▼第八章『Portals』 ♯1


 無数の小惑星と、敵味方両勢力の残骸が浮かぶ中、満身創痍となった一隻の航宙艦が、最後の攻撃に出ようとしていた。

 全ての武装を使いつくした〈びゃくりゅう〉が、最後の武器、船体そのものを実体弾代わりにして敵艦に叩きつける手段を実行しようとしていたのだ。

 もちろん実行すればクルーは生きては帰れない……だがここで野良グォイドに敗北すれば、メインベルト内に対グォイド用バリケードである小惑星密集エリア【集団クラスター】を設けた超長距離・大質量加減速移送艦〈ヴァジュランダ〉が破壊され、さらに同艦に搭載されたオリジナルUVDが奪取されてしまう。

 それが現実となれば、グォイドに対する人類敗北の切っ掛けになりかねない。

 だから〈びゃくりゅう〉艦長であるレイカは決断していた。


「みんな……ごめんね……」


 CGキャラではないフィニィ少佐(キャラ監督)渾身の作画でレイカ艦長がアップとなり、そうクルー達に告げると、イベント会場にあつまった観客達から鼻をすする音が聞こえた。

 そしてミユミ少尉(音楽監督)作曲の悲壮なBGMが流れるのと同時に、〈びゃくりゅう〉が死闘の末に最後の一隻となった野良グォイドにむかって、体当たりすべくゆっくりと加速を開始する。




 この時代に生きる人間ならば誰もが感じていたことだった。

 “仕方がない”ことなんだ……と。

 グォイドという宇宙規模の巨大なうねりの前に、人類の力など無力に等しく、人類は少しでも滅亡の時を先延ばしする為に、ありとあらゆるものを諦めていかねばならない……今はそんな時代だ……誰もが心のどこかで分かっていたことだった。

 愛する家族を守る為、故郷の人々を守る為、より多くの命を救うために、最小限の命を費やすのは仕方がないことなんだ……と、見ていた誰もがそう納得しようとしていた。

 それはきっとグォイドの巣食う宇宙に限ったことではない、時間という不可逆な流れの中で、人生と歴史を重ねるかぎりは不可避なさだめなのだ。

 宇宙で芽生えた生命が、栄えることもあれば滅びることもある……良いことも悪いことも起きる……が、いずれ必ずエントロピーの熱力学的な終息を迎える宿命を受け入れるしかないのだ……。

 だがしかし…………。






『お姉ちゃ~ん!!』





 〈びゃくりゅう〉の加速が始まったまさにその時、レイカ艦長が聞こえるはずがない妹の声にハッ顔を上げると、〈びゃくりゅう〉の後方から一筋のUVキャノンの光の柱が閃いた。

 と同時に、それまで流れていた悲壮なBGMがシームレスで勇壮かつ壮大で希望を訴えるようなハイテンポのメロディに変わると、〈びゃくりゅう〉のすぐ隣を、まるでシュモクザメのような艦首、白鳥のような白い船体をした美しい航宙艦が追い越した。。

