▼エピローグ『それはまた別のおはなし』


「…………すげえな……」


 クィンティルラ大尉が心の底から感嘆の声を漏らした。


「………………うまく…………いったの?」


 ユリノ艦長が呟くように誰ともなく訪ねた。

 【ガス状巡礼天体ガスグリム】の外とここでは、時間の進行速度に大きな差があったはずだが、今目の前に映された光景は、ケイジ達にも認識できる速度で進行していった。

 おそらくニヤニヤしているレイカ艦長姿のアバターが配慮してくれたのだとケイジは思った。

 【ガス状巡礼天体ガスグリム】から飛び出した【グォイド・プラント】は、ワープゲイトを潜って現れた【汎銀河グォイド被害者の会艦隊】によって破壊された。

 十数個の巨大な破片となった【グォイド・プラント】は慣性のまま地球のそばを通過し、やがて楕円軌道で太陽を周回することになるだろう。

 ケイジの知る限り、太陽系にはもうグォイドの拠点は存在せず、人類は最大の窮地を無事乗り切ったことになる。

 ケイジは〈リグ=ヴェーダ〉や各〈じんりゅう〉級四隻が無事なのを確認し、皆と供に盛大な安堵の溜息をついた。

 これで目的は全て果たされたのだ。

 人類がグォイドによって滅ぼされる心配は、これで少なくとも当分は無いだろう。


『異星文明に助けを呼ぶってアイディアは上手くいったようね』


 レイカ艦長姿のアバターが、まるで自分が成し遂げたかのような良い笑顔で振り返ると言った。

 バトイディアを作った【オリオン椀グォイド被害者の会・同盟艦隊】の生き残りや、それと同種の存在が宇宙のどこかにいる可能性にかけ、ワープゲイトを通じて救援要請を行った結果、想像を超えた救援が駆け付けた。

 なぜだか凄く親しみを覚える多種多様な文明の多種多様な航宙艦が、『ここであったが○○〇〇年目!』とばかりに【グォイド・プラント】に襲い掛かっていったのだ。

 ケイジは、グォイド討滅という目的とはいえ、志を同じくする異星文明がこれほどまで宇宙にいたことに、すこし涙腺が熱くなった。


『…………………さてと、このあとはどうする?』


 レイカ艦長のアバターからの問いに、ケイジは困った。

 ユリノ艦長達もその表情を見るに同様のようだった。


『選択肢はそう多くは無いわね……。

 【ガス状巡礼天体ガスグリム】は加速も減速も進路変更もできないただのワープゲイト敷設船だからできることは限られてる…………。

 あなた方人類の繁栄だけを望むなら……オススメは、【アーク・グォイド】のようにここに残って【ガス状巡礼天体ガスグリム】の主であり続ければ、無限のオリジナルUVDを手に入れて、宇宙を旅していけば、グォイドのようにあなた達人類の繁栄は保証されたようなものだけど…………』


 レイカ艦長のアバターは、そこまで説明したところでユリノ艦長達の表情を見て言葉を途切れさせた。

 答えを聞くまでもなかったからだ。

 ケイジも同じ気持ちだった。

 全人類の総意が同意見かどうかは分からないが、ケイジはそれで人類が繁栄できるからといって、この宇宙で自分達がグォイドみたいな存在になるのは真っ平ゴメンであった。

 人類の文明はまだ滅びたわけではなく、既に滅びた文明の再興システムであるグォイドとは大分事情がことなるが、【ガス状巡礼天体ガスグリム】を手に入れたことで増長した人類が、新たなグォイドかそれ以上に迷惑な存在にならないとも限らない。

 正直なところケイジは、そこまで人類というものを信用してはいなかった。


『オ~ケ~………それじゃ……何をお望みになるのかしら?』


 肩をすくめるレイカ艦長のアバターの問いに、ケイジはユリノ艦長達と顔を見合わせた。

 散々苦労してたどり着き、その使用権を獲得した【ガス状巡礼天体ガスグリム】であったが、自分達はもちろん、今の人類のポケットには少々大きすぎるブツだ。

 だが、【ガス状巡礼天体ガスグリム】に対する望みが何も無いわけでもなかった。

 ただ、それを願うには少々リスクが伴う。

 ケイジは自分だけの考えではないかと一瞬心配になったが、クルー達の顔は、皆がケイジと同じ意見であることを物語っていた。

 ケイジ達は顔を見合わせ頷きあうと、ユリノ艦長が代表してレイカ艦長のアバターに告げた。

 レイカの姿をした異星AIのアバターは、それを聞いてとても悲し気な顔をしてユリノ艦長達を見送った。















『私は【汎銀河グォイド被害者の会艦隊】の代表を務めるアヴァーシャララと申します。

 貴恒星系文明【悪あがき艦隊】指揮官のテューラ・ヒュウラ司令にお尋ねします』

「ハ、ハヒッ!」


 ――〈リグ=ヴェーダ〉内作戦指揮所MC――


 ゆっくりと崩壊しながら遠ざかる【グォイド・プラント】を唖然としながら見ていたしてテューラは、急に【汎銀河グォイド被害者の会艦隊】から、音声通信で名指しで呼び出され飛び上がった。

 異星文明とのファーストコンタクトの訓練などしたこともなければ、予想も覚悟もしてなかった。


「ハイ! ……え~と……こちらSSDFのテューラ・ヒュウラです。

 この度は貴艦隊の支援感謝します!

