▼第九章『Tomorrow`s Affair』 ♯1
――メインべルト内・【
突然勝手に動き出した〈ジューズ・リング〉三機が連結し、直径100キロのリング状になったかと思うと、周囲が止める間もなくリング内に鏡面状の膜が張られ、それに〈昇電withエックス・ブースター〉が突っ込むと同時に膜が破られると、そこにはワープゲイトが形成されていた。
FTL航行(超光速移動)を可能とするゲイトだ。
それは突然ではあったが、SSDFにとっては予定されていたことでもあった。
〈昇電〉が通過した直後のFTL(超高速移動)ゲイトからは、まず猛烈なガスの噴出が確認された。
【
見方を変えれば、その現象はこの突然開いたワープゲイトが、【
だがその周囲でワープゲイト形成を待ちわびていたSSDF【
円形に形成されたワープゲイトの彼方で、グォイド大艦隊を前に途方に暮れている〈じんりゅう〉級三隻の後ろ姿が観測できたからだ。
その元へと、エックス・ブースター搭載の〈昇電〉が接近していたが、奇妙なことに、その接近速度は減速噴射をしているわけでもないのに急激に減じていた。
それが【
「まったく……ホン……ット~にまったくぅ~、あの人達ってば…………!
ホンッ……ットにいるんだもんなぁ……!!」
『良かったじゃないですかキルキル~、これもキルキルが仮想現実に行って、〈じんりゅう〉の動向を調べてきたからだよ~』
「う~む……」
散々疑われ続けてきたワープゲイトが見事開き、その彼方に〈じんりゅう〉級三隻の無事がついに確認されても、まだどこか不満そうなキルスティに対し、彼女の親友を自称するアビーは、慰めるようにVS‐806〈ウィーウィルメック〉から通信で声をかけてきた。
だが、キルスティの複雑な心中の全てを理解することはできなかったようだ。
――〈リグ=ヴェーダ〉
「直ちにカチコミ艦隊全艦突入せよ!」
指揮官席からテューラ司令の指示が飛ぶ。
キルスティは自席の肘掛けを握りしめ、加速Gと、未知なる空間【
【ヘリアデス計画】以降、【
そしてその試みは見事成功した。
キルスティは【
〈じんりゅう〉は、〈太陽系の
【
だがこの試みには大きな問題点が二つあった。
キルスティは仮想現実内でこの情報を得た瞬間から、この二つの問題点が解決などできるのか? と危惧していた。
一つは人類の最高意思決定機関である〈30人会議〉に、【
FTL航行(超光速移動)を可能とするワープゲイトは、42柱のオリジナルUVDを用いることではじめて可能となる……その事実を、人類は先の【ヘリアデス計画】の終盤で知った。
その【ヘリアデス計画】で、人類は100柱以上のオリジナルUVDの確保に成功したが、それでもオリジナルUVDは大変に貴重であり、対【
その内の約4割の使用を、12歳の少女であるキルスティ一人の報告だけで、人類の最高意思決定機関〈30人会議〉に認めさせることは、とうてい可能とはキルスティには考えられなかった。
キルスティ自身、無茶で無謀な作戦としか思えなかったのだから……。
もう一つは時間の問題だ。
仮に〈じんりゅう〉がワープゲイトの使用権を得て、【
オリジナルUVD42柱をワープゲイトにする為のデバイスだって必要なはずだ。
最悪、〈じんりゅう〉がワープゲイトを開けても何も向かわせられないどころか、グォイド艦隊を招き入れた上で閉じられることになりかねない。
だが、キルスティが不安を抱きながら〈太陽系の
『キルキルが仮想現実内で見聞きしたことは、私がSSDF総司令部戦略AIの〈メーティス〉さんと協力することで、あなたが眠りに入ってから三日ほどで同時進行で把握することが可能となっていたんですよ~』
