▼第八章『Portals』 ♯4
歓声が静まるまでたっぷりと数分はかかり、キルスティはその時になって初めて、自分が何故か頬を濡らしながら、無心で拍手をし続けていたことに気づいた。
そして同時に、少し寂しい気分になった。
スタッフの一人と言うにはあまりにも短い時間であったが、艦長やクルーとしてではなく、アニメ製作の監督やスタッフである彼女達と過ごした時間を、今は名残惜しむ心境になっていたのだ。
そしてその成果と評価を今、
キルスティは間もなく自分がここにいる時間が終わることを悟っていた。
この仮想現実がゲームならば、エンディングはもう近い。
むしろ一刻も早くキルスティは現実世界に帰るべきであった。
キルスティが仮想現実でこなすべきタスクは、すでに全て終えてあると言っても良い。
ただ、ケイジ一曹が見守ることができなかったこの仮想現実の、彼女達に与えられた試験の顛末を、キルスティは見届ける為にまだここにいるようなものだった。
しかし、その結末も最後の最後まで見届ける必要はなさそうだった。
キルスティはケイジ一曹がメモリーデバイスで残した映像メッセージ内で、彼が寺浦課長に何を頼み、監督を辞めると言い出したユリノ艦長に何を行おうとしたかを知った時、少しばかり不安を覚えていた。
それは監督に対してというより、ユリノ艦長に対して、いささか刺激が強すぎる気がしたからだ。
だが、ケイジ一曹以上のアイディアは無く、すでに彼の目論見は寺浦課長によって実行に映され、今さらどうにかできることでもなかった。
ただ少し、本当に実現可能なのか疑わしかったが…………。
「はぁい!! 会場の皆さん! 盛大な拍手と声援をありがとうございます!
……というわけで『美少女航宙艦隊ヴィルギニースターズ』第一話! (パイロット版)をお送りいたしました!」
モーアクからMCモードとなったクィンティルラ大尉が、フォムフォム中尉と共に再びステージ上に飛び出しながら告げた。
「いやぁぁぁぁ……皆さん! 私達で作ったこの作品お楽しみいただけたでしょうか!?」
クィンティルラ大尉の問いかけに、盛大な歓声が答えた。
まさに立て板に水の如く、普段とはまったく違うキャラになりきってクィンティルラ大尉とフォムフォム中尉はMCを再開した。
アニメ上映は終わったが、イベントはまだ終わってはいないのだ。
「え~何を隠そう実は私達二人も、この作品のモーションアクターとして、製作に参加してきたスタッフの一人なんです!」
「ってうか、モーションアクター担当のアニメ製作のスタッフが、今このイベントで臨時でMCをやっている感じなんですけどねっ」
フォムフォム中尉が告げると、クィンティルラ大尉がおどけながら続けた。
「つまりですねぇ皆さん!
至極当たり前のことなんですが、私達がここにいるように、当基地勤務のこのアニメ製作スタッフもまた、当然ここにいて、皆さんと一緒に出来上がったばかりののこのアニメを見ていたわけなんですねっ」
「私達スタッフ一同は、こうして皆さんと一緒に完成したアニメを見ることができて、ここ数カ月間の苦労が浮かばれましたぁ……。
そこでそこで! ……なんですが~アニメの上映は終わってしまいましたが、これからこのイベントに残された少しの時間で、このアニメを製作した当基地所属のスタッフをステージに呼び、ちょっとした舞台挨拶的なコーナーを催したいと思います!
さっそく呼びましょう!
