初飛行

霧で身を隠して風を操って添田を奪い返す。作戦と呼ぶには、あまりにも単純だが、全員の意識は統一できた。


駐車場脇の出口の先には、グリーンアンドプールズという企業が管理するジャングルが、約百エーカーに渡って広がっている。


ディストピアにおける植物はすべて、グリーンアンドプールズが担っている。地獄の自然界では生まれない植物を魔力によって人工的に生み出す。


生命の尊さを直に感じられ、育てることにやりがいを見出すものが多く、ディストピアでは人気の職業である。


ゴッピ

「あっちだ!」


ゴッピが木から降りてきて言う。光の粉は背の高い木の上などにあり、地面からは見えず都度木登りしなければならなかった。草木をかき分けながら、添田の残した軌跡を辿っていく。


四十分ほど歩いた所で、光の粉が途切れて小高い丘に出た。


鈴音

「見つけた! いたよ! 添田さん」


添田を連れ去った悪魔が、丘の頂上にポツンと陣取って、国光たちを待ちかまえていた。


細長い木の杭に縛り付けられた添田が、遠くにぼんやり見えた。敵は添田の正面にあぐらをかいて座っている。


添田と何かを話しているようだが、魔力で聴力をあげても、内容は聞こえてこなかった。


すると悪魔はゆっくりと立ち上がり、こちらを向いた。


大地

「マズい! みつかった! こっちに来るぞ!」


太陽

「落ち着け! 作戦通りに行動するんだ!」


想定より早く見つかってしまった国光たちは、すぐに霧を出して作戦を開始した。


だが、手の平サイズの天候操作とは違って、広範囲の環境操作は負担が大きかった。鈴音の異変に気づいたときには、倒れる寸前だった。


大地

「おい、大丈夫か」


鈴音がフラついて倒れそうになるのを寸前で大地が支えた。


悪魔

「どこに逃げるつもりだ、追ってくるとは良い度胸じゃないか」


周囲に深くて濃い霧が立ちこめ、視界は計画通りに妨げたが、悪魔はすでに目の前まで来ていた。


鈴音を支える大地の前に、ゴッピが手を広げて悪魔と対峙する。


悪魔が左手を前に出すと手の平から魔力の網が飛び出し、ゴッピたち三人に襲いかかった。


ゴッピ&大地

「今だ!」


二人の合図で国光と太陽は顔を見合わせて頷くと、太陽の操る魔力の風に乗って国光は空を飛んだ。


悪魔の放った魔力の網はゴッピたちをすり抜けて地面に落ち、それと同時に魔力で伸ばした植物が悪魔を絡め取り、動きを封じる。


霧はカモフラージュであり、見せていたのは空気の密度を変えた蜃気楼。鈴音が倒れた事以外は計画通りだった。


悪魔

「へぇ……」


悪魔は感心するように漏らした後、拘束されたまま首だけ振り向いて国光を見た。


ぶっつけ本番のわりには見事な着地を決めた国光は、添田に駆け寄って口に貼られたガムテープを勢いよくはがした。


添田

「ありがとう!」


続けてロープをほどこうと背後に回ったところで国光は動きを止めた。


添田

「何してんの? 早くほどいて!」


事前の計画では、添田を救出すればベテランの添田が何とかしてくれる。新人が出来るのは救出までだ。もしそれが上手く行かなかった場合は、撤収して上司に報告する。


そういう取り決めになっていた。


国光

「人を縛るときにチョウチョ結びはしないでしょ、っていうか魔力のロープなら結び目を消せますよね? そう考えたら全部が不自然だ。口のガムテープだって魔法が使えるんだから意味がない。本物の添田さんはどこにいるんですか? どこまでが本当でどこまでがテスト? あなたが本当に添田さんかどうかオッパイを揉んで確かめても良いですか?」


添田

「そ、そんな事話してるヒマあるの? 仲間が悪魔に殺されるわよ?」


国光

「永倉さんが殺すつもりなら最初から網なんて使わないでしょう。話を逸らして視線が利き腕と逆に移動したってことは隠そうとしてるんですね、じゃあ図星だったわけだ。とりあえず揉みますね」


添田の姿をした者

「何こいつキモイんだけど! 助けてー!」


チョウチョ結びに違和感を覚えた国光は、何もかも見抜いたように装ってハッタリをかました。添田の姿をした者は国光の魔手が伸びる前に、自らロープから脱出して悪魔のいる方へ駆け下りていった。


悪魔

「はっはっは、まあいいだろう。これで終了にしよう。説明するからひとまず集まってくれ」


いとも簡単に身体に巻き付いたツルを引きちぎると、悪魔は変装を解いて永倉の姿になった。国光のハッタリはあながち間違いではなかった。


鈴音

「死者を送り届ける仕事なんですよね? どうしてこんなことをするんですか?」


動けない鈴音の周りにみんなが集まると、鈴音はもっともな質問を投げかけた。


永倉

「本当にすまなかった!」


永倉が深々と頭を下げる。


永倉

「業務の性質上、詳しく説明するわけにはいかなかった事をご理解頂きたい。まず、君たちには、これからやって来る死者たちをディストピアに案内させるなんて簡単な仕事をやってもらう気はまったく無い。面接の時から変なテストが続いたと思うが、我々は救世主を捜すために行動している。これから訪れるであろう未来を予期しての行動だ。君たちは選ばれた才能ある若者だ。ぜひそれをあますことなく生かして頂きたい」








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