トレジャーサーチ

いまや栄養を摂取する必要のなくなった人間にとって、娯楽や趣味の意味合いが強くなった食事。


魔力によって栽培された食物は、悪魔にとってごちそうである。


満腹になった俺は、天井に綺麗な円形の穴を音もなく創造して、自分の重量を支えるにたりる頑丈なハシゴを床から創造した。


「保管室か、運が向いてきたな」


穴の下から上階を覗き見ると、人間たちが試験的に創ったらしい魔道具が棚に納められているのが見えた。


危険は無さそうだと判断した俺は、ハシゴに手を伸ばす。が、手よりも先に腹が当たってボヨンと跳ね返り転がって後方のカボチャの山に突っ込んだ。


「やれやれ、ちと食い過ぎたかな」


ハシゴを跡形もなく消し去ると、今度は穴の真下に立って、魔力で地面をせり上げた。


いよいよクリサスと対峙することになるので、保管室の魔道具を漁って武装すると、廊下を出てクリサスのもとへ向かった。


ディストピア側は、魔力制御で動く魔導兵器でクリサスを足止めしているらしい。廊下のあちこちに残骸が散らばっている。


すでに二階は突破されていて、三階への階段に近付いたところで、ようやく破壊音が聞こえてきた。


「遅かったじゃないか、ティミー」


俺が顔を出すと気配で察知していたのか、たまたまなのか、ボロゾーキンみたいになった魔導兵器が挨拶代わりに飛んできて慌てて首を引っ込めた。


「ずいぶんな挨拶じゃないかクリサス」


「病み上がりには厳しかったか? 見舞い代わりに時間はやっただろう」


「ああ、おかげさまで本調子とまでは行かないがまずまずだよ。そっちはどうだ?」


俺は通路の陰から腕だけだして、保管室から拝借してきた魔力の弾を発射する『魔弾銃Mー17』で数発お見舞いした。


ヤツの影で位置は分かっていたので、魔弾は見事に命中を果たした。ただ、それはヤツが動かなかっただけの話でダメージは期待できない。


「こっちはすべて予定通りだ。さすがオレ様万事順調だ」


「そりゃあいい。ちなみにディストピアの

連中の計画は知っているのか?」


俺は続けざまにオモチャで遊ぶことにした。数秒後に魔力の爆発を起こす『魔榴弾』をクリサスに向けて転がす。


「俺たちを魔法で転移させるつもりだろ? マニュアル通りの対応だな。それでチェックメイトだ」


こちらの作戦は筒抜けのようだが知ったこっちゃあ無い。俺の任務はクリサスと戦うことだ。


魔榴弾が破裂し、爆音と爆風が巻き起こって破壊の衝撃が通路を駆け抜けていく。もちろんダメージはゼロだろう。


ムダな攻撃を繰り返すのには理由がある。俺はまず、クリサスが戯れに付き合っている間に、三体に分裂して姿を変えた。魔力を集める速度に長けたハゲ散らかったオッサンと、創造速度に優れた赤髪と、肉体強化値の高いスキンヘッド男だ。


赤髪に雷を圧縮した球を持たせて壁の中に潜ませる。壁の中の成分を変えながら移動して目的地の柱まで向かう。


魔流弾による噴煙の中、ハゲとハゲを散開させると、俺の姿をとらえたクリサスが嬉しそうに火球を吐き出してきた。


こちらも相手の姿を間近で視認するのはこの時が初めてだったが、どうやらヤツは屋内なのに翼の生えた大きなトカゲだった。


いや、すまない。ヤツはドラゴンのつもりかもしれない。飛ぶ広さは無いのにあんな立派な翼を携えて。翼もバカも丸出しだ。


せっかくなのでインスタ映えするように、剣と盾を創造しようかとも思ったが、火球を避けたところに尻尾が勢いよく向かってきたので、存分に肉体強化したハゲで受け止めるので精一杯だった。


「おとなしく転送されるつもりはないんだろう?」


俺はハゲ散らかったオッサンで質問しながら、魔力を集めて防御壁を展開した。ヤツはシャボン玉でも割るように噛み砕こうとするので、スキンヘッドの俺に尻尾を引っ張らせて阻止する。


赤髪の俺が、壁の中を通って予定していた柱の中に到達して機会を待つ。あと数メートルクリサスを後退させなきゃならない。


「転送はされるさティミー。俺は暴れに来ただけだからな。単なるおとりだ」


「なんだ、使いっパシリか。偉いねえボクちゃん」


「利害の一致というやつさ。俺から情報を引き出そうとしても無駄だぞティミー。今回、計画の内容は話されていない。ただ暴れて良いと言われたんでね、遊びだよ」


遊びと呼ぶには乱暴すぎる尻尾に吹き飛ばされて、スキンヘッドが壁にめり込んだ。ハゲ散らかった俺は、急いで魔力を集めると柱に防御壁を張って赤髪を護ることに集中した。


クリサスがハゲ散らかった俺に噛みついた。


「グアアアアアア!」


俺は痛みを表現して苦悶の表情で叫んだ。心許ない頭髪が乱れに乱れ、姿を保っていられなくなり、霧となって宙に消える。


「良い歌声じゃないか。もっと聴かせてくれよ」


クリサスは嬉しそうだ。俺が柱に防御壁を張ったことに気付いていないのか?


仕方なく赤髪の俺が壁から出て、柱を守るように立って短魔神銃サブマシンガンを連射して、クリサスを牽制した。


「なんだ? 柱に何か仕掛けたか? あいかわらず小賢しいヤツだ!」


クリサスが口から激しい炎を吐いた。そのままじゃ消し炭のアートが完成しちまうので、俺は空気中の水分を集めて冷却し、氷の壁を創造した。


その勢いでヤツの足を凍らせて動きを封じる。丁度クリサスが噛みつこうとすればギリギリ柱に届く距離だ。


「うおおおおおおッ!」


動きが止まったチャンスをスキンヘッドの俺は見逃さない。魔力を放出して最大威力の拳をヤツのたるんだ横っ腹にお見舞いした。


手応えは無い。まるでクッションに向かって攻撃したみたいに、ちょっとへこんだだけ。


誤解の無いように言っておくが俺の全力パンチは普段ならちょっとした隕石くらいの破壊力がある。


「がっかりだなティミー。そんなもんか」


クリサスのこぼれひとつ無い鋭く頑強な上下の牙に挟まれて、スキンヘッドの俺も赤髪の俺も消えたので黙っているしかなかった。が、これで仕掛けは完了した。


「こんな防御壁に意味があるとでも思ったのか?」


クリサスは自信タップリの顔で防御壁ごと柱に食らいつく。柱の真ん中部分にぽっかりと何もない空間が生まれる。


それは俺の仕掛けがクリサスの口の中にすっぽり収まったことを意味する。


手塩に育てた雷属性の我が子が、いま世界に大きく羽ばたく。


バチン


雷の塊の割れた音がした後、言葉では表現できぬほどの轟音と閃光を放ち、衝撃は建物を揺らした。魔力による各階の明かりが明滅し、床に転がった残骸は吹き飛び、清掃の手間を省いた。



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