▼第九章『Tomorrow`sAffair』 ♯4
時に23世紀の初頭、グォイドとの遭遇からおよそ50年と少しの歳月を経て、予想外に早くに始まった人類の種の存亡をかけた最終決戦を、太陽系内各地に住まう人々は、光の速度が許す限りの時間差で見守っていた。
【
【
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だが【
その情報は、SSDFの有する情報は基本的に公共のものとするという理念に従い、速やかに全人類社会へと伝えられた。
太陽表層で観測されたのと同種のワープゲイトが、【
一般人類社会の人々がそれを知ったのは、メインベルト内のワープゲイト消滅後数時間後のことであったが、有り体に言って、人々は熱狂した。
生存が絶望視されていた〈じんりゅう〉級三隻が、敵陣のど真ん中で四カ月間も生存し続け健在であったどころか、紆余曲折の果てにワープゲイトを能動的に開き、敵中枢へSSDFの攻撃艦隊【カチコミ艦隊】を送りこむことを成し遂げたのだから。
だが、その事実を知った人類社会に住まう市井の人々全てにできることは、ただひたすら祈ることだけだった。
官民問わずあらゆるニュース媒体で……惑星間ネットワークで……街頭ビュワーで……。
シンジュク東口広場で……シブヤ・スクランブル交差点で……ニューヨーク・タイムズスクエアで……モスクワ赤の広場で………タイワン・台北で……ドイツ・ベルリンで……レフトアウト各国で……月SSDF総司令部で……火星・アルカディアで……木星軌道上〈第一アヴァロン〉で……汎用航宙士後方支援艦〈ワンダー・ビート〉で……。
VS艦隊のファンが、親族が、友人が、勝利を願う者達が集まり、固唾をのんで〈じんりゅう〉級と【カチコミ艦隊】の戦いの続報を待った。
冷たい方程式が支配する宇宙であっても、強く祈れば、きっと思いが通じると信じて。
【
そしてラグランジュⅢに浮かぶ宇宙ステーション〈斗南〉内ノォバ宅では、ノォバ・ユイが叔母に背中から抱きしめられながら、リビングに置かれたビュワーの前で、続報を待ち続けていた。
遠い宇宙の彼方、巨大な円筒状の恒星間移動物体【
「…………そうは言うけどよぉユリノぉ……」
テューラは宇宙ではついぞ聞いたことのないゴオォォォ~という風音と、船体の軋む耳障りな音が響く中、かつてない高機動戦闘に、ひじ掛けを握りしめながらぼやいた。
――【
〈リグ=ヴェーダ〉ふくむ【カチコミ艦隊】全艦艇は、〈じんりゅう〉から受け取った【ANESYS】製・有大気空間用操舵プログラムにより、従来の基本的な宇宙戦闘では絶対に行われることのない弧を描くような進路変更が幾度となく行うことで、敵攻撃を回避しては、有効攻撃位置へと遷移し、前後から迫るグォイドの猛攻をしのいでいた。
戦闘開始から約10分が経過し、〈じんりゅう〉級と【カチコミ艦隊】は無人駆逐艦数隻を失った以外、まだ有人艦含む甚大な損失は出てはいなかった。
が、それは【ANESYS】製・有大気空間用操舵プログラムが効果を発揮したというよりも、ただ単に運が良かったからだ……というのがテューラの見解であった。
確かにある程度の効果を有大気空間用操舵プログラムは発揮してはいたが、【カチコミ艦隊】は【グォイド・プラント】とそこから発進した1000隻弱のグォイド大艦隊に挟まれているのだ。