 質問はなんでありましょうか?」

『…………』


 テューラは数分前とは別方向へと変わった緊張に襲われ、冷や汗を流しながら答えたが、自ら尋ねておきながら、【汎銀河グォイド被害者の会艦隊】の代表だというアヴァーシャララからの返信はなかなか来なかった。

 代わりに作戦指揮所MCのビュワーに唐突に通信主らしき映像が現れた。

 テューラの認識が正しければ、それはふかふかのクッションの上で寝そべる毛並みの良い白猫の姿をしていた。


『お待たせしました……。

 あなた方の社会の情報網から、もっとも警戒心を抱かれないと思われるアバターを選んでいました。

 我々の本当の姿をさらすことは、不要な偏見や警戒心を抱かせる要因となる為、このような姿でのコミュニケーションを行っているのです』

「……は、はぁ」


 テューラはあくびをしたり後ろ足で耳を掻いたりする猫の動画を見ながら、他にコメントが出てこなかった。

 理解はできるが……理解はできるが他に何か無かったのだろうか?

 テューラは微かにそう思ったが、映された猫のあまりの可愛らしさに見惚れてしまった。


『それでは改めてお尋ねします。

 〈じんりゅう〉はどこでしょうか? 我々に救援要請を行った〈じんりゅう〉の現状をお尋します』


 白猫アヴァーシャララの問い、テューラはすぐには答えられなかった。











 まるで止まっていた時間が動き出したかのようだった。

 ユリノは目覚めた瞬間、床下から跳ね上げらたような衝撃を喰らい舌を噛みそうになった。

 ユリノはそれが、つい1秒と少し前にオリジナルUVD実体弾に貫かれた【アーク・グォイド】と、それが突き刺さっていた〈アクシヲン二世〉の推進部が、分離した〈じんりゅう〉の直下で大爆発したことによる衝撃波だと把握していたが、だからといって平気というわけもなく、歯を食いしばって悲鳴を堪えるだけで精一杯だった。

 爆発による衝撃が一瞬で過ぎ去ると、シート越しに尻と背中を震わせる猛烈な振動と、ビリビリと空間全体を震わせるなような轟音がバトル・ブリッジを襲い、ユリノは耳を塞ぎたくなった。

 だがそうするわけにもいかなかった。

 

「艦長! エラいことになってるよぉ!」


 フィニィがユリノが状況報告を求めるまでもなく、悲鳴のような声を張り上げて報告した。

 もっともな意見であった。

 目覚めるとそこは、BHに吸い込まれまいと全推力で踏ん張る〈じんりゅう〉のバトル・ブリッジだったのだから。

 視界の左舷側は、巨大なるBHの闇球が覆っており、右舷側には降着円盤の内側の縁が、プラズマ粒子でできた三次元ノコギリのごとく眩く輝きながら〈じんりゅう〉の真横を擦過していた。

 ユリノは最初から覚悟していたつもりであったが、〈じんりゅう〉の陥っていた状況に絶句した。


[アアヤット戻ッテ来タ! ゆりの! 早クナントカシナイトヤバイゾ!]


 エクスプリカが忙しなく耳をピコピコさせながら訴えた。

 言われなくても分かっていた。


「フィニィ!」

「もうやってるよぉっ!」


 ユリノが指示するまでなく、〈じんりゅう〉主操舵士は全推力で〈じんりゅう〉をBHから離れさせようとしていたが、そう簡単な所業ではなかった。

 ユリノは【ANESYS】中の自分達が、〈太陽系の建設者コンストラクター〉製の仮想世界でまたもアニメ制作していた間、このBHを周回する降着円盤の上で、ケイジ少年が【アーク・グォイド】という強敵に対しどう死闘を繰り広げ、途中で合流したサティと協力し、何を代償としてどうやって勝ったのかを、正確に把握していた。

 彼は【アーク・グォイド】との実体弾による撃ち合いに勝つために、〈じんりゅう〉を減速させ続けることで、【アーク・グォイド】に対する有利な射撃位置を得ようと試みたが、それは同時に、降着円盤がBHの高重力に対して拮抗している遠心力のバランスを、自ら手放す行いでもあった。

 最終的にケイジ少年は、〈じんりゅう〉に接続した〈アクシヲン二世〉推進部で【アーク・グォイド】に体当たりしをしかけることで、相手の動きを封じつつ無理矢理移動させ、自ら放ったオリジナルUVD製実体弾を、BHを一周させた上で【アーク・グォイド】に背面からブチ当てるという離れ業をやってのけた。

 結果として〈じんりゅう〉は【アーク・グォイド】に勝利できたが、その代償として、〈じんりゅう〉は降着円盤の周回速度から大いに減速したあげく、BHの降着円盤の最内縁の最終安定軌道よりもわずかに内側へと進入してしまっていた。

 つまり何もしなければ〈じんりゅう〉はBHに吸い込まれ、その高重力によって破壊される。

 フィニィはこの状況に対し、〈じんりゅう〉を加速させ、BHを周回する速度を上げることで得た遠心力で、BHの高重力を振り切ろうと試みていた。


「艦長! いったんBHに艦首を向けて、重力で加速させる!