 その瞬間、わずかに映像がスローモーションになり、船体に記された艦名が大写しになる。

 そのシーンを、キルスティはすでに見たことがあるはずなのにも関わらず、その瞬間を、彼女は観客達と同じ様に潤んだ瞳で見つめていた。

 この瞬間、このシーンを見たことを……見た時感じた気持ちを、ずっと忘れないように……この先の人生で傷つき、倒れ、くじけそうになった時、何度でも思い出せるように。

 と、その時であった。

 アニメ上映真っ最中の……それもクライマックスになったこの瞬間に、ゆらりとへたり込んんだあみADがキルスティにしなだれかかり、キルスティは思わず悲鳴を堪えた。

 そして後ろから覆いかぶさってくるあみADを、大慌てで振り返って必死に抱えて耐えた。

 幸いすぐに舞台袖で待機していた監督以下のスタッフが気づいて、大慌てであみADを手近なパイプ椅子に降ろしてくれた。 

 キルスティは腰を抜かすほど驚いたが、あみADのこの事態に、心当たりが無いわけでも無かった。

 例のメモリーデバイスに残された映像メッセージによれば、あみADの“中身”たるケイジ一曹は、相当な無理をしてこっち・・・に来ていることになる。

 男子にも関わらず【ANESYS】の真似事をしたが故に、脳に相当な負荷がかかっているのだ。

 その為の負荷が限界に達したらどうなるか、分からないとも言っていた。

 だからキルスティは、一瞬最悪の事態を想像した。

 想像していたパターンは二つ。

 一つはケイジ一曹の脳の限界と共に、あみADの姿がこの世界からパッと消えるパターン。

 もう一つは、生命としてこの世界から消えるパターン…………であったのだが…………パイプ椅子に座らせられたあみADは、それはとても安らかな顔で寝ているだけだった。

 絵コンテ演出が思わず笑い声を上げそうになり、口を手で押さえる程に、とても満足そうな微笑みを浮かべながら、あみADはこのタイミング眠っていただけだった。

 はたしてあみADは、単に疲れて眠っているだけなのか?

 それとも中にいるケイジ一曹がここ・・から現実世界に帰っていったのか?

 キルスティは気になるところであったが、今の時点では確認のしようが無かった。

 キルスティとしては、あみADの中のケイジ一曹が、記憶が消える前に、このアニメ上映が終了した直後に仕掛けたというもう一つの事案に対して、自分一人で立ち会わねばならないのかと不安になったのだが……。

 よく考えてみれば、仮にあみADの中にケイジ一曹がいても、自分がケイジ一曹である記憶がないあみADと、中にケイジ一曹がいないあみADに違いがあるとも思えず、状況に変化など無かった。

 考えるだけムダである。

 そんなキルスティの一瞬の思考を、観客の歓声が打ち消した。

 スクリーンに投影された映像内で、野良グォイドにスマートアンカーを打ち込んだ〈じんりゅう〉が、当該艦を強制停止させると同時に自艦も減速、UVキャノンをこれでもかと連続して叩き込み、撃滅したのだ。

 メカ監督と背景演出渾身のエフェクトと破壊描写が冴えわたる。

 屋外上映会ならではのリミッターの解除された観客の歓声が、袖膜の中までも震わせた。

 キルスティはその歓声が、少しばかり度を越している気がして、思わず袖幕から観客を覗き見た。

 確かに基地祭りにもこのアニメのイベント上映にも、老若男女、国籍問わず大勢の観客が訪れてはいたが、聞こえてくる歓声は、目測での観客数を上回るように思えたのだ。

 そして奇妙なことに、歓声は観客からだけでなく、その周囲……観客の左右や空のもっと遠くから響いているような気がした。

 まるで見えない何かが、観客のさらに後ろからこのアニメを覗き見て『YEAH!』と興奮してでもいたかのように…………。
















「なぁ……何か……聞こえてこないか!?」


 ――〈ファブニル〉バトル・ブリッジ内――


 突然のアストリッドの問いに対し、ブリッジ内のクルー達はぽかんとした顔を返した。

 そして今忙しいんで、アホなこと言って邪魔しないで下さいと言外に表情で訴えた。

 通信士が繰り返し、落下した〈じんりゅう〉とサティに呼びかけているが、返事がきたという報告は来ていない。

 だがアストリッドは確かに聞こえた気がしたのだ。

 大勢から発せられる『YEAH~!!』という熱狂的な歓声のような響きを、それは幻聴では無かった。






 〈じんりゅう〉を追いかけたいという衝動を辛うじてこらえた〈ファブニル〉と〈ナガラジャ〉であったが、〈じんりゅう〉の安否を気にかけている場合ではなかった。

 無数の巨大実体弾が火の玉となって通過する最中、落下する破壊された【ジグラッツ】の破片と、その内部からあふれ出した大量の海水、それらを潜り抜けながら、ようやく【インナーオーシャン】に向かって落下していた慣性を、オリジナルUVD由来の推力で無理矢理相殺し、ゆっくりと上昇に転じた時だった。