つまりキルスティが入った仮想現実が、何故か約8年前の地球のSSDF立川基地を舞台にしていて、そこで製作された広報用アニメのイベント上映にスタッフとして付き合わされたことも、キルスティが目覚めるのを待つまでもなく、キルスティの目と耳を通じて、テューラ司令やノォバ・チーフや〈ウィーウィルメック〉のクルー達は知るところとなっていたのだという。
そんなのあり!? とはキルスティも思ったが、人類の有する最高性能のAI〈メーティス〉と、オリジナルUVD搭載艦〈ウィーウィルメック〉の
そして架空キャラのはずの立川アミ一曹の姿で、キルスティと同じ様に後から仮想現実内に入っていたケイジ一曹が、万が一の為に残しておいたメモリーデバイス内のデータを見ることで、〈じんりゅう〉の動向と、ワープゲイトを用いた〈じんりゅう〉級一行の目論みを知ったのと同時に、キルスティが目覚めて報告するまでもなく、テューラ司令達はワープゲイトを用いた【
その時点で超長距離・大質量加減速移送艦〈ヴァジュランダ〉とその姉妹艦〈アラドヴァル〉による【
効果が無いどころか、その直後に命中させた小惑星実体弾の3割が発射源に向かって撃ち返され、迎撃の為に【
つまり、どうやったのかは不明だが【
人類の代表にして最高意思決定機関である〈30人会議〉はここで大いに悩む事となる…………もっとも効果に期待していた作戦が失敗に終わったのだから。
残された【
いずれにせよ、これまでの文明を一度捨て去るレベルでの犠牲が必要な選択だ。
そこへ、キルスティ経由で知らされた〈じんりゅう〉級三隻の行っているワープゲイトを用いたプランが、テューラ司令により〈30人会議〉で提案された。
それはオリジナルUVDを42柱も使用するという点で、〈30人会議〉は大いに難色を示した。
が、SSDF総司令部戦略AI〈メーティス〉がこの計画を支持し、また〈ステイツ〉代表の〈30人会議〉メンバーも理由は不明だがこの計画の支持に回ったことから、あくまでプランCとしての実行許可がおりたのであった。
〈メーティス〉が指示したのは、それが彼女にとっての論理的帰結だからと考えられたが、なぜ〈30人会議〉の〈ステイツ〉代表が支持に回ったのかについては、キルスティにとってしばし謎であった。
だが後でアビーから聞いたところによれば、最新鋭〈じんりゅう〉級である〈ウィーウィルメック〉の特殊能力【
【
少なくともキルスティはそう理解した。
そして【
そして二つめの時間的問題の解決は、キルスティはもちろん、内太陽系の生きとし生けるもの全てを巻き込み、同時進行で勝手に解決していた。
【
〈じんりゅう〉級三隻が【
そのことは、同時に〈メーティス〉とアビーが知るところとなり、それは【
いったいどういう原理でそのような現象が起きているのか?
それは仮説の域を出ないが、【
そこから先は推測すら不可能になっていたが、なにしろ〈太陽系の
ともあれ、結果として【
そしてその事実は、【
結果として、ワープゲイトが開くまでに【カチコミ艦隊】の編制は間に合ったのだ。
だからといって、正確にいつ開くのかも定かではないワープゲイトを信じて、【
だが人類は賭けた。
総戦力比では勝つ可能性が微塵も無い以上、おそろしくギャンブリーな手段での勝利に賭けるしかないと腹をくくったのだ。
とはいえ、全ての戦力を【
【
ゆえに【
【カチコミ艦隊】参加艦艇は、帰還の見込みが非常に小さい【カチコミ作戦】の関係上、可能な限り無人艦艇を投入することで、SSDF航宙士の人命の損耗を抑え込む方針で決められていった。
まず【
これらの無人駆逐艦はそれぞれの〈じんりゅう〉級が自在にコントロールすることで、最大限の戦力を発揮するよう設計されている。
送り込めば、【
その他にも、無人運用可能な駆逐艦、巡洋艦、無人飛宙機が開き集められ、【カチコミ艦隊】に加えられた。
さらに内太陽系に残ったVS‐802〈じんりゅう〉艦載機〈昇電〉に、ノォバ・チーフが設計開発したオリジナルUVD4柱を搭載した〈じんりゅう〉用オプション装備エックス・ブースターを接続し、同艦正規艦載機パイロットであるクィンティルラとフォムフォムを乗せ、〈じんりゅう〉に送り届けることとした。