無事でい続けるほうがありえないと考えるべきであった。
まだ【カチコミ艦隊】がほぼ無事なのは、前後を挟む敵艦隊と【グォイド・プラント】との間に距離があるため、敵のUVキャノン砲撃の集中は、限界にまで達してはいなかったが為だ。
また、敵の攻撃がけったいな形に変化した〈じんりゅう〉級三隻に集中しているという事情もある。
グォイド艦隊は、〈じんりゅう〉級三隻がトラクター・ビームによって自分達を無理やり引き留めたように、再び【
〈じんりゅう〉級三隻が使ったトラクター・ビームは、既に自壊して使用不能なのだが、グォイドはそんなこと知らなかった。
だから〈じんりゅう〉級三隻はグォイド艦隊の集中攻撃を受ける羽目にあったわけだが、ドラゴンめいた巨大な軟体物体と合体した〈じんりゅう〉級三隻は、敵の砲撃をヒラリヒラリと巨大さからは想像もつかないほどの凄まじい機動性で回避し続けており、しばらくは心配なさそうだった。
だが、どちらにせよこれからさらに敵の火線は激しくなるということであり、いくら有大気空間用操舵プログラムにより、【カチコミ艦隊】の艦艇の機動力を上がっていたとしても、回避には限界はあるだろう。
仮に敵の攻撃をさばききれず、それで【カチコミ艦隊】が全滅したとしても、その前に〈じんりゅう〉が【
〈じんりゅう〉〈ジュラント〉〈ナガラジャ〉〈ジュラント
つまりテューラ達はまだここで時間を稼ぎ続ける必要があった。
「おいユリノォ~このままじゃ……何もできんうちに――!!」
テューラが溜まらず〈じんりゅう〉に呼びかけようとしたところで、ガンというかつて経験したことにない衝撃が〈リグ=ヴェーダ〉を震わせ、テューラは悲鳴をあげそうになった。
UV弾頭ミサイルでも命中したのか!? と思ったからだ。
それが証拠に〈リグ=ヴェーダ〉の艦首上部に見覚えのない物体が突き刺さっているのがビュワーの彼方に見えだ。
だが続く爆発によるカタストロフは訪れなかった。
代わりにビュワー画面の上端に、横にスクロールしながら『ハロー、〈リグ=ヴェーダ〉のみなさん!!!』という文字が表示されテューラは先刻とは別ベクトルで驚いた。
あまり考えたくは無いが、衝撃の原因は、艦首に突き刺さった謎の塊が衝突したことが原因であり、しかもビュワーに映った文字は、その物体が送ってきたものらしい。
『テューラ司令! そっちの艦艇にIDNを送りました!
彼らに有大気空間機動をサポートしてもらって下さい!』
謎の答えをユリノが通信で極めて簡潔に伝えてきた。
ユリノが送った操舵プログラムだけでは、まだここでの戦闘には対応できてはいない。
ソフトの要求にハードの方が追随できていないからだ。
有大気空間用操舵プログラムは、大気の粘度を計算に入れた上でのスラスター出力調整や、自然減速現象等によるレスポンスの遅延を補うプログラムであったが、最大の機能は艦を覆うUVシールドの形状を能動的に変化させ、言わば翼のようにして艦の空力制御を可能とすることであった。
だが、如何にオリジナルUVDに主機を換装した〈リグ=ヴェーダ〉であっても、被実体防壁であるUVシールドの形状を変化させたところで限界があったのだ。
所詮はグォイド艦と同じ、真空宇宙での運用を前提にした艦なのだから仕方がないことであった。
そこでユリノは、【
テューラは〈じんりゅう〉級三隻の姿を久しぶりに目撃した瞬間から、なるべく言及せずにきたことであった。