 黒く蠢く無数の塵が、眼下から高速で昇っきたかと思うと、〈ファブニル〉と〈ナガラジャ〉はたちまちそれ包まれ、集中攻撃を受ける羽目になったのだ。

 コウモリ・グォイドの大群だった。

 最初のUV弾頭ミサイル攻撃は全て迎撃に成功したものの、コウモリ・グォイドは今度は自身を実体弾とした体当たり攻撃を敢行してきた。

 バトイディアの異星文明技術でアップデートされたことで、防御力を格段に向上させていた〈ファブニル〉と〈ナガラジャ〉は、辛うじて攻撃に耐えながら迎撃を続けていた。

 が、コウモリ・グォイドは〈ファブニル〉〈ナガラジャ〉二隻の上昇速度をはるかに上回り、群を振り切ることは不可能であった。

 かといって全てのコウモリ・グォイドを迎撃するまで、彼のグォイドの体当たり攻撃を耐え続けるには、コウモリ・グォイドの数はあまりに多すぎた。

 新たな対応策の速やかな実行が必要であった。

 ……が、結論からいえば〈ファブニル〉と〈ナガラジャ〉は何もする必要は無かった。










 微かに……だが確かに聞こえてくる大勢の何者かによる歓声のような響きは、やがてゴゴゴゴという振動音となり、通信機を通してではなく、〈ファブニル〉の外の大気を震わせることで、直接バトル・ブリッジ内に響き始めた。

 アストリッドが「な? 聞こえるだろ?」という顔をすると、クルー達は閉口した。

 その直後、



『み…………なさぁぁああああああああああああんんんん!』



 ブリッジ内スピーカーからあまりにやかましいサティの声が響き、アストリッド達クルーは思わず両手で耳を塞いだ。

 そしてそのほぼ同時に、まだ数百キロの眼下にある銀色の雲海が突然大爆発したかのように盛り上がると、半球状に膨れた雲を、波しぶきのように盛大にぶちまけながら、巨大な何かが上昇して来るのが後方ビュワーの彼方に見えた。

 それは上昇して来ることを待ちわびていた〈じんりゅう〉より、数十倍のサイズがあった。

 そんな物体が〈ファブニル〉〈ナガラジャ〉に向かって猛烈な振動と共に上昇してくるのを見て、アストリッドは本能的恐怖を感じずにはいられなかった。


『みなさぁああああぁあん! 今行きますからねええええええええぇぇ!』


 明らかにその巨大物体から聞こえてくるサティの声に、アストリッドは訳が分からなかった。

 が、なんとなくサティのすることだから……とすぐに納得しておいた。


「艦長、下方より接近中の巨大物体内に〈じんりゅう〉を確認! エクスプリカより健在ナリとの報告!」


 通信士からの報告。

 その間も〈じんりゅう〉を内包しているらしい巨大物体は、そのサイズに見合わぬおそろしい程の上昇速度で、コウモリ・グォイド群と戦う〈ファブニル〉〈ナガラジャ〉の方へと向かってきていた。

 ありにも巨大故に、目測だと上昇速度がゆっくりに見えるが、計器によればその上昇速度は時速千キロ単位であった。

 サティとIDN達が、落下する〈じんりゅう〉を追いかけて雲の下へと消えた経緯から考えて、雲の下で何があったかは分からないが、それはおそらくサティとIDN達が合体した姿なのだろう。

 それは〈じんりゅう〉を先端にして、青みがかかった半透明のゼリーが、巨大な鳥か竜の類のような形を形成していた。

 ただ気のせいか……鳥か竜とに似てるとはいっても、そのシルエットはどこか丸みを帯びていて、若干ぷっくりしているような気がした。

 バトイディアに比べればはるかに小さかったが、〈じんりゅう〉と比べたならば十数倍のサイズとなったそれが、いったいどういう理屈で急上昇してるのかまではまだ分からないが、それよりもアストリッドはまず気になることがあった。


『あああ……おい、コラちょっとサティぃ?』

「あの…………あのぁさサティ…………コース近くない? …………!!!」


 同じ光景を見ていた〈ナガラジャ〉のアイシュワリア艦長に続き、アストリッドが遠慮がちに訴えるころには、〈じんりゅう〉を含んだ巨大な塊は回避不可能距離まで接近していた。

 そして……


「うひゃぁぁっ!」


 その巨大な塊は〈ファブニル〉と〈ナガラジャ〉のごく近距離を通過していった。

 そして大気がある空間を、巨大物体が超高速で通過したがゆえに生じる衝撃波を、二隻の周囲に群がっていたコウモリ・グォイドに叩きつけた。

 二隻の〈じんりゅう〉級よりもはるかに軽量で脆いコウモリ・グォイドは、巨大物体の衝撃波によって一瞬でへし折られ、あるいは互いに衝突し、一機に残らず空の藻屑となって散っていった。