エックス・ブースターは〈じんりゅう〉がこれまでに行った【ANESYS】時に、〈太陽系の
それは〈じんりゅう〉に接続して初めて分かるであろうと推測され、今回の【カチコミ作戦】で送り込まれることが決まった。
この機会を逃せば、もう使用するチャンスなど訪れないはずだから……。
内太陽系に残った二隻の〈じんりゅう〉級航宙艦のうち、VS‐806〈ウィーウィルメック〉の投入も決まった。
これは同艦を建造した〈ステイツ〉が、人類最後の戦いになるかもしれない作戦で、勝利を得た場合の手柄を逃したくなかったからだとキルスティは邪推したが、〈ウィーウィルメック〉の参加がとても心強いことに変わりはなかった。
一応親友ということになっている同艦
〈ウィーウィルメック〉はこの人類の命運を賭けた戦いに、装備できるだけのオプションを張り付けて参加した。
両舷側にオプション実体弾投射砲〈サジタリアス〉、UVシールドコンバーター、さらに強化UVシールド無人防盾艦〈アケロン〉を二隻左右に接続し、さらに余った船殻にUV弾頭ミサイルランチャー・キャニスター、艦尾には液体燃料しきブースターまで搭載し、さながらハリネズミ状態で【カチコミ艦隊】に参加した。
驚いたのは、〈ステイツ〉が密かに建造していた無人量産型〈ウィーウィルメック〉級〈フュリヲン〉10隻の投入まで許可したことだ。
その姿はほとんど〈ウィーウィルメック〉と変わらないが、センサーセイル基部にメイン(目視観測用)ブリッジが存在せず、船体のカラーリングは〈ウィーウィルメックより淡い水色なのが〉外見上の違いだ。
勝手に事実上の〈じんりゅう〉級を量産していたことも驚愕だが、それをこの無茶無謀な【カチコミ】作戦へ投入するとは、キルスティにはすぐには信じ難いことであった。
しかも主機には【ヘリアデス計画】で回収し、〈ステイツ〉が獲得したオリジナルUVDが使われているという。
これらは他の〈じんりゅう〉がコントロールする無人駆逐艦と同じ様に、〈ウィーウィルメック〉がコントロールする無人艦として運用されることになっていた。
〈ステイツ〉はやることが派手というか大胆というか大雑把というか……キルスティは飽きれるしかなかった。
なぜ〈ステイツ〉はここまでするのか? その明確な理由をキルスティは知らされていなかったが、量産型〈ウィーウィルメック〉が〈フュリヲン〉と名付けられていることが、その答えの一端だと勝手に解釈していた。
我らがテューラ司令が座上するSSDF第八艦隊所属・高速戦闘指揮巡洋航宙艦〈リグ=ヴェーダ〉も、〈ウィーウィルメック〉と同様に、ノォバ・チーフによりハリネズミのごとく追加装備が施され、【カチコミ作戦】戦闘指揮旗艦として参戦した。
キルスティをはじめ、テューラ司令とその座上艦の参加に反対する人間は多々いたが、誰かが【カチコミ艦隊】の指揮官を務めねばならず、〈じんりゅう〉級の指揮を可能な人材など、太陽系にはテューラ司令をおいて他にはいなかった。
テューラ司令は、なんだかんだで第五次大規模侵攻迎撃戦以後の、グォイドによる人類が滅亡しかねない企みを打ち砕いて来た実績がある。
また、【カチコミ作戦】に投入されることとなった無人艦艇のコントロールには、強力な通信装置と指揮機能を備えた〈リグ=ヴェーダ〉の投入が最適と考えられたのであった。
だが〈リグ=ヴェーダ〉とテューラ司令が【カチコミ作戦】に直接参加することが決まった最大の理由は、そうすると決めたテューラ司令を止めるとができる人間など、誰もいなかったからだと考えるべきだろう。
そして最後に一隻、【カチコミ艦隊】には、切り札ともいえる艦の投入が決められた。
VS‐804〈ジュラント〉だ。