いや、IDNや【オリオン文明グォイド被害者の会・同盟艦隊】の残存AIと出会い、協力関係を気づいたことは、仮想現実に入ったキルスティ経由で知ってはいた。
だが、いざ再会してみたら、巨大なドラゴンめいた軟体物体の頭部と化した〈じんりゅう〉級三隻について、言及している時間的・精神的余裕は無かったのである。
だが、テューラは湧き上がる本能的恐怖を抑え込んで、理解はしていた。
IDNはサティの先祖か親戚にあたる存在であり、能力も知性もほぼ同じだ。
〈じんりゅう〉はそんなIDNとサティとが合体し、ドラゴン状態となった塊と一体になることで、この有大気空間での超高機動性を得ている。
IDNとサティの肉体でできた巨大な翼で、有大気空間の風を受け止め機動性に変えているのだ。
それと同じことをユリノは【カチコミ艦隊】にさせようとしているのだ。
そう思い至るのと同時に、〈じんりゅう〉から分離し、艦首に突き刺さったかのように見えて、実はただベチャリと張り付いただけだったIDNの一個体がぐにゃりと形を変えて〈リグ=ヴェーダ〉艦首を覆うと、〈リグ=ヴェーダ〉と同等よりやや小ぶりなサイズのX字型の巨大な翼へと変わった。
そしてその途端に巨大な翼で大気をはらんだ〈リグ=ヴェーダ〉は、それまでがウソのような機動性で【
ビュワーに『ベルト着用のうえ、しっかりと座席におつかまり下さい』というIDN発らしき文章が表示されるなか、〈リグ=ヴェーダ〉の操舵士が急激な操舵性の変化に悲鳴を上げた。
それまでが凪いだ海のヨットならば、今はジェットコースターのような乗り心地へ激変した。
テューラは警告されたように、座席から放り出されないか心配でならない状況へとなった。
ビュワーの彼方では、〈ウィーウィルメック〉を含む他の【カチコミ艦隊】艦艇にも、〈じんりゅうドラゴン〉から分離したらしいIDNの個体が次々と艦首に張り付き、X字型の翼となって艦の戦術高機動を実現させていた。
テューラは無線通信から、度を越した高機動戦闘を始めた〈ウィーウィルメック〉のキャスリン艦長の悲鳴が聞こえた気がしたが、命の危険はないようなので放置しておいた。
ともあれこれで【カチコミ艦隊】は、機動性においてグォイド艦艇を圧倒的な差で出し抜けるようになったのだ。
簡単に殲滅させられることはないだろう……クルーがいつまでも耐えられるわけではないだろうが……。
あとは〈じんりゅう〉級四隻が上手いこと【グォイド・プラント】を突っ切って反対側に行ってもらうだけだ。
だが肝心の〈じんりゅう〉は、IDNの大半を【カチコミ艦隊】に分け与え、サイズを減じたドラゴン状態で、まだ【カチコミ艦隊】の周囲を右往左往していた。
だが何もしていないわけではなかった。
〈昇電Ⅱ〉を用いて〈じんりゅう〉に届け、艦尾にドッキングさせたノォバ・チーフ製作の〈エックス・ブースター〉が点火させられていたのだ。
さらに、〈じんりゅう〉は〈エックス・ブースター〉の四基のナセルの上面カバーを展開させると、カバー先端を繋ぐように巨大な虹色に光るリングを船体周囲に輝かせながら、〈ウィーウィルメック〉の後ろ上方から覆いかぶさるように接近していた。
――その数分前――
「そそそそそ……そんなことより! さっさと【グォイド・プラント】を突っ切らないんですか!?
