▼第二章  『彼女達の艦隊』

    ◇◇◇


『眠ると同時に目覚める。そんな不可思議な感覚と共に、奴らの中へと飛び込む。

 それこそがワタシの使命。ワタシの存在意義。その行為それこそがワタシ。


 かつてない無数のぐぉいどがワタシを待ちうける。無傷では済みそうにない。

 ワタシはワタシを満たす漠然とした使命感、恐怖、憎しみ、そして高揚感と共に、ワタシの手足であった無人艦の残骸を突き破り、ぐぉいどの群れの中に躍り出た。

 全てがワタシの思いのままになる瞬間、出来るような気がすることはすべて出来る瞬間だ。彼女達であった時には出来ないことも、ワタシとなった今なら出来る。


 ワタシは思考の中の宇宙に、触れる事が危険を意味するぐぉいど全ての進路と攻撃範囲を、細長い赤系色の逆円錐形を無数に描きだし、そこに青系の色で〈ジンリュウ〉が攻撃を回避しつつ進むべきラインをひいた。

 さらにそこへ〈ジンリュウ〉の持つ全ての武器の使用可能範囲を重ね合わせる。なるべく正確になるべく効率的に、なるべくエレガントに。


 ワタシの思考の中は、たちまち虹色の細い逆円錐だらけになってしまった。しかもそれは時間とともに常にウネウネと動いている。けれど、ワタシはちっとも迷ったりしない。


 ワタシは、その曲がりくねりながらも、決して引き返すことのない線に従って、ぐぉいどの群れの中へとその身突っ込ませる。

 ワタシはまるで凧のように後についてくるワタシの分身たる艦載機達に、そのコースのイメージを伝えながら、ぐぉいどの群れの中を舞い続けた。


 ぐぉいどの攻撃は撃たれる前に避け、かわりにワタシが撃つ砲は必ず命中させた。その行いに必要な様々な知識と計算の答えは、それを求めた瞬間に私は得ていた。

 その答えを得る術を、体である〈ジンリュウ〉か、心である彼女達が持っていたからだ。


 なんという万能感、なんという高揚感、そしてスリル!


 けれど、そんな時間にも必ず終りはやって来る。ワタシが目覚めていられるのは、とても短い時間だけなのだ。どんどんワタシという存在がボヤけていくのを感じる。

 とりあえず大きな柱の守りはぶち壊すことが出来た。あとは彼女達に任せることにしよう。

 がんばってワタシの彼女達!


 ワタシはさいだい加速で、〈ジンリュウ〉をぐぉいどの群れの中から抜け出すコースに乗せると、再び眠りへと落ちて行った。

 その時だった。一発のみさいるが艦尾に迫るのに気づいた。狙って放たれた物ではなく、いわゆる流れ弾的に進路が〈ジンリュウ〉に重なってしまったようだ。今までの戦いでセンサー系もだめーじを受けていたので、気づくのが少し遅れてしまった。


 ……これはマズイかも。


 そうは思っても、ワタシはもう眠りにつくワタシを止めることは出来ず、代わりに彼女達が目覚める。それが今のワタシという存在の限界なのだった』












 Analytical Neural network Engagement SYStem――通称【ANESYSアネシス】。

 それはグォイドに勝利すべく人類が生みだした操艦用戦術思考統合システムだ。


 互いが秒速数キロ単位という超高速で移動しているのが日常茶飯時の宇宙空間戦闘では、何事につけ恐ろしく短い時間で考え、判断し実行する必要に迫られる。

 とても人間の思考速度で追いつける速さでは無い。

 仕方が無いとはいえ、本来であればクルー達が指揮系統に従い、口頭伝達による報告/指示などで操艦をしている場合では無いはずなのだ。

 だからといって、AIに任せれば単純な処理速度自体は早いかもしれないが、複雑な戦況での判断力では人間には未だ及ばない。


 この問題に対し、人類はまず航空戦闘機等で使われていたブレインマシンインターフェイスシステムを利用し、サイズと重量に比して、今なお最新のコンピュータを上回る性能的ポテンシャルを持つ人間の脳を直接艦の制御系に繋ぎ、航宇宙艦操縦を試みた。