当基地が誇るアニメスタッフ陣です!」
そう言って手を広げ、二人のMCは舞台袖で待つ人間の心の準備など無視して、待機していたユリノ艦長達を招いた。
この期に及んでまだユリノ監督は最後の抵抗を試みていたが、サヲリ少佐とカオルコ少佐に背中を押され、無理やりステージに突き出されスポットライトを浴びると、次の瞬間それまでの怯えた姿がウソのようにシャッキリと背筋を伸ばし、優雅に観客に手を振りながらステージの中央まで歩み出た。
割と……というかかなり外面は良いお人なのだ。
それでも慣れないSSDF礼装姿だったせいか途中で転びかけ、舞台上に出る予定のないキルスティはヒヤリとした。
自分だったらこんな大勢の人間の前に出るなど、考えたくもない。
キルスティはたった半日にも満たないスタッフ歴で、舞台挨拶に出る資格は無いと固辞できたことを深く安堵した。
キルスティは危なっかしく舞台上に並んだスタッフ一同を見ながら、事態の進行を見守った。
問題はこの後だ。
ケイジ一曹は一カ月と少し前に、製作中だったのこのアニメを、基地祭で上映することを具申した。
もちろん出来上ったアニメを、より華々しく世間にデビューさせる為であり、寺浦課長もその案の有効性を認め、実現に至ったわけだ。
が、ケイジ一曹の狙いは、実はそれだけでは無かった。
「それでは早速、各スタッフに簡単に自己紹介と一言コメントをお願いしましょ~!」
クィンティルラ大尉が朗らかに告げると、フォムフォム中尉が一本のスティック状マイクをスタッフに渡し、各スタッフはユリノ監督に負けず劣らずに顔を真っ赤にしながら、観客席に向かって自分のセクションと簡単な苦労話の類やら見どころなどを語った。
なんともサディスティックなことに、コメントを語る順番はユリノ監督が最後ということになっていた。
だからユリノ監督は各スタッフのコメントと、それに対する観客のリアクションがある度に、顔を百面相にしながら自分の番を待つ羽目になっていた。
キルスティはそんなユリノ監督を可哀そうと思う一方で、舞台の上下(左右)で待機していたクィンティルラ大尉とフォムフォム中尉が、ふと耳に装着していた舞台監督からの指示を受けるインカムを手で押さえ、何かに驚いていることに気づいた。
「マジですか!?」と唇が動いているのが見えた気がしたのだ。
どうもインカムを通じて、予定外の……というより事前に聞かされていなかった指示を受けたらしい。
キルスティはその内容を知っていた。
そしてケイ一曹のアイディアを、寺浦課長が本当に実現させた……実現させることに成功したことを悟った。
はたして〈太陽系の
これが一種のゲームであるならば、ケイジ一曹はこの仮想現実のクリア条件が、アニメ製作を無事成功させることだと推測した。
まだ仮想現実に来て半日だがキルスティも同じ意見だ。
〈じんりゅう〉クルーに監督他のアニメ製作スタッフをやらせて、他に何をすれば良いというのか?
だが、同時にそれだけではないともケイジ一曹は考えていた。
仮にアニメ製作の成功がこの仮想現実の目的であったとしても、なぜそれななのかの意味が分からず、単純にアニメが無事出来上がれば良いと考えるのは危険だった。
そんな時に、ユリノ艦長が演じている監督が、第一話の製作を終えたところで、監督を辞すると言い出した。
理由は、この広報用のこのアニメを製作することで、SSDFに憧れて入隊してしまった若者たちを、グォイドとの戦いの死地へと送ってしまうことになるかもしれないからだ。
その重責にユリノ艦長演じる監督は耐えられなかったのだ。
無理もない話ではあるとキルスティも思った。
他の立場の人間ならばさておき、監督で脚本まで担当している人間ならば、耐えられなくなることもあるのだろう。
とはいえ、監督は第一話の製作まではやり遂げると言っているのだから、それで仕方がないと納得しても良かったはずであった。
だがケイジ一曹は違った。
なぜ違うと思ったのか、キルスティはケイジ一曹に訊きたいところだったが、それは不可能だった。
ともかく、ケイジ一曹はアニメ製作を成功させつつ、監督のアニメ監督辞退を撤回させることこそが、この仮想現実の真のクリア条件なのでは? と思ったらしい。