ってか何を始めたんですか!?」
ケイジは仮想現実内での湯浴みについての話題から、話を逸らすことを試みた。
もちろん、質問それ自体も純粋に疑問に思ったから尋ねたことではある。
〈じんりゅう・ドラゴン〉はランダム回避で敵UVキャノンを避けるだけで、まだ【グォイド・プラント】へと突撃する気配がなかった。
それどころか、メイン・ビュワーの彼方では、〈じんりゅう・ドラゴン〉と〈ファブニル〉〈ナガラジャ〉のドラゴン部分を形成していた百体を超えるIDNが次々分離し、各〈じんりゅう〉級から飛び去っていってしまっていた。
恐らくまだ【ANESYS】を行っていた時に、IDNに頼んでおいたことだとは思うが、目的は不明だ。
とはいえ、長い長い【ANESYS】を終えたばかりのユリノ艦長達は、すべきことを全て把握しているはずであった。
だから彼女達の行動は事前に計算済みであり、疑う余地など無い。
なので、ケイジは自分で訊いておいて、愚かな質問かとも思ったのだが、ケイジ自身はユリノ艦長とテューラ司令との会話内容からでしか〈じんりゅう〉の今後の行動方針を聞いておらず、自分が知っておくべき事実があるならはやく教えてほしいところではあった。
「ケイジよ焦るな。
【グォイド・プラント】に突入する前に、野暮用を済ましておかないとならないのだ」
「まずIDNを【カチコミ艦隊】に分け与えておかないと……」
「ぶっ飛ぶぜ~……超ぶっ飛ぶぜ~……」
「あとで恨まれないと良いけど……」
「あ……ああ~……なるほど」
ケイジは親切に答えてくれたカオルコ少佐の言葉に、ユリノ艦長、クィンティルラ大尉、フィニィ少佐が続き、ケイジはすぐに理解した。
それはケイジもなんとなく具申すべきかと思っていたことでもあったからだ。
カオルコ少佐が答えた直後に、視界内の【カチコミ艦隊】の各艦に次々と分離したIDNがへばりつくと、小さなドラゴンの翼となって、各艦の機動をサポートするのを確認した。
これにより〈じんりゅう・ドラゴン〉と〈ファブニル〉〈ナガラジャ〉のドラゴン部分は大いに小さくなってしまったが、それでもこの空間の機動性を得るに充分なサイズは残されていた。
というか今までが全IDNを合体させたために無駄に大きすぎたのだ。
むしろ〈じんりゅう・ドラゴン〉もまた、軽量になったことで、より機動性が上がっているようだった。
ケイジはより目まぐるしく移動するビュワーの彼方の景色と、体にかかるGの不快さが増したことでそう判断した。
そして自分がなぜ具申をためらったのかを思い出した。
無人艦にならともかく、有人艦にIDNを張り付けてぶっ飛びまわすなんてしたら、あとで中のクルーぬ恨まれそうだと思ったのだ。
ケイジは開放された無線通信から、時折グォイドが原因ではない悲鳴が聞こえてくるのに気づくと、心の中で合唱した。
その一方で、〈じんりゅう〉は大乱戦の様相を呈してきた敵味方入り混じる空間から、無人〈ウィーウィルメック〉を従えながら、正確無比に敵大型グォイド艦を仕留め続ける〈ウィーウィルメック〉に後方から接近を開始していた。
同時に〈じんりゅう〉艦尾に接続された謎ブースターがいつの間にか点火されてたのを、ケイジはコンディションパネルで確認した。
表示されていることを信じるならば、補助エンジンナセル尾部に接続された四基のそのブースターには、オリジナルUVDがそれぞれ搭載されており、それが今、爆発的にUVエネルギーを生み出しはじめていた。
だが、ケイジが表示を見る限り、その〈エックス・ブースター〉と言うらしい新装備は、くみ出されたUVエネルギーを推進力にもUVシールドにもUVキャノンの類にも使ってはいなかった。
