている。


「断章の予言が始まった、急いで白騎士様に報告せねば……、何っ! ? 」


 スロットルをベタ踏みで開けているはずなのに、ラーン=テゴスがみるみる速度を落としている。


「何だ? どうした、ラーン=テゴス。」


 魔導炉は最大回転で悲鳴を上げている、それなのに速度が出ない、いや、速度が出ないのではない、後方から来る何かに引っ張られているのだ。


 ウィルバーが振り返ると、名状しがたい何かが急速に近づいている、それはマージョリーとキョウとマグダラが、三位一体で放った一撃。

 プラズマと絶対零度を纏った、超極小魔導ブラックホールの弾丸であった。


 超高重力に捕らえられたラーン=テゴスは、あっという間に速度を落とし、制御不能となりブラックホールの弾丸に落下して行く。


 ラーン=テゴスはまず超高熱に晒され、分子結合が崩壊した後に、絶対零度の低温の中で全ての運動を停止した、そして事象の地平線の彼方に消えて行った。


「ウ~ザ・イェ~イ! 」


 ウィルバーの断末魔の悲鳴は、事象の地平線に捕らえられ、誰も耳にする事が出来なかった。

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