その2 ー 蝶羽
年齢は私と同じで当時18歳。
お互いに一人暮らしをしているということがわかり、それからしばらく友人として付き合うことになった。
私自身それほど人付き合いがうまい方ではなく、すぐに友人を作って親しくなれるというタイプではないはずだったのに、沙華に関しては意外なくらいに速いスピードで距離を近づけることができた。
それはやっぱり葬式の悲しみ係というアルバイトの経験もあったかもしれないが、それ以上に彼女の面白いキャラクターに私が惹かれたということが大きい。
「死んだ後にさ、自分の葬式がどんなふうにされているか見れると思ったのかな」
「見れてたらちょっとかわいそうだったかもね」
葬儀では結婚式や披露宴とは違って主役である故人はもうそこにはいない。
言い換えれば主役がいなくなったからこそ開かれる式典であるということになる。
自分が死んだ後のことを考えて生きている人は少ないだろううし、まして私達はこれから社会に出ようとしている18歳である。
そもそも「死ぬ」ということがどういうことかについて真剣に考えたことなんてない。
「ねえ、もし私が先に死んだら蝶羽は葬儀に来てくれる?」
家で二人だけでいるときに唐突に沙華が言い出した。
「いいけど。でもそれなら沙華も私の葬式に来てよね」
「もちろん」
不吉なことかもしれないけどその時には自然な流れでそんな約束になった。
だけども約束は結果的に果たされることなく、私の葬儀はひっそりと私の親しい親族だけでひっそりとされることになった。
沙華に通知が行くのは私が亡くなってから既に数週間経ったあとのことで、それも私が生前に残しておいたメモをようやく母親が見てそのとおりに連絡をしてくれたからのことだ。
ついでに言っておくと自分の葬儀の様子を私は見ることができなかった。
私は死んだ後しばらく不思議な夢を見続け、再び気がついた時には沙華の部屋を見下ろしていた。
既に死んでいるわけだから厳密に言えばそれは「夢」ではないのかもしれない。
私が沙華の部屋の頭上に現れる前まで見えていたのは曇り空のあぜ道で、一人歩いていくと獣道の途中にいくつかの檻が重ねられて置かれているのが見えた。
檻の中にはそれぞれネコが入れられていて、その中の一つからネコを取り出してみると灰色の毛並みを持ったスコティッシュフォールドだった。
ただしそのスコティッシュフォールドは一見普通のようで、取り出してみると右耳だけが3つ重なるようについていることがわかった。
3つの耳を持つネコと歩いていると、オレンジの実がたわわになった樹があった。
オレンジの実には1つずつ油性マジックのようなもので名前が書いてあったが、自分が知っている人の名前はなかった。
何も書かれていない実を見つけていくつか取るとその先に道が現れた。
この映像が死後の世界かどうかはわからないけどとりあえず最初に見えたものがそれだ。
頭上から見下ろした沙華はちょうど私の母親から電話を受けたところで、冷静に亡くなったという連絡だけを受けて通話は終わった。
「すみませんが、近々お参りに伺わせてください。よろしくお願いします」
それを最後に静かに電話を切ると、私も何度か訪れたことがある部屋の中でヤカンに水を入れて火にかけキッチンに立ったままになった。
お湯が沸いたのを確認してお茶を淹れる。
湯気が立ち上るマグカップを持ったまま部屋に戻り、電話を受けた場所に再び戻って腰を下ろした。
しばらく何もせずお茶にも手を付けずぼんやりしていると、突然に涙が溢れ出してきた。
最初に何が起こったか自分でもよくわからないようだったけど、一度泣き出したら止まらなくなってしまったようでテーブルにつっぷすとそのまま何十分か泣き続けた。
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