代わりに四基の〈エックス・ブースター〉のナセルの上面カバーを開き、巨大なバザード・ラムスクープ機能を作動させていた。
「キャスリン艦長、それとアビー、お届け物です! 受け取って下さい!」
『はいぃ?』
『了解しました〈じんりゅう〉、ありがたく頂戴します』
ユリノ艦長がそう〈ウィーウィルメック〉に呼びかけると、キャスリン艦長の怪訝な声に対し、全てを察しているらしい〈ウィーウィルメック〉のア
つまり〈じんりゅう・ドラゴン〉は〈ウィーウィルメック〉に何かを渡す為に接近しているらしい。
そしてその行いに、艦尾に接続された〈エックス・ブースター〉が関係しているようだった。
そう推測している間にも、コンディションパネル上で〈じんりゅう〉の艦尾に接続された〈エックス・ブースター〉に変化が起きていた。
厳密には〈エックス・ブースター〉そのものにではなく、〈エックス・ブースター〉の四基のナセルの間の空間に、新たな“何か”がいつの間にか出現していたのだ。
いや……“生み出されていた”と言うべきだろう。
ケイジは四柱ものオリジナルUVDが生み出した膨大な量のUVエネルギーの行く先が分かった気がした。
そもそも、すでにオリジナルUVDを一柱搭載した〈じんりゅう〉に、新たにオリジナルUVDを積んだところで、供給エネルギー
過多で使い道などない。
メインフレームがオリジナルUVD同質物質になっているとはいえ、人類製の船体やスラスターノズルや砲身やUVシールド発生装置では、オリジナルUVD一柱分のエネルギーに耐えるだけで精一杯なのだ。
逆に言えば、内太陽系のSSDFが送ってよこしたらしいこの〈エックス・ブースター〉とやらは、推力や火力や防御力を高めることを目的とした装備ではないのかもしれない。
そして〈エックス・ブースター〉は巨大なX字型に展開されたバザード・ラムスクープ・カバーを開くことで、この【
もちろん、漂っている物質とは、現在行われている戦闘で破壊されたグォイド艦や味方艦の残骸だ。
ラムスクープはもちろん、そのサイズで吸い込める範囲の残骸だけを吸い込んでいたが、ケイジは時々ガンッとばかりにカバーの吸い込み口より大きい破片が衝突する衝撃を感じた。
ケイジはその断続的衝撃に耐えながら、過去にこれと同じ現象に出くわしたことを思い出した。
〈エックス・ブースター〉の四基のナセルの中心部の空間で生み出されていた“何か”は、今バザード・ラムスクープで吸い込んだ物質を材料にして生み出されたに違いない。
つまりその“何か”を生み出すことがこの〈エックス・ブースター〉の機能であり、その“何か”を生み出すことに四柱のオリジナルUVDからくみ出されるUVエネルギーは使われていたのだ……吸い込んだ物質を変換し、形にするだけでなく、吸い込んで集めた物質だけでは足りない分を、エネルギーから物質に変換して補うために……。
「これって……もしかして【ウォール・メイカー】?」
「大分機能では劣るけどね」
ケイジの呟きにユリノ艦長が答えた。
ケイジは半分ハズレて欲しいような気分で尋ねたのだが、答えはシンプルでゆるぎなかった。
人類はついに【ウォール・メイカー】に近いブツを制作できるまでになったのだ。
おそらくノォバ・チーフが製造にかかわったのだろう。
【ウォール・メイカー】は、〈じんりゅう〉が土星圏で遭遇した【ザ・ウォール】を生み出した、いわば〈太陽系の
その凄まじい性能は、【ザ・ウォール】に墜落して全壊した〈じんりゅう〉を取り込み、メインフレームをオリジナルUVDと同質の物質に変換したうえで再生させた程だ。
この〈エックス・ブースター〉がブースターの姿を借りた【ウォール・メイカー】の親戚だとして、なぜ突然人類がそのようなモノを製造できるようになったのか?