 しかし、全長数百メートル、重量十数万トンの航宇宙戦闘艦を個人の思考能力のキャパシティで操ることなどは、さすがに不可能であった。

 そこで考え出されたのが、十名前後の複数のクルーの知識と思考をBMIによって統合し、艦の制御系に接続、人としての思考を維持しつつ、情報を分散処理することにより、それ以外の手段では得られない爆発的な反応速度で操艦することを可能としたこの【ANESYS】と名付けられたシステムだ。

 このシステムはさらに、有り余る高速情報処理能力を活かして無人艦を自在に遠隔コントロールし、数の利も得る事も可能としていた。


 【ANESYS】実用化はグォイドに対し、無類のアドバンテージとなるはずであった。

 人類はこのシステムを搭載した航宙艦と、それに率いられた無人艦からなる艦隊を創設し、ヴィルギニー・スターズ(清純なる乙女の星々)と名づけ、このいくさに投入したのである。

 ……が、このシステムにも幾つかの欠点があった……。









 恐ろしく心地よい眠り、戦術思考統合システム【ANESYSアネシス】を終えた時はいつもそうだ。

 まるで身も心もとけて宇宙と一体になってしまったかのような、そんな深い眠りから、猛烈な危険と恐怖を感じ、彼女は一瞬にして覚醒した。

 零コンマ0数秒という僅かな時間に、自分が何者であり、今までどこで何をしていたのかという記憶、何故、恐怖と危険を感じているのかという理由までもが一瞬にして蘇る。


 ――そうだミサイル!


「第二補助エンジン緊急パー……」


 “ジ”と言い終わらないうちに、〈じんりゅう〉艦尾のメインエンジンを囲む四つの補助エンジンナセルの内の一基が、爆砕ボルトの点火と共に切り離され、艦の後方へ流されていった。

 〈じんりゅう〉を狙うミサイルは、その補助エンジンへ吸い込まれるように命中した。

 そして『総員、対衝撃ぼうぎ……』と艦長席に座る彼女……秋津島ユリノが続ける寸前、〈じんりゅう〉の艦体の中心部にある戦闘バトルブリッジを凄まじい衝撃が襲った。


 “ドゴォーンッ”


 艦のコンピュータは状況をクルーに感覚的に伝えるべく、そのように聞こえる効果音を選び、バトルブリッジ後方から律儀に響かせた。そして直後に鳴り響く各種ダメージを知らせるけたたましい警告音の数々。

 人工重力を利用した慣性相殺システムは正常に働き、肉体を押しつぶすほどの衝撃から彼女達を守った。が、それでもシートベルトと座席の間で体が千切れそうな衝撃が加わる。


 ――む、胸がつぶれる……。


 この苦しみを席を設計した人間にも味わってもらいたい! バトルブリッジ中央奥、他の席より一段高くなった艦長席で、ユリノは思わず呻いた。

 あとほんの少し【ANESYS】を維持できていれば! そう思えて仕方が無い。が、これが今の自分達の限界であった。生死を分かつかもしれない限界の。

 【ANESYS】直後のこういう無防備な状態に備える意味もあって、VS艦隊には無人艦があるのだが、それを犠牲にして敵艦隊に突入した結果がこれだ。


 ――まったく!


 ユリノは頭から落ちかけた艦長帽を被り直し、ブリッジを見回した。

 ブリッジ正面のメインビュワーの向こうに、星々がゆっくりと斜めに通り過ぎていくのが見えた。今の爆発の衝撃で、艦首が進行方向から逸れて回転しだしているのだ。


「みんな無事!?」


 艦長席のまわりでは、ユリノとさして年齢の変わらない少女達が各々の担当席で任務をこなしていた。

 見たところ、少なくともここバトルブリッジ内には損傷は見られないようだ。


「わたしなら大丈夫だ」


 ユリノの前方、火器管制席に座るカオルコが、トレードマークのポニーテールを翻して振り向いたのをはじめに、クルー達が各々怪我がないこと報告する。とはいえ、皆楽そうな顔はしていなかった。なにせ目覚めた瞬間にミサイルの爆発を至近距離で受けたのだ。