〈じんりゅう〉の艦長であるユリノ中佐が、アニメ製作の長たる監督を演じ、その彼女が自分の職務を辞退しようとしたことに、何か意味があると思ったのかもしれない。
そしてケイジ一曹は、監督を演じているのが他の誰でもないユリノ艦長だからこそ、彼女の意思を変えることができる……かもしれない術を思いついた……思いついてしまったのだ。
ユリノ監督のコメントの番がようやく回ってくると、彼女はスティック状マイクをその前に語ったサヲリ少佐から受け取り、両手でギュッと握りしめた。
充分待ち時間はあったので、少しくらいは何か語ることを考えてあるはずだった。
実際、ユリノ監督は持ったマイクを口元に持っていき、すうっと息を吸い込んだその瞬間までは、何を言うべきか考えてあったような表情をしていた。
だが、結局ユリノ監督はステージ前にあつまった大勢の観客と目が合った瞬間、何もしゃべることができなかった。
まるでその瞬間、心で暖めていた内容をスコンと忘れてしまったかのようだった。
ユリノ監督がその瞬間、何をどうしゃべろうと思っていたのかは分からない。
ただ何を思ったかは、言葉に出来ずとも観客やステージ上のスタッフにも、なんとなくは伝わった。
彼女の頬を大粒の涙が伝って、ステージの床へと落ちるのが見えたからだ。
彼女の涙は、スポットライトに照らされながら、それから幾度も幾度も流れ落ちていった。
「あの………わた…………私は…………こんな‥‥‥ご時世に…………こんな…………………………こんな……!!」
ユリノ監督は必死に何か言おうとしたが、肩を震わせるばかりで言葉を出すことができないでした。
慌てて、左右にいたサヲリ少佐をカオルコ少佐がユリノ監督の肩を抱き、背中をさすってあげると、他のスタッフも彼女を囲んだ。
きっとキルスティ以上に、サヲリ少佐やカオルコ少佐達にはユリノ監督の気持ちが分かったのだろう。
ユリノ監督はもう観客達の顔を見ることができず、ただ微かに「ゴメンなさい……」とだけ漏らした。
ユリノ監督は、今上映したアニメが、観客達にとって大好評であったからこそ、今余計に心がいたくなってしまったのかもしれない。
このアニメはあくまでSSDFの広報用に、新たな航宙士志望者を募る為に作られた作品だ。
つまりこのアニメの成功とは、新たな航宙士が増えるということであり、それは同時に、いつかまた必ず起きるグォイドとの戦闘に、このアニメが切っ掛けで航宙士となった少なくない数の人間を送り込み、そして死なせるかもしれないということでもあった。
ユリノ監督は、今ここにいいる観客の中に、将来今日の出来事が切っ掛けで死ぬことになる人間がいるかもしれない……と思ってしまったのだろう。
だから声を殺して「ごめんなさい」と謝ったのだ。
そこまで心配する必要も責任も、一アニメの監督ごときには無いのかもしれない。
だが彼女はそういう人間だった。
監督とはそういうポジションであったし、ユリノ艦長もそういうふうに思ってしまう人間だったのだ。
その気持ちが観客の人々にも伝わったのか、突然ホロホロと泣き出したユリノ監督を、観客達はただ見守っていてくれた。
「……監督…………あの監督? あなたのそのこの作品に対する言いつくせぬ思いは、ここにいる皆が分かっていると思います!」
フォムフォム中尉がMCを務めつつ恐る恐る話しかけた。
彼女には今なさねばならぬ使命があった。
フォムフォム中尉はステージの反対側にいるクィンティルラ大尉に目配せすると、クィンティルラ大尉がやや強引にMCを再開した。
「監督は誰よりも一生懸命に真剣に真摯にこのアニメを作りました。
それは間違いありません!
私やスタッフや、今、ここにる観客の皆さんがそれを保証します!
そして今、私達や観客の皆さん以外に、この出来立てホヤホヤのアニメを見て下さった特別ゲストが来ているんです!
…………来ているんですよ! 監督!」
「…………はい?」
ユリノ監督は、MCというよりあからさまにに自分に向けられたクィンティルラ大尉の言葉に、ようやく顔を上げてポカンとした。
「だ~か~ら! ゲストが来てるんですってば! 観客の皆さんにとっては監督がゲストみたいなもんですけど!
