第26話 笑み絶えぬ青年の頁-5-
ウルズの呼び出しを食らったバルトは、やや救われた気持ちになりながら呼び出された部屋をノックした。
「おいお〜い?普通はワンコの方から来るもんじゃねぇのか〜?尻尾振りながらよ〜?」
「ワンコじゃねぇっての?!!何回言わせんだよ?!!てかさっさと入れや?!」
相変わらずの乱暴な言葉遣いに促されるまま、バルトはウルズの部屋に入った。
「ったく…この俺様が久々に真面目な話しようとしてるっつーのにお前ってやつは――」
「はぁ〜?また真面目な話かよ〜。気が滅入ってが頭イカれちまいそうだ!」
バルトが台詞とは合わない戯けたオーバーリアクションを取ると、ウルズは思わず吹き出した。
「くくっまぁ聞けって。アイリスにも関係がある話だからよ。つーか、アイリスのための話?みたいなもんだ」
アイリスという単語が出てきた瞬間、バルトは戯けるのを止めた。
アイリスについての真面目な話なんて、重要じゃないわけがない。
「何だ、結構期待できそうじゃねぇか?」
「聞いて驚け。俺はさっきまで、王の所に行ってたんだ。そしたらよぉ…」
✽✽✽
「……ま〜じかよおい〜〜〜!!」
ウルズの話が終わると、バルトは額に手を当てながら天井を見つめた。
それでも口は笑っている。
――愉快。愉快だ。面白くなってきたじゃねぇか
くつくつと喉を鳴らして笑っているバルトを、ウルズもまた楽しそうに眺めていた。
「ってことはあれか、俺達が、いや、国民が見ていたものっつーのは、ハリボテの山だったっつ〜わけか」
「そういう事になる。ま、それはまたお前も近いうちに、直に国王から話されるだろうよ」
そこまで言われてふと、バルトの脳内に疑問が浮かんだ。
「ん?そもそもお前、なんで王と話しなんかしたんだ?」
「………………」
質問された直後のウルズの顔は、盗み食いを母に見つかった時の子供のようだった。
「ぁ…あ〜…えーとだな…これもお前に話しておかなきゃいけねぇんだが……」
「ん?」
嫌に申し訳無さそうに頭を掻きながら俯くウルズは意を決したようにバルトに向き直った。
「俺…『五芒星』に指名されたんだ」
「ほ〜う、そりゃおめっと――…まじかよ?!五芒星?!」
いきなりの親友の大出世に、流石のバルトは喜びと驚きを隠しきれなかった。
「あぁ…だから、悪いけどさ…お前たちと一緒に、いざって時は行動できねぇかもしれねぇ」
「あぁ、まぁそうはなるわなぁ…」
『五芒星』と呼ばれる幹部たちは、五芒星の名の通り、五名と決まっていた。
そしてそのメンバーはもう既に揃っていた。
が、今回の指名の判断基準は王が『武』の方に重点を置いて選抜したため、まだ十にもならない幼い双子の幹部が誕生してしまったのだ。
『英才教育』を受けさせた人間ではあったが、余りにも幼かったために政治に関する責任は免除されるという話だった。
しかし、やはり限界があったらしい。
数ヶ月前に、王から直々に五芒星のメンバーを急遽、極秘でもう一人選抜するという話があった。
それ以来城内の女達の話題は、その『一人』とやらが誰になるかという話ばかりだった。
実は一番その可能性が高いと噂されていたのは、他でもないバルトであった。
それも含めてウルズは申し訳無さそうに言ったのだが、バルトにとっては元々アイリスのこともあり断ろうと思っていたので、都合の良い話だった。
「俺は『五芒星』になるわけだが……別にお前たちとの接触ができないわけじゃない。それに必要ならばいくらでも手は貸す。ただ…表面は一応、五芒星側の意見に肩持たねぇとだけどな」
「そんなこと気になんてしねぇよ!寧ろこんな形で味方がいるっつう事は結構ありがてぇことだしな。頼んだぜ!」
そこまで言うと、バルトは少し首を傾げた。
「…しっかし驚いたな、あれだけ王のことを仇として敵視してたお前がそんな簡単にころっと心を許すとは……やっぱわんこだな。
先に言っておくが、これはバルトなりの祝いの言葉だ。
「素直に祝えないのかお前は?!!!!
そりゃまぁよぉ…あんな話聞いちゃあな……俺も考えを改めなきゃなんねぇ」
「なるほどね〜?」
バルトはウルズの話を思い出しながら、「まぁ確かに」と心の中で頷いた。
「にしても不思議なもんだなぁ…昔は悪戯しか考えないような悪餓鬼が、今じゃ五芒星か…」
ウルズはそう言いながら一枚の写真を取り出した。
写真越しのサラは穏やかに笑いかけてきている。
「…俺、頑張るよ。サラ」
バルトはその様子をただ黙って見ていた。
ここから歯車が急速に動き出すわけだが、実はこのウルズの出世の話にはちょっとした裏話がある。
本来『五芒星』になるのはやはり、バルトの予定だった。
そしてウルズはアイリスの護衛に付くはずだった。
が、バルトが前々から「もし選ばれたとしても断るつもりだ」と言っているのを聞いていたウルズは、アイリスの事も考えて王を説得した。
そしてその結果として、二人の待遇を逆にして収る事になったというのが真実である。
この事を知っているのは、現在でも、王とウルズの二人しかいない。
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