第41話 事件の頁

「おーい?レシカ〜?出てこいよ〜?ずっとそんなとこいるとくたばるぞ〜?」


バルトが扉の向こう側に向かってひたすら声掛けとノックを繰り返すのを、テオとリルは心配そうに眺めていた。


扉の向こうの住人は、テオが気配を感じられたため生きているのだけは何とか判っていたが、返事をするどころか、部屋を出る気配すらなかった。


✽✽✽


事は一時間前からの話である。


「テオさん!バルトさん!大変なんです!!」


いつも通り屋敷に来た男二人を、光の勢いで迎えに来たのはリルだった。


「おいおい、一体何だ〜?まさかゴキブリでも出たっていうんじゃあねぇだろうなぁ?」


からかいを大いに含めた言葉を放つバルトに、普段なら文句の一つも言っているところだが、リルはそんな事を言っている場合じゃないと必死に抑えた。


「そんな軽いことじゃありません!!!レシカさんが部屋から出てこないんです!!何かにドアが抑えられてて中も確認できませんし…」


「ほうほう、つまりあれか、飯作れるやつがいないから腹減ってどうしようもねぇってことか」


大して気にもしないと言った風に流そうとしたバルトだったが、次のリルの発言で顔色を変えた。


「こっちは大真面目なんです!!!!物音がしないんです!!安否不明なんです!!!」


「えぇえ?!!」


テオがリルに反応している間に、行動の早いバルトは急いでレシカの部屋に向かった。


二人が後ろから追いかけてきた時、バルトは耳を扉に隙間なくくっつけていた。


「……なるほどねぇ、確かに、物音一つしやしない。」


「でも、大丈夫。レシカはいるみたいだし、ちゃんと生きてるから」


「お前、何でそんなの判る――なるほどねぇ」


普段、若草色の瞳をしている少年は、今はその空にも似た青い瞳を、扉の向こうを覗くように一点に向けていた。


「…まぁ無事が解ったのはいいけどよぉ〜?おーい?レシカ〜?」


 ←バルトはドアをノックするが、気配が動く様子はテオには見られなかった。


「…青いなぁ………」


「青い?とは?」


テオの呟きにリルは即座に反応した。


「オーラの色だよ。普段から青いとは思ってたけど……」


感情の読み取りを試みたテオの目には、青い煙がドアの前を取り巻いているように見えていた。


青は青でも色が濃すぎて黒に近い。


それに、本来なら人の周りにしか漂うことがないこの煙が、広範囲に広がっているのも珍しい。


――ここまでオーラが広がるのは、SOSってことなはずなんだけど……


はっきり言って、これでは助けるどころか会うことすら困難の極みを尽くしそうだった。


✽✽✽


そして今に至る。


「なぁ〜?そろそろ俺、手が痛ぇから返事してくんねーか〜?」


ずっとノックし続けているせいでバルトの手の一部は赤くなっていた。


あんな口調だが、彼女のことをかなり気にしているということは容易に想像がついた。


「…駄目だこりゃ」


とうとうレシカが何かしらの反応を示すことは無かった。


「お前、何か知らねぇのか?きっかけ的なの」


「全然思い当たりません…強いて言うならあの石が見つからなかったとか………?」


「んー、いくら大切なものでもレシカがそれだけの理由でこうなるとは思えないんだけどなぁ…」


「おいおい、大切なやつから貰った物を無くすのって、結構辛いもんだぜ〜?」


「大切なやつ…?」


「あれはあいつの姉からの贈り物なのさ」


色々話しあったが、結論としてレシカはそっとしておくという方向になり、三人はレシカが復帰するまでのご飯係を決めるためだけに、会議室に篭もることになったのだった。


因みに結果として料理の腕は一人暮らしの経験があったバルトが最も上手く、次にテオ、リルはオブラートに包んで言えば未開発の能力という事で、結局、男二人が暫くの間、この屋敷に泊まりこむという形になったのだった。

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