もっと凄い……めっちゃ凄いゲストが今、私が作ったアニメを見てくれていて、その感想をこれから言いに来てくれるんです!」
「…………」
ユリノ監督も、他のアニメ製作スタッフも観客達も、クィンティルラ大尉のほぼMCとは言えない個人的な突然の知らせに、そろってぽかんとした。
だがキルスティは知っていた。
そのゲストこそが、ケイジ一曹の発案により、寺浦課長により呼ばれた人間なのだ。
監督を辞するというユリノ監督の決意を、ケイジ一曹に覆すことなどできなかった。
キルスティにも他のスタッフも同じだ。
だが、ユリノ監督を思いとどまらせることができるかもしれない人物が…………この仮想現実のこの
キルスティは自分のいる袖幕とは反対側の袖幕の奥の暗闇から、その人物達がステージ上に歩み出るの瞬間に目を凝らした。
「ウソ……本当に来た…………」
事前に知っていたにも関わらず、キルスティは思わずそう呟いていた。
観客やステージ上のスタッフ達のリアクションも似たようなものだった。
思わず息を呑む音が重なってステージの周囲を包んだ。
それは彼女達にとって、まさしく
キルスティには、彼女と彼女率いる少女たちが、優雅に煌びやかに、スポットライトに照らされながら歩いて行く姿が、まるでスローモーションのように見えた。
そして彼女達がここへ現れたことが、夢でも幻でもないことを知らしめるファンファーレのごとく、ステージの両脇にスタンバっていたSSDF立川基地楽団による、アニメ『美少女航宙艦隊ヴィルギニースターズ』のメインテーマの演奏が華々しく始まった。
ミユミ音楽監督が作曲したものが、極秘裏にこの瞬間の為に手配されていたのだ。
その壮大かつ勇壮でメロディに、観客達はこれが夢では無く現実だと目覚めたかのように、再びまた大歓声をあげた。
それはユリノ監督にとってはもちろん、この時代のあらゆる人々にとって特別なゲストだったのだから。
キルスティは、ステージ上へと歩み出た彼女が、観客席に手を振りながらゆっくりと曲に合わせ、ユリノ監督の元にたどり着くと彼女をギュッとハグした瞬間、達成感と共に急に猛烈な睡魔を感じた。
これでもう大丈夫……そう確信できたからだろう。
ケイジ一曹演じるあみADが、急に眠りについたように、自分もまた
キルスティはどっこらしょと、座って眠るあみADの隣のパイプ椅子に腰かけると、あみADに寄りかかりながら目を閉じた。
最後にキルスティは、凄まじい歓声の中で、ユリノ監督が微かに「おねえちゃん……」と呟くのを聞いた気がした。
『あぁあああ~!! キルキルやっと起きた~!』
医療カプセル内で目覚めるなりアビーに抱き着かれ、キルスティは閉口した。
〈ウィーウィルメック〉のア
「アビー…………私……今すぐテューラ司令に報告しなくちゃ!!!! ……司令は今どこ? ……で、今はいつ? ここどこ?」
キルスティ自分でも驚くほど弱々しく上体を起こすと、猛烈な使命感と焦りを覚えながら尋ねた。
アビーは少し困った顔をすると、素直に答えた。
『キルキル……あなたが【ANESYS】で仮想現実に入ってから、すでに二週間が経過しました。
ここはメインベルト外縁、【
「………ふぁ?」
『SSDFは30人会議の決定通り、同宙域に結集したSSDF艦艇を用いて、【
が、同艦隊はおよそ一週間前に【
アビーの報告に、キルスティはしばし脳のリロード時間を必要とした。
だが、すぐに再起動を終えると、キルスティは自分のすべきことを思い出した。
「アビー今すぐテューラ司令に伝えて!