「……良かった……。副長、被害状況は?」

「ミサイルはパージ切り離しした第二補助エンジンに命中、直撃は避けられました。ですがその際シールドに受けた過負荷によるフィードバックパルスで、メインエンジンに異常が発生」


 ユリノの右隣に座る銀髪ショートボブの美女、〈じんりゅう〉副艦長のサヲリが、船体コンディションパネルを確認しながら答えた。

 ユリノの命令に従って補助エンジン切り離し操作をした当人だ。あの状況で良くやってくれたと、ユリノは抱きついて頬にキスしてあげたい気分だ。

 彼女を知らない人間には、まるで人形がしゃべっているのかと思えるような抑揚のない無い声で、彼女は淡々と報告を続けた。


「安全装置がメインUVDコアに微小亀裂を検出したため、メインエンジンが緊急停止されました。

 現在動いているのは第一と第四補助エンジンのみ。総UV出力は十二パーセント以下までダウン。

 我々の生命維持には問題ありませんが、防御シールドは対デブリが限界です。いま残ったヒューボット人型作業用ロボット達をメインエンジンの修理に向かわせています」

 

ユリノは一瞬言葉を失った。副長の報告は〈じんりゅう〉が宇宙の棺桶といっていい程に、何もできない状態になってしまった事を意味していた。


「な! …………わ……分かったわ。……でルジーナ、敵の様子はどう?」 


 思わず「あちゃ~」と言いそうになのを堪えながら、ユリノは電測席に向かって尋ねた。


「味方艦隊はシードピラーの破壊に成功した模様。敵残存艦隊は撤退を開始していますデス。本艦は現在グォイド艦隊のUVキャノン及び、レーザー砲射程圏から脱出、秒速九〇キロで慣性航行中デス」


 専用のゴーグル状HMDヘッドマウントディスプレイをかけた東洋系の電測(索敵兼航法)席担当ルジーナが、ゴーグルに投影された光学及びレーダーによる索敵と、各天体位置情報を一纏めにした三次元総合位置情報図スィロムで確認しながら答えた。


「ただし、現在のコースだとあと約八日でメインベルト〈テルモピュレー集団クラスター〉を掠め、そのまま太陽系外に出ます」


 ルジーナはすまなそうにそう付け加えた。

 〈じんりゅう〉の現状はさておき、本作戦最大の目的、シードピラー撃破に成功し、思わずほっとしかけたところでの彼女の補足に、ユリノは洩らしかけた安堵の溜息をのみ込んだ。

 ルジーナの見る総合位置情報図スィロムの縮小版が映るブリッジのビュワーの一つに、太陽を中心に、いくつもの同心円を描く惑星公転軌道によって構成された太陽系内を通過する、〈じんりゅう〉の予測コースが描き足された。

 予測コースを表すラインは、木星公転軌道上にある〈じんりゅう〉現在位置から、一つ内側の輪―メインベルトを掠めて太陽系を離れる方向を示していた。

 秒速九〇キロと言えば、太陽の引力を振り切って外宇宙に飛び出してしまうのに有り余る速度だ。

 木星圏より外に人類の拠点は無く、さらにその向こうの土星圏はグォイドが押さえている。そんな場所に行ってしまえば、もう帰って来ることは望めそうにない。


「コース上には、人類側の基地のある惑星も、宇宙ステーションもありませんデス。コース近傍の【テルモピュレー集団クラスター】内のケレスになら、かつて補給基地がありましたが、そこは五年前に壊滅して今は影もありませんデスね」

「りょ、了解したわルジーナ。……フィニィ、現状推力でコース変更は何とかなる?」


 ユリノはブリッジ最前列の操舵席に向かって言った。


「う~ん、推力が復活しないことにはなんとも……。今すぐ生きてる補助エンジンだけでも噴射してコースを変えれば、メインベルト突入は回避できますけれど」


 短いブロンド、まるで美少年のような美少女といった風情のフィニィが答えると同時に、彼女の言う減速した場合のコースが星図に映し足された。

 メインベルトとは、木星と火星の公転軌道の間にある大小一億の小惑星が集まったドーナツ状の宙域だ。通常は通過を恐れるような場所ではない。だが、このコースをこのスピードで突入し、万が一その宙域の小惑星にぶつかれば〈じんりゅう〉は間違いなく粉々だ。

