組分け
添田の姿をしていたコンシェルジュが、国光の手から逃れるように煙になると、空へと消えて拘束していたロープが地面へ落下した。
永倉の誘導に従って後について行き、場所をD館に移すと、元気そうな添田が国光たちを出迎えた。
添田
「おかえりなさい」
添田の笑顔とは正反対に、国光たちの表情には疑いと不満が露見していた。
永倉
「ひとまず、おつかれさん。俺はセキュリティ部所属の永倉崇司だ。セキュリティ部はディストピアの治安維持を任されていて、主に違反者の取り締まりや、悪魔の妨害を阻止する仕事だ。危険が多く、優秀な魔力の使い手にしか務まらない。魔力の扱いに関して極秘の情報も取り扱う可能性があり、機密性の高い職種だ。君たちはいま、それらを知る権利を得た。その為のテストだった」
鋭い眼光が国光たちを値踏みするように向けられる。誰も何も言わず、静かに永倉の話を聞いていた。
永倉
「我々は、君たちに仕事を任せられると判断した。やる気さえあれば、組分けに従い、訓練を開始してもらいたい。悪意ある者に対抗する魔力のコントロール方法を学ぶんだ。その気が無ければそれもいい。ごく普通の案内業務に従事してもらう。これは強制ではなく、それぞれの意思で選べる」
太陽
「時給は一緒ですか?」
太陽が質問した。それは金額によっては考えても良いという肯定的な質問だった。
永倉
「なかなか理解力と判断力が優れているな。最初の時給は同じだが、働き次第でどの
所属よりも高額になる可能性を秘めている。危険度や任務によって報酬額が設定されているどれを受けるかは自分で選べ」
添田
「自分に出来ることを自分で選ぶ。それで身の危険が生じても自己責任。安全を重視するディストピアでは珍しいけれど、それだけ代わりの利かない重要な仕事よ」
添田が補足した。ここまで聞いて、誰も断らないのは、受け入れているということか。それとも判断を迷っているのか。
国光
「ここまでする必要があったんですか?」
永倉
「ここから先は、知らない方がいい情報が含まれる。聞くからには覚悟を決めて貰いたい」
国光
「中途半端な説明じゃ決められないですよ。給与が良くても危険だという事しかわかってない」
永倉
「じゃ、やらないのはおまえだけか? それもひとつの決断だ。出口はあちらだ。後日案内業務への通知が届くだろう」
D館の出口を指して永倉が冷たく言った。魔力のコントロールが下手くそな国光は補欠合格みたいなもので、永倉本人は別に国光を欲してないような態度だ。
すると頭の中に声が響いた。
ゴッピ
(受けろ国光。情報を聞くだけ聞いて辞めたっていいだろ。まずは従う振りだ)
いつのまに、そんな姑息な手を使うようになったんだ。と国光は一瞬考えたが、どうやら
皆が黙っていたのは太陽がメッセージを送っていたらしい。
鈴音や大地と目が合うと黙ってうなずく。なぜ太陽が国光にメッセージを送らなかったのかわからないが、聞き返したくても国光には頭の中にメッセージを送る方法が分からなかった。
国光
「わかりました。やりますよ」
永倉
「あ、そう」
同意する国光対して興味が無さそうに右の眉だけ持ち上げて言うと、これからディストピアに訪れるであろう危機をドリーマーズファクトリーという夢を管理する施設で予知夢として知り、ディストピアの崩壊を企む存在が悪しき者を収容する施設パンドラを襲撃する未来を阻止したい事。その為の優秀な魔力の使い手を育成しようとしていることを説明した。
安全で、死者にとっての楽園であるはずのディストピアに未曾有の危機が迫っていることを聞いて、国光たちは深刻な顔で黙り込んだ。
永倉
「パンドラ襲撃のリミットは1年ほどだ。それまでに訓練を受けて準備をしてもらいたい。今回のテストで能力別にチーム編成した。天野太陽、大地はチームA。後藤瑛仁はチームB。羽鳥鈴音がチームC。明星国光はチームDに編入してもらう」
ゴッピ
「ちょっと待ってください、チームはバラバラになっちゃうんですか?」
せっかく仲良くなった仲間と離される事にゴッピが抗議の声を上げた。
永倉
「勘違いするなよ、これは仕事なんだ。遊び半分じゃあ困る。新人に対して過度の期待をしているのはわかっているが、今回募集した100名の中に救世主がいるって事は間違いない」
予知夢という根拠に乏しい主張のわりに、永倉はハッキリと断言した。それは願いのようで、希望を信じたいという思いが感じ取れた。
大地
「それが誰かまではわからなかったんですか?」
永倉
「見る者によって別の人物が救世主として登場している。おそらく誰でも救世主になる可能性があるんだろう」
すると鈴音が控えめに発言した。その瞳にはうっすら涙を携えているが、芯の強い揺るがない心があった。
鈴音
「あたしのおばあちゃんは、病気で……あまり時間がないんです。そのおばあちゃんが来るはずの世界を守れるなら、出来るだけの事をしてあげたいって思うんです。ただ、あたしがその救世主だとはとても思えない。それでも出来ることがありますか?」
永倉
「可能性は誰にでもある。仮に救世主がおまえさんだと仮定したらどうだ? おばあちゃんの未来を作れるかどうかはおまえさん次第だ」
国光
「ちょっと、俺の時と違って優しくないッスか?」
永倉
「気休めだが、こちらの世界の生き物が生きている人間に危害を加えることは禁止されている。ちゃんと訓練を積めば死ぬことはないさ」
国光
「俺はムシかッ!」
国光の声を置き去りに、永倉が移動しようとするので、ゴッピが慰めるように国光の肩を叩いた。
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