 ……だけど…………」


 フィニィの言葉はそこで途切れた。

 言うまでも無くその行いは恐ろしく危険だ。

 BHの周囲には、光の速度をもってしても脱出不可能になるシュバルツシルト半径と呼ばれる領域があり、万が一そのエリア内に進入してしてしまったならば、物理的に脱出が絶対不可能になってしまう。

 光の速度など出せるはずもない〈じんりゅう〉の場合、実際に脱出不可能になるのは、さらにその外側の領域であった。

 フィニィは自らその領域に接近することで、重力を運動エネルギーに転換して加速し、その速度をもって再び降着円盤の周回する距離まで離れようとしているのだ。

 惑星重力を使ったスイングバイ加速と理屈は変わらないが、危険度は比べ物にならない。

 フィニィは言うが早いか〈じんりゅう〉をBHに向け加速させた。


「ユリノ艦長、変デス!」

「なにが!?」

「ユリノ艦長、BHの周囲には惑星も恒星も観測できないのです」


 巨大極まるBHに急接近し、メインビュワーを真っ黒に染め上げる最中、ルジーナとシズが報告してきた。


「降着円盤の材料となった星はもちろん、BHの周囲には惑星はもちろん、すくなくとも数万光年にわたって、闇しか観測できないデス!」

「まるで……この宇宙には星が無いみたいなのです」


 ルジーナとシズが続けた言葉の意味を、ユリノが理解に至るまで一瞬の間を要した。


「…………ここって……私達の宇宙じゃないの?」


 ユリノが訊き返すと、シズとルジーナは沈黙をもって答えた。

 彼女達も同じ意見なのだ。


「まだ確定できないのですが、ここはただBHのそばというだけでなく、物理法則が我々の宇宙と微妙に異なっている可能性があるのです」


 シズが口を開くと、黙って聞いていたカオルコが「ワァ……ォ」と驚嘆した。


「ここがいわゆる【オリジナルUVDビルダー】であり、無限のUVエネルギー……我々の宇宙の理を無視し、疑似重力やUV兵装の使用を可能にするエネルギーを無限に生み出す装置の生産地であるならば……、こここそが……この宇宙こそが……」

アンダーヴァースだってか?」


 クィンティルラがシズの言葉を継いだ。

 ユリノは信じがたいことではあったが、おそらくその通りなのだろうと思っていた。

 オリジナルUVDが絶対に破壊不可能なのは、オリジナルUVDが物質ではなく、他の宇宙との境界面がオリジナルUVDの形状でこちらの宇宙に現れたにすぎないから……という仮説を聞いたことがある。

 ここがアンダーヴァースであるという仮説は、オリジナルUVDの生産地だという事実を踏まえると、大いに納得できる部分もある気がした。

 もちろん、解けない謎はまだまだあるが、少なくともここが自分らの知っている宇宙とは大分異なっていることは間違いない。

 だが今、ユリノの思考の大半を占めていたのは、ここがオリジナルUVD生産地であることも、ここがアンダーヴァースである可能性でもなかった。

 このBHの周辺に、文明のある星はおろか、観測可能な星の一つさえ無かったことだ。

 つまり仮に〈じんりゅう〉が降着円盤の重力圏から脱出できたとしても、どこかの星に〈じんりゅう〉で向かい、そこで補給して、生き延びる……などという可能性は無いことが確定したのだ。

 ここが太陽系から遠く離れたBHのそばの降着円盤であったならば、何年もかけて地道に帰るなり、どこかでワープゲイトを見つけて故郷に帰る道もあったかもしれないが、ここが別の宇宙であり、星も存在しないのであれば、その選択肢も存在しないようであった。

 元から本気で考えていた選択肢では無かったが、ユリノは腹をくくるしかないことを認めた。

 ここで目覚める直前、姉の姿のアバターの元から去った瞬間から、分かっていたことではあった。

 ここでグォイドのように【オリジナルUVDビルダー】の主となって、停滞した時間の中に留まるつもりが無いならば、ここでBHに吸い込まれるか、ここへ来た際に潜った【ガス状巡礼天体ガスグリム】最奥へと繋がるワープゲイトを潜って太陽系に戻るしかない。


「まぁ、仕方がないさユリノ、分かっていたことさ」


 カオルコが先んじてユリノを励ました。

 他のクルー達も、同じ眼差しでユリノと視線を交わした。

 〈じんりゅう〉が生き延びる選択肢があるとすれば、やはりまたあのワープゲイトのリングを潜るしかない。

 だが、ここへやってきた時程には簡単な所業ではない。

 むしろ限りなく不可能に近く、自殺行為の類と言った方がいいだろう。

 ユリノの理解が正しければ、ワープゲイトは降着円盤と共にBHを周回しているが、〈じんりゅう〉が降着円盤上でBHからの距離を維持できる周回速度に対し、ワープゲイトの周回速度は異常に遅かった。

 しかもリングはBHの方向をむいている。

 なぜワープゲイトがそんな低速度であっても、BHの高重力に引かれず、その位置を維持できているのかは謎だが、ともかく、ワープゲイトの周回速度に〈じんりゅう〉が合わせれば、〈じんりゅう〉は周回による遠心力の加護を受けられなくなり、BHの高重力をもろに喰らうこととなるだろう。

 〈じんりゅう〉はワープゲイトの周回速度に同調することはできるが、それを潜る前にBHに吸い込まれる運命が待っている。

 今の〈じんりゅう〉の推力で、BHの高重力に打ち勝ってワープゲイトを潜れる確率はどれくらいあるのだろうか?

 ユリノは一瞬考えたが、答えは極めて皆無に近いとしか言いようがなかった。


「…………」


 ユリノは拳を握りしめることしかできなかった。

 ここに留まって人類を新たなグォイドにしないという選択には後悔はない。

 だがそれはやはりクルーを犠牲にするのと同義だったのだろうか…………?