 中でもこれから向かう〈テルモピュレー集団クラスター〉は、特に小惑星の密度が濃い宙域である。

 かといってメインベルトを回避すれば、太陽系から出ていくコースに乗らねばならない。


「ミユミちゃん、通信は生きてる?」

「長距離通信アンテナが破壊されてます。受信は出来ますが長距離送信ができませ……いえ出来なくは無いんですが、出力が弱くって……その、光学通信でなら送信は可能です」


 この艦のルーキー、ミユミが震える声で通信席から答えた。


「わかったわミユミちゃん。大丈夫よ、落ち着いて」


 ユリノは彼女の初々しい反応を懐かしく思いながら答えた。ミユミはこれが初陣なのだ。

 自力で航行もままならず、助けを呼ぶのも怪しいのだから泣きたくなるのも無理もない。

 だが、まだ時間的猶予があるだけ大分マシな状況だ。ユリノはそう考えることができた。


「とりあえず通常および光学通信で救難信号を出しておいて。あと通信中継ブイも。大丈夫よ。今すぐ太陽系外に放り出されるわけじゃ無し、救援が来るのにも、修理するのにも十分な時間があるから」


 ユリノはなるべくにこやかにそう続けた。気ごころ知れたブリッジクルーの視線を浴びながら、過度に楽天的な言葉を口にするのは、なにか別の緊張に襲われるのだが。


「りょ、了解!」


 ミユミは素直にそう答えると、自分の作業を始めた。

 現金なもので、戦闘の前までは命をふくめ、たとえどんな犠牲を払おうともシードピラーの破壊を成し遂げようと決意していたのに、いざ目標が達成されてみると、ユリノは己の指揮で彼女達の生命を危険にさらしたことへの責任を感じずにはいられなかった。

 ユリノは一本の太い三つ編みにした長い黒髪の先を、無意識に指でいじりながら思った。

 メインエンジンが停止した他、補助エンジンが四機中二機が大破、一機が小破。

 六基ある主砲塔の半数が損傷し、各種対艦ミサイルは撃ち尽くしてしまっていた。

 艦の上下にあるアンテナマストも被弾して、通信能力も大幅に低下している。

 まさに満身創痍、自力では何もできないと言ってもいい状態だ。

 ユリノは自分のコンソールに、現状の〈じんりゅう〉を500分の一サイズのホログラムで投影させると、指でつついて回転させながら「ああ、私の〈じんりゅう〉が……」と皆に聞こえないようそっと呟いた。

 頼みの綱の各種救難信号は、おそらくいつかは味方に届いてくれるだろう。が、問題は、グォイド艦隊との激戦の直後で、迎撃艦隊に救援に駆けつける余力が無いかもしれないことだ。

 まず自分らで出来ることをして、助かる確率を底上げせねば。


「ヒューボ君達は何体無事かしら?」

「ヒューボットは先の戦闘で三分の二が破壊もしくは喪失。健在なのは九体だけです」

「そんなに! ……じゃ、その九体がメインエンジンを直してくれることを祈りましょう」


 副長の返答に、ユリノは何とか答えた。〈じんりゅう〉がたった十人にも満たない少女達だけで運用できているのは汎用人型作業用ロボット・ヒューボットが三〇体もいるからだ。それが三分の一になってしまったのはかなり痛い状況だ。