〈じんりゅう〉級4番艦にして、〈アライアンス〉が建造したこの艦は、艦首にまるでヒマワリのような巨大なUVシールド発生用ディフレクターを有しており、それによって戦闘宙域のただ中に安全なエリアを設け、僚艦の応急補修や補給を可能とすることが運用コンセプトとなっている艦である。
専用無人駆逐艦として、同じ様に艦首に大型UVシールド発生装置を有した無人駆逐艦〈ヘリアンサス〉を従えている。
戦場にいる航宙士にとって、救いの女神のような艦であった……はずであった。
その他の艦を救うことを前提とした〈ジュラント〉の姿を、キルスティが久しぶりに目にした時、彼女はその姿のあまりの変容に絶句した。
全長10キロほどもある、巨大な流線形の航宙艦を、その下部に接続した状態だったからだ。
【
ただその結果を目にしたキルスティには、改装と呼ぶにはいささか抵抗がある姿となっていた。
〈ジュラント〉改装を取り仕切った〈メーティス〉は、キルスティに対し詳細を明かしてはくれなかった。
が、伝えられた概要と、人づてに聞いた情報を総合すれば、来たるべき【
その恒星間航宙艦の名は〈アクシヲン二世〉。
〈じんりゅう〉が土星圏で救助し、マクガフィン恒星系への旅立ちを援護した〈アクシヲン三世〉の前に建造され、途中放置された恒星間移民船だと思われた。
人類のUVテクノロジーの発展期に建造が開始され、途中で巨大に設計し過ぎたことと、UVテクノロジーが進歩し過ぎたことから、新たに〈アクシヲン三世〉を建造することが決まった為、メインベルト内で完成度6割の状態で放置されていたらしい。
今、その〈アクシヲン二世〉の内部には、詰め込められるだけの武装が施され、【カチコミ作戦】において【
ただ、巨大過ぎる故に、回避運動についてはほぼ期待できない艦であったため、そのコントロール艦を兼ねてUVシールドによる防御に特化した〈ジュラント〉に白羽の矢が立てられたのだ。
〈ジュラントwithアクシヲン二世〉は、敵の攻撃を回避せず、迎撃かUVシールド防御のみで耐え凌ぎ、己に装備された武装を敵グォイドに叩き込むことをコンセプトとした艦となったのだ。
当時キルスティはまだ仮想現実内にいたが、【
そうして編成された【カチコミ艦隊】は、メインベルト内のとある【
三分割したのは、グォイド側の意思で開通され、こちら側にグォイド艦隊が現れないようにする為の配慮だ。
ワープゲイトがいったいいつ開くのかについては、〈メーティス〉や【
それでも当然正確な推測など不可能であったが、予兆は知ることができた。
【
リアルタイムで偵察艦隊が内太陽系に連絡を行うことは、発見されるリスクを伴ったが、すでに木星公転軌道の内側に【
【
そしてクィンティルラ大尉とフォムフォム中尉を乗せた状態で待機させていた〈昇電withエックス・ブースター〉が、勝手に発艦すると同時に、〈ジューズリング〉と名付けられたムカデ・グォイドのオリジナルUVD入りのボデイが勝手に連結し、ワープゲイトは開かれたのだ。
そして今、予想外の時間の歪みと、各勢力個々人の尽力と、単なる強運により、【カチコミ艦隊】は【
この時点での艦隊の損耗はゼロであり、それはワープゲイトを潜らねば到底考えられない数値であった。
「信じらんない………ホントにうまくいっちゃった…………」
キルスティは思わず呟いた。
あまりにも多くの要素が複雑怪奇にからみあった結果、なされた事象であった。
正直、神様の類の存在を疑ってしまうほどだ。
「まぁ……過程やら経緯はどうあれ、うまくいったんだから結構じゃないかキルスティよ。
私らは良いタイミングで、集まられる限りの戦力を【
――〈リグ=ヴェーダ〉内
指揮官席にかけたテューラ司令は、キルスティに対しそう言ってのけた。
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