ケイジはその理由に心当たりがった。
土星圏から
そのデータは解析の結果、何かの設計図であるらしい……という話を聞いたことがある。
ケイジはその設計図こそが〈エックス・ブースター〉のものであり、〈エックス・ブースター〉が【ウォール・メイカー】の親戚としての使用が可能な理由なような気がした。
土星圏で遭遇した【ウォール・メイカー】は、今は〈じんりゅう〉の主機に使われている一柱のオリジナルUVDだけで、全長数十億キロの【ザ・ウォール】や、再生〈じんりゅう〉や、大破したSSDF艦隊を再生させたが、この〈エックス・ブースター〉は少々エネルギー効率面で劣るらしく、四柱のオリジナルUVDが必要とされるようだ。
ケイジは自分の推測が正しいとほぼ確信していた。
だが皆目わからないこともあった。
「……で、いったいに何を作ったんですか?」
ケイジはたまらず尋ねた。
「あ~…………ええ~っとぉ…………」
「大丈夫、すぐに分かるって!」
【ANESYS】直後であり、少なくとも近しい未来における成すべきことについては全て把握している……と思われたユリノ艦長達であったが、このケイジの問いに対する答えは持っていないようだった。
ユリノ艦長はケイジから目を逸らして頭をかくと、クィンティルラ大尉が無責任で大雑把なことを言ってのけた。
ケイジとしては〈エックス・ブースター〉が何を生み出そうと、実はあまり気にならない……というよりどうとでもなれ! という気分だったのだが、同時に思った。
〈エックス・ブースター〉が生み出しているのは、おそらく〈ウィーウィルメック〉の為に生み出されたものだと思われる。
ほぼ間違いなく初めての実戦投入であり、実績などまったく無いであろう〈エックス・ブースター〉が生み出した得体の知れない物体は、いきなり受け取る〈ウィーウィルメック〉のクルーは……少なくともキャスリン艦長は、一体それが何なのかとても気になるだろうな……とケイジは思った
「アビー!? 〈じんりゅう〉が何をくれるですって?」
――同時刻・〈ウィーウィルメック〉バトル・ブリッジ――
キャスリンは艦長である自分を蚊帳の外にして、勝手に物事を理解している〈ウィーウィルメック〉のア
ただでさえIDNとかいうサティの親戚の謎生物が艦首に張り付き、艦が滅茶苦茶な運動をし始めて心臓が口から飛び出そうなのだ。
これ以上寿命を縮めないで欲しかった。
『ダ~イジョ~ブ艦長、プレゼントなんだから受け取っときましょうよ』
『もらえるモンはもらっとけば良いって!』
『ンだンだ!』
『楽しみだね~』
『ついにアレができたか!』
副長のジェンコ以下の〈ウィーウィルメック〉のホログラム姿のクルーが好き勝手なことを言って、キャスリンをますます不安にさせた。
彼女達もまた【ANESYS】の一部であり、アビーと同様、〈じんりゅう〉出現と同時に高速でデータをやり取りし、キャスリンよりもはるかに状況を把握しているはずであった。
だが、茶化してるように聞こえて、結果的に何も答えていないのは、実は彼女達も〈じんりゅう〉がよこすというお届け物が何か知らないからなのかもしれない……とキャスリンはクルーとの長い付き合いから思った。
『艦長、〈じんりゅう〉が送ってくれる物体は、〈太陽系の
詳細は受け取ってみないと分かりませんが、【
アビーがクルーに遅れてキャスリンの質問に答えた。
キャスリンはその答えに、新たな疑問が山ほど沸いたが一番気になったのは「受け取る……って、どうやって受け取れって?」ということであった。
だがその疑問の答えはすぐに訪れた。
巨大なドラゴンのシルエットとなった〈じんりゅう〉が、〈ウィーウィルメック〉の上方を速度差時速数十キロで後方から通過すると同時に、数体のIDNで包まれた平べったい物体が〈ウィーウィルメック〉に向かって降下してきたのだ。
物体の受け渡しは、不定形生命体であるIDNに任せるということらしい。
確かにIDNなら今の状況での受け渡しは可能であった。
肝心の〈じんりゅう〉が渡してきた物体は、〈ウィーウィルメック〉の主船体上部側のセンサーセイル先端、紙飛行機のような形状のセンサーモジュールに覆いかぶさって固定された。
そして物体を包んでいたIDNが離れ、〈ウィーウィルメック〉艦首で翼になっていたIDNに同化すると、キャスリン達は〈じんりゅう〉が渡してきた物体の姿を確認することができるようになった。
それはオリジナルUVDと同種の鏡のような表面をした、センサーモジュール用ににあつらえた王冠のような物体であった。
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