 ユリノは我知らず、これまであえて目を逸らし続けてきた機関コントロールを見つめていた。

 数体の医療用ヒューボによる救命措置が続けられている〈じんりゅう〉機関長は、ユリノ達が目覚めてからピクリとも動いていなかった。

 ケイジ少年は、男性にも関わらず【ANESYS】のデバイスをBMI代わりに使い、たった一人で〈じんりゅう〉を動かし、【アーク・グォイド】と戦い勝利した代償として、脳に甚大な負荷がかかり、今死にかけている。

 仮想現実のスタジオ【第一艦橋】では、〈太陽系の建設者コンストラクター〉の恩恵で立川あみADとして現れることが出来たが、それが最後だった。

 彼が再び目覚めることができるのか……ユリノには願うことしかできなかった。

 姉のアバターと共に最後に会った時、ユリノは本当は彼に話しかけたかった。

 彼がいかにして〈じんりゅう〉を勝利させたかを知っていたし、「ありがとう」とか、他にも色々伝えたいことが山ほどあった。

 だが今の彼には…………。

 ユリノは恐れていた。

 もしこのまま彼が戻って来なかったとして、姉も彼も存在しない世界で、これからも自分は生きていけるのだろうか? と。

 もし彼に二度と会えないならば、このままBHに吸い込まれるのも悪くない……そんな思いを、自分は抱かなかったと言えるだろうか?


「ユリノ艦長…………ケイちゃんは戻ってきます! …‥必ず」


 目に涙を溜めて自分と同じようにケイジ一曹を見つめていたミユミが、ユリノに言った。

 彼女はホントは今すぐ彼の元に駆け付け、手を握ってあげたかったに違いない。


『そうです! ケイジさんなら大丈夫です! 今まで何回こんなことがあったと思ってるんですか!?』


 サティが元気一杯にやかましく言ってきた。

 確かに彼はこれまで何度も死地を潜り抜けてきた。

 今度だって……ユリノは信じたかった。


「艦長、〈じんりゅう〉船体にダメージは多々ありますが、主・補機のUV出力およびUV推進出力に問題無しです」

[船体各部ノ全UVきゃぱしたヘノUVえねるぎーモ充填済ミダ。

 ソレト奴ハマダ治療中ダ。結果ハマダ出テイナイ]


 副長サヲリが船体コンディションパネルを確認した上で告げると、エクスプリカが続いた。

 彼なりにケイジ少年は大丈夫だと言いたいらしい。


「フォムフォム……リングを潜るなら、これが最後のチャンスになる」

「ま、なるようになるよ艦長!」


 フォムフォムとクィンティルラが続いた。


「艦長、BHへの接近加速が終わって、降着円盤上まで戻ったら、一旦ワープゲイトリングを追い越して、そっから減速しつつリングにアプローチする……んで良い!?」

「最適コースは算出済みですゾな!」

「成功確率は……クソ喰らえなのです」


 フィニィ、ルジーナ、シズがさらに告げた。

 どうやらユリノ以外のクルーの覚悟は決まっているようだった。

 最期にカオルコがやれやれという顔をユリノに向けた。


「フィニィ……お願い!

 クィンティルラは彼女のサポート!

 フォムフォムルジーナとシズは最適コースを随時更新!

 サヲリは船体の損壊にそなえ構造維持とダメコン用意!

 カオルコはリングを射程圏に納め次第、〈じんりゅう〉の現状を納めたプローブを発射! リングの外にメッセージを伝える!

 エクスプリカはプローブに入れるメッセージを超特急で作成!

 ミユミちゃんとサティは…………祈って!」


 ユリノが一気呵成に命じると、すぐさまクルーからの「了解!」という返事が返ってきた。

 ユリノは少しだけ笑顔を取りも戻すと、「ただちに実行」と告げた。













 フィニィの操舵の腕前は、【ANESYS】適正が無くとも人類イチだとユリノは確信した。

 ユリノは〈じんりゅう〉がBHへ接近するに伴い、底なしの穴へ急降下するような感覚を覚えた。

 あえてBHに向かうことで加速した〈じんりゅう〉は、そのまま闇に呑まれそうなところでBHへの最接近を終え、プラズマ流輝く降着円盤への接近へと転じた。

 

「カオルコ!」


 ユリノは〈じんりゅう〉から見て左舷前方のさらに上方に、空間湾曲により、巨大な滝のように盛り上がって見えるBHの反対側の降着円盤の上を、ワープゲイトのリングが滑り降りてくるのを確認しながら叫んだ。

 直ちに〈じんりゅう〉艦首発射管から、10機ものプローブが発射される。

 それらは高出力のレーザー通信を発信しながらリングへと接近したが、リングが接近方向に対してほぼ真横を向いているため、たちまちリングの縁に衝突して爆発した。

 10機のうち一機でもリングを潜っていて、その向こうへメッセージが届いていたら儲けものだが、〈じんりゅう〉に確認している余裕はなかった。


「いくよみんな! 踏ん張って!」


 〈じんりゅう〉はプローブにやや遅れてリングの前を高速で通過すると、フィニィの叫び声と共に急減速を開始し、後方のワープゲイトのリングへと、周回速度の同調を始めた。

 ユリノは総合位置情報図スィロムを睨みながら、すぐに〈じんりゅう〉が艦尾から後方のワープゲイトのリングに接近するのに合わせ、〈じんりゅう〉がBHに引き寄せられ、リングが〈じんりゅう〉から見て右舷後方へと移動するのを確認した。