 コウモリ・グォイドの脅威は一瞬にして排除されたのだ。


『ああ~皆さんご無事ですかぁ……少々乱暴ですが、このまま上昇してしまうのでついてきてくださいね!』


 またサティが説明の足りないことを言ってきたが、それに対しアストリッドはが訊き返す間もなく、突然〈ファブニル〉が急加速を開始した。

 それは加速と言うよりも、何かに背後から激突されたとでもいうべき乱暴な急Gであった。

 いったい何が起きたのかは、すぐに分かった、メインビュワーの彼方で、巨大物体から伸びる細い触腕が、〈ファブニル〉とその隣の〈ナガラジャ〉をひっつかんでいたからだ。

 その細い触腕はゴム紐のように伸び切ったところで、上昇エネルギーを〈ファブニル〉と〈ナガラジャ〉に伝達し、両艦を思い切り引っ張り上げはじめたのだ。

 これまで〈じんりゅう〉を曳航する側だった〈ファブニル〉と〈ナガラジャ〉が、一瞬にして立場が逆転してしまったのだ。


「……お礼を言うべきなんでしょうけどネ!」


 アストリッドは色んな感情がごちゃ混ぜになり、それだけぼやくだけで精一杯であった。

 ともかく〈じんりゅう〉は無事にサティとIDNが救出したようだ。

 だがそれはそれとして、アストリッドは訊くべきことが山ほどある気がした。


「艦長! 触腕を伝ってIDNが本艦に纏わりつきはじめています!」


 副長が悲鳴になる半歩手前の声音で報告した。

 その現象は外景ビュワーに映る〈ファブニル〉の隣の〈ナガラジャ〉でも起きていた。

 〈ナガラジャ〉艦首に巻き付いた、サティのなのかIDNのなのか判然としない触腕が、ビクンビクンと蠢きながらその先端からスライム状となったIDNを送り込み、〈ナガラジャ〉の船体下面から後方にかけて凝集しつつあったのだ。

 それと同じ子ことが〈ファブニル〉でも起きているのだろう。


『アストリッド艦長! アイシュワリア艦長! 〈じんりゅう〉と同じ要領で〈ファブニル〉と〈ナガラジャ〉も急上昇させますね!』


 サティが簡潔すぎる事後承諾を行う中、〈ファブニル〉と〈ナガラジャ〉もまた、船体に纏わりついたIDNが変形することで〈じんりゅう〉と同じ様に巨大な翼竜か鳥のようなシルエットへとなっていた。

 ただしそのサイズは〈じんりゅう〉よりも大分小さかった。

 〈じんりゅう〉と違い、主機オリジナルUVDが快調に稼働中なためだと思われる。

 翼の下には円筒状の物体が多数あり、それがいわゆるジェットエンジンの機能は発揮し、〈じんりゅう〉をここまで上昇させてきららしい。

 ただ、ID達により鳥か竜のようなシルエットになった〈ファブニル〉〈ナガラジャ〉も、美しいというよりは、どこかまるまっちいぷっくりとしたフォルムとなっていた。


 ――……いや見た目は二の字で良いんだけどね……――


 アストリッドは一瞬そんなことを思ったが、すぐに後悔した。

 