【
現在、【
今すぐ【
キルスティは必死に仮想現実で得た成果をアビーに訴えた。
色々ここで寝ていた間にも、事態は予想を超えて進行していたようだが、まずは一刻も早く仮想現実で得た【
キルスティが仮想現実に入った段階で、ユリノ艦長ほか全〈じんりゅう〉クルーも、なぜかアミADとして来ていたケイジ一曹も、全員が個人の記憶を忘れて仮想現実内でアニメ製作スタッフをやらされており、直接【
だが記憶を失う前のケイジ一曹が残したメモリーデバイスを受け取ることができた。
それは別にキルスティ宛に用意されたわけでは無かったのだが、その中にはケイジ一曹のメッセージだけでなく、ケイジ一曹が記憶を失う前のメモも兼ねて残された【
だから〈じんりゅう〉級三隻が【
キルスティはそれを知った時点であとは仮想現実を出れば良いだけだったのだが、意図して出ることができるものでもない為、ただ仮想現実内のアニメ上映イベントが終わるのを待っていたところ、こうして勝手に目覚めることができたのだ。
「ねえ……アビー? 聞いてた?」
キルスティは自分の必死の説明に対し、今一リアクションの薄いアビーに尋ねた。
『あの……ええ~っと……キルキル…………それがぁ』
アビーは気まずそうにキルスティに答えた。
ほぼ無重力状態でありながら大気のある空間を加速するが故の振動が、〈じんりゅう〉バトル・ブリッジを震わせる。
メイン・ビュワーの中で、無数の骨組みで六角柱状に構成された
遠方からの射撃で、確実に
だがそれは一切隠れる者が無い中空へとその身をさらすことでもあった。
それもこの敵地のど真ん中で……。
『皆さんの【ANESYS】可能時間節約の為、私がシミュレートしてみたところ、もっとも有力な戦術は、限界加速で【ジグラッツ】基部へ接近と同時に〈ファブニル〉の実体弾での砲撃が有効かと思われます。
〈じんりゅう〉級三隻は、攻撃後はそのまま加速して【ジグラッツ】基部を離脱、
〈じんりゅう〉と〈ナガラジャ〉は、その間の〈ファブニル〉護衛をお願いいたします』
『やっぱり敵は迎撃してくるかなぁ?』
『というか、多数のレギオン・グォイドの接近を観測しました。
我が方から見て二時方向、
アストリッド艦長の願望が込められた問いに、デリゲイトが無情に答えた。
レギオン・グォイドは【木星事変】で初めて確認された駆逐艦グォイドをさらに小型化したようなグォイド艦だ。
その性能はサイズに準じて全体的に低いが、生産性が良好な為、一度に多数現れてはSSDFを苦しめた。
今のケイジの感覚的には、大きなトゥルーパー・グォイドみたいなものであった。
それが虫の大群の如く、視界の右端、
『ISNの方々は、〈ファブニル〉〈ナガラジャ〉の操縦信号に合わせて艦を動かしますので、どうか操舵は普段通りに行ってください』
『普段は有大気無重力空間内なんて飛ばないわよぉ!』
サティの言葉に、アイシュワリア艦長が泣きごとめかせながら答えた。
〈ナガラジャ〉で今操舵桿を握っているのはアイシュワリア艦長なのだろう。
「エクスプリカ、レギオン・グォイドへの攻撃は任せた!
サティは操舵を任せる!」
『はいは~い!』
[了解シタ! デ、けいじヨ、オ前ハ何ヲスルノダ?]
「俺はお前たちの邪魔にならないようにしてるよ!」
〈じんりゅう〉バトル・ブリッジでは、ケイジがたった三名で動かさねばならなくなった〈じんりゅう〉の担当を決めていた。
ケイジは自分の出来る出来ないについての実力をよく把握していた。
戦闘中は自分はあまり役に立たない……と。
『間もなくレギオン・グォイドが射程圏内に入ります。
向こうは我々の目論見を正確に把握しているようですね。
レギオン・グォイドは我々と
『じゃ、ちゃっちゃと撃たないとな! アイシュワリア! ケイジ一曹! 攻撃はじめ!』
デリゲイトの報告に、アストリッド艦長が叫んだ。
ケイジはすぐさまエクスプリカに向かって「やれ!」と告げると、〈ナガラジャ〉と同時に〈じんりゅう〉もUVキャノンや対宙レーザーを撃ちまくった。
レギオン・グォイドの防御力は低レベルなので、有大気内により威力が減衰されたUVキャノンやレーザーであっても、多数のレギオン・グォイドが沈められていく。
だが、沈めても沈めても、新たなレギオン・グォイドが
『間もなく有大気内での〈ファブニル〉艦首実体弾の射程に入ります。
アストリッド艦長、どうぞ!』
『…………』
アストリッド艦長はデリゲイトの報告に、無言で〈ファブニル〉艦首実体弾を放った。