 さっそく遠心力を失った分BHに引き込まれているのだ。


「こん……チックショォオオオ~ッ!!」


 フィニィが踏ん張る。

 〈じんりゅう〉は艦尾をBH方向に振り、全推力でBHの高重力に抗った。

 ユリノは信じた。

 〈じんりゅう〉ならできるはずだ、と。

 主機にオリジナルUVDを搭載している上に、今はオリジナルUVDを四柱も搭載した〈エックス・ブースター〉まで接続しているのだ。

 エクスプリカが艦内のUVキャパシタに溜めていたUVエネルギーを回し、さらなる推力とする。

 〈じんりゅう〉は降着円盤の周回速度に対し、じわじわと減速しつつ、BHの重力に抗いながら、ゆっくりとリングに接近していた。

 〈じんりゅう〉はリングの真正面に来たところで、艦首をリングに向けて飛び込むつもりであった。

 つまりリングの真正面に来たところで、減速から加速に転じなければならない。

 その最適なタイミングを見極め、フィニィが「せやァッ!」とばかりに〈じんりゅう〉の艦首をリングに向けた。

 途端にBHの高重力が〈じんりゅう〉を引っ張る。

 〈じんりゅう〉はBHに引き込まれないでいるだけで精一杯であり、リングを潜るどころか、じわじわとリングから遠ざかり始めた。


「…………ゥゥゥ!!!」


 フィニィの苦悶のうめき声がユリノの耳にまで届いた。

 クルーは皆精一杯のことをしたが、それでもこの状況でワープゲイトのリングを潜ることはやはり不可能だったのかもしれない。

 〈じんりゅう〉真正面い見えるリングが徐々に、だが確実に遠ざかっていくのを確認すると、ユリノは悔しさと、クルーへの申し訳なさで胸が一杯になり、思わず目を閉じた。

 当初の計画がうまくいかなかった今、ユリノには〈じんりゅう〉が助かる道が何一つ浮かばなかった。


――…………諦めるのは、まだ早いわよ……ユリノ……


 ユリノは、せめてクルーの皆に一言謝ろうと思った瞬間、そう呼びかけられた気がして顔を上げた。


「艦長…………リングから何か……」


 サヲリが滅多に聞くことが無い上ずった声で叫んだ。

 その理由はメインビュワーに広がる光景を見ればすぐに分かった。

 前方のワープゲイトのリングに張られた、まるで波打つ水銀のような膜から、〈じんりゅう〉へと向かって黄金色の光が照射されていたのだ。


「〈じんりゅう〉の後退速度が…………減速に転じましたです!」


 ルジーナが自分でも信じられないかのように告げた。


『お~い! ユリノ~! 無事ならはやく帰ってきやがれ~!!』


 続いて響いたよく知る人間の声に、ユリノは飛び上がる程驚いた。


「……艦長…………〈リグ=ヴェーダ〉よりの音声通信データを受信、あの光に乗って届いてます!」


 ミユミが笑い泣き状態で告げた。


「……じゃあの光は…………」


 唖然としながらカオルコが言わんとしたことは、ユリノにも分かった。

 あの光は〈じんりゅう〉を救助する為に、ワープゲイトのリングの外から照射されたものだ。

 その光の正体はユリノも知っていた。


「まさかトラクター・ビームぅ!!」


 ユリノは叫んでいた。














『手ごたえがありました! 何物にせよ、直ちに牽引を開始します』

「頼む!」


 テューラは通信用ビュワーに映る白猫アヴァーシャララに向かって叫んだ。


――【ガス状巡礼天体ガスグリム】最奥空間・【オリジナルUVDビルダー】リング前・【汎銀河グォイド被害者の会艦隊】および【SSDF〈じんりゅう〉救助艦隊】旗艦〈リグ=ヴェーダ〉内作戦指揮所MC――


 およそ6時間ほど前の【グォイド・プラント】の殲滅直後、【汎銀河グォイド被害者の会艦隊】代表のアヴァーシャララに尋ねられた〈じんりゅう〉の消息について、テューラに答えられることはごくわずかであった。

 連中はワープゲイトらしき【ガス状巡礼天体ガスグリム】最奥のリングを潜って以来、消息不明だ、と。

 アヴァーシャララ他の【汎銀河グォイド被害者の会艦隊】の反応は激しかった。

 すぐ救助に向かいましょう! すぐ行きましょう! と白猫は強く訴えた。

 訴えたのが白猫ただ一名だけならまだ理解できたのだが、救助に向かうことを求めたのは【汎銀河グォイド被害者の会艦隊】の全艦艇であった。

 テューラは驚く他なく、それを断ることもできなかったが、問題は救助方法であった。

 〈ファブニル〉〈ジュラント〉〈ナガラジャ〉の持ち帰った【ガス状巡礼天体ガスグリム】最奥空間の情報から、ワープゲイトの向こうが高い確率でブラックホール付近に繋がってると〈メーティス〉が推測した。