 だが今は出来ることはしなければ。実際に動くのは主にヒューボ達だが。


『おーい、こちら昇電TMCクィンティルラ、〈じんりゅう〉応答せよ。生きてるかぁ?』


 突然、少しばかり緊張感に欠ける〈じんりゅう〉艦載機パイロットの声が、ブリッジのスピーカーから響いた。


「クィンティルラ? 無事だったのね! 良かった。フォムフォムも無事?」

『……フォムフォム生きてる』


 眠たげな女性の声が独特の言葉使いで答えた。昇電の無人機指揮者マギステルのフォムフォムだ。

 この時代、小型飛宙戦闘及び攻撃機類はAIを積んだ無人機が殆どであった。

 高度な計算と反応速度を必要とし、Gによる肉体的負担も激しい宇宙戦闘では、生身のパイロットは最早実用的では無いからだ。

 今や有人飛宙機は、パイロットと無人機指揮者マギステルの二人を乗せ、未だ完全な信頼性を獲得していない無人機を統率する役目として使われていた。

 ユリノが周辺宙域の総合位置情報図スィロムを向くと、パイロットのクィンティルラとフォムフォムが乗るsyoudenTNCと書かれたアイコンが画面の端に映ったところだった。


『心配するな二人とも元気だ。あと五分でそっちに到着するんでよろしく頼む』

「え……えぇ、クィンティルラこっちに戻って来ちゃうの?」

『なに、どういうことだ? 帰ってきちゃまずかったのか?』

「いや、なんていうか迎撃艦隊の方に帰ったほうが……、今こっちはボロボロになっちゃったから、あんまりお勧めしないとういうか、なんというか……」

『なんと! そんなに派手にやられちゃったのかよ?』

「まぁ……ね」

『あ~そんなこと言われても、こっちにはもう他所に行く燃料は無いぞ。着艦許可を願う!』

「……分かったわ。セーピアー達は何機か残ったかしら?」

『六機だけだ。ちょっと遅れてついて来ているよ』


 言い終わらないうちに、総合位置情報図スィロムに無人機であるMSQ-sepiaと表されたアイコンが次々とsyoudenTMCのすぐ後方に映し出された。セーピアーとは昇電が率いる無人艦載機の名前だ。無人機は全部で十二機送り出さしたのだが、無事だったのは六機だけらしい。

 とその時、画面端のsepiaのアイコンの一つが、突然警告音と共に赤く点滅し始めた。


「何事!?」

「セーピアー07から緊急救難信号が出ていますデス」


 電測席からルジーナが答えた。


「……はい?」


 ユリノは一瞬意味が理解出来なかった。


「救難? なんで無人なのに? それも緊急って。被弾して故障でもしてるの?」

「分かりませヌ艦長、無人機のAIは緊急着艦と緊急救命処置の準備を求めてますデス」

「なんなのよ、それ?」



 ルジーナはゴーグル姿で肩をすくめた。


「どうする艦長?」


 前方のカオルコが振り返りながら尋ねた。

 普通、無人機は救難信号など出さないし、被弾などして不調な場合は無理に着艦せず、母艦のそばの空間で応急修理等して、安全を確認してから艦内に入れる。ましてや無人機なのに救命とは意味不明だ。


「ひょっとして……グォイドの罠とか?」


 カオルコが長いポニーテールを揺らしながら脅かすように言うと、ミユミが思わずビクッとカオルコの方を振り向いたので「じょ、冗談だ。グォイドがそんな凝った手を使うなんて聞いたこともない」とカオルコは慌ててそう続けた。


「そうねぇ、クィンティルラ今の聞いてた? そっちから無人機を直接見てみてもらえる?」


 直接目視でなら、手っ取り早く謎は解けるかもしれないとユリノは判断した。


『了解。ちょっと待ってくれ、すぐに見れ……わっ! ……なんだありゃ?』


 たとえ戦闘中であっても聞くことがないような、危険や恐怖を感じてるのとは違うクィンティルラの純粋な驚きの声がブリッジに響いた。


「どうしたの! 何があったの?」


 ユリノの質問にクィンティルラはすぐには答えなかった。

 いや、答えなかった……というよりどう伝えれば良いのか分からなかったらしい。


『あ~……え~っと……今から機体のカメラでとらえた映像を送る』


 ビュワーに、昇電のカメラから捉えたセーピアー側面の映像が映し出された。

 流線型をしたセーピアーの機体左右には、放熱翼兼ミサイルや増漕を懸架するためのプラットフォームが翼のように生えている。その翼の根元に、まるで潰されたカエルのような格好で、ベタッと硬式宇宙服姿の人間がしがみついていた。

「なに……あれ?」ユリノは純粋な驚きの声を漏らした。

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