『みなさん、カウントスリーで点火します。急加速に備えて下さい』


 またサティが問答無用でそう告げたことを、急加速って、まだ加速するの? と脳が理解する頃にはサティのカウントはゼロを迎えていた。

 そしてアストリッドは、〈じんりゅう〉や〈ファブニル〉〈ナガラジャ〉を包み竜や鳥の姿となったものが、なぜ微妙にぷっくりしているのかを知った。

 背中をシートで叩きつけられたような急加速が始まると同時に、前方を行く〈じんりゅう〉の竜もどきの後部から、もうもうたる白煙が伸び始めたのだ。

 より正確に言えば、その白煙は巨大な翼に吊るされたジェットエンジンのもどきの後部から噴射されていた。

 それと同じことが〈ファブニル〉〈ナガラジャ〉の後方でも起きているはずであった。


『皆さま、説明が遅れてすいません』


 IDN達が内包する異星人造UVDに混じり、異星コンピュータのクラウド化したデリゲイトが告げた。

 IDNと一体となってるデリゲイトもまた、サティやIDNと行動を共にしていたのであった。


『〈じんりゅう〉のエクスプリカが、事態の緊急性からケイジ一曹を起こし、この状況下での急上昇手段を尋ねた結果なのです。

 ケイジ一曹はIDNで翼を作り、この空間にある大気を利用した上昇プランを提唱しました。

 そして海面近くと銀の雲からH20を収集し、電気分解で酸素と水素に分けたのち、後方に噴射して点火したらとおっしゃったのです』

「ロケットか! ……てかケイジ少年目覚めたのぉ!?」


 UVテクノロジーが無かったはるか昔の時代は、人類は水素と酸素を主剤とした燃料燃焼式ロケットで地球から宇宙に飛び立ったという。

 ケイジ少年は、【インナーオーシャン】に豊富に存在するそのH2Oを用いた推進方法を思いついたのだ。

 竜を模したような〈じんりゅう〉や〈ファブニル〉〈ナガラジャ〉をIDNが包んだ姿が、どこかまるまっちくぷっくりしていたのは、大量の水(H2O)を体内に取り込んだ結果だったのだ。

 向こう・・・の世界から無理矢理こっちに戻されたケイジ少年は、目覚めるなりいきなり無茶ぶりされて、こんな手段を考えさせられたらしい。


「それでケイジ少年は無事なの? 頭とか大丈夫?」


 あまりオブラートに包まないアストリッドの問いに対し、ブリッジのビュワーの一つに〈じんりゅう〉からの艦内映像が届いた。

 画面の中では、〈じんりゅう〉バトル・ブリッジ内機関コントロール席にかけたケイジ一曹が、恐ろしく真っ青な顔で弱々しく腕を上げサムズアップしていた。

 とりあえず生きてはいるが、元気とはいかないらしい。

 ともあれ〈じんりゅう〉級三隻とサティとIDN一行は、なんとか【インナーオーシャン】を飛び立ち、目的地である【ガス状巡礼天体ガスグリム】中心部到達への目途がついたのだ。

 アストリッドは、ケイジ少年の顔色が悪いのが、向こう・・・から叩き起こされた結果なのか、今の一連の無茶な機動で、〈じんりゅう〉艦内でシェイクされたからなのか判断がつかなかった。

 ただ、早急に向こう・・・での首尾を訊く必要があるとは思っていた。

 ユリノ達と会えたのか? プランAは上手く行きそうなのか? と。


 

















 映像内では、無事野良グォイドを殲滅した〈じんりゅう〉に、〈びゃくりゅう〉からレイカ艦長以下のクルーが乗り移っていた。

 まだあまり世間では知られていない最新鋭艦〈じんりゅう〉の艦内の風景に、乗り移ったレイカ艦長達と同様に観客たちも驚嘆する。

 そして深く傷ついた〈びゃくりゅう〉に別れを告げ、新たなる我が家となった〈じんりゅう〉艦長席にレイカ艦長が座ると、決意を新たにするのであった。


「……私達の戦いはまだはじまったばかりだ。

 これからもグォイドとの厳しい戦いは続くのでしょう……でも勝ち目の無い戦いなんてない! 勝算ゼロだなんて信じない!」


 レイカ艦長がそう高らかに宣言するのに合わせ、キルスティが来る前にスタッフ一同でレコーディングしたのだという、このアニメの主題歌のイントロが流れ、同時にOP映像と共にスタッフロールが始まった。

 第一話の最後には、ED曲ではなくOP曲をもってくることにしたのだ。

 第二話から冒頭に流れるはずのOP映像の中で、レイカ艦長以下の各キャラクターが次々と紹介されてゆき、これからの物語を予感させる映像がハイテンポで流れてゆく。

 アニメ上映は、間もなく終わりの時を迎えようとしていた。

 キルスティの背後では、いよいよ迫ってきた舞台挨拶の瞬間に、監督が最後の逃走を試みていたが、制作進行(サヲリ副長)と絵コンテ・演出(カオルコ少佐)にガッチリと両脇をホールドされて阻止されていた。

 監督的には、無理矢理ひねり出したOP曲の歌詞が恥ずかしくて死にそうなのもあるらしい。

 だが観客達のこのアニメの評価は、キルスティ的には確かめるまでもなかった。

 作った人間達からしてみれば、いろいろ不安な点も多々あったのかもしれないが、監督達スタッフがこのアニメに込めた思いは通じたに違い……そう信じたかった。

 答えは、OP曲が終わったあとの僅かな沈黙からの盛大な拍手と声援が教えてくれた。

 そして、ケイジ一曹が仕込んだ最後の企みが始まろうとしていた。



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