海中でさえ【ジグラッツ】下端のUVシールドを貫徹する〈ファブニル〉の艦首実体弾は、容易く〈ジグラッツ〉基部を守っているであろうUVシールドを貫くはずであった。
が、放った実体弾体は【ジグラッツ】基部に多重に展開されたUVシールドによってその速度を奪われ、貫く前に完全停止すると、力なく弾かれて漂っていった。
『なにぃ!?』
アストリッド艦長の素っ頓狂な驚きの声。
『グォイドは我々が【ジグラッツ】基部を狙い、破壊されたらどうなるかを良く理解して、守りを固めたようですね』
『感心してる場合か!?』
デリゲイトの推測に、さすがに焦ったアストリッド艦長が怒鳴った。
接近しながらの砲撃であったが故に、再砲撃のチャンスはもう幾度もなく、通り過ぎてしまえば再チャンスは無い。
だが……、
『大丈夫! 任せて下さいアストリッド姉さま! 実体弾の再射撃準備を!』
アイシュワリア艦長がそう叫ぶなり、〈ナガラジャ〉が〈じんりゅう〉〈ファブニル〉の前に出るとさらに加速し、【ジグラッツ】基部へと向かって突っ込んだ。
そして……
『ユゥ~ブイィ~……リィ~ムァ~……発射ァッ!』
アイシュワリア艦長が必殺技のごとく叫ぶなり、〈ナガラジャ〉艦首に装備され、【ジグラッツ】下端からの侵入口を開けるのに使われた〈UVリーマー〉ユニットが、巨大なエンピツ状に形成されたUVシールドを展開しつつパージされると、【ジグラッツ】基部
へと加速した〈ナガラジャ〉の慣性で突っ込んだ。
そして【ジグラッツ】基部を守る多重UVシールドに突き刺さったところで静止した。
『今!』
アイシュワリア艦長が伝えるまでもなく、〈ファブニル〉は艦首実体弾を放っていた。
三点バーストで放たれた実体弾は、円盤状の〈UVリーマー〉ユニットの真ん中を貫通すると同時に、【ジグラッツ】基部を守る多重UVシールドを通り過ぎ、【ジグラッツ】基部に突き刺さると、遅延信管により大爆発した。
〈UVリーマー〉が目標を守る多重UVシールドを貫くパイプ代わりとなったのだ。
しかし、たった三発の実体弾の爆発だけでは【ジグラッツ】の基部を完全に破壊することは叶わなかった。
だが、それで充分だった。
【ジグラッツ】基部のUVシールド発生機能を破壊できたからだ。
「エクスプリカ! 撃ちまくれ!」
ケイジは機を見逃さなかった。
〈ナガラジャ〉と共に、虎の子のUV弾頭ミサイルをはじめ、前方UVキャノン全門を【ジグラッツ】基部へと叩きこむ。
無数の爆発光が【ジグラッツ】基部を包む。
それでも基部故に下端の倍の直径がある【ジグラッツ】基部は原型をとどめて居た。
〈じんりゅう〉級三隻は結局【ジグラッツ】基部の完全破壊を見届けることができないまま、目標のそばを通過するしかなかった。
『ダメだったかなぁ?』
『いえ、充分だったかと』
アストリッド艦長の問いに、デリゲイトが簡潔に答えた。
確かに〈じんりゅう〉級三隻の全力攻撃だけでは【ジグラッツ】基部の完全破壊は果たせなかった。
だが【ジグラッツ】基部への攻撃はある意味継続されていた。
【
で、大気を震わせて【ジグラッツ】の基部が破断した。
それは天体規模のカタストロフであった。
全長5000キロの柱が、遠心重力により【
急に|消え去った【ジグラッツ】一柱分の重量により、他の【ジグラッツ】と共に
結果、
無数の小爆発と、新たに巻き起こる銀のガス雲に覆われ、そのカタストロフの全てを観測することは出来なかった。
だが大気中ゆえに艦を揺さぶるようにして響く金属の嵐と、ガス雲の向こうで巻き起こる無数のUV爆発光が、
『yeah!』
アストリッド艦長をはじめ、各艦各クルーと、サティとIDNが艦を震わせて歓声をあげた。
ケイジも思わず小さくガッツポーズした。
たった三隻でこれだけのダメージを与えられたことは大戦果と言っても良い。
あとはこのまま【
『皆さん、前方に多数の艦影を確認しました』
だが、ただ一人冷静に状況を見続けてたデリゲイトが告げた。
ケイジは最初、デリゲイト告げた言葉の意味を、正確に理解することができなかった。
理解したくなかったというのが正解だろう。
だがそれは、
ケイジは最初、【
だがそれは願望が見せた幻だった。
それもこれまでのグォイド大規模侵攻どころか、【グォイド増援光点群】に匹敵する規模の大艦隊が、〈じんりゅう〉級一行を待ち受けているのだ。
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