アンサートーク

なかなか上手くいった。


三体の俺を自慢の牙で葬らせることで、絶対の自信を持たせ、さらなる勝利という快感を求めて柱に噛みつかせた。


ヤツの行動を誘導し、たったひとつの切り札を上手く機能させた俺様の勝利だ。


階下へ繋がる階段の陰から重たい腹を突き出して、本体の俺がクリサスのいた通路を覗くと、ヤツのわずかな成分が空中に飛散していた。


「残念だったなあ、クリサス」


成分がにわかにマゴツく。言葉にはならない悔しそうな揺らめきがたまらない。


俺はこめかみの通信装置を使ってスティーブンに報告しようとしゃがみ込む。


だが、返答がない。


外に出ようと階下へ繋がる階段に向かったが、岩壁で埋まっていた。


通路奥の上階への階段も同じように塞がっていた。


クリサスとやりあっている間に、転移魔法は実行されていたらしく、ディストピア本部ではないことがわかる。


俺は魔力の波動を放ち、ソナーのように周囲を探った。


どうやらここは地中深くらしい。場所は……


「ドリーマーズファクトリー」


「さすがだな、ティムエル・ヒューイット。驚くべき結果だ。クリサスに勝つとは」


どこからともなくウメダがあらわれて言った。


「ウメダか。やっぱりアンタは敵だったんだな。夢が叶うとは限らないと言った時点で気付くべきだった。ロイとは相容れない存在だと」


「そうかね? ロイはいまだに夢は必ず叶うと信じているかね? 愚かな男だ。だが利用価値の高い優秀な男でもある」


「俺には信じる者も、それを愚かだと言う者も同じだと思うがな」


「人間は愚かな生き物さ。さて、我々は君を高く評価している。クリサスを倒すほどだ。ぜひ仲間に引き入れたい」


「なるほど、それは俺にとって有益な話なんだろうな?」


俺は魔力で座布団をふたつ創造してウメダにひとつ放り投げた。


ウメダは座布団を一瞥したが、座ることはなく、歩きながら演説を始めた。


計画に相当自信があるか、すでに達成しているかどっちかだろう。余裕ぶった笑みが鼻につく。


「我々はディストピアが君たちを転移魔法によって移動させることが分かっていた」


「だろうな」


俺は素っ気なく相づちを打った。演説は聴衆がいて成り立つ。俺に聞いてほしければ興味のある話をするべきだ。


「そこで、転送ルートをジャックしてドリーマーズファクトリーの地下施設を移動させたんだ」


「そんなことはわかっている。だから俺が今ここにいるんだろう、しかしどうしてそんな面倒なことをしたんだ?」


「全ての生き物に夢を届けるためだよ。いままでは上層部の連中などには見せられなかったからね。あそこならディストピア全域をカバー出来る。その気になればディストピアの外までも届くだろう。悪魔に夢を見させることは君の協力で可能だと証明されている」


「実験だったわけだ。俺に見せた夢は。それで? そんなことをしてどんな意味が?」


「保険だ。我々のボスは用意周到なお方でね、パンドラの囚人だけでは天国の扉が開かなかったときの為に、次の手を打ってあるのさ」


「へえー、じゃあパンドラ陥落や救世主の登場も陽動だったわけか」


「正確には順調に計画が進めば実行されるはずだったものもあるがね、ああ救世主の件はデタラメさ。絶望の淵で救世主とは、どれほどの希望となり得るのか知りたかっただけさ」


「つまりアンタらの目的は何が何でも天国に行くことらしいな。で、俺にとっての旨味は?」


「さっきも言ったように夢はかなり広い範囲に効果がある。大きな力があるし、中に閉じこめることだって出来る。おそらく心を操ることさえ可能だ」


「確かに強力な魔力を持った悪魔でも夢の中にいたんじゃ手も足も出ない。有効な手段ではあるな」


「君には自由を与えよう。我々の夢から逃れる唯一の方法を伝授しようじゃないか」


ウメダの言いたいことはわかった。これは脅迫だ。夢の中に閉じこめられたくなかったら仲間になれと。まあ夢の中でも幸せならソレでいい気もするが、まだ聞きたいことがある。


「話しはわかった。だが気になることがある。とりあえず座って俺の話を聞いてくれないか。どうしてアンタがここにいる? 俺をスカウトする事が目的じゃあ無いんだろう?」


ウメダが俺の創造した座布団にあぐらをかいて座ると、にやけたニキビ面で言った。


「君の言うとおりだ。ティムエル・ヒューイット。実に良い質問だ」


俺はタイミングを見計らって遅延型の魔法を発動させておいた。座布団に座ってからしばらくした後、拘束する魔法だ。


「あくまでディストピアに転移した施設は中継地点だ。すべての操作はここから行う。あそこは敵地のど真ん中だからね、いつどんな邪魔が入るとも知れない」


「向こうの機材を壊されたりしないのか?」


「壊してもムダさ。重要なのは位置座標と空間の占拠だ」


「なるほど、貴重な情報をありがとう。だが大事なことを見落としている。どうして考えなかったのか不思議だが、俺は天の邪鬼な性格なんだぞ?」


俺は十分な情報を引き出したので、拘束の魔法を発動させた。


即座に座布団から大蛇が出現してウメダを締め上げた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る