 つまり救助艦艇が【ガス状巡礼天体ガスグリム】最奥のつまりワープゲイトを潜って〈じんりゅう〉の救助に向かっても、高確率で二重遭難が発生してしまう。

 故に〈じんりゅう〉を救助したくば、ワープゲイトを潜らずに、その外からのアプローチで当該艦を救わねばならなかった。

 人類のごく最近までの常識では、それはとうてい不可能なタスクであった。

 だが、現在は手段が存在していた。

 【ガス状巡礼天体ガスグリム】内の【インナーオーシャン】で〈じんりゅう〉が遭遇した【オリオン椀グォイド被害者の会】から得た技術トラクター・ビームだ。

 トラクター・ビームをワープゲイトのリング内に向かって照射すれば、リングの外から〈じんりゅう〉を引っ張りだすことは可能なはずだ。

 そのトラクター・ビームが何故か今、人類の有する無人工作機械群により勝手に量産され、SSDFのあらゆる艦艇に搭載されていたのだ。

 だがまだ問題もある。

 いかにトラクター・ビームといえど、〈じんりゅう〉がリングのすぐ外側の、トラクター・ビームで狙える範囲内にいてもらわねば、同ビームで引っ張り上げることはできない。

 だが、今から3時間ほど前、【ガス状巡礼天体ガスグリム】内に残存グォイドの有無を確認しにいったSSDF偵察艦が、ワープゲイトのリングから、〈じんりゅう〉が発進したと思しきレーザー通信を受信したことで、最期の問題はクリアされたのであった。

 通信内容から、〈じんりゅう〉がワープゲイトのリングの前に最接近するタイミングが分かったからだ。

 ワープゲイトのリングの彼方と、【ガス状巡礼天体ガスグリム】内最奥とでは、さらに時間の進行速度が異なっており、レーザー通信の受信後から、トラクター・ビームによる救出作戦実施までの準備時間は充分にあった。

 かくして【ガス状巡礼天体ガスグリム】より出るグォイドとの激戦を経てまだ健在なSSDFの全艦艇と、【汎銀河グォイド被害者の会艦隊】は、空っぽとなった【ガス状巡礼天体ガスグリム】に乗り込み、全艦艇がトラクター・ビームによって巨大な一本の大樹のようにつながり、ワープゲイトのリングへとトラクター・ビームを照射したのであった。

 そしてトラクター・ビームは確かに何かを捉えた。

 テューラは広大極まる【ガス状巡礼天体ガスグリム】内の空間一杯に、〈アクシヲン一世〉に〈ヘファイストス〉や多数の〈コバヤシマル〉に病院船〈ワンダービート〉まで加えた人類の【SSDF〈じんりゅう〉救助艦隊】と、【汎銀河グォイド被害者の会艦隊】やIDN等の異星文明のあらゆる艦艇が展開し、〈じんりゅう〉というたった一隻の艦を救うため力を結集したことに、ただ唖然とする他なかった。


『がんばれ〈じんりゅう〉! がんばれ~ッ!』

『戻ってこ~い!』

『帰ってきてくれ〈じんりゅう〉!』


 覚えたての人類の言葉で、【汎銀河グォイド被害者の会艦隊】の各艦艇が〈じんりゅう〉に呼びかけるのが聞こえた。

 それだけでは無い。

 グォイドの消えた【ガス状巡礼天体ガスグリム】内の有大気空間全体に、〈じんりゅう〉を応援する数多の声が反響するのが聞こえた。

 その中には、テューラの知る人物の声も聞こえる気がした。


『人類の皆さんは、オリジナルUVDを母性の防衛設備の動力源に使われていますね?

 その結果、オリジナルUVDが〈じんりゅう〉の帰還を母性で願う人々の、一つとなった意思に反応したようです。

 こういう時は、よく奇跡が起きるのですよ』


 白猫アヴァーシャララがテューラに教えた。

 確かに人類はオリジナルUVDを動力源にした巨大UVシールド発生装置で地球を守っていた。

 だからアヴァーシャララの言う通り、オリジナルUVDが〈じんりゅう〉の【ANESYS】の統合された意思に反応するように、〈じんりゅう〉の帰還を願う地上の人々の統合された気持ちを吸い上げたのかもしれない。

 ではテューラが聞いた気がした声は…………。

 宇宙ステーション〈斗南〉から地球に避難中の、ユリノの姪のユイの声だったのかもしれない。

 テューラはそんな気がした。

 

――そうだ頑張れ〈じんりゅう〉! 頑張れユリノ! 頑張れ少年! ――


 テューラは響く異星文明の人々の声に混じり念じた。

 もし帰って来なかったらぶっ殺してやるぞ! と。













「行くわよみんな!」


 ユリノは叫んだ。

 リングの彼方から照射されたトラクター・ビームをもってしても、〈じんりゅう〉の後退が止まっただけで、リング到達までにはまだまだ距離があった。

 だがユリノはもう諦めはしなかった。

 大丈夫……〈じんりゅう〉はきっと帰れる……故郷へ、家族の元へ……そして帰ったら、その時こそは…………ユリノは無事に帰還したら行う事リストを作り始めていた。

 もうグォイドに怯えて暮らしたりはしない。

 グォイドに勝つこと以外の夢を抱いて生きてやる!

 普通の女子みたいに恋愛に挑戦してみたって良い……。

 姉みたいに子供を設けたって良い……。

 自分の人生を歩んでやるんだ! 

 他のクルー達もきっと同じ思いだろう。

 〈じんりゅう〉がゆっくりと前進に転じる。

 それを逃すまいとBHの重力が〈じんりゅう〉の船体を軋ませる。

 蓄積した高重力の負荷が、限界に達して〈じんりゅう〉船体の所々を崩壊させているのだ。

 さらにオリジナルUVDの無限の出力で続けられらた噴射に、スラスターノズルが摩耗し、限界を迎えようとしていた。


「艦長!」


 サヲリが真っ赤に染まってゆく〈じんりゅう〉の船体コンディションパネルに視線を送りながら叫んだ。

 このままでは〈じんりゅう〉はリングを潜る前にトラクター・ビームとBHの高重力との間で引き裂かれるかもしれない。

 だがユリノはもう心配はしていなかった。

 なぜならば…………。







 突然〈じんりゅう〉の前進速度が上がった。

 〈エックス・ブースター〉の推力が急上昇したのだ。

 それは、マテリアル・プリンターとしての機能もある〈エックス・ブースター〉が、降着円盤を形成する物質を吸引し、水素などの燃焼系推進剤となる物質を生成し、スラスターノズルから噴射すると同時に連続爆破させたからであった。

 誰が、いつのまにそんなことをしていたのか、ユリノにはたった一人の人間しか思いつかなかった。

 機関コントロール席に座る少年が、突然ムクリと状態を起こすと、拳で叩くようにしてコンソールを操作した。

 と同時に、微振動がブリッジを襲い、〈じんりゅう〉がさらなる加速を開始する。

 コンディションパネルを見れば、何が起きたのかが分かった。

 〈じんりゅう〉の六基の主砲塔や、ミサイルを撃ち尽くした後のエントツ型キャニスターや、その他諸々のパージ可能な装甲や装備が〈じんりゅう〉船体から切り離され、船体が軽量化されたのだ。

 ユリノは何故か目が潤むのを止められなかった。

 とても安堵して、嬉しいはずなのに……。

 リングの彼方から皆が呼ぶ声が聞こえた気がする……『帰ってこいよ』と、ユイやテューラ司令やノォバ・チーフの声で……。

 いや、それだけではない。

 数え切れないほどの人々の、〈じんりゅう〉の帰還を待つ声が聞こえた気がした。

 BHが未練がましく〈じんりゅう〉の装甲を引き剥がしていくが、もう止められはしなかった。

 その30秒後、〈じんりゅう〉はリングを通過し、故郷への帰還をはたしたのであった。













            『リバース・スラスターズ』〈完〉















 







え? まだ聞き足りないですって?

 も~これを聞いたらちゃんと寝て下さいね~!

 まぁワタクシが見聞きしたことには限りがあるのですが…………。

 あの後ボロッ……ッボロんになった姿でリングを潜ると、〈じんりゅう〉は【SSDF〈じんりゅう〉救助艦隊】と共に救助に来ていた【汎銀河グォイド被害者の会艦隊】の方々に大歓迎を受けました。

 まぁそれぞれの故郷への帰り際に、それぞれの文明の色んな艦が〈じんりゅう〉の隣を同行して、軽く船体を振って挨拶したくらおいですが…………。

 どうもあの方々も、例によってアニメ『VS』のファンだったみたいです。

 え? なんで銀河の端々にある異星文明の方々があのアニメを知っていたかですって?

 もっともなご質問ですね。

 【汎銀河グォイド被害者の会艦隊】の方々は、すぐ帰ってしまわれたので詳しくは教えてもらえなかったのですが……。

 ど~もオリジナルUVDという物は、銀河の端々にあってもそれ同士で繋がっていて、銀河の各文明が、それぞれの恒星系で〈太陽系の建設者コンストラクター〉さんの試験にパスしていると、収集した他所の星の文明文化の情報をある程度取得することができるをようですね。

 グォイドとの戦いを描いたアニメを、内太陽系の人類圏で配信した結果、内太陽系に存在したオリジナルUVDでも収得されて、それが全銀河に配信されていたということでしょうか?

 道理で〈じんりゅう〉や〈びゃくりゅう〉にそっくりの艦がいると思ったら…………やたら気合と年季の入った〈じんりゅう〉ファンっぽい【汎銀河グォイド被害者の会艦隊】の艦が散見された気はしてましたが…………ねえ?








【 ガス状巡礼天体ガスグリム】はあの後、まるで何事も無かったかのように移動を続け、太陽系を出たあたりで完全なるステルス状態となり、いかなる手段でも観測することができなくなりました。

 これはユリノさんたちが、〈太陽系の建設者コンストラクター〉さんの所からの去り際にそう命じたからなようです。

 これで他のどんな存在にも発見不可能になり、またグォイドみたいな存在を生み出すことがないように……だそうです。





 ああ! それからそれから! 〈じんりゅう〉が帰還した際に、〈エックス・ブースター〉になんと【アーク・グォイド】の残骸が突き刺さっていたのが発見されたんです!

 なんとその残骸はグォイドの元になった文明の情報が納まったデータアーカイブだったんです。

 しかも【汎銀河グォイド被害者の会艦隊】の中には、グォイドとは別のルートで再興した、グォイドの元になった文明の系譜にあたる文明の艦がおりまして、そのデータはその艦に渡されることとなりました。

 そのデータをうまく利用すれば、まだ銀河中に残っているグォイドに、停止命令を送ることができるかもしれないそうです。

 そして〈デリゲイト〉さんは、その結果を見届けるべく、IDNの皆さんと一緒にワープゲイトを潜って【汎銀河グォイド被害者の会艦隊】の方々と共に旅立たれました。






 これらの出来事で、人類のみなさんは、とんでもない量の情報を手に入れました。

 さまざまなテクノロジーはもちろん、銀河の文明事情などです。

 【ガス状巡礼天体ガスグリム】のグォイドが殲滅されたことで、新たなグォイドによる悲劇は防がれましたが、すでにグォイドの拠点にされてしまった星系が、銀河にはまだ多数残っているようです。

 そういった銀河のグォイドや各文明、【汎銀河グォイド被害者の会艦隊】の勢力星図も、人類は手にすることができたのです。

 とりあえずの人類滅亡の危機は去りましたが、ワープゲイトの存在を鑑みると、人類が再びグォイドに遭遇する可能性はゼロとは言えません。

 これらの情報を鑑み、人類の皆さまは〈メーティス〉の進言もあって、恒星間移民の本格実施を決定しました。

 これまでの一連の出来事で得たテクノロジーを駆使すれば、テラフォーミングして第二の地球を作るハードルが大分下がりましたからね。

 まっ先にワタクシの片割れがいるマクガフィン恒星系への移民が検討されました。

 すでに〈アクシヲン三世〉が入植に成功してるならば、達成率が高いですからね。

 ですが、〈アクシヲン三世〉が使用したワープゲイトは、今回得た銀河星図によれば我々が使うことはできませんでした。

 〈アクシヲン三世〉が使ったワープゲイトは移動性のワープゲイトだったからです。

 銀河にはこういった一定の期間に一定の場所でしか開通しない、移動性のワープゲイトが多々あるようでした。

 これは〈太陽系の建設者コンストラクター〉さんによる、異星文明間での戦争や侵略行為防止策だと言われていますね。

 ワープゲイトは〈じんりゅう〉クルーの行いにより、【ANESYS】が使えれば、一応自在に開通できるようになっているはずでしたが、出口側の安全が確保できなければ、いきなりの使用は自殺行為であるというアドバイスもアヴァーシャララさんからいただいておりました。

 というわけで人類のみなさんは銀河星図を元に、〈アクシヲン一世〉を中心とした船団による太陽系に近い安全そうな恒星系への通常航法でのワープゲイト用オリジナルUVDの移送と、大規模偵察兼先行移民をまず行うことにしました。

 着いた先の恒星系が安全なら、そこでワープゲイトを開き、本格的な移民開拓船団を太陽系から呼ぼうという試みです。

 それまでは亜光速の気長な旅です。

 太陽系に帰りたくなったら、いつでも太陽系側に残しておいたオリジナルUVD群とワープゲイトを繋いで、好きな時に帰ろうっちゃ帰れますからね。











 え? 〈じんりゅう〉の話が聞きたいですって?

 もう大体分かっているのでしょうに…………。

 宇宙ステーション〈斗南〉へと〈じんりゅう〉が帰還した時は、それはもう大騒ぎでした。

 この記録映像を見て下さい。

 ドックに帰還したボロボロの〈じんりゅう〉から、ボーディングチューブを通ってクルーの皆さんが、歓迎する人々の前に現れたところです。

 あなた方に言うのもなんですが、ユリノ艦長にサヲリ副長、カオルコ少佐にフィニィ少佐、シズさんにルジ氏にクィンティルラ大尉にフォムフォムさん………………それになんといっても立川アミ一曹!

 ………凄い歓迎ですね!

 みなさんが称えてくれました…………。

 それからクルーの皆さんは思考混濁症に悩まされたり、色々大変なこともありましたけれどもね……。

 ユリノさん達のこの後の身の振り方は、皆さんでさんざん話し合われました。

 グォイドのいない世界でどう生きようか? って。

 で、その答えが、皆さんご存知のように今皆さんが乗っている〈アクシヲン一世〉の防御ユニットとしての〈じんりゅう〉の運用だったわけなのです。

 ユリノさん達は修理された〈じんりゅう〉に乗り、船団の皆さんと一緒に母なる太陽系を出て、新たなる故郷を探す旅に出ることを選んだわけですね。

 グォイドが目標の星にいる可能性を考えればあまり能天気にもしていられない旅かもしれませんが、それでもユリノさん達は幸せだと思いますよ。

 だってこうして皆さんに出会えたのですから………………。

 さ、サティからお話できることはここまでです。

 とうとう“今”に追いついちゃいましたからね……あとは皆さんがよ~く知っての通りです。

 そろそろ本気で眠ってくれないと、ママさんたちが来ちゃいますよ?

 え? じゃ明日からはこの時間は何をするのですって? 

 え、え~……と。

 じゃ明日の夜の予告編だけちょっと………………………。















『次週より配信開始の新番組!

 伝説のアニメシリーズ最新作が、ついにはじまる!

 数々の悲しみと悲劇を乗り越え、新たなる艦、新たなるクルーの元で新たなる旅立ちの時が!!!!!


 空想科学宇宙冒険シリーズ・ヴィルギニースターズTNG!(ワープしてくるタイトルロゴ)


 新造艦として生まれ変わったVS‐802〈じんりゅう〉!

 深い悲しみを乗り越え立ち上がる艦長ユリノ! 

 聡明なるサイボーグ少女サヲリ副長!

 狙った獲物は外さないカオルコ少佐! 

 麗しき男装操舵士フィニィ!

 千里眼電測員ルジーナ! 

 天才マギステル・シズ!

 暴れん坊パイロット・クィンティルラ!

 気は優しくて力持ち! コ・パイロット・フォムフォム!

 地獄耳の若き通信士ミユミ!

 (各クルーの活躍シーンのハイライトが流れる)

 そして待望の新クルーが登場!

 【ANESYS】は使えないただの少女航宙エンジニアだが、機転と度胸で大活躍!

 新任機関長……立川アミ!


 〈じんりゅう〉に襲い掛かかる数々の試練と苦難……恋の嵐までっ!?

 そして彼女達の前に立ちはだける謎の巨大不定形知的生命体SATYの正体とは(〈じんりゅう〉の針路を塞ぐ巨大ミトコンドリアめい巨大た物体)!?



 彼女達の新たなる冒険の日々に……ご期待ください!!(無限の宇宙へと旅立ってゆく〈じんりゅう〉の後ろ姿)』




                                           おしまい

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